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タイムカプセル

お久しぶりの投稿です。昔書いたものを書き直したものです。お楽しみくださいね。

「今年も暑いなあ。ま~毎年暑いけど。もう少し涼しくなんないのかなー。」

そんなことを空に向けて言いながら、僕は、ロッカーや机においていた荷物や夏休みの課題プリントがたくさん入ったランドセルを背負い、家へのみちをのろのろと歩いていた。


僕は島波勇人、小学校6年で、少し幼さを残した顔立ちをしていて、身長も145cmとあまり高くないことを気にしている。

周りが伸びるのが早いだけだと自分によく言い聞かせている。

絶対にそうだ。

読んでくれている人たちの中にもそんな経験あったりしないか?


夏の暑さや重い荷物で、くたくたになりながら家に着くと、家の車庫に珍しい車が置いてあった。

「あれって、田舎のじいちゃんとこの車じゃん。2年ぶりにここに来たのかな、どうしてだろ。」

 田舎のじいちゃんはいつも面白いことを話してくれる。特に経験談はドキドキする。さっきまでの疲れが吹き飛び、僕はわくわくしながら家の中に駆け込んだ。

「ただいまー。」

「おかえりー、久しぶりにおじいちゃんが来てるわよー。」

「そんなこと玄関に止まっている車見たらわかるってー。」

そういって自分の部屋に荷物を放り投げて、リビングに向かった。

「相変わらず、元気じゃのー。」

「ほんと、いつもこんな調子で。」

「男の子はこのくらいがちょうどいいわい、ふぉっふぉっふぉ。」

リビングに着くとじいちゃんと母がテーブルに添えてある椅子に座ってしゃべっていた。

「じいちゃん久しぶりー、元気にしてた?からだとか大丈夫?去年大変だったみたいだけど。」

「去年は、熱中症で倒れてしまってのー、じゃが今年は大丈夫じゃ。心配してくれてありがとうのう。」

「ならよかったー、また面白い話いっぱい聞かせて―。」

「そら、もちろんじゃ。」

「はいはい、立ち話はいったんそこまでにして、勇人、あんた帰ってから手洗いうがいしてないでしょ、早くしてきなさい。」

「はーい。」

せっかくじいちゃんとの久しぶりの再会だったのに、母に邪魔されました。そう思いながら、急いで洗面台に向かった。

リビングに戻ってきたとき、じいちゃんが1つ提案をしてきた。

「勇人よ、おぬし夏休みは、田舎で過ごさんかの。一つ頼みたいことがあっての。」

「もちろん!じいちゃんのためなら、なんだって協力するよ。」

「おーそういってもらえると助かるわい、両親からの許可ももらえたことじゃし、明日の朝出発するでな。今日中に、準備をしておくのじゃ、夏休みの宿題も持って行っといたほうがいいぞ。こっちに戻ってくるのは、夏休み二日前くらいになるからのう。」

「了解、じいちゃん。久しぶりだなぁーじいちゃんの田舎に行くなんて、さっそく準備をしないと。お母さんーかばんどこだっけー?とりあえず自分の部屋から必要なものだけまとめてくるー。」

「あ、待ちなさいー、といっても無駄みたいね、ほんとお父さんと似てるわね。」

僕は、母親の制止の言葉に耳を傾けず、自分の部屋に準備をするために戻っていった。

その晩の食卓にて、僕はワクワクが止まらなかった。その様子を見て父親が笑顔で問いかけてきた。

「どうした、じいちゃんの田舎に行くことが楽しみなのか?勇人そんなに回数行ってないんじゃなかったか?」

「だからこそだよ、ここらへんじゃカブトムシに出会えないし、きれいな川とか父さんに連れってもらえないと遊べないしねー。」

「そうだなー、今年もつれていってやりたかったんだが、今年は会社が忙しいからなー。親父から提案してきてくれてちょうどよかった。父さんの分まで遊んでくるんだぞ。」

「任せて、目いっぱい遊んでくる。」

「父さんも、里帰りしたかった...」

「パパは、仕事頑張るのよー。てか、私も残るから久しぶりに二人でゆっくりできるでしょ、そこは喜びなさいよ。」

「にぎやかで何よりじゃ、ふぉっふぉっふぉ。」

そうして、いつもよりにぎやかな食卓は幕を閉じたのである。


その後僕は最後の準備を整えて、早めに寝ることにした。しかしワクワクしているとなかなか寝付けない。しばらくころころと布団でくるくるしていたが、なかなか睡魔くんは襲ってきてくれなかった。

気を紛らわせるために、勉強机の引き出しを整理することにした。すると2段目の引き出しに、古びた鍵のアクセサリーが見つかった。

「あれ、こんなの持ってたっけ。なんか誰かからもらった気がするけど、んー、思い出せないなー。」

思い出そうとしてみたが、モヤがかかって分からない。

「まあ、そのうちわかるかな、一応持って行っていこうか。」

そう思い、かばんの中に放り込み、布団に潜り込んで、明日を元気に迎えるのであった。


じいちゃんの車に乗って、3時間、高速道路を降りてしばらくするとあたり一面に緑が広がっていた。前に見た時より印象的であった。

僕はその光景に目をキラキラさせていると、道の左側に川が見えてきた。思わず、僕は、窓を開けて、顔を出そうとした。

「これこれ、窓から、体を出しちゃ、ケガをするぞ。後でゆっくり見られるから少し我慢するのじゃ。」

「はーい。」

そうこうしているうちに、じいちゃんの家に着いた。じいちゃんの家は、母屋と離れに分かれている。母屋は、入り口の門に入って左側にあり、伝統的な日本家屋だ。

対照的に、右側にある離れは、いたって一般的な家が存在していた。といっても、少し古い感じだ。またこの敷地内には、家庭菜園する場所や庭が存在し、広い土地を持っているんだなと思わされる。

前に来た時とそう変わりないものだったので少し安心した。

僕は車を降りてすぐ、深呼吸を1回した。やはり都会と空気が違う。空気が澄んでいて、新鮮な感じがする。心地いい。

空気を思いっきり吸った後、僕は、今すぐにでも川に行きたくなった。だから僕は急いで離れに荷物を置きに行った。

実は、離れは、お父さんが、元々荷物置き場にしていた古びた倉庫を壊して、年を取ったじいちゃんたちのために新しく建物を作り直したものである。それ以降、じいちゃんは、寝るときにここで寝ていて、日中は、母屋の日本家屋で過ごしている。

「ねえ、じいちゃん、川に行ってきてもいい。早く魚見たい。」

「まあまあそう焦るでない。もう昼時じゃから、食べてからゆっくりと遊んでくるといい。」

「うー、分かったー。じゃあ、なんか手伝えることある?」

「そうさな、お皿を出すのを手伝ってくれるかな。」

「まかせてー!」

そうして僕の夏休みという短い期間での田舎暮らしが始まった。


午後、僕は、昼食の片づけを終わらせてから、車から見えた川へ向かっていった。

川に着くと、車の中から見た時よりも、近くなったせいか少し大きく感じる。それに、川は透き通っていて、魚が泳いでいるのがはっきり見えた。

「うわー、きれいな川だなぁ。学校付近じゃ見れない光景だよ。魚も泳いでるのが見えるー。明日じいちゃんに釣り竿借りよー。でもまず泳ぐぞー!!」

そういって僕は川に飛び込むのであった。

「気持ちいいー!この暑さにはちょうどいい感じだー!ん、これで魚に近づけるかなー。」

この後、僕はへとへとになるまで、魚を追いかけ続けたが、一向に近づくことができなかったとさ。

そうして一日が過ぎていくのであった。


数日過ぎたある日の朝、虫取りで手こずっていた僕はじいちゃんに朝狙う方がいいと助言され、じいちゃんオススメのポイントに向かった。少し家から遠いことと霧が少し出ていることに不安を覚えながら、何とか目的地に着くことができた。そこにはひときわ大きな大木が存在していた。その一角に、蜜が出ている部分があり、多くの虫たちが群がっていた。

「おおー、たくさんいる―。取らなきゃ。」

そういって、慎重に1匹のカブトムシに狙いを定めた。虫が多いので網は使わないことにした。

そーっと近づいていき、素早く素手で捕まえた。

「やったー!カブトムシ初ゲットォー!とりあえず虫かごに入れなきゃ。」

急いで虫かごに入れて、新しい獲物を探し始めた。


1時間後

「多すぎて取る虫を絞った経験は初めてだよ。都会の奴らに自慢しよーっと。」

僕はにこにこだった。あの大木以外の木もいろいろと珍しい虫が多くいてどれを取るか悩みつつも、カブトムシを2匹、オオクワガタを1匹、ミヤマを3匹取った。

「いやー、図鑑で見るより実際取ってみるとほんとかっくいーなー、家に帰ったらもっとゆっくり見なきゃな。」


僕は、家に帰ることにする。朝早く起きたために、少し眠い。もう一回寝ようかなと思いつつ、来た道を帰っていた。

そんな帰宅中、帰り道に朝見えなかった鳥居と長い階段があった。

「あれ、こんなところに神社なんかあったんだ。朝は霧がかかっていたし、虫取りに来るまでここ通ってなかったなー、よし、寄ってみよう。」

長いこと続く階段を上り終えたとき、僕は息が上がっていた。

鳥居からの階段いったい何段あるんだよと思った。息を整えて、境内を見渡す。

田舎にあるから古そうな雰囲気なのだろうと思っていたのだけど、そうではなく綺麗な赤で本殿は彩られて整っていた。そして何より雰囲気が凄かった。神社に入る前までは、とても田舎らしいほのぼのとしたものであったが、ここの神社は、神々しさがあふれていた。本当に神がいそうである。

「なんだろ、パワースポットってこういうことを指すんだろうなー。」

と自己完結し、辺りを見ながらとことこ歩いていると神木付近で掃除している女の子を見つけた。歳は僕より少し年上だろうか、神社の人の子供かなーと見つめていると、向こうがこちらの視線に気づいたのか、僕の方に近づいてきた。

「あんた、見ない顔ねー、どこから来たの。」

「えっと、僕は、島波勇人、夏休みの間じいちゃんの家に泊まらせてもらってるんだ。」

「ふーん、島波さんのところのお孫さんなのね。」

「そだね、君は掃除してるけど、ここの神社に住んでるの?」

「そうよ、私は倉敷香住、もちろん!ここ倉敷神社の家の次期神主になるの!」

とドヤ顔で名乗った女の子は、黒髪を肩まで伸ばしていて、きりっとした目をしており、少し大人っぽさを感じるが、僕に見せた姿は、子供っぽく無邪気さを感じられた。その姿に僕は見蕩れてしまった。

「んー、どうしたの?ぼーっとして。何か変だったかな?」

「い、いや、そ、そんなことはないよ、ちょっと考え事をしてただけだから。」

「へぇー、あんた、せっかく名乗ってあげたのに考え事するっていい度胸してるのねー。」

「いや、ごめん、ほんとにごめん。」

「まあ、別に構わないわ。ところで、歳はいくつなの?私は13だけど。」

13ということは中学生である。しかし、話した雰囲気からはどうもそんな感じがしない。僕と同じ歳に感じられた。かわいいなと思った。

「あんた、私の年齢信じてないでしょ。ちゃんとした中学2年生よ!一発殴るわよ。それとあんたも早く年を言いなさいよ。」

「あ、えっと、僕は12で小学6年だよ。」

「ふーん、見た目通りって感じね。まー都会育ちだからなよっとしてるわねー。」

「なよっとしてるとか言わないでよ、気にしてるんだよ、それに都会にもゴツイやつとかいるし。」

「確かに都会は人が多いから、そんな人もいるでしょうね。でも、あんたはあてはまるからいいでしょ。」

「ぐっ、そんなこと言ったら、お前だって、中身が子供っぽいじゃないか。」

「あんたね、初対面の女の子にそんなこと言うの。ありえないわ。ほんと女々しいわね。」


僕と香住が言い争いをしていたら、奥から、香住のおばあちゃんらしい人が出てきた。

「香住、あんた何をしてるんじゃ、早くこっちを手伝わんかい。」

とズカズカこっちにやって来た。

「ごめんなさい、ばーちゃん。でもこいつがうるさくて。」

「うるせーってなんだよ、最初に、悪口言ってきたのはお前じゃないか。」

「まあまあ、落ち着きなさいや、ばあやに、話を聞かせなさいな。それとあんたは...島波さんのところの孫かい?」

「そうですけど、なんでわかったんですか?」

「島波さんの奥さん、つまるところ君のおばあちゃんにそっくりなのじゃよ。」

「そうですか、僕おばあちゃんのことをほとんど覚えてないんです...」

とりあえず、香住のばーちゃんに、言い争いのことを話しつつ、僕は、おばあちゃんの記憶を引っ張り出す。


おばあちゃんは、僕が小学校低学年の時に亡くなった。僕自身幼かったので、遊んだことは覚えているし、顔も覚えているが、どんな人だったかまでは、思い出せない。僕がはっきり覚えていることは、おばあちゃんがなくなった時の葬式で、じいちゃんが、号泣していたことだ。普段のじいちゃんは、にこにこ笑顔で、周りを和ませるムードメーカ的存在なのだ。いつもと違うじいちゃんの姿を僕は鮮明に覚えている。それほどまでに、おばあちゃんのことを大切に思っていたからだ。


僕が、記憶を振り返り終えたときちょうど香住の説明も終わった。

「これはどっちもどっちじゃ、先に手を出したカスミも悪いけど、言い返した勇人君も駄目だねえ。」

それもそうだ、自分の方が言葉のとげが少し強かったと少し後悔していた。少しカチッとなったから言いすぎてしまったということだ。だから僕は素直に謝ることにした。

「少し言いすぎたと思う。ごめんなさい。」

「え、あ、こ、こちらこそごめんなさい。私も久しぶりに、新しい人と会ったからつい...」

「お互い仲直りできたようじゃな、良かった良かった。ところで勇人君よ、ここで昼食でも取っていかないかね?おじいちゃんの方には私から連絡をしとくから、どうかね?そこの孫も喜ぶゆえ。」

「ばーちゃん、な、なに、言ってんの。」

そう言うと香住は、顔を少し赤くしてうつむいた。僕は香住の様子を不思議に思ったが、この神社の話とかを聞きたかったし、香住ともっと仲良くなりたかったので、提案に乗ることにした。


その日の夕方、神社の裏手にある長い階段を上り、少し見通しの良い場所に香住と一緒に向かっていた。

なんでここに来たかというと、昼食時に、僕がここにきて、虫取りや川遊びしかしておらず、景色などに興味を持っていなかったことに、香住があきれており、その反応を見た香住のばーちゃんが、一緒に見に行ってきなよと勧められ、断ることはできるわけもなく、この場所に向かっているわけだ。ちなみに僕たち二人は後半になるまではしばらく言葉をかけられずにいた。


「今のとこ、山とか小さくなった民家しか見えないけど、ここが絶景ポイントなのか。」

「あんた気が早いわね、もう少し待つことできないの。あと少しで見れるわよ。」

と僕が、信用してないようなことを言うと、香住はあきれたように返す。

そこからまた沈黙が続くように思えたが、そこで景色が少しづつ変わりだす。あたりがさっきよりも赤みを帯びて、目のまえにあった大きな夕日が存在感を表した。その姿は実に雄大で、足元に広がっていた、田んぼにも反射していた。香住が見せたかったのは、太陽の沈むところだったのだ。この姿は都会では見られないだろうし、誰も反応を示さないかもしれない。僕は思わず口を開いた。

「きれいな夕日…」

「でしょ、これがここ一番の絶景よ、一部の人しか知らないのよ。すごいでしょ。」

僕はそう自慢げに話す香住の方を見た。香住も僕の方も見ていて、笑顔を向けてきた。その笑顔は、夕日に照らされて、とても幻想的で、かわいかった。そのまましばらく見つめてしまっていて、途中でハッとして、ぎこちなく笑顔を返した。香住もしばし固まっていたが、少し顔を赤くしながらまた夕日の方へ向き直した。

「す、すこしくらい感謝しなさいよ。」

「え、ああ、ありがと…」

どちらもたどたどしく会話をしているうちに、夕日は、沈んでいった。

「じゃあ、帰りましょ、遅くなったら家族が心配しちゃうから」

「そうだね、また次遊ぼうぜ。」

「いいわよ、まあ、あんたなんかには絶対負けたりしないんだからね。」

そういいながら僕たちはそれぞれの帰る場所に帰っていったのだった。


夏休みの中盤に差し掛かったある日のことであった。

じいちゃんと一緒に夕食を取り終えて、一通り片付けも終わって、僕が畳でごろごろしていた時、じいちゃんが一枚の小さな古い紙を持ってきた。

「勇人よ、わしがお前を呼んだのには訳がある。頼みを聞いてくれんかね。」

「もちろんいいよ、じいちゃんの頼みならなんだってやるよ。」

「ありがとう、わしはいい孫を持てたのう。」

「で、その頼みってなんなのさ?」

「それはの、昔埋めたわしとばあさんのタイムカプセルを見つけてほしいのじゃ。でも、肝心の場所を忘れたんじゃ。」

「あらら、なんかヒントになるものはないの。」

「わしのメモが残っておったのじゃが、かすれたり、汚れているせいでほとんど何を書いていたかわからんのじゃ。それに、ばあさんもメモを持っていたんじゃが、その場所が分からんくての。」

「割と手詰まりだね...でも探してみるよ、なにせまだ半分も夏休みはあるし、何とかなるよ。」

「くれぐれも無茶するでないぞ。見つからなくても、仕方ないからのう。わしの管理不足じゃし。」

「うん、無茶はしないよ、それに地域の人なら隠し場所くらいわかりそうだしね。」

そういって僕は、じいちゃんからメモを受け取った。

そのメモは、割と年季が入っていて、何か大きな文字が書いてあったみたいだ。でも、かすれて読めない。裏側を見ると、こちら側には小さく鍵と書かれていた。とりあえず分かったことは、タイムカプセルには鍵が必要であることが分かったが、たぶん一緒に埋まっていると考え自分の部屋に戻った。

明日から本格的に調査だ。


僕は、まずどんな場所に埋めてあるのかを考えるために、地域の人に聞いて回ることにした。

しかし、数日にわたって調べた結果は、良いものではなかった。人によって隠し場所予想はバラバラで、その中でもありそうな場所に行って探してみたが、出てはこなかった。


だが、普段聞けない話を聞いた。

じいちゃんが昔どんな人だったとか、おばあちゃんを大切にしていたとか、じいちゃんの知らない部分が聞くことができた。そういった人の話を聞くうちに家に帰るまでに一週間を切っていた。刻々と終盤に差し掛かってきたある日、香住のいる神社に向かった。あそこのばーちゃんなら何か知っているだろうと最後の希望をもって。

香住とは、あの夕日を見てからというもの向こうから「あんた暇そうだから、い、いいっしょに花火、見に行かない?」と誘われたり、他の絶景ポイントを教えてもらったりと遊んだりはしていたが、神社に訪れることは無く久々だった。

階段を登り終えると目の前にばーちゃんがいた。

「あれ、香住のばーちゃんどうしてこんなところに?」

「そら、毎日毎日いろんな人に聞き込みしてるというから、そのうち来ると思って待ってたんじゃよ。」

「もしかして、答えを知ってるの。」

少し期待をしながら返答を待った。しかし、発せられた言葉は残念なものだった。

「すまん、私にもわからんのじゃ。じゃがの、一つだけ言えることがある。答えは意外に近くにあるということじゃよ。すみずみまで探すのじゃ。」

そう言うと、ばーちゃんは、仕事に戻るといって、戻っていった。僕は想定外の答えに驚き、落ち込みながら帰宅する。


その様子を陰から、ばーちゃんと香住が見ていた。

「ねえ、ばーちゃん。ユウトに本当のこと言わなくてよかったの?」

「大丈夫さ、勇人君なら見つけられるはずさ、なんせ、島波のおばあちゃんにそっくりじゃけんねー。」

「それ、ぜんぜん答えになってないじゃん。見つからなかったらどうするの。」

「その時は、あんたが教えてやりなさい、あのタイムカプセル埋めたあの()()、今のあなたたちにそっくりだから。」

「ど、どど、どういう意味なの、ばーちゃん!?」

「あなた達は、両想いってことを言いたかったのよ。お互い恥ずかしそうに手をつなぎながら花火大会帰ってきてたじゃないのかえ。あれが両思いじゃなきゃなんなのじゃ?」

「え、ま、まぁ、確かにそうだけど...あいつにとって私は友達程度の認識だと思ってたし...」

「まあ、明日くらいには来るかの、あそこで待ってたらどうじゃ。」

「んー、ばーちゃんがそういうなら...待っておこうかな...」

「ついでに告白できればいいのう。」

「も、もう、茶化さないでよー。」


神社での一件から次の日、僕は、母屋の、おばあちゃんとおじいちゃんが使っていた和室でゴロゴロしていた。

「どこにヒントがあるのー?あともう少しで帰るのに、何もできないままで終わりそう。それに...香住ともう少しゆっくりしていたかったし...」

僕はもやもやしながら、部屋のものを見回していると、1つ気になった箪笥があった。それは、おばあちゃんが、亡くなった時に、じいちゃんが写真以外に唯一手放さなかったものだ。ちょっと気になったので、引き出しを寝転がったまま開けると、顔にほこりがかかった。僕はむせてしまったが、ましになったところでそこに何か貼ってあることに気づいた。

「なんだ、これ。」

剥がして見てみると、おばあちゃんの名前が書いてあるメモだった。開けると、もうそこに答えが書いてあった。

そして前に貰ったメモに書かれた鍵は今もってきたものであるのが分かった。昔じいちゃんが、葬式で退屈そうにしている僕に渡してくれたものであったと思い出した。


「これはわしが持っても意味がなくなってしまった。どうかしばらく持っといてくれんかの。然るべき時が来るまで。」フラッシュバックした記憶が頭を駆け巡りながらじいちゃんの家を飛び出した。


僕は、大量の階段を息を切らしながら駆け上がった。着いた場所は、夕日がきれいな場所、最初に来た絶景スポットだ。

そこには香住がスコップをもって待っていた。

「ほんとに来るとは思ってなかったわ、ばーちゃんが言った通りになるなんてね。」

「なんだよ、それじゃ、ばーちゃんが知ってたような口ぶりじゃないか。」

「嘘ついてたみたいよ、それより、早く探しましょ。」

香住のばーちゃんが嘘を言っていたことをサラッと言われ少し困惑し、なぜ教えてくれなかったのか気になったが香住にも言ってなさそうなので、とりあえずメモに書かれていた場所を掘ることにした。するとすぐにタイムカプセルが出てきたのであった。

「思ったよりあっさりだったね。」

「とりあえず中身が大丈夫か確認しないと、袋に入ってるから大丈夫そうだけど。」


袋の中から出てきたのは、鍵付きのアルミでできた箱のようなものであった。箱の鍵穴に昔もらった鍵を差し込み、鍵を回す。鍵が外れる音がした。少しさび付いて少し固かったが、蓋はきれいに空いた。中を覗いてみると小さな箱と袋があった。


箱にはビー玉が2つ、袋には手紙が1つ入っていた。手紙を手に取り、読んでみると、どうやらおばあちゃんが、未来のじいちゃんにあてて書いた手紙だ。どうやら、じいちゃんは恥ずかしくてかけなかったみたいなことが書いてある。だけどおばあちゃんの思いが伝わってくる文章であった。ビー玉はその2人を表しているらしく、赤の線が入っているほうが、おばあちゃんで、緑の線が入っているほうがじいちゃんらしい。しかも書いたのが中学生くらいなのだからよく残っていたなと感心せざるを得なかった。

「にしても、長い間仲良かったんだなー。」

「そ、そうね。」

「でも、なんでお前んとこのばーちゃんが知ってるんだ?」

「それは、姉妹だったからよ。」

「そんなつながりだったのか、わかんなかったな。」

気が付けば日が暮れていて、夕日が出てきていた。

「夕日だね。」

「いつ見ても綺麗ね。」

「なあ、1つ聞いていい?」

「別にいいわよ。」

「も、もしさ、僕が、一緒にいてほしいって言ったら、か、カスミは一緒にいてくれたりするのかな?」

「そ、そら、も、もちろん、もちろんよ。むしろうれしい。」と顔を赤らめながらそっぽを向いた。

「これは完全に仕組まれてたなー。ま、そんなこと言っても仕方ないか。じ、じゃあよろしくな香住。」

「う、うん、不束者ですがよろしくお願いします。えーと、仕組まれてたってどういうことなの?」

「こうなることだよ。ほんとじいさんよく考えたもんだよ。もう暗くなるし、手つないで帰ろ。」

僕は強引に香住の手を引っ張っていった。


じいちゃんが僕を呼んだ最大の理由、それは香住と引き合わせることだった。タイムカプセルは本物で、昔に埋められたものだ。でもじいちゃんは覚えていてわざと探させたのである。確かにあの夕焼けに、熱々のラブレター、そして2人という状況を作り上げたのだった。


そんなこともあって、最終日、香住達が見送りに来た。

「あんた、来年の夏、いや今年の冬に来なさいよね。」

「わかってるって。絶対来る。」

「じゃあ、目つぶって。」

いきなり言われるがまま目をつぶると、唇にキスをされた。

「今のはー「私のこと忘れたら承知しないんだから。」」

強引に約束をされたが、もちろんしっかり守るつもりだ。

なんだかんだ楽しかった夏休みだった。今度は、なんかもっていかないとな、本気で殴られそうだ。



           お終い


また不定期になるとは思いますが、連載と短編を書いていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

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