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13.水晶的なものに閉じ込められるのはたいていお姫様

 縦穴を下りた深い地下の底。

 今、私達の目の前におそらく探していた鍛冶屋の旦那さんがいる。


「生きてるよね?」

「死んでると思う」

「素直だなぁ」


 私の答えにカエデが呆れる。

 だってさ、目を閉じてるし、宙に浮いてるし。


「普通さ、ああ言う役って女性キャラだよね」

「男女差別良くない」

「そんなつもりじゃないけど……」


 その旦那さんは、まるで物語のお姫様の様に澄ました顔で目を閉じている。

 直立していて、その足は地面に着いていない。

 全身をすっぽり覆う巨大なスライム。


「攻めはヨシノ任せになりそうだけど」

「厳しいかも」


 実は、MPが無くなりそう。

 そうすると、私の銃はもう使えない。

 でも、カエデの刀はスライムに滅法弱い。

 だから私が何とかするしかない。


「ま、やるしか無いよね」


 例え負けたとしても、準備してもう一回来ればいいし。


「あの触手っぽいのは、アタシ達で何とかするよ」

「任せた。

 大技行くから時間稼いで」

「了解!

 シロ、行くよ!」


 カエデとシロが同時に走り出す。


 相手は人一人をその体内に飲み込んだ巨大なスライム。高さは三メートル以上ある。

 その周囲に、ウヨウヨとまるでタコかイカの様に細長い触手が蠢いている。


 私は後ろへ下り、壁を背に腰を下ろす。


 銃口を巨大スライムへ向ける。


「ユナイト」


 結合ユナイト。スキル銃技の一つ。

 銃の残弾を一つにまとめ放つ技。


 ただし、一発目と二発目を結合するために三十秒必要。

 三発目以降は一発毎に更に十五秒加算。

 六発全て結合させるには五分。

 その分、威力は上乗せされる。

 しかも、その間はほとんど動けない。

 まるで鉛を付けた様に全身が重くなるのだ。


「頑張れ……」


 四方八方からムチの様に振るわれる透明な触手。

 その攻撃を私から遠ざけるために盾となったカエデとシロ。

 必死に動き回っているが、全ては避けきれない。

 シロが弾き飛ばされ宙を舞い、カエデが姿勢を崩され膝をつく。

 だけれど、どちらも直ぐに立ち上がり再び動き出す。

 触手へ噛み付くシロ。

 刀と松明を振り回すカエデ。


 仮想ウインドウに表示されたユナイトの経過時間。

 私はそれを睨み、少しでも早く終わる事を祈るのみ。


 3.00


 狙いをつける。


 2.00


 外さぬ様に。


 1.00


 中の人に当たらぬ様に。


 0.00


「ショット」


 六発分の威力を乗せた光弾が、銃口から波紋の様なエフェクトを発生させながら放たれる。

 巨大スライムの表面が光弾を受け波打ち、直後爆ぜた。


「足らない、か」

「効いてる効いてる!」


 爆破で弾け飛んだスライムの体が明らかに小さくなった。


「次弾、八分後!」

「了解!」


 チャージ。

 満タンまで、三分。

 その後のユナイトに五分。


 再び我慢の時間。


 カエデとシロが敵を引きつける。

 さっきから、結構なペースで回復アイテムを使っている見たいだけれど足りるだろうか。

 シロの分まで。

 これ、旦那さんを助けて報酬貰っても赤字だな。


 お金稼ぐの、大変。


「次、行くよ」


 カウント、ゼロ。


「ショット……!?」


 引き金を引くと同時に私の体が一瞬、宙に浮きそのまま後方の壁へ叩きつけられた。


 ……衝撃でブレた銃口から放たれた光弾は狙いを外れスライムの上部を掠め、その向こうの壁へと着弾し弾け飛んだ。


「……こいつ!」


 妨害したのは地下から生えたスライムの触手。


 発射ギリギリのタイミングで私を下から殴り飛ばしたんだ。


「次!」


 カエデが刀をその触手へ叩きつけながら言う。


「……りょ! チャージ!」


 地面から生える触手から走って逃げ回りながら銃へ魔力を込める。


 スライムは攻撃対象として、私を認識した。

 見えてるだけでなく、地面の下からの攻撃も警戒しないといけない。

 MPはギリギリ。


「カエデ、次で打ち止め」

「ポーションもあと三つ」

「作戦がある」

「聞こうか」


 私達は走り、触手を避けながら彼女へ考えを伝える。

 失敗したら出直し。

 次はもっと、ちゃんと準備をして。

 だけど、その前に今ここで出来るだけの事をしよう。


「……と、まあこんな感じ。

 でも、前段階で五分以上耐えないといけないけど」

「アタシも気付いた事が一つ」

「何?」

「あの触手は、火を嫌がる」


 そう言ってカエデが手にした松明を地面に刺す。


「信じる。

 じゃ、あと六分半。

 よろしく」

「了解!」


 カエデが突き立てた松明の横に壁を背にしてしゃがむ。

 カエデが巨大スライムから私を隠す様に盾になり刀を振るう。

 銃を構え、ただただ時が過ぎるのを待つ。

 カエデが何度も触手の攻撃を受けよろけるのを見守りながら。


「ワン!」


 シロが吠えた。

 私を見て。

 弾かれる様にこっちへ向かって来るシロ。


 どうした?


 全身の毛が逆立って……警告?


 私は咄嗟に横へ体を倒した。


 直後、そこへ背後から伸びた触手が通り過ぎていく。


 ……そうか。地面の中へ潜らせる事が出来るならば、その先の壁へ触手を生やす事が出来ても不思議ではない。

 紙一重で躱したその触手へ、シロが飛びつき牙を立てた。

 噛み砕かれた触手が粒子へと変わり、シロは再びカエデの方へ走って行った。


 結果はどうあれ、この戦いが終わったら思いっきり撫でてあげようとその後ろ姿を見ながら心に誓う。


 そして、時が満ちる。


「カエデ!」

「良し!」


 文字通り私の盾となり攻撃を防いでいたカエデがゆっくりと歩き出す。

 銃を構えたまま、彼女の陰に隠れる様について行く。


 絶対に避けられない距離。

 それは即ち接射。


 私の為に本体への道を作り出すカエデ。

 迫る無数の触手を刀で振い落とし作られた一本の道。


 行ける。


 そう思った瞬間。

 私とカエデの間の地面が盛り上がる。

 そして、その下から伸び来る触手。

 避けれない。

 でも、避けなければHPがなくなる。


 ……駄目だったか。


 迫る触手に敗北を確信した。


 直後、それを遮る様に飛び込んできた白い物体。


 シロが文字通り体を投げ打ち、その攻撃を受け止める。


 小さな体が粒子と化し消えて行く。

 飼い犬の名を叫びたいのを奥歯を噛み締め堪えながら私は前を向く。

 きちんと私を守ってくれたシロ。

 ここで負けては、足を止めてしまっては、それが無駄になる。


 そんな事、させない!


「チェック……メイト!」


 カエデが切り開き、シロがこじ開けた道。

 その終着点で、私は巨大スライムの根元へ銃口を突きつける。


 怒りを乗せた光弾が、爆ぜた。

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[気になる点]  ただし、一発目と二発目を結合するために三十秒必要。  二発目以降は一発毎に更に十五秒加算。  六発全て結合させるには三分三十秒。  その分、威力は上乗せされる。  しかも、その間はほ…
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