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「俺は勇者じゃない」

 ~~~小鳥遊勇馬たかなしゆうま~~~




 ──バッテリー残量1% 装着を解除し、すべての機能を停止させます。


 警報音とともに、どこかでフシュッと空気の漏れるような音がした。

 全転換粘体フルコンバージョンフルイドの拘束が緩んだかと思うとすぐにバイザーが跳ね上がり、前部装甲が開いた。


「……なるほどね、終了時はこうなるわけか」


 密閉状態で機能停止したら窒息で死ぬからなと、俺はひとり納得しながら阿修羅6000から抜け出た。

 地べたに座り込み、新鮮な空気を堪能していると……。


「ゆ、ゆ、ゆ……っ」


「……ゆ?」


 振り向くと、ゴブリンに犯されそうになっていた金髪の女の子がこちらに向かって全力で駆けて来ている。

 全裸にぼろぼろの白タイツというマニア向けの格好で。


「勇者様!」

 

 うっわエロいなー、と思った瞬間抱き付かれ、抵抗も出来ずに押し倒された。


「ちょま──!?」


 女の子はぎゅうぎゅうと俺に体を押し付けてきた。

 真っ白すべすべの頬を俺の頬に、小ぶりな胸やぺったんこな下腹部を俺の胸に、腹に。


「〆◇£¢§☆◎○!?」


 動揺のあまり、わけのわからない言葉が口から出た。


「勇者様! 勇者様だよね!? ……やった! やっと見つけた!」


「……ゆゆゆゆゆ勇者!? って何とんでもないこと口走ってんのおまえ!?」


 女の子の口から出たとんでもない言葉で、俺は我に返った。


「違う! 俺はそういう選ばれたなんとかじゃない! ただの一般人よりももっと低いレベルの人間だ! ほぼほぼ無価値の路傍ろぼうの石みたいな存在なんだよ!」


 いけない、これだけは否定しないと。

 異世界転移+勇者認定とか、絶対ろくなことにならないやつだ。


「ウソウソウソ! だってボク、見たもん! こんなすごい鎧を着て、たったひとりでゴブリンたちを蹴散らして! ボクを助けてくれたのを見てたもん!」

 

「うるせえおまえのためじゃねえ! 俺はあくまで俺自身の精神の安定のためにやったんだよ! 俺が大事なのは俺だけなの! 行動指針も全部俺基準なの! おまえのためなんて気持ちはこれっぽっちもありませぇぇぇん! はい論破っ、残念でしたまたどうぞー!」


 大人げないと言わば言え。

 魔王討伐とか迷宮の最深部を探索して伝説のアイテムをゲットしろとか、ひどい無茶ぶりされるよりよっぽどマシだ。


「……うううううーっ!? ……うううううーっ!?」


 女の子は不満そうに唸った。

 気持ちの持って行き場所を無くしたのだろう、俺の胸をポコポコ叩いてくる。


「はいわかったら離れて、離れて」


 女の子の体を押しのけながら身を起こすと、俺は赤面しながら顔をそむけた。


「ついでにまあ……これでも着てろ。じゃないと色々とその……目のやり場に困るからさっ」 


 自分の着ていた緑のセーターを脱ぐと、女の子に差し出した。

 

「え? うん? あ……ああ……っ?」


 言われて初めて、自身が全裸であることに気が付いたのだろう。

 女の子は耳まで真っ赤になった。


「さっき俺の乗ってた車に行けば……ってああ、車ってわかるか? こっち風に言うならなんだ……馬車? とにかくまあ、そこに行けば他に服とかあるからさ。それをくれてやるからついて来いよ。そこまではそれで我慢しろ。絶対見たりしないから」


「あ……あ……うん。ありが……とう……」


 女の子はセーターを抱き締めると、ぼそぼそと礼を言った。


「あ、クサいとか思っても顔に出すなよ? 俺けっこう打たれ弱いんだから。変な事言うと熱出して、三日三晩寝込むからな?」


「そ、そんなこと全然思わないよっ」


 女の子はぶんぶんと首を横に振った。

 セーターをいそいそと着こむと、生地に顔をうずめた。


「む、むしろその……いい匂いだなって思うよ。その……この……勇者様の脱ぎたて……。へ……へへへっ」


「……んん?」


 俺は首を傾げた。


 なぜだろう、女の子は興奮したような表情を浮かべている。

 現代の毛糸と縫製技術で織られたセーターだから気持ちいい……とかかな?

 それともいろんなことが起こり過ぎて、一時的にハイになってるとか? 


「……まあいいか、そろそろ行こうぜ? 正直あんまり長いこと外にはいたくないんだ。またあんなのが襲って来ないともかぎらないし。なるべく早く……」

「──そうですね。なるべく早く裁判所に行くべきです」


 冷気を感じる台詞とともに、俺のこめかみにゴリっと何かが押し当てられた。

 


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