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9.人探しのクエスト

 依頼主のお宅は武器屋などが並ぶ一角の奥まった所にあった。

 トンカチを模したロートアイアン看板が掛かっているので何かの店なのだろう。

 大工さんかな?


「こんにちわ」


 カエデを先頭に中へと入る。


「はーい!」


 元気な声と共に現れたのは、お腹の大きな女の人。……妊婦さん。


「あの、ギルドの依頼を受けて来たんですが」


「ああ……!」


 その妊婦さんが、大きく目を見開く。

 直後、両手で顔を覆いながらしゃがみこんだ。


「お願いします。……どうか、あの人を……助けてやってください」


 元気な第一声と打って変わった涙声でそう懇願される。


「大丈夫。アタシたちに任せて」


 カエデが彼女の肩に手を置きながら優しく声を掛ける。

 その根拠はなんなのだろう?


 ◆


「ウチは鍛冶屋をやってまして……仕事に使う鉱石を掘りに出掛けて行った旦那が帰ってこないんです。

 どんなに遅くなっても、その日の昼過ぎには戻ってくるのに……。

 もし、あの人に何かあったら……私達はこの先どうやって……」


 椅子に座り、依頼主が悲痛な面持ちで語る。

 それを真剣な顔で聞いているカエデ。

 私は、最悪の事態を想像し、そのことをこの人に告げる場面を思い浮かべ暗澹とした気持ちになる。

 最悪って、なんだろう。

 既に死んでいること? それとも、実は他に女が? 或いは、このまま何もわからず時だけが過ぎる?

 いや、ゲーム。

 そんな憂鬱なシナリオとか、昼ドラ的な展開とか無いよね。……多分。


「ご主人が行った場所はわかりますか?」

「……この街、キノエネの北に廃鉱山があります。

 いつもはそこへ行っているはずなのですが……夫を見かけたという人が誰一人いないのです」

 そこに行く前に何かあったか、それとも違うところへ行ったのか……」


 再び顔を両手で覆う奥さん。


「大丈夫。アタシ達が見つけてくるから」

「お願いします!」


 いや、その自信はどこから来るの?

 手がかりゼロよ?


「手始めに、旦那さんの使ってたもの……例えば、タオルとか靴とか持ってきて」

「え、は、はい」


 奥さんへカエデが指示を出す。


 ……まさか。


「これで良いでしょうか?」

「ありがとう」


 奥さんが持ってきたくたびれた靴を受け取り、私とカエデの間におすわりしているシロの前に置く。


 ……まさか!?


「さ、シロ! これの匂いを覚えるんだ!」


 目の前に置かれた靴に首を傾げ、舌を出しながら尻尾をパタパタと振るワンコ。

 いや、君は悪くないよ。


 だが、キョトンとした顔のワンコをすがるような目で見つめる奥さん。


 友人が想定外のポンコツぶりを発揮した。

 まあ、薄々予想はしていたけれど。

 でもこのままでは私のワンコがその責任を負わされかねない。


「奥さん。ひょっとしたら別の場所に行ったのかもしれないです。

 もう一度、手がかりが無いか探してみませんか?」

「あ、はい。ちょっと……見てきます」


 奥さんが席を外した隙にワンコが頭を突っ込んでいた靴を取り上げる。


「警察犬じゃないから無理だよ?

 て言うか、犬じゃなくて狼だし」

「いや、行けるって」


 ドラマの見過ぎ。

 カエデへ草臥れた靴を渡す。


「大体、そんな事出来るならスキルになってるでしょ」


 ここはゲームの中で、シロは定められた能力以上の働きは出来ない。


「夫の部屋に、こんなものが!」


 やや慌てながら、奥さんが一枚の紙を持ち戻って来た。

 テーブルの上に広げられたその紙は地図。

 その一点に赤で印がつけてある。


「これは?」

「この辺りの地図です」

「ここに印がありますけど、さっき言っていた廃鉱山はここですか?」


 赤い印を指差しながら尋ねる。

 奥さんは首を横に振った。


「廃鉱山は正反対です。

 こんな所、何もないと思います」

「旦那さんがここに向かった可能性は?」

「わかりません」


 唯一の手掛かりと思われる物。

 もちろん、無関係の可能性もある。

 だけれど、他にすがるものは無いし行ってみようか。


「この辺は、どんな所なんでしょう」

「山の中です。

 細い林道が近くを通っていたと思います」


 奥さんが地図の上に描かれた線をなぞって行く。

 街から伸び、印の側を通り、紙の端まで。


「まずは、ここへ行ってみます。

 何も無ければ次は廃鉱山。

 カエデも、それで良いよね?」

「もちろん」

「では、奥さん。

 この地図、しばらくお借りします」

「はい。

 どうか、主人を助けてください」


 その懇願に、私は『はい』と答える事が出来なかった。

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