7.犬?
カエデはシロを気に入り、シロもカエデが気に入ったみたい。
前を一人と一匹が歩き、その後ろから私が付いていく。
ヒョコヒョコと揺れる丸まった尻尾。
……どう見ても犬。
「シロ」
呼びかけに振り返るワンコ。
相変わらず舌が出ている。
可愛い。
「シロ」
今度はカエデに呼ばれそちらを見上げるシロ。
可愛いのだけれど、あれで戦えるのかしら。
◆
カエデとシロは、敵を取り囲む様に或いは互いの背を守る様に位置どり戦いを優位に進めている。
連携、バッチリ。
私は補助魔法を施し、遠目から戦況を見守りながら銃を構える。
乱戦になってしまったら到底当たらない。
引き寄せられる様に近寄って来る新手、或いはカエデとシロの死角に入り息を殺している敵を狙う。
それでも、攻撃の頻度は半分以下だろう。
命中率は、五割弱……。
そうして戦い、計十五体程のゴブリンを倒した時だった。
「レベル上がった!」
と、カエデ。
「私、まだ」
「ヨシノはシロの分も必要みたいだからね」
ヘルプによると、経験値は戦闘参加人数で等分。召喚士と召喚獣はそこから更に等分。
つまり、今だとカエデが二分の一、私とシロが四分の一ずつの経験値を分け合っている状態。
割と大変かも。召喚士。
「ポーションは?」
「残り、六つ」
「シロの分で二つだっけ。
買って返すよ」
「いいよ。気にしなくて」
HPの減ったシロの分まで自分のアイテムを使ってくれたカエデに感謝。
そのカエデはシロに顔を埋め毛並みを堪能している。
「頑張らないとね」
されるがままで、舌を出しながら少し困った顔をしたシロに声をかける。
わかったのか、わからないのか少し首を傾げるワンコ。
「どうする?」
ログインして、およそ二時間。
区切るにはいい頃合いかな。
「一回、街に戻ってログアウトしよう」
私はそう提案する。
街以外でログアウトすると、ペナルティがあるらしい。軽度のステータス低下。
「良し!
じゃ、街まで競争!」
「え!?」
いきなり走り出すカエデ。
その後を追いかけていくシロ。
「え、ちょ、待ってよ!!」
おい、ワンコ!
飼い主置いて行くな!!
◆
一番は余裕でワンコ、その次は私、そして離れてカエデ。
「へへん」
「何でこんなに離されたんだろう?」
一番最後に町に入ったカエデが首を傾げながら私の顔を見て、そしてその視線をゆっくりと下へと下げていく。
「……装備品の重さか!?」
「脂肪の重さじゃない?」
まあ、私は半裸。カエデは甲冑。
その差は歴然。
裸族舐めんな。
「次、どうする?」
「八時くらいかな。
限度いっぱいまでやるつもり」
「わかった。
アタシも今日は付き合えるから」
「あざす」
「じゃな。シロ。
また後でな」
頭を撫でられたシロが嬉しそうにパタパタと尻尾を振る。
「君、オオカミだよね?」
「ワン!」
狼だよね?
◆
「さて」
ログアウトした私が次にやる事はスマホで調べ物。
銃を使うゲーム……FPSって言うのか。
フリーで出来るものをいくつかピックアップ。
その中で一番感覚が『Remnants of Eden : Unlimited』に近いもので練習。
ログインしていなくても、出来る事はある。
あと、犬の躾も調べておこうかな。
いや、あいつ狼よね?
◆
紅葉から送られてきたメッセージに書いてあったパスコード。
それを入力し、待ち合わせロビーへ。
「お待たせ」
ログインした先には既にカエデの姿が。
「待った?」
「それほどでも」
私は周囲を見回す。
壁の無い空間に椅子が置かれており、そこに甲冑姿のカエデが腰を掛けている。
「ここ、何が出来るの?」
「ゲーム操作以外は。
外部にも繋がるから、ここからメッセージ送ったり出来るみたい」
「へー」
完全に待ち合わせスペースなのか。
「ゲームの操作は?」
「そもそもゲームのメニューが出てこない」
「なるほど」
私も試すが、表示されたメニューは『Remnants of Eden : Unlimited』内とは異なる物。
ま、そりゃそうか。
「じゃ行こうか」
「うん。
シロが待ってるしね」
「待ってるかな?」
完全にワンコに鷲掴みにされてる友人。
でもね、敵に向かう時は牙を剥き出しにして結構恐ろしい顔をしてるのだよ? あのワンコも。
私はメニューからゲームスタートを選択する。
すると、仮想ウインドウに選択肢が現れる。
――パランティスへ転送します。
――【全員で】
――【一人で】
――【キャンセル】
「行くよ?」
「おっけ」
カエデに確認してから【全員で】に触れた。
直後、景色が切り替わる。