日曜日III
「小説を書くにはまず大まかなストーリーを考える事が大事だよ。大枠を決めて、徐々に肉付けしていくの。
だからまず原稿用紙2枚分位の内容でダイジェストストーリーを考えてみて。
恋愛ものや、ミステリー、ファンタジーなどどのジャンルにするか考えてみて。」
「う〜ん難しいな。すぐには思いつかないなぁ。」
「そういえば、衝撃の事実が今日分かったんだよ。」
「え??何??」
「南先輩に今日触れたんだけど、信じられない未来が視えたの。」
「まさか??総理大臣になるとか??」
「そんな訳ないでしょ!!でも同じ位信じられない内容かもしれない。」
「なになに??全然想像もつかないなぁ。」
「将来、笹川部長と結婚するみたい。」
「え??本当に??信じられない。だって、今結構険悪な仲じゃない??」
笹川部長と南先輩はことある事に喧嘩をしていた。好きなアーティストがいてファンになった理由が納得いかないとか、好きな食べ物でこっちの店の方が絶対美味しいとかいつもどうでも良いことで言い争いしていた。
日常の一コマになっていたので、何とも思っていなかった。むしろいつも意見が合わないので、険悪な仲なのではないかとさえ思っていた。
小田原の話では、今は本当にお互いの事をあまりよく思っていないようだとのこと。能力の中では、人の気持ちまでは見る事ができないが、日々の行動などで予想する事はできるとのこと。今日は先輩といる時間が長かった。そして作戦実行に当たって、先輩と触れている時間が多かったので、未来を細かく見れてしまったのだとのこと。
どうしても誰かに話したかったが、自分の能力は誰にも信じてもらえるはずないのとあまり人に話すのも良くないと思い胸に秘めようと思っていたとのこと。
しかし、本日小説の内容を考えるに当たり、色々と考えていると何度も思いだしてしまい、ついつい話してしまったとのことだった。
高校生活の間はお互いに嫌悪感を抱いたまま卒業する。しかし、卒業し会えなくなると物足りなさを感じていく。でもお互いに嫌悪感を抱いていた為、連絡先は知らない。かと言って、身近な人に連絡先を聞くことが出来るほど素直にはなれない。
そんな膠着状態が続いていたが、偶然再会する。ある本屋さんで再会し、挨拶をする。また、素直になれない2人はここでも喧嘩をしてしまう。そんな2人のキューピットとなるのが、同じ部活の糸川先輩らしい。
部活のOB会で2人の気持ちに気づいた糸川が強引にデートの約束を取り付け、次第に素直になっていったという。
自分の気持ちに気付くのって意外と難しいものだなぁと思う。あの2人を見ていると本当にそう思う。
それからは終始、お互いの題材探しの為、話し続けた。こういう設定はどうだろうか。この場合だと話を長く続ける事は難しいかなど色々と話しをすることが出来た。
何も書いたことがない俺にとってなかなか高いハードルだと感じていたが、気づけば、飛べるような気がしていた。人というのは不思議な生き物である。直前までは出来ないと思っていたことがちょっとしたきっかけで変わってくる。自信をつける事ができれば後は妄想に浸りながら、ひたすら筆を進めていくだけだ。
帰り道は普段より多くの事を考えながら歩いた。短い時間ではあったが、深く長い1日にも感じられた。
自分の気持ちに気付くことができ、小説を書くという自分に課せられた課題についても突破できそうな自信を手に入れることができた。また、入学してからずっと胸に引っかかっていた事柄が1つ前進することができた。これからの未来何が起きるかはわからない。俺と小田原自信には彼女の未来を視る能力は使えないのだから。