42.手痛い失態
九日目。
「一人で平気?」
「一人じゃないよ? シロが居るし」
「ちょっと用事があって時間かかるけど、後半は合流出来る様にするわ」
「りょ。一人でスライムキング倒して待ってる!」
「無理しないで下さいね?」
「無理だったらご飯食べて待ってる。
じゃ!」
ロビーで三人と別れ、私は一人キノエネの街へ降り立つ。
「召喚陣・起動・白狼。おいで、シロ」
頼れる相棒を呼び出し、舌を出しっぱなしの頭を撫でる。
「さて、行こう。
私、ステータス異常だからゆっくりとね」
「ワン!」
これで首輪とリードがあれば、ちょっとしたお散歩気分なんだよね。
寂しさを紛らわす為に鼻歌を歌いながら街道を行く。
そう。
寂しかったのだ。
少しだけ。
自覚は無かったけれど。
だから、あんなミスを犯す。
それは、後になって気付くのだけれど。
◆
目印の木を見つけ、藪を掻き分け入って行く。
先導するのはシロ。
ステータス異常から回復した私が銃を手に追いかける。
あと、スライムメリクリウス二匹で多分レベル20に届く。
シロはその次かな。
シロもレベル20になったらクラスチェンジするのかな。
鉱石はどれだけ必要だろう。
全員分の装備。
魔晶石が一人四つとして、十二個。
こっちの方が時間かかりそう。
まあ、素材ならオークションにも出る事あるし。
街に戻ったらチェックしておこう。
私は洞窟の中へと入って行く。
スライムメリクリウスを求め、採掘ポイントを叩きながら。
敵の気配がすればすぐにシロが教えてくれる。
素早くピッケルから銃に持ち替え引き金を引く。
光弾に撃ち抜かれたスライムが粒子へと変わるのを見つめながらMPを銃に込め再びピッケルを握る。
今日はついてる!
半日経たずして、二体目のスライムメリクリウスが現れた。
ピッケルを仕舞い、狙いをつける。
放つは二連結の魔法弾。
プシュっと言う乾いた音と共に放たれた光弾は、銀色の液体を飛び散らせ粒子へ変えた。
<レベルアップ>
<召喚士の心得を入手しました>
<クラスチェンジ条件を達成によりクラスチェンジ可能な職業が追加されました>
<メニューよりクラスチェンジが可能です>
よし!
小さく拳を握りしめガッツポーズ。
だが、シロが後方を警戒する素振りを見せた為その確認は後回しとなる。
新手。
銃を構えながら、振り返る。
洞窟の壁が明かりでぼんやりと照らされていた。
……まさか。
私は少し進み、曲がり角へ身を隠す。
その明かりが何を意味するのか。
それをこの目で確かめる為に。
正体はすぐに判明した。
私の予想は見事に的中した。当たって欲しくはなかったけれど。
六人組のパーティ。
私からは判別出来ないけれど、NPCではないだろう。
最悪だ。
この場所が誰かに露見した。
いや、それ自体は時間の問題だっただろう。
……違う。
私のミスだ。
あの木の目印。
何度クロちゃんが切り落とそうと、翌日には元通りになっているあの枝。
今日は、そのままになっている。
そんな事はまるで上の空だったその時の自分を恨むが時すでに遅し。
「帰還陣・起動」
このままここにいて、彼等の前に姿を晒すのは悪手だ。
ならばやる事は一つ。
見つからずに逃げる事。
だが、彼等は私の後からやって来た。
すなわち、出口からこの洞窟から出るには、彼等とすれ違わなければならない。
でも、出口以外にもここから外に出る方法は存在する。
私は幾度となく通った洞窟を静かに走り出す。
目指す場所は一つ。
敵は無視して良い。
脇目も振らず洞窟を駆け抜け、洞窟の最奥、縦穴へとたどり着いた私はそのまま飛び降り、洞窟の底で待つ巨大スライムに飲み込まれ街へと死に戻った。
◆
『悪いニュース一つ。
ごめん』
街に戻った私はすぐさま三人へメッセージを送る。
私の不注意が招いた結果。
まだグアンナの事までは露見して居ない筈。
でもそれは楽観的な希望でしかない。
『三十分ほどでキノエネへ戻れます。
こちらも報告が二つ。
悪いものと、少しだけ良いもの』
市松から返信。
こっちは……悪い物だけなのよね。
『りょ。
待ってる』
そう返信し、私はしゃがみこむ。
場所はキノエネの街の中心。
噴水の前。
多くの人で賑わっているけれど、私に気を止める人など誰一人として居なかった。
「召喚陣・起動・白狼」
小さな魔法陣が石畳の上に現れ、それが消えた後に真っ白の相棒が舌を出し尻尾をパタパタとされながらその場へお座りして居た。
私は小さなワンコを抱きしめ、柔らかな毛並みの中へ顔を埋める。
「ふう。
落ち着いた」
たっぷり堪能。
さて、と。
私のクラスチェンジっ、と。




