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5.銃と刀

 街の端を示す門。

 それは、中世ヨーロッパ風の跳ね橋の付いた城門……ではなく、大きな赤い鳥居だった。


「外から見たジャポン?」

「横から城壁が並んじゃってるよ」


 現実ではありえない光景に二人苦笑いしながら鳥居をくぐり、草原へ。


「この周辺で少し様子を見ながら戦おう。

 で、切のいいところで切り上げて、冒険者ギルドとかで情報収集。

 良さ気な依頼があれば請ける。

 基本的な金策は、ギルドの依頼みたい」

「じゃ、まずキルド行けば良かったんじゃ?」

「来る途中でちらっと見たけど、すんごい人。

 あの中に入って行く勇気は……アタシには無い」


 そんなに人がいるのか。

 いや、考えてみれば当然だろう。

 皆、同じスタートなのだから。


「アタシは回復アイテムは持ってるけど、そっちは?」

「ナッシング! 死んだらどうなるんだろう?」

「一時間のペナルティ。ステータス減だって」

「チュートリアルで聞いたの?」

「そう」


 流石。でも。


「一時間かぁ」

「それだけ、と感じるか、そんなに、と感じるかはプレイヤー次第だね」

「八時間のうちの一時間だから結構大きいよね」

「だから、回復手段と防御は重要だとアタシは思うんだけど」


 私の体を見ながら言うカエデ。


「死ななきゃ良いのさ!」

「はいはい。裸族裸族」


 裸族言うな。


「その間、ログアウトしてたらどうなるんだろう?」

「次回ログインに持ち越し。

 そうしないと不公平だからね。

 これは、予想だけどそれを解消する手段はあると思う」


 そう言いながら、親指と人差指で輪っかを作るカエデ。

 結局は金か。


「で、私は見ての通りサムライ目指してるんだけど、ヨシノは何?」


 刀を鞘から抜いて切っ先をビシッと私に向けるカエデ。

 刃物を人に向けるなよ。


「私はこれ!」


 メニューを操作し、銃を取り出す。

 そして、その銃口をビシッとカエデへ向ける。


「近接と遠距離。

 役割は分かれたかな。

 アタシがメインアタッカー、ヨシノがサポート。

 って感じ」

「ま、私の能力はこれだけじゃ無いけどね」


 召喚と言う切り札がある。

 いや、むしろそちらが本命なのだけれど、その前に単独で何が出来るかは確かめておくべきだろう。


「ふうん。

 その格好は伊達ではないって事だな?」

「……格好、関係ない」


 逆に聞きたいんだけど、この半裸に何を望むの? ねえ?


 ◆


 街から少し離れた草原。

 他のプレイヤーの姿もちらほら。

 大体は一人みたいだけど、団体行動を取っている人達も。


 どっちが正解だろう。


 一人ならば、困難が多い分見返りも大きい。

 集団ならば、効率を高める代わりに実入りも減る。


 私達の目的は、八十八の賞金首バウンティ

 その首にかけられた金額は最低でも二千万G。

 そのまま日本円に換金出来るので二千万円。


 私一人で打ち倒せば総取り。

 だけど、カエデと二人なら半額。

 それでも十分に大金なんだけど。


「どうした?」


 友人が私の視線に気付く。


「いや、カエデが賞金首を次々切り倒して行ってくれたら楽だなーって」


 そしたら山分けでも全然文句ない。

 そんな私の考えなど慣れたものであろう友人は苦笑いを浮かべる。


「甘えんな」

「ですよね」

「……出たよ」


 一瞬で真顔に戻った友人の鋭い視線の先、茶褐色の肌……いや体毛に覆われた小型のモンスター。

 手に持つは石斧。

 その奥に槍を手にした個体も。

 更に向こうは……剣?


「ゴブリン、かな?」

「ネズミっぽいな」


 銃を構える私の軽口にカエデが刀を抜きながら合いの手を入れる。


「援護、よろしく!」

「りょーかい。

 て言っても、自分でも何が出来るかわからないからあんまり当てにしないでよ」

「そこで応援してくれるだけで、十分!」


 その台詞、言う相手間違ってない? 

 どきりとするような笑顔で言い放ち、カエデは刀を抜いて走り出した。

 向かう先は大きな耳が特徴的な全身を毛に覆われた小柄な獣人。

 頭部の造形は著作権的に問題ないのだろうかとどうでも良い事を思いもしたけれど、真っ赤な目をギラつかせ口内の牙をギラつかせる凶悪さに浦安的な雰囲気は消し飛んだ。


 私は手の銃を構える。

 魔導小銃・マスケット。

 名前の通りマスケット銃的なフォルムの全長1メートル程の銃だ。

 撃ち出す弾丸は魔力の塊で最大六発まで装填可能。

 撃ち切った場合、自分のMPを銃に詰める事で弾の補充が可能。ただし、その場合は一発につき三十秒必要。


 一匹一発。

 十分お釣りが来る。


 銃を構え、狙いをつける……が、()が動くから全然狙いが定まらない!


 ……落ち着け。私。


 ……今!


 タイミングを合わせ引き金を引く。

 パシュンと軽い音と共に銃口から光の弾が放たれた。

 走るカエデを追い越し……空へと消えていった……。


「……うっそ?」


 全然当たらないじゃん。

 唖然とする私を他所に、カエデが先頭のゴブリンへ刀を振り下ろす。


「ヤーッ!」


 頭上から振り下ろされた刀はゴブリンネズミの脳天を捉た。


「ん!? ええっ!?」


 一瞬立ち止まったゴブリンが、だが、再びカエデへと襲いかかる。

 振るわれた石斧を刀を縦にし受け止めるカエデ。

 その横手より、もう一体のゴブリンが槍を振り回しながら迫る。

 私は狙いもそこそこにそのゴブリンへ銃口を向け引き金を引く。

 放たれた弾は、狙いを外した。

 飛んだ先にあったのはカエデの背中。


「ごめーん!」

「え!? 何?」


 彼女の背を見事に撃ち抜いた光弾はそのまま弾ける様に消えてしまった。


「当たった! カエデに!」

「え、え?」


 ゴブリンを突き飛ばしながら声を上げるカエデ。

 向こうは気づいて無い?


「何でも無い! 私役立たずだから頑張れ!」

「了解!」


 一瞬こちらを振り返り見てウインクするカエデ。


防御向上(ガード・アップ)


 そんな彼女へ唯一出来る援護を施し、再び銃を構えながら走る。


 カエデが射線に入らず狙いをつけれる場所へ。


 えい。えい。えい。


 結果、カエデに一発、お空に二発。


 そっか。走りながら適当に撃っても当たらないな?

 足を止め、再び銃を構える。

 良く狙って。


 ……ん?


 ゴブリンの体に、小さな動く点がある。

 それは……まるで、レーザーポインターの様で……。


 いや! 間違いない!

 銃口を向けた先と連動してる。

 あそこが、着弾のポイント!


 動く的。ブレるポイント。

 慎重に狙いをつけタイミングを計る。


「今!」


 銃口から飛び立つ小さな光。

 それは、狙い通りゴブリンのこめかみに命中し、その小さな体を大きく吹き飛ばす。


「……え?」


 そのまま地面に転がり、弾ける様に粒子となり消えていった。


「一発……!?」

「一匹そっちに!」

「え?」


 残る二匹のうち、一匹が標的をカエデから私に変え、こちらに向かって来る。


「やばいやばい。えっと、チャージ」


 全弾を撃ち尽くした銃に自分のMPを使い弾を込める。

 だけれど一発込めるのに三十秒。

 たった一発なのにその時間が果てしなく長い。

 ゴブリンが跳躍しながら剣を振り上げる。


「ええい!」


 破れかぶれに銃の先端を持ち振り抜く。

 銃床が、飛び掛かって来たゴブリンネズミの顔にクリーンヒット!


「私、メジャー狙えるかも!」


 地面に転がったゴブリンから距離を取るべく走って逃げる。

 カエデがゴブリンを一体仕留め、起き上がったゴブリンの背を追う。

 そのゴブリンは顔に怒りを滲ませ私に迫る。


 三十秒。

 チャージ完了。


 振り返り、一直線に私に近寄って来る標的の体に狙撃ポイントが収まっているのを確認し引き金を引いた。

 パシュンと音を立て放たれた光弾は、迫り来るゴブリンの肩を貫く。後ろへ弾き飛ばされたゴブリンはたたらを踏んだところに追いついて来たカエデの刀によって背後から袈裟斬りにされた。

 短い断末魔の後に粒子となって消えるゴブリン。


 こうして、私達の初めての戦闘は不恰好ながらも勝利に終わったのだった。

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