「戦いの終焉」
~~~レティシア~~~
「そんな……っ!?」
その光景を、レティシアはエントの織り成す繭の中から見ていた。
「そんなことが……人間に……っ!?」
黄緑に色づいた視界の中を、綾女が飛んで行くのを。
凄まじい勢いで追いついた阿修羅6000と協力し合いながら、あろうことか無事に地上へ降り立つのを。
「というかそもそも、あれはいったいなんなんですの……っ!? 人でもない、鎧の化け物!? 新手のモンスター!?」
力んで叫ぶと──
全身の筋肉がミシミシと軋んだ。
バキバキと骨が鳴った。
全身を苦痛と、耐えがたい倦怠感が襲ってきた。
「……くうっ?」
レティシアは苦し気に顔をしかめた。
「なんてこと……もう限界ですって……!? そんな……目の前にお肉が転がってるのに! 今なら……今ならあのふたり……隙だらけで……っ」
呆けたように座り込んでいる綾女を気遣うように、阿修羅6000が何事かを話しかけている。
ふたりともまったく、こちらに注意を払っていない。
エントの攻撃がギリギリ届く位置にいるというのに、無防備な背中をさらしている。
「もう一歩で……っ、もうひと振りで……っ」
荒い呼吸を繰り返しながら、レティシアはふたりを睨みつける。
なんとか腕を振り上げようとするが、上がらない。
エントもまた座り込んだまま、ぴくりとも動かない。
「くっ……、ボルグさん! 今なら……!」
傭兵団の頭領であるボルグの名を呼ぶが、その部下たちの動きを懇願するが、答えは返ってこない。
「なんで!? こんな時にどこに行ったんですの!?」
朦朧とした意識を覚醒させようと首を振りながら、レティシアは周囲を窺った。
木々の間、大岩の上、茂みの中、そして──
「…………あ」
ようやく気付いた。
エントに踏みにじられた傭兵団員の死体の中に、ボルグのそれがあることを。
無数の肉塊の中に、編み込んだ黒髪と頬の刀傷が覗いていることを。
「あー……ああー……お肉があー……」
肉の供給主を亡くしたことで完全に戦意を喪失したレティシアは、その場にへたり込んだ。
エントを使役するための精霊力を維持することが出来なくなり、結果としてエントは崩壊した。
細かな霧のように散り、森の大気に解けるように消えていった。
「お腹ぁ……減ったのにぃぃぃー……」
レティシアは子供のようにつぶやき、そのまま意識を失い、倒れ伏した。




