第14話〜応援するさ〜
…メノールのアパートはレンガつくりの西洋風の建物だった。
その建物の中の一室がメノールの部屋で、つくりは簡素な物だった。
「…きちんと整理整頓されているな…」
部屋の仲はかなりきれいで、生活感がない感じだった。
さすが元メイドという感じである。
「…この子がメノールかな?」
ミミが見つけた写真には、メイドの友達であろう子と笑顔で映っているメノールの写真があった。
今メノールの髪の毛は白い蛇となっているが、この時のメノールの髪の色は青だ。
なぜメノールが蛇の髪になったのか気になるところだ…
が、その理由がすぐにわかることになった。
そのきっかけはミミが見つけたあるものだ。
「…大輔…これ…」
ミミは何かを踏んで、それを拾って俺に見せてくれた。
それは、ガラスの破片だった。
いや、ガラスのようなものだ…
これには俺も見覚えがあった。
「…悪魔の種…」
俺の言葉に、ミミとセリーヌさんは恐怖の顔を思い浮かべた。
ヨーキリスが自分の欲望のために用意した危険物、『悪魔の種』…
それが今回の事件でもかかわってくるとは思ってもみなかった。
いや、普通の女の子が急に怪物になったことを考えればありえなくないことはない…
「…その気にさせてしまったには何が…」
俺は小さく、悩むようにつぶやいた。
俺らは引き続きメノールの家を捜索することにした。
「…ん?これは…」
俺はふと、机の上に置いてあったノートに目がいった。
『diary』と書いてあるので、文字通り日記なのだろう…
俺はそのノートを持って読んでみた。
そこに書かれていたのは…様々な感情が込められた、綺麗な言葉達だった。
その中にはもちろん、復讐も含まれていた。
しかし、それすら綺麗に感じるほど、本当は優しい子なんだろうなと感じさせる言葉たちばかりだ。
「…私は…あの人達に痛い目に合わせたい…でも…私はあの人達の大切な人が悲しむところを見たくない…どうすればいい…」
その文を見て俺は合点がいった。
というのも、昨日出会ったときにはまるで自分を貶めた人を殺したいという雰囲気を醸し出していたのにも関わらず、被害に遭われた人達は壊されていない。
そのためこうやって事件となって明るみに出ていたが、それがメノールに取っての最大限の譲歩みたいなものだと思う…
「…そうなると…あの時の殺気じみた空気は…もしかして!?」
俺はある事を今になって思い出し、思わず大声をだしてしまった。
「ダイス殿!?どうした!?」
「セリーヌさん!早くメノールを見つけないと!」
「ダイス、どうしたの!?」
「ほら、悪魔の種から魔物が現れて人間に寄生した際、その欲望が増幅すると…」
「っ!?まずい!メノールを逮捕するどころじゃなくなるぞ!?」
「え、ど、どういうこと?」
俺が言いたい事を、セリーヌさんはいち早く気がついてくれたのだが、ミミは以前?マークが付いていた。
「おそらく、何人も石化させてしまったから、これでいいんだと考えるようになって、それが魔物にとって好物となり…」
「…メノールを…食う…っ!?」
ミミもようやく理解してくれた。
「とにかく急ごう!次にメノールが来る場所を探さないと!」
「ならば心当たりがある。ほら、メノールはある貴族のメイドをしたことがあると言ったでしょ?」
「…その貴族の家に…」
「可能性はある。今あそこに住んでいるのはその貴族の子孫達だ。貴族に恨みがあるのなら、その子孫に手をかけると予想している」
「わかった。とりあえず行こう!」
俺らはメノールを助けるべく、カラノーム郊外にある貴族の家へと向かったのだった…
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…俺らがその家に着くと、門が誰かに壊されている跡が見つかった。
「っ!やっぱり来ているのか!」
俺らはすぐに門を潜り、敷地の中に入った。
「大輔!あそこ!」
ミミがすぐに、家のドアが破られていることに気がついた。
「フォルスーンさんが危ない…!」
セリーヌさんを先頭に、俺らは家の中に入った。
家の中はしっちゃかめっちゃか、色々なものが壊されて散乱していた。
「た、助けてー!」
ふと、子供の声がした。
おそらく貴族の子供だろう。
俺はその声を聞いてすぐに飛び出した。
「ダイス!」
セリーヌさんが俺の名前を呼んだが、俺はそれを無視して、声が聞こえた2階に足を運んだ。
そこで目にしたのは…
「…大丈夫よ、すぐに連れて行ってあげるから…」
「や、やだ…助けて…」
メノールが小さい男の子を襲っていた。
「メノール!止まれ!」
俺はすぐに目を閉じて、ハンドガンを向けながらメノールに言った。
「あら…なんでここに?」
「色々裏付けしてたんだよ。いかんせん、君の体がヤバいことになりそうだからね」
「…そう?私は…復讐のために生まれ変わったのに…」
「外面はそう言ってるけど、本当はそうしたくなかっただろ。いや、勇気がなかったってとこだな」
目を閉じているため、感情がどうなったかわからないが、間があったため驚いているか落ち着いているかだろう。
俺は立て続けに言った。
「…君の日記を見させてもらった。そこには、今は亡くなってしまったここの主人のこと…君のことを嫌っていたメイド仲間のこと…そして、その両方ともからいじめられていたということ」
俺は、日記に書かれていたことについて話した。
「…そう…見たのね…」
「そうでもしなきゃ、なぜ君が悪魔の種を手にしなきゃいけなかったのか分からなかったがな」
「…そうね…今の私は、悪魔の種を身に纏った怪物だもの…」
メノールの言葉は、どこか自分を非難するような感情を持っていた。
「…悪魔の種はどこで手に入れた」
「路地裏に来ていたある人から。この玉に自分の欲を言えば、叶えさせてくれるって…」
「そして、石化させたと…」
「本当は…欲なんてなかった…実の親から切り離され、勝手に連れて行かれたところで働かされて、マナー出来てないと恥ずかしいからと教養を強引に教え込まれ、私より年上の人から雑用を押し付けられてて…あの人にいらないと追い出されてからは何も起きなかった…唯一の救いが復讐だったもの…」
「…それでも、殺さなかったと…」
「…甘いのかしらね…嫌っているはずなのに…」
「優しいからだ」
俺はメノールを切り捨てるように言った。
「…優しい…?」
「本当はそんなことしたくなかったんだろ?今の俺には君の姿は見えない。気配しか感じてないが、その色は真っ白だ。優しさに溢れている白い気配を感じている」
「…そんなこと…」
「その優しさがあるから、石にされた子達は生きている。彼女達にも支えられてる人がいるから」
「…え?」
「日記の続きにはこう書いてある。『私の新しい家。こんな家に、大家さんは優しく語ってくれた。お金はいらない。苦しくなくなったら払いなさい。それまでは頼りにしても構わないと…。私は嬉しかった』ってな」
「…」
「…大家さんとの出会いがきっかけで、色んな人と関わる事ができたんだろ?それで人とのつながりを感じ、人の人生を潰すようなことはしたくないと思った。これが復讐というしがらみから抜け出せそうになったきっかけでもあるだろ?」
「…そうね…大家さん…本当に優しい人だった…お金がない私に部屋なんか貸しちゃって…」
「…その大家さんの分まで、悲しませたんだぞ」
「…でも悔いはない…もう…どうでも良くなっちゃって…」
と、メノールが話した次の瞬間。
「うっ!くっ…」
メノールがうめき始めたのだ。
俺はすぐに目を開けた。
目が明るさに慣れ、周りの状況を確認した。
貴族の子供はミミのステルス能力で救出し、隣にはセリーヌさんが剣を構えていた。
そして目の前にいるメノールは…頭を抱えてうめいていた。
蛇の髪が暴れているのだ。
「くっ、くあぁぁぁぁぁぁっ!やめて…やめて!!私はもう!誰も傷つけたくないっ!」
メノールは必死に寄生した魔物に抗っていながらうずくまっていた。
俺はそれを見て、セリーヌさんとミミに命令した。
本当はセリーヌさんに命令するのはおかしいが、今はそれを言っている場合ではない…
「ミミ!セリーヌさん!蛇を俺に近づけないように誘ってくれ!」
「ダイス殿!?何を!?」
「メノールを助けるんだ!」
俺はそう言うと、メノールに向かって歩いて行った。
「全く…来い!蛇!私が相手だ!」
「大輔のそばには寄らせないよ!」
ミミとセリーヌさんは、メノールの蛇を自分に向けてもらうように挑発した。
俺はその挑発に惑わされなかった蛇をハンドガンで撃ちまくって対処した。それでも大量に来たから傷はもちろん無数に付いた。
そして、うずくまっているメノールの近くに着くと、俺は目線をメノールのところまで落とした。
「…大丈夫だ」
「…え?」
俺の声が近くになった事で、近くにいることを知ったメノールは驚きを隠せなかった。
「…大丈夫。君は優しくて強い子だ。今まで1人で頑張ってきたんだ。これからは…俺も応援する。帰る場所だってあるんだから…魔物にとことん抗って、追い出せ」
その言葉に、メノールの目がきらりと光った。
「…大丈夫だ…」
「…あなたの…名前は?」
メノールは、小さく呟くような声で言った。
「…ダイスだ」
「ダイス…ありがとう…」
メノールはそう言うと、頭に神経を集中させるためにしかめっ面になった。
「…大丈夫…私は…強い子だから!」
メノールが力強く、自分に向かって言ったその時だ。
蛇が白い光を帯び始めたのだ。
「なんだ…?」
これには俺やミミのみならず、セリーヌさんも驚いた。
そして、蛇は白い光となり…メノールに吸い込まれていった。
そして、メノールの髪が…普通のロングヘアーになった。
「…あれ?私…生きてる?」
メノールは不思議そうな声を出した。
「…大丈夫か?」
俺は思わずメノールに確認した。
「…ダイス…うん、生きてる…大丈夫」
その時のメノールの表情は、清々しいほどの綺麗な笑顔だった。
そこへ…
「…副隊長!」
共に来ていたセリーヌさんの部下が一階から慌ただしく駆け上がってきた。
「どうした!?」
「…被害者、全員元に戻りました!」
「本当か!?」
石化された人達が元に戻ったらしい。
「良かった…ほっ…」
俺は胸を撫で下ろした。
そして、メノールの方を見た。
「…さて、ここからは君の罪に対する罰となるが…反省しているな?」
「うん…ごめんなさい…」
最初は大人っぽかったメノールも、子供のような小さな声で、深く反省していた。
「…セリーヌさん。俺の力はそこまであるわけではないですが…情状酌量…お願いします」
俺はそう言うと、セリーヌさんに向かって最敬礼をした。
こうして、短くも長いカラノームでの時間が幕を下ろしたのだった…
いかがでしたでしょうか?
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