第1節 私と街
初めて書かせていただきました。汚い文が多くみられると思います。そう言った指摘や意見などございましたら、コメントしていただけたら嬉しいです。どうかよろしくお願いします。
夜が明ける。
いつも通りの毎日がやってくる。
ここはひとつの街。人口は大体7千人くらいで年々減少している。名産物は織物とヒノキ。山と山に挟まれた盆地で冬は耳が赤くなるくらい冷えるような所だ。
そんな所に住む私がいる。私は中学2年生で勉強はイマイチ。好きな事は旅で近くの古びたコンビニでたまに入荷される最新の旅行関連の本を買いに行っては「ここに行きたい!」「あそこに行けたらな・・・」と夢見ている。最近は青春18切符という便利な切符を母から教えてもらったので、それを使ってどこ行こうか、と夢見ている。身長は大体140くらいかな。正直、健康診断を学校で行ったのは少なくとも7カ月以上も前の話だから今は少し変わっているかも。少なくとも兄よりかは大きくなってみたいな、と考えている。
今日はやたらと冷えている。外にも出たくない。けど今日は新しい旅行グッズを紹介した本の発売日。しかも抽選で寝袋が10名に当たる応募券がその本には付いてくる。寝袋といってもただの寝袋ではない。今回の景品の寝袋は表裏があり、寝袋に入ってもまるでベットにいるような感覚になるという優れもの。寝袋の裏側には敷布団と同じクッションがあり表…には掛け布団のように羽毛がたくさん袋の中に敷き詰められている上、寝袋の中は毛布で巻かれているためにずっと暖かいままで寝れるという優れもの。羽毛に使われる羽や毛布の毛などの材料も非常に厳選されていて、お値段は10万円とめちゃくちゃ高いものが抽選で10名に当たる。
これを逃すわけにはいかない!これさえあればどこへいっても寝ることが出来る。たとえ中途半端な駅に着いたり、歩き疲れたり、山の中さまよっても、この寝袋があるだけで快適な環境で寝ることができるわけだ!これほど良い機会はなかろう!!
という一心でこの本の発売が決まった日から買う事を心に決めていた。
って言うといつの間にか時間を忘れる。えっと今は・・・朝の7時だ。本の事で頭がいっぱいだったのか、寝た手応えがなくあくびが絶え間なく続く。冬休みが始まったばっかだし、もう少し寝ていたいと考えていた。ここで母の声が響く。
「朝やで〜!起きやー!!朝ごはんが冷めてしまうで!」
学校がないのにどうしてこんな早く起きなきゃいけないのか、よくわからない。けど母の冷めたまずい朝ごはんを食べるより、暖かくて味の濃い朝ごはんを食べる方がマシだ。という事で、私は布団から体を起こしてあくびを我慢し寒い廊下を震えながら歩いて母のいる1階のリビングへと降りていった。
私達は5人家族。母、父、兄、私、弟という構成だ。
父は基本的に顔を見ない。というのも仕事場に行くために始発の汽車に乗っていかないといけないため、私の2〜3時間ほど早く起きて朝ごはんを食べて仕事へ向かう。だからと言って帰りは早くない。最近父の業績が認められ、ある仕事の責任者になったために、色んな仕事をこなしているらしい。周りの人からの気遣いで終電の1〜3本前には帰らせてもらえるそうだが、それでも家に着くのは23時とかそのくらい。一回だけ仕事場で事件があったために終電ギリギリになって家に着くのが1時半になることもあった。休みは週2日。長い時で4日とる時も稀にある。父と唯一顔を合わせる機会はこのときくらいだと思う。父の休日は基本的には母と一緒にドライブ行ったり、時には会社の同僚と飲みにいったり、趣味の釣りを楽しんだりしている。時折釣った魚を家に持ち帰って自宅で父親特製のグリル焼きを食べたりもする。そう考えたら顔を合わせる機会って意外に多いかも。でも家族で旅行に行って記念撮影した写真を見ると、やっぱり父の顔がある事を珍しく思ってしまう。不思議だな・・・。
話は変わるけど、ここを通る汽車は1時間に1本とか3本とか0本といったようないわゆるローカル線である。特急は停車しない代わり、通勤の人を対象とした平日だけに走る指定席のみの快速が止まる。父は毎回それに乗って仕事場へ行ってるそうだ。ちなみにこの路線は必ず遅れないをモットーに動いていて、雪が降るこの時期でも遅れたことは一度もないという伝説があるらしい。これは友達から聞いた話だけど、本当ならすごい話である。
母はいつも家にいる。いつも父より早く朝ごはんを作り、父を見送った後1時間仮眠をとって私達の朝ごはんを作る。洗濯物や家の掃除など様々な家事をこなして過ごすいわば専業主婦といった存在だ。私の友達は父は会社、母はアルバイトで働いて稼いでいるというのに、私の家はそういった働く事を母はしない。なぜ働かないのか聞くと
「なぜ働かないのかって決まってるじゃない。あなたたちのことが大好きだからよ。」
という返答が必ず返ってくる。兄と私はそれを「キモい。」だの「このシスコン!」だのボロクソいう。流石にそう言われれば普通は、傷つくだろうけど、今の母のメンタルは無敵に等しい。というのも弟の存在である。弟はこういった返答をされても母からキスされても、「母さん大好き〜。」と甘えた声で返すのだ。私なんか母からキスなんて絶対されたくない。むしろされたら殴り飛ばしたいと考えるが、弟はそれを受け入れるのである。その仕草が母にとっては私達がいう暴言によるダメージを回復させる要因となっている。そんな母の趣味は園芸。私の家に植えている植物は全部母が管理している。最近は盆栽にも興味を示していて、兄と私で「老けたなぁ」と嘲笑うような視点で見ている。もちろんそういう場合も弟にすがりついて、精神ダメージを回復しているらしい。
兄は高校3年生。専門学校に受かったとは言ってたけど、どこの専門学校とかは私に一切教えてくれない。それはそれである意味問題だと思うのだけど。普通は受かったらちゃんと親とかにしっかりとどこに行くか報告するようなものなのに。果たして彼はこれからどうなるんだろう?それでも家族思いのいい兄。だけど、最近大人の発言に近づいてきたのでそろそろ場をわきまえてほしい。晩御飯を食べてる最中に下ネタを話したり、そういう関連の動画を見たりしている。不思議な事に私の兄はそれを家族の前でも堂々とやる。普通なら見られるのを恥ずかしがってコソコソ隠れてやるはずなのに、「俺が言いたい事なんだ!」とか「俺が見たいものなんだ!」とか言ってやり続ける。もう少し周りのことも考えて欲しい。趣味はダンス。中学の時から始めたヒップホップのダンスにどハマりしていて、店とかで流れてる曲でも勝手に踊ったりしている。1回中学の時に店で流れていた曲で踊っていたらたまたまグラスに手が当たって割ってしまったこともあると母から聞いた事がある。それもあってか、最近はそういう行為を自粛しているらしい。あと父からの影響もあっていっしょに釣りに行くこともある。私はいっしょに行かないけど、時々父と兄の楽しそうな会話を見て和やかな気持ちになる。もしかしたら父にはちゃんとどこの専門学校に行ったか言ってるのかも。
私の紹介は・・・もういいでしょ?だから次は弟の紹介。
弟は6歳。幼稚園に今は通っている。何故か、母と一緒にいるときは絶対に泣かない。本当に不思議!私の家族の七不思議で言えば一番これが不思議に思える光景だと思う。・・・いや他では当たり前なのかな。でも、母の前で喧嘩になっても、叩かれても涙を見せていなかった。その光景が今でも鮮明に覚えてる。えっとこれは確か4〜5日前の話だったと思う。好きなものはピーマン。それもしっかりとした生鮮野菜の方。今も昔も嫌いな野菜の代名詞的な存在のピーマン。これがうちの弟は大好き。これは母から聞いた話だけどピーマンも今は子供でも食べられるような甘い品種ができてるらしい。きっとその味が弟にはとても美味しかったんだろう。うちの家では毎日食卓にピーマンの入っている料理が並ぶという不思議な光景を目にする事ができる。もちろん、子供でも食べられる甘い品種のピーマンである。他にも好きな事はたくさんあるが、やっぱり弟は母が好きらしい。
父は今日も仕事で、すでに家にはいない。兄は私といっしょに冬休みに入ったため起きてはいたけどテレビの前で寝転びながらずっとスマホをいじっていた。弟は母の手伝いを頑張ろうとしている。しかし母の役に立っているかどうかは不明だ。バスタオルを干そうと健闘してはいるが物干し竿に手が届いていない。うーん!うーん!と頑張って背伸びしてはいるもののやはり届かない。結局母が干す羽目にあっている。しかしその時の表情というのは誰もが言葉にし難いくらいに幸せだと感じれる満面の笑みである。弟がいない時には絶対に見せない表情だ。そして母は振り向いた時に私が起きたことに気づき
「おはよう。朝ごはんそこにあるわよ。冷めるから早く食べなさい。」
と声をかけた。
テーブルの上には目玉焼きとレタスが盛り付けられたお皿とご飯と味噌汁がある。私は席に座って「いただきます。」と言って食べ始める。今日の味は普通だった。いつも通り母の作る料理の味だ。そんなこんなで朝ごはんを食べ終わり、食器を洗い場に持っていく。私の友達は自動の食器洗浄器を使っていると言っていた。この家にも自動の食器洗浄機が来るのかな。そう思いつつ、母に食器洗いを任せ、先に服を着替えた。
服を着替え終わった頃にはもう8時半になっていた。今日買う本が入荷されるのは大体10時くらい。あと1時間半暇だ。外を見てみると雪が積もっている。昨日は雪なんて積もっていなかったのに、なんで今日に限って積もってるんだろう。とテンションが少し落ち気味になる。果たして今日中に本を入荷してくれるだろうか。少し不安になる。というのも明日、あさってから家族旅行が入っていて、お目当ての本を買えない可能性があるからである。旅行先で買えば良いと言われればそれもそうなのだが、たぶんそんな事している暇はない。だから今日中に買って早めに寝袋のはがきを出しておきたいのである。そう言う早く買いたいと言う欲に駆られていると、兄がいきなりこう言った。
「お前、今日本買いに行くん?今日はやめといた方がいいんじゃね?」
私は時間がないとしか思えなかったために「なんでよ?明日旅行に行くからこそ今日あの本を買っておくべきだと思うのよ」すると兄は
「そこまでしてあの寝袋が欲しいのかよ。」
「もちろん欲しいわよ!!」
「でも抽選10名にしか当たらないんだぞ?そんな低い確率で当たるもんか。」「当たるよ!だってあんな抽選早いもん勝ちみたいなもんでしょ!」
「んなわけねーよ!いいか?抽選っていうのは投函された応募用紙を一つの箱に入れて、そこから当たる人の枚数分。今回は10名だから…10枚。10枚引いてその引いた応募用紙に書いてある名前の人に寝袋が行くって仕組みなんだぜ。」
「よくわからない。」
「要はくじ引きで決まるんだ。」
「えっ!嘘!早いもん勝ちじゃないの!?」
「早いもん勝ちだったらくじ引き会場まで遠い人とか応募用紙を遅れて出した人とかが不利になるじゃねーか。平等にやるためにそうやってるんだよ。」
この話を聞いて私がいかにバカだったか思い知らされる。早いもん勝ちだと思って早く買おうと思ってたのに、なんだ、これじゃあいつ買っても同じじゃん。「今日は午後から珍しく吹雪くらしいぜ。ただでさえコンビニまで時間かかるのに本買いに行ったら雪に埋もれて死んじまうかもしれんぞ。」
「ふーん。じゃあ今日はやめとこうかな。」
「おう、そうしとけ。さて俺も明日の準備しなきゃな。」
と言いながら兄はリビングから離れる。私も準備しなきゃ。と思った矢先、母からの声が聞こえてくる。
「ちょっとお使い行ってきてくれない?私これから用事で出ないといけないのよ。」
専業主婦なんだから自分で行けよとか思いつつやる気のない返事を返した後に母の元へ行った。
「お使いで買ってくるものは全部メモに書いてあるから。それを見て買ってきて。リビングのテーブルの上にあるわ。あと今日吹雪く予報なのよね。用事がちょっと長続きして19時までに私が帰っていなかったら、適当にご飯作ってくれないかしら?ご飯は一応余分に多く炊いておいたし、野菜や肉なんかは冷蔵庫にたくさんあるから。」
「わかった。」
「ありがとね。」
面倒くさい用事が増えた。まぁいつものことかもしれないけど、とりあえずリビングのテーブルの上においてあるメモを取りに行かなきゃ。リビングから私達が朝ごはんを食べた部屋に移動する。
そうそう私の家はちょっと特殊なつくりをしてる。ちょっと高台にある家で夏になれば花火も見ることができる。1階と2階に分かれていて、1階2階それぞれに外へ続く玄関がある。1階は西向き、2階は東向きに玄関がある。2階の方は少し広い庭があって、いつも母が手入れをしている。そして私達の部屋があるのも2階だ。部屋の数は私達の家族の人数と同じ5部屋、広さはみんな平等に4畳でほぼ一緒の作りになっている。北から順に父の部屋、弟の部屋、母の部屋、兄の部屋そして私の部屋が一番南端にある。1階へ通じる階段は兄の部屋と母の部屋の間にある。幅が意外にも結構広くて2人並んでも余裕で歩ける広さはある。部屋は全部西側に配置されていて東側は廊下となっている。ただ残念なことに全ての部屋にベランダが付いてない。なので洗濯を干す時は1階の洗濯を干すためだけの部屋で洗濯物を干している。決して乾燥機というような服を傷つけるようなものは買わないというのが母の意思だそうだ。でもよくよく考えたら洗濯機も服を傷つけちゃうって話を聞いたことがある。んーでも洗濯機がなかったらわたし達は服を一生洗えないから、そこはやはり服を傷つけてまでも選ばざるを得ない道、というものか。自分で考えといてわけがわからなくなってきた。のでこの話はパソコンのゴミ箱にドラッグするように忘れてメモを取りに行こう。1階は2LDKとなっている。2LDKなだけあって部屋はバカほど広い。1階の部屋の畳の平均は20畳くらい。どこに棚おいても、どこにテーブルおいても、ビデオおいても普通に走り回れる分の広さはある。ちなみに2つの部屋のうち1つはさっき言った洗濯物乾燥用の部屋。もう一つの部屋はフリースペースになっている。
「えっとメモは・・・あった。」
メモを拾って内容を確認する。
「買う物は・・・冷凍食品のえだまめ、弁当用のグラタン、ポテト、ポテトサラダ、マヨネーズ…なんか多いな。こんなに持てるかわからないんだけど。ていうかなぜ兄に頼まなかったんだろう?・・・旅行の準備してるからか。はー…やってらんない。でも今なら雪も小ぶりだし、ついででさっき言ってた本を買えばいいかな。わたしのお金で。」
そう独り言をぼやいて、おつかいの準備をする。
準備をしているとふと疑問が浮かんだ。
「・・・あれ?そういや弟はどこに行った?ちょっと兄に聞いてみよう。」
という事で兄の部屋に向かうと、兄と弟が健気に遊んでた。羨ましい。本当に。外に出ることがなくて羨ましすぎる。こちとら寒い中おつかいに行かなきゃならないのに…。
「あー、わたしも遊びたい!」
そんなことより先におつかいだよね…。と兄と弟が遊ぶ姿を背にしょんぼりとおつかいにいくのだった。
1階の玄関から外へ出ると今まで暖かかった空気から一変して、凍るような冷たい風が肌を刺激してきた。しかもやたら風が強い。幸いなのは雪が止んでいること。さっき小ぶりだったのにいつのまにか止んで、雲と雲との隙間から晴れ間が差し込んでいる。それでも雲は多い。多分太陽は姿を見せれないと思いつつお店へ向かった。お店は東にある玄関を出て右に曲がり4つ目の角を曲がった所の坂を下って観光名所になりつつあるヒノキの大木を通り過ぎた所にある。そこは食品はもちろんのこと。ゲームやら家具やらなんでも揃えることのできるこの街屈指のデパートである。観光名所でもあるヒノキの大木も近いので色んな客がここには訪れる。さすがに天気が悪くなる予報の上、平日なだけあって観光に来てる人は少ないようだ。そもそも観光バスが1台も来ていないからそりゃそうか。ちなみにこのヒノキの大木はただの大木ではない。このヒノキは街の伝説で、あらゆる物を引き寄せる力があると言われている。現にこの街の山裏に隕石が落っこちたり、千年も前には地球外生命体も引きつけてきたとの伝説もある。もちろんわたしは信じていない。だってみためただのヒノキに変わらないじゃん。ここのヒノキがこんな力持ってるからって特別変わっているところもないわけだし、隕石が落ちたのはびっくりしたけど、それは絶対ヒノキのせいではない。とわたしは考えている。しかし伝説があるのは事実なのでこの街の守り神として昔から崇められてきたらしい。ただの大木なのに・・・。
そんなこと考えてたら既に店の目の前だった。食品売り場は例によって1階にある。2階にはフードコートもあるため、平日でもここだけは賑やかである。さておつかいのものを買おう。早速買い物カゴを持ち、おつかいで頼まれたものを片っ端から入れていく。
「冷凍食品のえだまめとか・・・ビール飲む気満々じゃん。専業主婦がそんなんでいいのかな〜。」とか、「なるほど今日の晩ご飯はカレーを作れということね。」
とか色々考え事しながら、おつかいで頼まれたものを購入した。そして次に向かったのは、本屋のコーナーである。やっぱりあの本は絶対欲しい!店に来たからには買わなきゃ!と心が我慢できなかった。早速目当ての本を探すがなかなか見つからない。
「あれ?おかしいな…。今日発売のはずなんだけどな…。」
本屋を何度も注意深く往復してみてもどこにも目当ての本は見つからない。そこで店員さんに聞いてみると、
「申し訳ございません。本日発売の本全てまだこの店に届いていないんです。」「えっ!なんで!!」
思わず聞いてしまった。
「本日入荷する本を積んだトラックが強風による横転事故を起こしてしまったんです。ただの横転事故なら今日中に届くのですが、横転事故によって今日発売する本が、山の中に飛び散ってしまったそうなんです。今、その本の回収作業に当たっているのですが、山道なので、作業が遅れているんです。なので今日中の入荷が不可能になってしまったんです。」「私、この本を買いたいのですが、いつ頃届きそうですか?」
そう言って目当ての本の画像をスマホで出す。
「その本なら明日には入荷できると思いますが、今日の天気予報が吹雪く予報のため、もしかしたら1週間遅れて入荷するかもしれません。」
「そうですか…。わかりました。ありがとうございます。」
かなりのショック!まさかの事故で入荷が遅れるなんて・・・。寝袋の応募用紙書きたかったのに・・・。仕方がない。旅行の道中で買う暇があれば買おう。もしその暇さえなければ家族旅行終わってからでもいいや。そう思い店を出た。幸い雪も風も止んだらしい。ただ寒い空気と日差しが出ていないところは変わってはいない。店の駐車場を通って大きな道を右へ曲がり、ヒノキの大木を横目に通り過ぎようとしたその時、ふと大木の方に白いモヤモヤしたものが目に映った。雪が積もっているとはいえあまりに不自然なところにモヤモヤがある。寒いから早く帰りたい一心だったがどうしてもあのモヤモヤが気になったため大木に近づく事にした。大木の前にある鳥居を通ってまっすぐ進むとその大木がある。近づいてみると、不自然なモヤモヤはとてもキラキラしていた。ちょうどヒノキの葉に積もった雪といい色調を表しており、インスタ映えしそうな感じだった。私は思わずスマホを取り出し、インスタグラムを起動させる。そして白いモヤモヤにカメラの焦点を当てた瞬間。そのモヤモヤが落ちた。私は元の場所にモヤモヤを戻そうと落としたモヤモヤに手を近づける。すると私の手の中指に刺激が走った。反射的に手を離してみてみると血が流れていた。私はどういうことか理解できず、その白いモヤモヤを眺めていると、いきなりそのモヤモヤはまるでミーアキャットのように立ち
「僕は見せ物じゃないぞ!!」
と喋り始めた。しかも私に指差して。「・・・。キャーーーーーーーー!!!」
驚くがあまり悲鳴をあげてしまった。けどこの出会いが物語の始まりを告げるのである。