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「最期の命令」

 ~~~ボルグ~~~




 西方辺境の狩猟民族の出身であるゼストに、山育ちの者を四人付けた。

 人族とは異なる『目』を持つレティシアも付け、不測の事態に備えさせた。


 役目は襲撃主体ではない、ただの斥候せっこうだ。

 にも関わらず、レティシア以外の誰一人として帰って来なかった。

 第三王女リリーバック・フェローを護衛する者たちの実力は、ボルグの想像を遥かに上回っていた。


 何よりも恐るべきは、魔法によるものとも火薬によるものともつかない面妖なその武器だ。

 長筒ながづつより生み出された鉄の塊は凄まじい速度で飛翔し、深夜の森の中であるのにも関わらず正確に男たちの身体を捉えた。

 ゾンゴ(石のように固い皮膚を持つ、マンモスに似た生物)の皮から作られた皮鎧すら、羊皮紙のように易々(やすやす)と切り裂いた。


 防御などまったく意味を成さないその光景を見たボルグは、すぐさま作戦を切り変えた。

 

 レティシアにエントを召喚させ、本拠を叩くと見せかけて長筒の使い手をあぶり出そうとした。

 長筒は、狙いこそ正確無比だが、連発が効きそうには思えなかったからだ。

 人数も多くはなさそうだし、おびき出して囲んで押し潰すのが正解だと思えたからだ。



 だが──



 すぐにボルグは後悔することとなった。

 誘き出した女は──まさかのメイドは──複数の筒を所持していたからだ。


 エントを大地にひれ伏させるほどの力を持った大筒おおづつ

 鉄の塊を連射出来る短筒たんづつ

 どれひとつとっても扱いは練達れんたつで、瞬く間に四人が撃ち倒された。

 エントの動きも止められた。


「ゴラン! 三人連れて奥へ走れ! 距離を保ちつつ飛び道具で攻撃しろ! ハーヴェイは残り全部だ! ゴランと連携して討ち取れ! 相手はたかだかメイドがひとり! しょせんは女だ! ひと傷つければそれで済む!」


 焦りを押し殺しつつ、立て続けに命令を下した。

 

 飛び道具での攻撃はあくまで牽制。

 追ってくるところに伏兵を潜ませ、一気に討ち取る狙いだ。



 だが── 



 伏兵による攻撃を、左右の茂みの中から放たれた長槍による必殺の突きを、メイドは苦も無くかわした。

 ひらり羽根でも生えているかのように宙を舞うと、何事も無かったかのようにゴランたちの後を追った。



 ドドドドンッ!



 直後、短筒が火を噴いた。

 ゴランたち飛び道具の使い手が倒れた。

 四人、全員死んだ。


「あら、あら、あらあー?」


 メイドは死体を見下ろすように立ち止まると、こきりこきりと肩を鳴らした。


「死んでしまいましたねえー……あなたたちの頼みの綱ぁー?」


 熱に浮かされたような口調でつぶやきながら、ゆっくりとした動作で振り返った。


「飛び道具と接近戦の二本立てで攻めるつもりだったのでしょうに、お可哀想にぃー」


 嘲笑あざわらうかのように目を細め、こちらを見た。


「いともたやすく、まるで……」


 ぐにゃぁぁぁりと、口元を歪めた。


虫けら(・ ・ ・)みたいに( ・ ・ ・ ・)……ねえ~(・ ・ ・)?」


『………………っ!?』


 その時彼らの頭の中に湧き起こったのは、怒りではない。

 長年連れ添ってきた仲間が馬鹿にされたことに対する憤りでもない。

 それらを覆すほどの恐怖だ。


 そう、彼らはようやく理解したのだ。

 自分たちの相手が正常まともではないことに。

 人ではない何か──おそらくは神か悪魔か、あるいは化け物のような存在であることに。


「うわ……うわわわわわっ……?」

「逃げろ……! 無理だこんなの!」

「逃げろってどこへだよ!? っておい待てよ! 俺を追いて行くんじゃねえよ!」


 口々に悲鳴を上げながら、男たちは逃走を始めた。

 中には恐怖に耐えきれず、その場にひざまずく者もいた。

 知る限りの神の名を唱え、目をつむる者もいた。


「諦めるな! 数も地の利もこちらにある!」


 ボルグは気丈きじょうに叫んだが……。


「武器を取れ! 逃げずに戦え! おまえらそれでもバズィール傭兵団の一員か!?」


 どれだけ強く叱咤しったしても無駄だった。

 どれだけ強く打擲ちょうちゃくしても、おびえは元に戻らなかった。


「逃げるなと……」


 なんとしてでも命令を聞かせようと、ボルグはついに長剣を引き抜いた。

 手近にいたひとりの首をねた。


「言っただろうが!」


 目を血走らせ、口から泡を噴きながら叫ぶと、ようやく男たちは立ち止まった。

 相手構わぬボルグの血刀けっとうを恐れるように、揃って後ずさりした。


「だ……だって団長!」

「狂ってるよあんた!」

「おかしいんじゃないか!? なんでこんなの相手に戦おうとしてんだ!?」


 男たちの目には、かつてあったようなボルグへの信頼はもう無い。

 あるのはただ、帝国の正騎士だった時分に納めたという正統派剣術への恐れだけだ。


「くそ……っ! くそが……っ! くそどもが……っ!」


 年月をかけて築き上げてきたもののもろさや結束のむなしさを呪いながら、ボルグは強く地面を踏みつけた。

 血に濡れた長剣を掲げ、叫んだ。 


「ええい、こうなったら構うものか! レティシア! おまえの全力を見せてみろ! エントの……太古のいくさに参列せし、呪われし精霊の全てを引き出せ! 辺り一帯、諸共もろともに破壊せよ!」


 悔し紛れに、してはならない命令を口にした。


「許してやる! おまえの望む物を望むがままに喰わせてやる! ──そうだ! 万食祭(バン・ジ・ラオイ)だ!」

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