35.一撃でやられて癪なので防具を買おうと思います
「……マジで?」
目の前に、ウシが居る。
そして、私を確認し斧が振り下ろされる。
「くそう!」
同じ手は食わん!
横っ飛びで避ける私。
だけれど、振り下ろされた斧は体の半身をかすめ、それだけで六割近いHPが削られる。
いや、四割残った。
なら、行ける。
「次は、完全装備で来てやる!」
なお、武器は考えないものとする。
◆
『成功したよ!!
死に戻ってキノエネにいます』
カエデ、市松、クロアゲハの三人にメッセージを送る。
『転移確認。
こちらで追試中。
連絡あるまで何もせずに待機せよ』
と、クロちゃんから返ってきた。
何もせずって……。
どうしよう。
どこまでが『何も』の範囲なんだろ。
しかし、まさか壊れた武器が転移のフラグとは。
意味分かんない。
とりあえず、シロとなにか食べよう。
◆
クロちゃんの様にしっかりと鎧を身につければそれだけ防御力が上がる。
だけれど、私の戦闘スタイルは敵と距離を置いた遠距離タイプ。
つまり、敵の攻撃を見て、それから回避や防御をする猶予がある。
重い装備で敏捷性を下げるとその猶予を削る事になる。
装備品で基本防御を上げてダメージを減らすか、リスクは上がるがリーチと敏捷性を生かしダメージそのものをゼロとするか。
両方試してみれば良いのだけれど、そんなお金はない。
てか、市松のお陰でもう一度武器を買い直さねばならないから完全に赤字。
でも、そもそも買い直してしまうとあの場所へ行けないのか?
うーん。
どうしたものか。
「とりあえず、トップとパンツくらいは買うか」
迷彩のシャツにショートパンツ。
それとブーツ。
『至急!今どこ!?』
ん。
クロちゃんからメッセージ。
戻って来たかな。
『防具屋』
と。
「買っちゃダメ!」
返信すると同時に防具屋の扉が開きクロちゃんの叫び声。
「え、なに?」
「何も買ってない?」
「これから買うとこ」
「全部キャンセルよ。
それから作戦会議」
と言いながら手首を掴み強引に店の外まで引きずられていく。
店から出ると同時にカートとその中へ入れた商品を表示していた仮想ウインドウが消えてしまった。
「ちょっ、どうしたの?」
「さっき何もするなって送ったじゃない」
「何もって、買い物も駄目なの?」
「そうよ」
「何でさ!」
「それをこれから説明するわ!」
はーい。わっかりましたー。
なんだよ。
せっかく人が服着る気になったってのにさぁー。
どんなスキルがあるかわからない以上、重要な話は中ですべきではない。
と、クロちゃんが偉そうに仕切ったのでロビースペースへ移動。
もう。リーダーやればいいのに。
「さて。
わかった事を整理しましょう」
「武器が壊れてないと駄目なんでしょ?」
「武器だけでは無いですわ。
ヨシノさんが転移された後にわたくしも同じ事を試したのです」
「え、武器壊したの?」
お嬢様、脳筋過ぎない?
「はい。
ですが、わたくしは転移しませんでした」
「え、私だけなの?」
「何が条件なのか。
それをこれから検証していくのです。
まずは、わたくしの仮説から」
◆
『つまり、あそこは生贄の祭壇ではないかと思うのです。
生贄が武器や、鎧を身にまとっていては可笑しいでしょう?』
と言うことで、市松が壊れた杖を持ち布切れ一枚で胸を隠した。
本来なら加工して服系統の防具にする為の素材らしい。
「ひっじょうに……恥ずかしいですわ……。
わたくし、まだまだ修行が足りませんわね」
「いや、それが正常な反応だ」
「そうよ。人として最低限のラインだわ」
「おいまて。お前ら。
それじゃ私が異常で人として最低限のラインにすら届いてないみたいじゃないか」
防具を買う事を止めたのは君らだよ?
「うう……。
これで、思い違いだったら、わたくし立ち直れないかもしれません」
「大丈夫だよ!」
すぐ慣れるから。
とは、口が裂けても言えない。
「こう見えて、実はシロは裸なんだよ!」
「全く意味がわかりませんわ!」
大いに狼狽する市松。それより露出の高い格好をしている私は全然平気。
羞恥心を捨てる事にかけては私に一日の長がある!




