第25話〜ダイスの初恋〜
…次の日、ゴールデンカジノで一泊した俺らは、ブロッサムさんの容疑を晴らすことと、カラノーム軍の不正摘発に動くため、まずはブロッサムさんの家へ向かうことにした。
「…しかし、昨日のご飯は美味しかった〜!」
機嫌良くしたウンゼンちゃんがうーんと背中を伸ばしながら言う。
それもそのはずで、昨日の夕ご飯はマルコと共に豪勢な食事を堪能したからだ。
鳥の丸焼きにオードブル、サラダ、デザート…様々な料理が所狭しと並べられ、俺らは楽しく堪能していった。
ダーヌが毎度の如く、いつもの大食いを発揮させてアカギちゃんとウンゼンちゃんは驚きを隠せなかったが…
そんな事は今はいいとして…
俺らはとりあえず急いでブロッサムさんの家へ向かったのだが…
「…しっ…みんな、隠れろ」
軍の人たちにバレないように路地裏を通って動いていた。
そのため、到着は普通に行った方よりかなり時間がかかった上…
「…いるな…」
軍の奴らがブロッサムさんの家を捜索していた。
「遅かったのでしょうか?」
「おそらくな…ただ、この様子を見ると…」
俺が軍の人たちの動きを見ていると、何の収穫がなさそうに見える…
「…こいつはおそらく証拠が見つからなかった感じかな…」
俺は軍人の会話を盗み聞きするために目を閉じて集中すると…
「…全く…せっかくブロッサムっつうクソアマを追い出せると思って、部屋を荒らしまくって隠滅しようとしてんのに…どこにあんだよ…」
「おいおい…その話はここでしちゃいかん…あいつの関係先、徹底的に探し出すことに専念しよう」
…やはり、ブロッサムさんに濡れ衣を着せようとしていたのか…
「…ダイス?」
「ん?」
「なんか…怖い目してたにゃ…」
いつのまにか目を開けていた俺を見たミミは、かなり怯えていた。
他のみんなもかなり不安な顔になっている…
「…大丈夫だ…めちゃくちゃムカついたからな…」
「それならいいんだけれど…」
それでも、ミミの顔はどこか不安な表情を見せていた。
「…まぁ、気にすんな。俺の個人的なことだ。すぐに忘れるよ」
俺は気にするなと言うと、思わぬところからヤジが飛んできた。
「そういうのって、意外と忘れられないわよ。話してみてよ」
ウンゼンちゃんが興味ありげに話してきた。
「いや、なんで君が…?」
「気になるもの。こういう時に言っておかないと心に不満抱えたままでしょ?すっきりするために言った方がいいじゃない?」
ウンゼンちゃんはなぜか興味津々に俺を見てきた。
「…というか、なんでウンゼンちゃんが気になるんだよ…」
「私だけじゃないでしょ、気になるのは」
俺がふと、他の4人も見渡すと全員興味がありげにこっちを見ている…
特にミミに関しては嫉妬と興味が入り混じる複雑な感情でこっちを見ている…
「…ここで話すのはやめておこう。移動しながら話すから」
俺はそういうと、その場から逃げるように離れた…
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…俺が小学生4年生のころ…
病院で祖父のお見舞いに来ていた俺は迷子になってしまった。
「…お母さん…お父さん…?」
俺は自分の居場所が分からなくなり、困り果てていた。
どことなく歩き回っていき、気が付いたら別の病棟にいた。
その病棟で、それはある女の子と出会う…
「…あれ?」
たまたま見かけた、病院のベットに座って佇む、俺と同じくらいの女の子…
その女の子を見た瞬間、俺は一目惚れというものを覚えた。
「…誰?」
女の子も俺に気が付いた。
その時の表情は今でも覚えている。
無表情なのにおびえていた。
笑顔の『え』すら無いような女の子…例えるなら、本当に人形のような子だった。
「お、俺はお見舞いに来て…その…」
「迷子?」
「…う、うん…」
「おかしな子…本当だったら男の子なんて意地張るのに…」
「意地張るのは馬鹿な奴らだけだよ」
「それじゃ、君は馬鹿じゃないの?」
「そ、それは…」
その女の子はここでようやく笑った。
とてもやさしい笑顔だった。
そこへ…
「…大輔!そこにいたのね!」
お母さんが俺を探しに来てくれた。
「もう、心配したんだから!」
「ごめんなさい…」
俺は素直に謝り、そして、女の子にこう言った。
「…また、来てもいい?」
「いいよ」
女の子は一言、優しい笑顔で言う。
その日以降、俺は祖父のお見舞いの時にはその女の子のところに通うようになった。
話をしていくうちに、女の子は俺のことを、俺は女の子のことを知っていった。
女の子の名前は…桜木杏奈。
俺と同い年なのだが、小さいころからずっとこの病院にいるという。
原因は心臓の病気。
ずっと病院にいたことと相変わらず無表情でいたことで、他に入院している男子からは『人形』と揶揄されているらしい。
それでも、杏奈ちゃんは無視し続けていたという。
「…あんな馬鹿な子たちに言われるくらいだったら、いつかは見返してやろうって思っているわ」
「杏奈ちゃんは大人だね」
「そうかしら…」
その時の杏奈ちゃんの表情は悲しそうであった。
「大人だよ。僕より断然」
「…それだったらうれしいけど」
そんな悲しそうな表情を見た俺は、二度とそのような表情をさせたくない気持ちでいっぱいになった。
次にその表情を見せたのは、その会話から数日後のこと…
「…おいおい、あの人形と話してるぞ、あいつ…」
いつものように話していた時、同じように入院している奴らが俺の後ろでこそこそと話していた。
「…あはは…もう、こんな人たちばかり、いやになるね…」
また悲しそうな表情を見せた。
俺はその表情を見て、次に何をすべきか考える時間がなかった。
「…なぁ、この子に何か用か?」
「い、いや…な、なんでもねぇよ!」
俺が一声かけると、後ろでこそこそしていた奴らはそそくさと逃げていった。
「…大輔君…」
「…ごめんな。俺はまだガキだから」
「ううん、ありがと、大輔君」
その時、お礼を言った時の杏奈ちゃんの表情は今でも忘れることはない…
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…それから数か月後…
それは突然だった…
俺はいつものように病院を訪ね、いつものように親と別れて、いつものように杏奈ちゃんがいる部屋に行くと…そこはもぬけの殻だった。
いや、まるで元からいなかったかのように、きれいにされていた。
「…あら?君が大輔君?」
たまたま通りがかった看護師さんが俺に声をかけてきた。
「は、はい」
「やっぱり。杏奈ちゃんのお友達でしょ?杏奈ちゃん、いつも嬉しそうにしてたわよ」
「そうですか…」
俺としては、恋というものが芽生えていたので、少し複雑な気持ちになっていたが…それより気になるのは…
「あの…杏奈ちゃんは?」
祖父が入院している病院はかなり大きい病院である。心臓病ならここでも対応できるらしいが…
「…杏奈ちゃんは…」
その時の看護師さんの表情を見て、俺は一瞬で理解した。
杏奈ちゃんが悲しんでいた時よりかなり悲しんでいた。
「…そう…ですか…」
そのあとの俺はどうだったのか覚えていないが、その後母に聞いたら、とてもひどい顔になっていたという…
俺の最初で最後の恋は、こうもあっけない形で終わってしまったのだった…
いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想など、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。




