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未来が分かる人  作者: 安倍隆志
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文芸部

それからも日常と言うのは自然と流れていく。当初描いていた理想とはかけ離れていても自動的に流れていく。質の高い高校生活を思い描いていたが、結局今までと変わらない日々を過ごしていた。

 人間意識を変えたつもりでも自然と元に戻っていくようだ。気付くと中学生の時お同じポジションについていた。

 部活は文芸部に所属することにした。一通りスポーツを経験し、うまくいかなかったので、文化系の部活に入ってみようという安易な考えだ。

 普段から小説を読んだりしている為、馴染むことは容易かったが、創作というものをしたことが無かったので、初めは戸惑いの連続だったが、段々楽しむことができるようになっていった。今まで長く部活を続けることが出来なかったが、今回は続けることができそうだった。それは、小田原の存在も大きかった。彼女も同じ部活に入り、お互い協力し合いながら進めることができた。


 文芸部は主に詩や小説を創作したりすることをメインの活動にしている。時期によっては何もすることがなく、ただただ部室で本を読んでいるだけのこともあるらしい。比較的、負担が少ない部活だと感じる。


 和人は中学生の時から野球部、早川はテニス部に所属している。2人ともずっと続けているだけあってなかなかの実力者に思えた。俺には人を評論するほどスポーツに打ち込んだ経験がないので、実際には分からないのではあるが。



 忙しく過ごしている日々の中で、忘れようとしていた事があった。それは、小田原の事だ。こうやって過ごしている中でもあの時は刻一刻と過ぎていた。

 


「お疲れ様です。」俺はいつものように部室の扉を開けた。

「よぉ相変わらず辛気臭い顔してんな。」部長の笹川透は茶化してきた。

「またまた部長のいじりですか。」と2年の糸川 潤が言った。

「あんまりいじめちゃ駄目よ。」と3年の皆川 南が言った。

部長は高校生3年生とは思えない程老け顔でロン毛の装いである。糸川潤はいかにも後輩と言った見た目で丸顔に坊ちゃんヘアーで眼鏡をかけている。皆川南も大人の雰囲気をかもちだしている。胸まである髪の毛で前髪もかき分けている。

 文芸部の部員はこの3人に小田原と俺、他2名を加えたを加えた計7名である。


 まだ入部して間もないがまだ目立った活動はしていない。部長は常々ビックマウス発言をしている。

「この部員の中からプロの小説家を出すぞ!!」というのが口癖である。

実際その兆しは一切見えていない。いつもやっていることといえば、放課後にこの部室に集まり将来の展望について話をしたり、最近読んだ小説の話をしたりしている。部長は小説の投稿サイトを利用し、若干の人気はあるらしいが、恥ずかしいとの理由で詳細は明かそうとしない。

 1番大きな仕事としては、文化祭で行うものである。演劇部と組んで脚本を作成するらしい。俺が通っている高校では演劇部がとても有名らしく部員も40名程度いる。そこで、文化祭では3つの演目を行う。1つは有名な作品を再現するものである。ロミオとジュリエット等、誰でも知っているであろう有名作品を執り行う。残り2つはオリジナル作品となっており、主に文芸部の作品を使用している。ここは主に3年生と将来有望な1

2年生が行う。他の2作品は練習の意味も込めて1、2年生が行うらしい。

 

 毎年、文化祭が近くなると、部員は全員各々作品を書いてくる。そこで、演劇部と文芸部が全員作品に目をとおし、得票率の高かった作品2作品を上演するのだ。稀にあまりにも作品の出来が悪い場合は顧問の先生が作品を用意してくることもある。

 選ばれなかった生徒は作品の校閲をしたり、演劇部の準備を手伝ったりするらしい。


 演劇部は他にも公演を行なっている。毎月1回一般の方も観に行くことの出来る劇場を使って公演を行なっている。専用の劇場が学校の入り口に建っている。そのことからも学校が演劇に力を入れていることが窺える。この劇場には芸能プロの関係者も時折観にくる事があるらしいので、皆チャンスを狙って毎日切磋琢磨している。

 顧問の先生に気に入ってもらえると文芸部からもこの劇場で公演する舞台の脚本を頼まれることもあるらしい。

 この舞台で脚本を書いていた先輩で過去にはスカウトされ、そのままプロになったという人もいるらしい。


 部長はこの脚本枠をずっと狙っているらしいが、1度も頼まれたことはないようだ。


 文化祭は、秋頃に開催される上、現在は脚本を頼まれている人はいないはずの為、暇な状況である。ただ、異様にプライドの高い部長の前では依頼があっても他の人に知らせることはないだろう。

 本来の部長の仕事としては、他の部員の成功を喜び、より良くなる為にアドバイスや道筋を作っていくべきだろうが、笹川部長にそれを求めても無駄だろう。


「先月、小説ペンギンの新人賞応募が初まった。期限は2ヶ月後だ。この時期は特に何もする事がなく暇な時期だ。脚本の依頼も入ってきていない。

 そこで、この部で新人賞に応募しようかと思っている。ジャンル、文字数は不問である。面白ければ何でもOK。大賞は賞金30万円、他にも入賞3万円など色々ある。賞をとった人は書籍化が確約されている。審査員は有名処だ。

 どうだ!応募してみないか!俺はもうすでに書き始めている!今までにないくらい手応えを感じている。良きライバルがいるとさらに筆が進む気がするんだ!」

 突然、部長が演説を始めた。今までにない手応えを感じているという台詞は毎日のように聴いているが、賞金が発生しているものへの応募を打診してくるのは、今日が初めてだった。


「良いですね〜僕も応募してみようかな。」糸川先輩は応募する意向のようだ。

「私はパス。プライベートが忙しいんで!」皆川先輩は応募しないようだ。

他の2名の部員も参加しないようだった。このままだと糸川先輩1名になってしまう。小説書くの面倒だが、参加するべきだろかと迷っていると小田原が手を挙げた。

「私もやってみたいです。」

「俺もやってみます。」

 手を挙げた瞬間に後悔したが、時すでに遅しであった。

「分かった!!今年の新入部員はやる気があっていいな。感心。感心。決定だ!!

 まずは1ヶ月後、部活に持ってくる事!そこで意見交換をして、作品の精度を上げていく。そして原稿を書き直し各々応募する。必要あれば意見交換会を何度か実施する。以上だ。」


「了解っす。」

「了解しました。」

「了解です。」

「何でも良いわ。」

「頑張って書いてきますね。」

「了解でございます。」

まとまりが悪い部活なので、バラバラと返事した。


 困ったことになってしまった。小説等書いたことがない。生まれてこの方、長編の物語等考えたことがない。妄想ですら考えたことがない。小田原が手を挙げた拍子についつい返事をしてしまった。頑張るしかないな。


その部活の帰り道、街の本屋さんに用事があるという小田原について行くことになり一緒に帰ることになった。部員が見えなくなったところで、小田原が話し始めた。


「隆くん小説書いたことあるの??」

「書いた事ない。勢いで手を挙げてしまいました。どうしよ、、、。」

「そんなことだろうと思ったよ。書き方とか教えよっか??今度家来る??」

「本当??ありがと!お願いしようかな、、、。コツさえ掴めば大丈夫かな。小説とかもたまに読むしな。」

「うん分かった。じゃあ今度の日曜日の午前中からやろう。日曜日は町内の旅行とかで

1日誰もいないから。」

「まじでありがとう。」


 普通にやりとりしていたが、女の人の家にお邪魔するのって初めてだ。緊張する。家の人がいない家に2人きりということは、もしかして俺のこと、、、。そんな訳ないかなどと考えていた。


「皆川先輩も協力してくれるみたいだから日曜日みっちり教えてもらおうね。」


 淡い妄想をしていたが、そんなはずはなかった。実際、話さなければいけないこともあったが、先延ばしにしていたかった。この通常な日常を出来るだけ長く送っていたかった。 

 核心に触れてしまうと全てが壊れてしまうようなそんな予感がしていた。小田原も話して欲しくないような思い出したくないようなそんな風に考えているのではないかと勝手に考えていた。


 それから本屋さんの用事に一緒に向かった。すぐにお目当ての本は見つかったようで

、すぐに解散になった。


「じゃあ家の場所は後で送っておくから、また明日ね。」


日曜日が平穏なものではなく、波乱に満ちた1日になるとは、まだこの時は考えていなかった。



 


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