第26話〜それぞれの決意〜
「…まぁ、そんなことがあったってくらいだ。別にどうと気にする事はない」
歩きながら過去の事を話した俺は、手をひらひらと振ってみせた。
「そういえば…あの時ダイス泣いていたような…」
「その話はやめてくれ…」
「覚えてるよー、あの時はえんえんと…」
「ミミ…これ以上言ったら尻尾掴むぞ」
「んにゃっ!?やめて!それだけは勘弁を!」
ミミがからかってきたので、俺はぐっと睨みつけて弱点を突くと言うと、ミミはすぐにパタパタを手を振って拒否した。
「でも、なんでそれが今回と関係が?」
「だから俺の私情だっつうの」
「…もしかして、ご主人様の初恋の相手と、ブロッサム様が…」
「あくまで顔だけな?顔だけ」
俺はすぐにこの話をやめようと必死になって止めた。
「へぇ、意外と純粋なのね」
「ウンゼン、からかわないで。ダイスさん困っているでしょう?」
「ま、あたしの知ったこっちゃないけど…ただ、あんたの性格は結構いいかもね」
「性格云々言われてもよく分からないがな…とにかく」
俺は恥ずかしくなったので、ここで話題を変えるべく足を止めてみんなの方へ振り返った。
「ん?どうした?」
「この後どうするか決めないといけないから、ここで一応作戦会議だ。ここならバレないだろ」
俺らが止まった場所は四方が入り組んだ路地裏であるため、軍の人たちが多く通る大通りから見えにくい場所である。
話しながらどこか作戦会議を行える場所がないか探し回ってようやく見つけたという感じだ。
「そうだな…んで、作戦会議とは?」
ダーヌが1番乗りでその場に座り、あぐらをかいて俺に質問した。
「わかるだろ、ダーヌ…今ブロッサムさんの家は腐りきった軍の奴らが占拠してるが、そこで軍の不正を示す証拠が出なかったと言っている」
俺はダーヌと同様に座りながら現状について整理した。
「でも、ブロッサムさんは証拠掴んでいるよね?どこかに隠してるのかにゃ?」
「おそらくな…」
「でも、証拠はどこに隠したのかにゃ…」
ミミの言葉が今の俺らの全てだった。
ブロッサムさんについてはたった2日だけの仲だ。
彼女の普段の行動や素性などはほぼわからない。
俺からしたら、朝に出会った時の少女のような表情や、倉庫の捜索の時の軍の威厳がほぼ全てという感じなのだが…
ん?待てよ…
「…いや、まさかな…」
俺は思わずボソリと否定した。
それを、ウンゼンちゃんは聞き逃さなかった。
「まさかって、何よ。何か心当たりでも?」
「いや…思い当たるというか…気になる場所があってだな…ただ、確証はない」
「思い当たるってどこ?」
「ウンゼンちゃんは分からないだろうと思うけど、昨日の朝、俺らがブロッサムさんと出会った喫茶店覚えてるか?」
「あぁ、あったな…あそこの立地、気持ち悪かったけどさ…」
「もしかして、そこに証拠があるのですか?」
「だから確証はない。ただ、俺らが認知し得る範囲でだとこれしかない」
さらにもう一つ、思い当たる理由というものがある。
それは、今回の集合場所を指定したのはブロッサムさんからなのである。
これを見越して俺らをそこに誘導したのかは分からないが、少なくともここ以外には考えられない。
「…とりあえず、その喫茶店に行こう。俺らはできる限りのことをやって、ブロッサムさんの救出、および軍の不正の摘発に乗り出そう」
俺はパンッ!と手を叩いて立ち上がり、打ち合わせをしたあの喫茶店へと向かうことにした…
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…おかしいな…
私は人身売買に使われた倉庫の摘発に乗り出していたはずなのに…
今では鎧を身ぐるみ剥がされ、手枷をつけられて、犯罪者を留置する地下室に投げ出されている…
その枷の先は壁につけられており、外の光もない陰湿な地下室で、私はじっと座っていた。
しばらくして、どこからかカツカツと音が鳴った。
「…ごきげんよう、ブロッサム副隊長。いや、今は謀反者のブロッサムさんかな?」
現れた男は、気味悪い笑顔で私をまるで動物のように見ていた。
「…何か用?ザルツ班長」
「おやおや、あなたは何も知らないんですか?私は次期副隊長になるのですよ」
「ふざけないで!あんたがやったこと全てお見通しなんだから!」
「それじゃ、私がやったことを全て話してくれますか?」
このクソ男は、未だに余裕を見せてくる…
それが死ぬほどイラついて仕方ない…
「あんたらは、スタングと共謀して、街に悪魔の種をばら撒いて実験していることくらいお見通しだ!証拠だって十分にある!」
「それでは、その証拠はどこに?」
「言ったでしょう!私の家にあるって!」
私はそう言ったが、これは嘘である。
私の家になんて置いたらすぐに嗅ぎつけられてしまうもの…
だから、私が大好きな場所に置いておいた…
軍の仲間は絶対に知らない、本当の友人にしかわからない場所に…
「…悪いけど、その嘘、もうバレているんですよねぇ…」
ザルツは憎悪の目を私に見せてきた。
それでも私は怯まなかった。
「…どうしても割らないというのならば…」
ザルツはそう言うと、地下室の柵を開けて中に入り、剣を取り出し…私の脇腹を突いたのだ。
「ぁぁぁぁぁぁ…ぁぁぁぁぁッ!」
声にならない声が、地下室全体に響いた。
「もったいないお方ですよね…その豊満な体を売り出せば、色んな男がついてきますのに…」
「ハァ…ハァ…あんたなんかに…言われたくないッ!」
「うーん…しかし、どうすればあなたの魅力をお伝え出来るんでしょうかねぇ…」
私は痛みを堪えながらも、この男をぐっと睨みつけた。
が、ザルツは私の事を全く見ていなかった。
それどころか、私を客寄せの道具にしようと画策しているようだった。
「…そうですね…1番最後は街の皆さんに、あなたの魅力を伝えるようにしましょうか」
「何をするつもりよ…」
「何って…公開処刑…いや、私のおめかしを、あなたを使って公開するとしましょうか」
公開処刑…それを聞いた私の顔はどんなになっていたんだろうか…
ザルツはそんな私を見て、ひどく楽しんでいた…
「それまでに、せいぜいあなたには生きてもらいますよ。私達のたっぷりの愛情を込めてね。あ、そうそう。やめて欲しければ証拠のありかを教えていただけると…」
「…誰か言うか…」
私は精一杯の声で、最後にザルツに言った。
「…そうですか…」
ザルツはそう言うと、檻の外に出た。
いつのまにかザルツの部下がそこに立っていた。
「…明日、処刑します。それまでに証拠の場所を吐き出すように調教させてください」
ザルツは部下にそう言うと、地下室から離れ、入れ替わりにザルツの部下が中に入ってきた。
「へへへ…こんな上玉、傷つけるなんてザルツさんはひでぇやつだな」
「でも、あんたのせいで俺らは苦しんだんだ…その恨み、晴らさせてもらうぞ」
「…この…下衆が…」
それでも私は諦めない…そんな気持ちで、笑ってる男達を睨みつけたのだった…
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想など、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




