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私とシロカー、冬の大冒険  作者: GL vulgaris
第1章 不思議な出会い
2/2

未知の生物シロカー

「キャーーーー!!」

山々に響き渡るくらいに大きな声で叫んだ。その声にびっくりして謎の生物も目を見開く。

謎の生物は真っ白な毛に覆われていて額には赤い宝石が付いている。体長は1メートルくらいでキツネのような顔をしている。尻尾は2つ生えていてとても長く、まるで伝説の生物カーバンクルを彷彿とさせる姿である。

「指噛まないでよ!!てかなんで日本語喋れるの?!そもそもあんた何?!」

今思っている疑問が全て口から滑った。落ち着いていれば順序良く聞けるのに、指を噛まれたショックで動揺して、頭の中が真っ白になって何をすればいいかわからなくなっていた。

謎の生物はその状況を見て

「とりあえず深呼吸〜!!」

と私に向かって深呼吸を促してきた。とりあえず2、3回深呼吸してみると、動揺していた気持ちもゆっくり収まって、やっと周りが見えるようになってきた。でもやっぱり日本語を喋る動物を見るのは慣れない。

「指を噛んだのは悪かった。申し訳ない。」

「うん。」

慣れない日本語を喋る動物の言葉をオドオドしながら受け入れる。そして一番の疑問を謎の生物にした。

「あなた・・・だれ?」

すると返ってきた答えが驚きのものだった。

「僕には・・・名前がないんだ。周りからはシロカーと呼ばれてる。僕は君よりも遥か未来から来たんだ。ねぇ、確認したいんだけど今日は何年の何月何日?」

いきなり未知の存在に聞かれる疑問が今日の日付。しかも名前もない・・・うん?シロカーと呼ばれてるってことはそれが名前なのかな?と考えつつ、

「今日は2018年の12月の22日だよ。」

日付を言うとシロカー?はこんな事を言った。

「そうなんだ。本当にこの木にはこんな力が宿っているんだ・・・。」

後ろのヒノキを見上げながらそれを口にした。私には理解しがたい事だけど、そんな事よりさっきから気になっている名前の事について聞いてみよう。

「あと名前ってみんなから呼ばれてる『シロカー』があなたの名前じゃないの?それともそれとは別に名前があるという事?」

「うーん・・・君たちの年代ではそれが名前になるのかな?僕は産まれてから数々の試験を受けてそのあと商品棚に並んでいたから名前を聞く暇もなかったんだよね。」

「商品棚!?」

「うん。ペット売り場の商品棚。」

「いや棚じゃないでしょ!だって柵とかないと勝手に逃げちゃうし・・・」

私があだこだ理由を並べていると

「ここら辺が過去にはないんだ。面白いね。」

私はこの時喋ってる事には気付かず、そのまま理由を並べている。流石に終わる気がしなかったのか、

「まぁまぁ、わからない事だらけだと思うんだけど君にお願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」

となんとか話す隙間を見つけてシロカー?は声をかけた。すると

「うん?お願い?」

ようやく、私は声に気がついて、聞こえた単語をそのまま折り返し口にした。

「うん。そう、お願いがあるんだ。」

「お願いって何?」

ちょっと緊張してる。いきなり未知の存在からお願いをかけられたら大抵嫌な事しか起きない物語ばっか見てるからだった。何だろうと思っていたらこんなお願いだった。

「君の家に住まわせて欲しいんだ。お願いできるかい?」

「嫌だ。」

即答だった。

「なぜだい?」

「まず怪しいもん!!未来から来た?商品棚に並んでた?あと名前がない!?そんな生物に住まわせたら私の家族に迷惑かけるかもしれないもん!!」

「もちろん。ただとは言わないよ。それなりのお返しはするし、君たちの家族にも迷惑はかけないから。だからお願い聞いてもらえないかい。」

それでも怪しく感じる。しかしお返しが気になる。だって今日買うはずの本が買えなくなってしまったんだもの。もしそのような願いを叶えてくれるなら私にとっては万々歳だ。なので、

「お返しって何?」

と聞いてみた。すると

「さっき言った通り僕は未来から来たんだ。実は未来の力をこの世界でも使える事ができるらしくて、この力を使えば君たちのどんな願いも叶える事ができるんだ。もし住まわせてもらったら、君たちの願いを叶えてあげるよ。」

嘘!?未来にそんな力があるの!?私は未来の力がすごいと驚いている。でも問題はそうではないんだ。この生物が果たして家族に認めてもらえるかどうか。また、この生物が家族に迷惑をかけないかなんだ。そう考えたら、怪しいことに変わりはないしな・・・。うーん、どうしたものか?と悩みの表情を浮かべて考える。そうこう考えてると、いつのまにか雪が強くなってきた。時計を見るともう12時半だ。そろそろ吹雪く時間かもしれない。

「ねぇ、シロカー。私の家に住んでいいよ。その代わり家族には絶対見つからないようにしてね。」

「本当かい!?」

「今日は吹雪く予報なの。だから私の家に泊まって暖をとりましょう。願いがどうのこうの言ってたけどその話は帰ってからしましょう。」

そう言うと、するりとリスが木に登るように私の肩に登った。

「本当にありがとう!君の家はどこなんだい?教えてくれないか?・・・とその前に。」

肩に登ったと思ったら今度は腕をつたってさっき噛んだ指がある右手の先に移動した。だんだん痛みに慣れてきたけどまだ中指がズキズキしている。シロカーはさっき噛んだ中指に手を当てた。その後何秒か動かずじっとしていた。そして手を離すとなんと中指の噛んだあとがなくなっていた。ズキズキしていたのにそれすら感じない。まるで噛まれていたことを忘れるくらいにキレイに治っていた。「さっきは噛んでしまって申し訳ない。急に触れられたものだから驚いちゃって口が勝手に動いてしまったんだ。ちなみにこれが未来のちからだよ。僕たちは切り傷、擦り傷といったような傷を完治することができるのが当たり前なんだ。」

「嘘!そんなことできるのが当たり前なの!?」

「うん。僕たちは擦り傷や切り傷のような傷ではばんそうこうを使わなくなったんだ。捨てられる紙がもったいないからね。」

驚きである。傷を消毒せずにそのまま完治できるとか…どれだけ未来の医療とやらは進歩しているんだろう。もしかしてこれがなんでも願いを叶える力なのか…とか、考えてるとシロカーは私の肩に再び登った。

「さぁ、改めて君の家はどこにあるのか教えてくれないか?」

「うん。いいよ。」

私は家に向かって歩き始める。シロカーにちょくちょくわかりやすいように説明しながらさっきまでの道のりを歩く。

「そういや、名前がないとか言ってたけど私はあなたのこと『シロカー』って呼ぶけどいい?」

「名前なんて別になんでもいいよ。」

「じゃあ、白ウサギにする?」

「どちらかというとシロキツネの方が正しいんじゃないかな?」

「うーん・・・でもシロカーの方がいいや。そっちの方がなんか未来っぽい。だから私はあなたのことシロカーって呼ぶね。これからよろしくシロカー。」

「こちらこそよろしく・・・えっと。君の名前を聞いてなかったね。君の名前は何?」

「私?私は(くみ)。日野根守だよ。」

「守か、いい名前だね。じゃあ、改めてこれからよろしく守。」

「うん。よろしく。シロカー。」

雪がだんだん強くなる。家はもう目の前だ。

「フーー…寒っ。これはたしかに吹雪そうな予感するわ。お母さん大丈夫かな?ちゃんと帰ってこれるのかな?明日は待ちに待った旅行の日なのに…。待って!シロカーどうしよう!?家族には見せれないし、言えないよ…。ペット連れてきただなんて。」

「君たちの家は、ペット飼っても大丈夫なのかい?」

「一応いい事にはなってる。けど、父さんが動物嫌いなの。昔、動物園で赤ちゃんの動物と握手できるイベントに参加したんだけどその時にね。手を出す所が悪かったのかわからないけど、指を噛まれてしまったの。それがトラウマになってしまったらしいわ。私はそうでもないんだけどね。父さんはペットは飼ってはいけないっていうんだけど、母さんはペット飼っても別にいいっていうの。母さんが捨て猫とか見るとかわいそうだとか言って持って帰ってくるの。」

「父さんと母さんで喧嘩にならないのかい?」

「それが不思議な事にペットの件で喧嘩した事が一度もないのよ。父さんが見てないのかわからないけど…。」

「君たちの親はさぞ仲がいいんだろうな。羨ましい限りだよ。」

「未来では夫婦喧嘩ばっかりなの?」

「まー…なんとも言えないかな…。君たちに未来のこと教えても特に意味ないし。」

「えー、つまんないの。」

そうこう話を繰り返しているともう家の前に着いていた。話に夢中で明日のことなどすでに忘れてしまっていた。

誰にも気づかれないように家に入るためにあえて我が家では誰も使わない、東の玄関から入る事にした。基本的にショッピングに行くには西へ行くから、西側の玄関が使わられることが我が家では当たり前である。しかしシロカーが肩の上に乗ったままだとどっちから入っても隠れて家に入る意味がないので、おつかいの袋にシロカーを入れて入る事にした。

「シロカー、いい?絶対音立てないでね。今、弟と兄がいるから。」

そう言って東の玄関を開ける。

「ただいまー。」

玄関を開けると不思議な事に東の玄関で靴を履こうとする兄の姿があった。あまりに珍しすぎる光景だったため、体がビクッと驚いた。

「おう。おかえり。良かったな。吹雪く前に帰ってこれて。」

「に、にいちゃんがこっちの玄関使うなんて珍しいね。どこ行くの?」

そう聞くと、兄は靴を履きながら右手に持ってる封筒を見せて

「これを郵送してもらうために郵便局に行ってくる。ちなみに入ってるのは高校の提出物。」

「ふーん。気をつけてね。雪ちょっと強くなってるから。」

「なーに。男はこんな雪に負けるわけねぇよ。」

「いっそのこと、雪道で滑って転んでしまえ。」

「なんだとー!てか話矛盾しすぎだって!心配してんのか、してないのかどっちだよ?」

「ほら、提出物出さないといけないんでしょ。早く行って来なよ。」

「俺の話を聞いてねぇ…。ちくしょー。覚えておけよ!」

それだけ言い残して兄は家を出た。早速シロカーの存在がバレてしまうのかとヒヤヒヤした。しかしここをくぐりぬければ、あとは私の部屋に行けばいいだけ。弟はどうせ、部屋でプラレールやるなりして遊んでるだろうから、どうせ、ゆっくりしていってもバレない。せっせと私の部屋に向かった。そして私の部屋の扉を開けた。するとそこには弟の姿があった。何かを探しているようだったので声をかけてみる。

「あれ?カツどうしたの?何か探し物?」

するとカツはビクッと驚いたあと、オドオドするようにゆっくりと振り向いて

「お、お姉ちゃん…。あのね…。僕のね。おもちゃがね。なくなっちゃったの。」

「そうなの。おもちゃってどんなおもちゃ?」

「えっと、丸くてね。大きくてね。柔らかいの。」

「ねぇ、それってバランスボールのこと?」

「えっと、それじゃなくて。」

「バラストボール?」

「うん!それ!」

我が家の弟ことカツはバランスボールが大好きで、いつも自分の部屋に持って来ては投げたり、自分で乗ってバランス感覚をとるなどをして楽しんでいる。ただそれだけならまだいいのだが、自分からボールに飛び込んだりと割と危なそうでスリルがあることをする時がある。なので弟が怪我をしないように、バランスボールで遊ぶ際は基本的に監視役をつけることが我が家のルールである。いつもは1階に直してあるのだが、数日前に部屋の中を片付けた際に直す場所を移動して、多分そのまんまになってるんだろう。弟が場所を知らないわけである。でも私はシロカーが今カバンの中で苦しそうにしているだろうからさっさと出してあげたいのに…と考えている。監視役をやるとシロカーが大変なことになるかもしれない。なので一度弟を部屋から出すことにした。

「ねぇ、バラストボールの場所教えるからさ。ちょっとだけ部屋から出てくれない?」

「本当!?やったーー!」

「準備ができたら教えるから。それまで私の部屋の前で待っててね。」

まるで男子を誘惑するようなイメージで声をかけたら、大きくうんと頷いて自分から部屋の外に出てくれた。正直監視役をやるのも面倒なのでやりたくなかったっていうのもあって結構安堵している。とにもかくにもこれで落ち着いてシロカーを出せる。

「シロカー。いいよ。出ておいで。」

そう言ってシロカーをなおしたカバンのチャックを開けた。

「ふーー…カバンの中ってこんな蒸し暑いんだ。いくらペットでもカバンの中には入らないから…。初めてだな…あんな体験したのは…。」

シロカーはそう言って私の部屋を眺める。

「ここが君の部屋かい?なかなか綺麗じゃないか。」

「何日か前に片付けたばっかりだしね。片付ける前は本当にゴミが散乱していたよ…。そのせいでお母さんに大激怒されたもの。」

「じゃあ、これからは部屋は綺麗にするのかい?」

「それは前母さんと約束したの。次、私の部屋がゴミで散乱していたら私の部屋を物置にするって。だからゴミが散乱しないようにはしようと思ってる。」

「そうなんだ。それはいい事だ。…あれこのくしゃくしゃの紙はなんだろう。」

その声が聞こえた瞬間、私はその紙に飛びついた。

「それはダメーーーー!!」

くしゃくしゃの紙は私の手元にあった。「このくしゃくしゃの紙の中身だけは絶対に見ないで!わかった!?」

あまりにも大声を出していたので、シロカーは疑問を浮かべたような目で私を見る。

「そんなにくしゃくしゃにしているのに見ちゃいけないものなのかい?」

「うん!!絶対に見ないで!」

同じセリフを繰り返す事しか出来ない人みたいになっていた。なんでも「はい」「はい」答えるYESマンのように。

「わかった。そこまで言うなら見ないようにするよ。」とシロカーは見るのを諦めたと思いきや。別のくしゃくしゃの紙に目を向けていた。ベッドの下にはたくさんのくしゃくしゃの紙が転がっている。シロカーはそれが気になって仕方がないようだった。シロカーはベッドの下を見つめながら「このベッドの下に転がっているくしゃくしゃの紙も見ちゃいけないのかい?」

「もちろんダメに決まってるでしょ!」

即答である。

「じゃあ、このくしゃくしゃの紙はゴミだから、僕が拾って捨ててあげるよ。そうしたら物置にならなくて済むだろう?」

「それもやめて!見られたくないの。その紙は誰にも…見られたくないの!」ここまで言うのは初めてだと思う。だってこの場所は今まで誰にも気づかれない場所だったから。シロカーはおとなしく頷いてそのくしゃくしゃの紙から離れていった。

その後もシロカーは私の部屋をグルグルしている。私の部屋に宝物があるからまるでそれを探しているような雰囲気だった。私の部屋には金も宝物も何もないのに。そんな事言っていると、明日の準備を忘れていたことに気がついた。なので準備を始めようとすると扉を開ける音が聞こえた。

「お姉ちゃん。まだ〜?」

カツだ。部屋から出た後、バランスボールが楽しみすぎて、ずっと私の部屋の前で待っていたのだ。

「ちょっとカツ…」

そう言いながら一度カツと部屋を出る。ドアがバタンと閉まるとシロカーは何が起きたかわからない顔をしながらも部屋を徘徊していた。

「やっぱりあの紙が気になって仕方がない…。さてと…僕もやらなきゃいけないことやらなくちゃね。」

シロカーは守の勉強机に乗って、ある魔法を出そうとしていた。

一方守はと言うとカツと話し込んでいた。

「ちょっとカツ。いきなり入ってこないでよ!」

「だってお姉ちゃんがバラストボール準備してくれるって言うのに全然してくれないから…」

「あのね。私は今お取り込み中なの。それが終わったら準備してあげるから。しばらく自分の部屋にいて。」

「…やだ。」

「…へ?」

「カツ。バラストボール準備してくれるまで動かないもん!早くバラストボール持ってきてよ〜。」

「バラストボール使うときは誰か見てないといけないお約束でしょ。今お取り込み中だから、カツの事を私は見れないの。だからもうちょっと待って!」

「嫌だー。すぐに遊びたい!!」

…やばい。カツがもうすでに泣きそうな目でこっちを見ている。ただでさえシロカーを放っておくわけにはいかないのに…。あのくしゃくしゃの紙見ていなかったらいいのだけど…。

「あー。もうわかったわかった。今準備するからそこで待ってて!んもー言うこと聞かないんだから。」

そうちょっと怒り口調ながらもバラストボールと言う名のバランスボールを探しに1階へ降りた。カツは笑顔で私の後ろをついて来ている。

「ねぇ、守お姉ちゃん。」

「何?」

少し暗めの声で聞き返した。カツのわがままに耐えきれず、守は御機嫌斜めだ。カツももうすぐ小学生になるんだから、わがままは控えて欲しい。そのセリフが頭の中をエンドレスでぐるぐる回っている。けどそれを言うとなぜか、母から怒りの言葉が来るので言えないのも事実。ぐっと我慢して堪えるしかない。っていうか小学生ってもう色々一人でできるようになる時代よね。カツは果たして一人でなんでもできるようになるのだろうか…。いつのまにか一階に着いている。さて、多分あるのは和室の部屋だ。

私とカツでバラストボールと言う名のバランスボールがある部屋に向かう。カツは気分がルンルンな一方、私はシロカーが部屋荒らしてないかと言う不安とこれからカツの面倒を見ないといけないことへの面倒くささが滲み出てて笑いも浮かばない。むしろイライラする。けど弟になんか言ったら母が怒ってさらに面倒臭いことになるから、大人しくバランスボールを出す。

「はい。バラストボール。」

「ぃやったーーーーーー!!」

カツはバランスボールを渡した途端に顔色が最高に良くなって元気に遊び始めた。雪が降っていなければ外に出てバランスボールを投げて遊んだりするが、あいにくにも天気は雪。室内ではボールを投げたりできないため、ボールに乗って遊ぶしか方法はない。それすなわち、カツの面倒を見ないといけないのだ。ただただ面倒くさい。ちなみにカツはこのバランスボールだけで1日は潰せる。すなわち晩御飯を作り始めるまでの間ずっと面倒を見ないといけないとなるともう嫌になる。ああ、早く終わらないかな・・・。

「わーい!楽しいなー!」

カツの楽しそうな声が響く。その一方で私はただ楽しそうなカツの面倒を見ると言う、ただただ退屈な時間。まだ冬休みとはいえ、これほど退屈な時間を過ごすのはなかなか厳しい。残念ながらこの部屋にはテレビもないし、ゲーム機もない。いつもは家族集まる部屋に近い賑やかな部屋が、カツの面倒をみるためだけの部屋みたいになってしまった。非常に私にとっては悲しいことだ。そんなことを思いながらかれこれ3時間が経過した。カツはこの3時間でバランスボールを遊び尽くし、その疲れの果てに寝てしまった。

「よし。カツが寝た。んーでも布団もないところで寝てるから風邪引くかな・・・。布団も棚にあるし、布団を出してカツをそこで寝させよ。明日は楽しい家族旅行なんだから。」

そう言って棚から布団を出して重たいカツを布団にそっと寝転ばせた。そして掛け布団をかけてカツが風邪をひかないようにした。

「えらいじゃないか。」

「だって明日は家族旅行だも・・・ってシロカー!!?いつの間に出てきたの!?」

「いつの間にって・・・君がその少年を見続け始めた2時間前からいたけど?」「ふーん、そうなんだ。って勝手に部屋から出てこないでよ。兄さんとかに見られたくないのに。」

「僕はここに住む以上、君たちの家族とは必ず会うことになるのだから、今部屋から出ようと特に問題はないだろ?」

「まぁ、そうかもしれないけど…。モラルってものがあるでしょ。モラルってものが。」

「そんなもの、僕には理解できないな。それより、あの少年は君の家族の一員かい?」

「そうよ。あの子はカツ。私の弟よ。幼稚園の年長で今度小学生になるの。」「なるほど。他に母と父以外で家族はいるのかい?」

「兄がいるわよ。私が今日玄関から入るときに会った人よ。兄さんは今年で高校を卒業するの。来年は専門学校に行くとか言ってるけど詳しくは知らないのよね。」

「なるほど。全員で5人家族なんだね。ところでその兄さんはいつ帰ってくるんだい?」

「そういや…。」

そうだ。兄さんは提出物を出しに行っただけだから、用事が終わったらすぐ帰ってくるはずなのに、3時間経った今も帰ってない。流石に提出物を出すのに3時間はかからないよね…。

「どこかで遊んでるんじゃない?兄さんは一応いつ帰っても母さんから怒られることないから大丈夫よ。」

「でも明日は家族旅行に行くんじゃないのかい?」

「あっ!そうだ!家族旅行!!」

すっかり忘れてしまっていた。明日は家族旅行に行く日なのにまだ準備ができていない。私は飛ぶように急いで自分の部屋に行き、家族旅行の準備を始めた。

「えーと、必要なものは…。まず服!そしてスマホ!そしてバスタオル!タオル!」

こんな感じで必要なものを口に出しながら、私のリュックに詰めていく。極めて不思議な光景がシロカーの目の前に広がっていた。

「必要とわかっているなら口にしなくてもいいじゃないか。」

「だって言わなきゃ忘れちゃうんだもん。前回の家族旅行の時もスマホのバッテリー持ってくんの忘れたし、前々回の時も服を一着入れ忘れて、大変だったし、その前の旅行も必要な切符を家に忘れて遊べなかったの!だからこうやって声に出して準備してるの。えっとあと必要なものは…」

「メモを取ったらいいじゃないか。」

「やだ。面倒くさいし紙代が無駄。」「紙なんてそんな高い紙使ってるわけじゃないんだから。使えばいいじゃないか。」

「面倒くさいからいいの!」

ちょっと荒げた声を出して話しながら準備を進めていく。そして30分後ようやく終わった。

「ただいまー。」

そうこうしていると帰れるかわからないと言っていた母さんが帰ってきた。私はシロカーを自分の部屋に置いて、母が帰ってきた1階の玄関に向かった。

「お帰り、母さん。なんとか帰ってこれたんだね。」

「あら守。ただいま。本当は自治会の会議があったんだけどね。雪が強くなると天気予報で言ってたから早めに帰らせてもらったのよ。」

「ふーん。そうなんだ。それよりさ。明日さ。」

「ええ。明日はみんな揃って函館に行く日ね。私も準備しないと。」

「母さん今から準備するの?」

「そうよ。本当は朝から準備しといて家事をしていればよかったんだけど、今回の自治会は特定の用事がない限りは参加しないといけなくてね。まぁ、ちょっとは準備してるからあとは6割くらいですぐ終わるわよ。」

「それならいいや。晩御飯作ったほうがいいの?」

「いや。お使いに行ってくれたわけだし、今日はちゃんと私が作るわ。」

「そうなの。ありがと。」

「いつものことじゃない。それにしても…相変わらずカツは可愛いわね!」「いつものバランスボールで遊びたいって言い出すから、散々遊んで寝ちゃったの。」

「あら〜そうなの〜。でも布団を出したあんたも偉いわね。明日なんかいいもの買ってあげようかしら?」

「本当!?」

「都合が合えばね。何がいいかしら。やっぱり、旅行が好きなあなたなら切符でも買ったらいいかしら。…そういや、勝はどうしたのかしら?」

「あー、高校に提出物出しに郵便局に行った。」

「それにしては遅いわね。まぁ、今のところは吹雪そうにないから大丈夫そうだけど…。早く帰ってこないかしら。」

「どこかで遊んでるんじゃない?それより明日の準備したほうがいいよ。」

「…そうね。もう勝も大人になるものね。心配しなくても大丈夫よね。じゃあ私も準備を始めようかしら。カツの分もやりましょうかね…。」

そう言って明日の準備を始めた。私は再び私の部屋に戻る。するとなぜか不思議な感覚に引き込まれていった。

「ちょっと待って。ここ私の部屋じゃないんだけど…どうなってるの?」

部屋に入った瞬間目の前には青い光景が広がっていた。まるでパソコンが起こすブルーエラーによって表示される画面みたいに。そして床はなく永遠に下も上も右も左もない、ただ青い光景が私の目の前に広がっていた。あまりに怖かったので一度自分の部屋の扉を閉める。再び開くとちゃんと私の部屋になっていた。

「え…。さっきの光景は一体…?」

その部屋の真ん中にはシロカーがいた。「シロカー。ちょっと何やってるの?私の部屋さっき凄いことになってたんだけど…」

しかしシロカーは反応しない。

「ねぇ、シロカー、聞いてるの?」

無視されたように感じた私はもう一度シロカーに声をかける。

「あっ、守。いつからいたんだい?」

やっと声が届いたようだった。

「ついさっき来たばっかだけど…。ねぇシロカー、さっき私の部屋で何かしてたの?私の部屋に入った瞬間から青い光景が広がってたんだけど。」

「気のせいだよ。僕はこの部屋で勝手なことはしないよ。」

「そう?気のせいよね?ならいいんだけど…」

少し不安げに私の部屋を見渡す。見る限り、物が壊れてるとかもなさそうで、少し安心したが、ちょっと怖くなった。

「ただいまー。」

今度は兄が帰ってきた。私は部屋から声をかける。

「おかえりー。遅かったわねー。」

「寄り道して帰ったら遅くなったんだよ!」

「寄り道ってどこに寄り道したのー?」

「父さんの会社ー!早く帰って来いって言ってきた!」

その言葉を聞いた途端、私は兄がいる玄関に飛んで向かった。

「今なんて言ったの?」

「うん?だから明日家族旅行に行くんだから、早く帰って来いって父さんに言いに言ったんだ。」

「なんてことしてんの!?父さんこの時間まだ仕事中じゃないの!?仕事の邪魔したらダメでしょ!」

「うっせぇな!明日の家族旅行が俺とお前らでいける最後の家族旅行になるかも知んねーんだぞ!」

「家族旅行なんていつでもいけるじゃん!?そんなこと言いに言ったら父さんが面倒なことになっちゃうじゃない!」

お互い声を荒げていく。その声を聞いた母親が駆けつけてきた。

「こら守、勝!何言い合ってんの!?」

「母ちゃん!こいつが家族旅行なんていつでもいけるだなんて言い出すんだぜ!俺は明日で最後なのに!」

「母さん、この人家族旅行に父さんがいないといやだからって、会社にまで言って早く帰って来いって言ってきたっていうのよ!父さんいつも仕事で忙しいのに、そんなこと言ったらダメだよ!」

「んだよ!俺の意見を家族に話しちゃあいけねぇのかよ!」

「そこまで言ってないでしょ!」

お互い口が止まらない。それを見ていた母さんがしびれを切らしてしまった。「こら!二人ともそこまでにしなさい!」

兄と妹で取っ組み合いになってるところの間に割って入り、二人の距離を置いて

「勝!そんなに心配しなくていいのよ!明日ちゃんと父さんは来るから。」

「でも父さん、最近仕事ばっかで準備もまともにしてる姿見てねぇよ!それなのに今日も仕事って…」

「勝、あんたは大人になるの。だから、父さんが準備していないからって、父さんを急かしたりする必要はないのよ。明日は必ず父さんは来るんだから。それにちゃんと時間を見て暇なときに準備もしてるのよ。これは私の目で見た話だから本当の話よ。だから父さんを困らせる行為をしないの!いい?」

そう言うと、次は私に向かって

「守、この家族旅行で勝と行けるのは本当に最後かもしれないの。父さんから聞いたんだけどね。勝の次に通う専門学校はここの家よりずっと離れたところにあるから自宅通いできないのよ。だからここの家でいるのも勝は後3ヶ月くらいしかないの。だから勝の気持ちわかってあげなさい。いつでもこの家族で旅行に行けるわけじゃなくなってきてるのよ。時間も合わなくなって来るし…。そもそも会うのも難しくなる。だからこの旅行の勝の思い大切にしてあげてね。」

そう言われて勝は納得したようだった。けど私はいきなりこんな事を聞かされたから、動揺した。

「なんで…。どうしてもっと早く言ってくれないの?」

「いつも通り接して欲しいから。俺も本当はもうちょっと近いところで探そうと思ってたんだけど、俺の夢を叶えるためには、そこに通うのが一番なんだ。免許ももらえるし、うまいこと行けば建築士の資格を取るレベルまで行けるかもしれないから。だから…ここの家を出て勉強しにいくんだ。ただ勉強しにいくだけなのにしんみりした家で過ごすのは嫌だったから、俺はいつものこの家の暖かさを感じていたかったから、ずっとお前らには秘密にしてたんだ。悪いな。ずっと俺の方から言えなくて。」

明日の家族旅行がずっと楽しみだったけど、この話を聞くとこの生きてきた14年間に行った家族旅行とは少し違う。寂しさと悲しさを感じる。けどそれをぐっと飲み込んだ私は兄さんに誤った。

「わかった。ごめんね。いい加減な事言って。」

「別にいいよ。俺が言わなかったのが悪いし。明日楽しもうな。」

そう聞いて私はコクリと頷いた。

「んにしても遅いわね〜。早く帰ってこないかしら。私も準備できたのに。」

「早くない!?」

兄さんと私とで口が揃った。

「主婦の私を舐めるんじゃないわよ。旅行の準備くらい10分で片付くわよ。」

「手際良すぎんだろ…。」

「主婦、恐ろしや…。」

私と兄さんはさっきのしんみりする話から一変、ただ主婦の準備の早さに驚愕するばかりだった。

「さて晩御飯でも作ろうかしら。今日は手軽に作れて、手軽に栄養もとれるカレーよ。それにしても早く帰ってくるといいわね〜。」

そう言って母はキッチンへと向かった。

私も兄もみんなでいける最後の旅行。明日を待ち遠しく思いつつ用意を済ませたのであった。

その2時間後。

「ただいま。」

「おかえりなさい。みんなもう寝ちゃったわよ。」

「まぁ、楽しみなんだろうな…明日が。」

「ええ。そこらへんはまだ子供みたいなのに…いつのまにか大きくなってね。あっ、今日ね。勝のことをうっかり言っちゃったんだけど…。」

「勝のことを言ったのか。まぁ、いずれはわかることだし早かれ遅かれ伝える予定ではあったそうだぞ。ただ本人が接し方への変化に怖がってただけで、特に問題はないと思うぞ。」

「そうよね。大丈夫よね。」

「他には大丈夫か?悩み事とかないか?」

「いいえ。もう大丈夫よ。ありがとう。それじゃ先になるから、晩御飯は冷蔵庫に入ってるからそれ暖めて食べてね。」

「ありがとう。ゆっくりいただくよ。おやすみ。」

「えぇ、おやすみ。」

そうして家族旅行の日を迎えるのである。

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