「ビンゴ……とか言ってる場合じゃない!」
~~~小鳥遊勇馬~~~
「ようしこれで、隠れた敵の位置もばっちり丸見えで………………ってあれえー?」
阿修羅6000の赤外線探査機能が起動した瞬間、バイザーに映る外の光景が変わった。
温度の低い順から紫、青、緑、黄、橙、赤に色分けされて見えるようになった。
人間が放つ色は緑か黄色、橙に赤といったところだろうから、それだけを追えばいい。
紫ばかりの森の中で、それは絶対的に目立つはずなのだが……。
「いやいやさっぱりわかんないじゃん。どこだよ?」
よっぽど巧妙に隠れているのか、エントの操り手の姿はどこにもない。
色づいて見えるのは皮鎧の男たちと綾女、エンジンのかかっているリトルノア、でっかいエント……。
「そんなに遠くにいるとは思えないのに、なんでこんなに見つかんないんだ? なあアシュラちゃん。この機能、きちんと働いてんだろうな?」
──もちろんです、マスター・ユーマ。
「その割には全然見つからないんだが?」
──物体の放つ熱エネルギーを感知して分析して画像として処理するまでが赤外線探査の機能です。それをどう扱うかは使用者であるマスター・ユーマ次第です。
「ねえそれ、暗に俺がバカだって言ってる?」
──繰り返しになりますが、アシュラちゃんの赤外線探査機能は完全に機能しています。
「くそっ、ちょっと生っぽい反応したと思ったら、いきなり機械的な対応に戻りやがって……っ」
とはいえ、頼れないのだったらしかたない。
俺は位置や角度を変えながら、ゆっくりと首を巡らせた。
目に力をこめて周辺を観察した。
ヒントはふたつある。
ひとつは、操り手がエントとリトルノアの両方を視認出来る位置にいるだろうこと。
そしてもうひとつは、さっき敵の親玉らしきオッサンが操り手の名を叫んでたことだ。
たしかレティシアと言ったか。
エルフかハイエルフの、おそらくは女の精霊使い。
まあ名前や性別はこの際どうでもいい。
問題はオッサンの声が聞こえる位置にいるということだ。
木々の鬱蒼と茂った森深く、しかもこれだけの大激戦のさ中だ。
声なんて百メートルも届けばいいほうだろう。
しかもオッサンはあの時、方向性を定めて叫んだようには見えなかった。
ならばもっと距離は限定出来るはずだ。
「なあアシュラちゃん。音波の反響とか、そういうのって調べること出来る? この状況であのオッサンの声がどんな風に反射して、どこまで聞こえるかとか、予測できる?」
アシュラちゃんに訊ねながら──ふと俺は、おかしなことに気がついた。
「……あれ? あれはたしかさっきの……」
エントの身体は黄緑色に光って見える。
綾女の対戦車ミサイル二発によって欠け落ちた頭部や左足も、最初は同じ色に光って見えたのだが……。
「……温度が下がったってことか?」
粘性を失い水溜りのように広がったエントの身体の一部が変色している。
黄緑色から青緑色に。
本体から離れたことで結束力を失い、一緒に温度も下がったのだとするのなら……。
「……じゃあ、あれはなんだ?」
直線距離にして八十メートルぐらいのところに、直径三メートルほどの球体がある。
色は黄緑色で、それもエントの身体の一部だと思っていたのだがひょっとして……。
「アシュラちゃん! 望遠機能だ! あれをくっきりはっきり見せてくれ!」
──イエス、マスター・ユーマ。
俺の命令に、アシュラちゃんは即座に応えた。
ズーム機能が働き、バイザーに拡大映像が表示された。
そこに映っていたのは、紛れもなく──
「……ビンゴ! 見つけたぞ綾女! エルフだ!」
俺は拳を握った。
未だ戦闘を続ける綾女に呼びかけた。
「三時の方向! 距離八十! 黄緑色の球の中にいる! とにかくあいつを仕留めるんだ……って──!?」
最後の方は言葉にならなかった。
ゾクリ、悪寒が背筋を走り抜けた。
エルフが右腕を振り上げた──それから少し遅れて、エントが右腕を振り上げた。
エルフが右腕を振り下ろした──それから少し遅れて、エントが右腕を振り下ろした。
それ自体はいい。
ヒーローものによくあるような、マスタースレイブ式の何かだと思えばいい。
問題は軌道だ。
エルフの腕は斜めに振り下ろされた。
エントの腕もまた、斜めに振り下ろされた。
こちらへ向かって、薙ぎ払うように──
「何か来るぞ! 躱せ綾女ぇぇぇぇー!」
慌てて走り出しながら、俺は叫んだ。




