34.フラグは何だ?
「ショット!」
放たれた光弾がスライムクイーンを貫き壁へと激突。
その軽い振動の中、スライムクイーンの体は粒子となり消えて行く。
「お見事ですわ」
「いやー、四人居ると早いね」
「銃ってそんなにポテンシャル秘めた武器種だっのね」
「あれ? 二人とも気付いちゃった?
私が最強だって」
「誰が守ってあげたのかしら?」
「この距離なら、引き金を引く前に体をくの字にして差し上げられますわよ?」
軽い冗談なのに、割と酷い感じで殺されそう。
「で、ここで行き止まりみたいだけど?」
「と思うでしょ?
はい。カエデ」
ピッケルを体力担当へ渡す。
「またアタシ?」
「私はお茶を淹れる」
「えっと、何が始まるのです?」
「すぐわかるよ。
それより、お茶飲もう」
なんと今日はレジャーシートを用意してるのです!
◆
「と言う事で、この先が本当の目的地です」
カエデが結構頑張って、早めに穴が空いた。
今度は落下しないように慎重に穴を広げ、人一人が通れるほどの大きさに。
「どうやったらこんなの見つけられるわけ?」
「すごいですわ。わたくしには到底思いつきもしないでしょう」
えへへ。
もっと褒めて。
「下は大変だから、気を引きしめて行くぞ」
「というか、全部相手にしないでも良いよ。
小部屋へ行くのが目的だから」
「なら、全部倒した方がすっきりと行けるじゃないか」
そっすね。
言った私が馬鹿だった。
いや、私が馬鹿なのか?
「次は何?」
「スケルトン軍団」
「あら。お手の物ですわ」
「矢が飛んでくるから気をつけて」
「じゃ、初手は私が引きつける。
市松さんは、私の後ろから飛び出して」
「よろしいですの?」
「せっかくだし、協力しましょ」
「ええ。是非とも」
「アタシは?」
「好きに暴れたら?」
「そりゃ、元からそのつもりだけど。
まあ良いや。
シロ、行こう」
穴へ飛び込むカエデ。
それを追いかけるワンコ。
もういい。
あいつはウチの子じゃない。
本当、何でカエデの言うこと聞くんだろう。
それを追ってクロちゃんと市松が続けて穴へ飛び込む。
私は最後。
通路の奥から迫る骸骨の大群に、クロちゃんと市松がドン引きしてたのはちょっと面白かった。
◆
さて。
余興である骸骨の大集団を倒しきり、私達は最終目的地である祭壇のある小部屋へとやってきた。
「この台座に触れれば転送される。
みんな、準備はいい?」
「いつでも行ける」
「大丈夫ですわ」
「私も」
「じゃ、行くよ。せーのっ!」
で、同時に台座に手を触れる。
………………。
…………。
……。
「あれ?」
「何も起きないぞ?」
「うそ。何で?
この前は飛んだのに!」
私は台座をペチペチと叩く。
だけれど、景色は全く切り替わらない。
え、ちょっと!
これじゃ私はただの虚言癖じゃない!
「ヨシノさん」
「この前は転移したんだよ!」
「何か、フラグが足らないんだわ。
転移した時と今日。
違っている事は何?」
「違っている事。
……みんなが居る。
この前は私一人だった」
「なら、ヨシノさんを残して一旦外へ行くわよ」
でも、これだとまた一人じゃん?
とりあえず、全員が部屋から出るの見送り台座に触れる。
変化なし。
あ、シロも居なかったな。
シロを帰還させ再び台座へ。
やはり変化なし。
「ダメみたい」
部屋の外にいた三人へ結果を伝える。
「他には?
何かないの?
変わったアイテムを持っていたとか、祈りの言葉を唱えたとか。
それとも、クエストを受けていた?」
「うーん……」
「何でも良いから思い出した事を試してみて。
私達も部屋を調べるから」
何だろうな。
台座をペチペチと触るが一切反応せず。
カエデとクロが壁にある祭壇を入念に調べている。
「ごめんね」
私の横で台座をペチペチとやっている市松に謝罪。
「何がですの?」
「変な事に付き合わせて」
ただの無駄足だった。
徒労に終わりそう。
「楽しいですわよ?
皆さんの意外な一面が見えて。
ええ、とても」
と、笑顔で答える市松。
「前との違いかぁ……」
「その時の状況を再現してみましょうか?」
「うん」
私は市松の言葉に従い、前回の状況を再現することに。
まずは部屋を出て、通路を引き返す。
「天井が崩れて、落下して」
「それは災難でしたわね」
「で、向こうから骸骨の集団がやって来るのが見えたから慌てて逃げて」
その状況を思い出しながら走り出す。
「で、この辺でカエデの頭に矢が刺さった」
「まあ。
そう言えば今日も刺さってましたわね」
「クロちゃんが必死に笑いこらえてたね」
「当人が平然としてらっしゃったのがまたなんとも」
完全に落ち武者だったな。あれは。
「多分、この辺で前を撃ってカエデと前後を交代して」
軽く走りながら出来事を整理していく。
「もう一発。で、弾切れになった。
敵はもう一体居たから、全力で銃床を叩きつけ吹き飛ばす。
銃が、壊れた」
はい。
小部屋に到着。
「って、感じ。
その後は、ざっと室内を観察して台座に触れて……」
再び台座触れるが、やはり何も起きず。
「うーん。時間とかかなー」
「一つ、気になったことが」
「何?」
「その銃、お貸しいただいてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「他に、武器を持ってますか?」
「無いよ」
「前回は?」
「その時も持ってなかった」
「なら……後で弁償しますね」
「え!?」
銃の銃身と銃床を両手で持った市松が、笑顔で嫌なことを言う。
それを止める間もなく……。
「ふんっ!」
「ああーっ!!!」
筋トレで使うアームバーの様に私の銃が曲げられた!
何すんの!?
高かったんだよ!?
あまりの驚きに、抗議すらままならない。
「これでいかがでしょう?」
と、渡されたのは壊れた銃。
「うわーん。あんまりだー」
「これで、装備については前回と同じ条件になったと思いますの」
「でも、これじゃ戦えな……」
半泣きになりながら台座に触れ……。




