表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/40

「もうキミのもの」

 ~~~勇馬ゆうま~~~




「勇馬ー、調子はどーう?」


 トントントーンと軽快な調子でハシゴを登って来たリリーは、包帯でぐるぐる巻きのまま布団に寝そべっている俺を見つけると、にぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「元気ぃー? って、全然そんな感じじゃないねえー。えっへへへー」 


 ぺたりと俺の脇に座り込んだリリーは、いかにもご機嫌な様子で体を左右に揺らし始めた。 


「……いやなんでニコニコしてんだよ。リアクションおかしいだろ。そこはウソでももっと心配そうにしろよ」


「えー? いっやあー、そうなんだけどさあー?」


 俺がジト目で文句を言うと、リリーは照れたように頭をかいた。


「可哀想だな、痛そうだなとは思うんだ。その気持ちはウソじゃないんだ。でもそれより嬉しさの方が先立つというかさ……。ねえ、だってようやく会えたんだもん。念願だった勇者様と会えたことがホントに嬉しくって──」

「……何度でも言うが、俺は勇者じゃねえからな」


 俺が即座につっこむと、リリーはくすぐったそうに微笑んだ。


「それでいいよ、今のとこはさ。勇馬の言い分を認めてあげる」


「……どういう立場からの発言なんだ、それは」


 俺はあくまで俺であり、勇者なんてわけのわかならい何者かじゃない。

 いくら主張しても、リリーはまったく認めようとしない。


「勇者の役目は綾女あやめに任すって言ったはずだぞ? 俺はあくまで高貴な遊び人であって……」


「それでいいよ、今のとこはさ。そのうち勇馬のほうが勇者になると思うけど」


「……その返し、ずるくない?」


 何を言ってもその一言で片づけられてしまう。


 あれだ。

「どうしたって出来ない子」に向かって延々と、「おまえは出来るんだ」って言い続けるバカ親みたい。


「というかさ、ホントにマジで、どこに根拠があるわけ? 俺が勇者になるって。綾女すら差し置いて」


「だって勇馬は、ボクを助けてくれたじゃない」


 俺を見つめるリリーの瞳には、暖かな光が満ちている。


「ゴブリンに捕まって危ないところを助けてくれたじゃない。人一倍怖がりなくせに。弱くて、カッコ悪くて、情けなくて? なのに安全な場所から出て来て戦ってくれたじゃない。そっちの言葉で言うとなんだっけ? 『引きニート』のくせに? ねえ、それでもキミは、ボクを助けてくれたじゃない」


 ……こいつ、さっき俺が言った台詞を全部覚えてんのか?


「ボクだけじゃないよ? 綾女さんのことも助けてあげたじゃない。本人がどう言おうが、空高く飛ばされて絶対絶命のとこをさ、飛んで捕まえて、安全に着地させてあげたじゃない」


「……」


「そしたらキミは、こう言うかもしれないよ? 『あれは奇跡だ、偶然だ』って。でもそれってすごいことなんだよ。他の人には絶対真似できないような奇跡を、偶然を、この短い間に二度も起こしたんだから」


「……」


「それがボクが、勇馬を信じる根拠。それじゃダメ? 勇馬がすごいって。強くて、カッコいって、信じちゃダメ?」


「……」


 ムカつくことに。

 実にムカつくことに、言葉が出て来なくなった。


 リリーの言い分を認めたわけじゃない。

 単純に気恥ずかしくて、その場にいるのが辛くなったんだ。


「……やめろ」 


 なんとかそれだけ、つむぎ出した。


そういうの(・ ・ ・ ・ ・)、俺は苦手なんだ」


 誰かに期待されたり、頼られたり、褒められたり。

 そういうのには慣れてない。


 だからホント。

 やめてくれよって思う。

 俺のことなんか気にかけるなよって。


「なんか、気持ち悪いからさ……」


 おそらくは真っ赤になっているだろう顔を見られたくなくて、俺は布団を頭からかぶった。

 視界はすぐに闇に覆われたが、リリーの瞳にあった輝きだけが、脳裏から消えてくれない。


「……マジで放っておいてくれ」




 しばらく間があった──

 しばらく間があって──


 くすりと笑うような気配の後、リリーは言った。

 

「わかった。今は行くね?」


 子供に聞かせるような、優しい口調で。


「でも、何かあったらすぐに呼んで? 寂しかったら、辛かったら。ただの暇つぶし相手でもいいよ。勇馬が呼んだら、ボクはどこにいても何をしてても駆けつけるから。キミの願いを聞いてあげるから。内容はなんでもいいよ。どんな無茶な願いでも聞いてあげる」


「おまえそれは……」


 アニメや漫画でよく聞く「今、なんでもするって言ったよね?」をど直球で投げつけられては、さすがに動揺を隠しきれない。


「どういう……どこまでの意味で……」


「どこまででも、だよ。だってボクは──」


 その後のリリーの台詞に、俺は再び絶句した。

 息が詰まり、心臓が止まりそうになった。


 だって、聞いてくれよ。

 リリーはこう言ったんだぜ?


 俺なんかには似つかわしくない十四歳の美少女がさ──

 フェロー王国の第三王女ともあろう者が──

 

「もうキミのものだからね」なんて。

 完全に好意ゲージの振り切れた発言をかましてきたんだよ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ