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「空を飛ぶってそういうことかよ」

 ~~~小鳥遊勇馬たかなしゆうま~~~




 ズドンと重い音がした。

 間を置かず、シュバウッと長く尾を引くような音がした。


 それは対戦車ミサイル(セイバー)の発射音だ。

 呆気にとられている俺の目の前で、綾女が肩にかついで撃ち放ったのだ。


「──うおおおおっ!?」


 ミサイルは激しく炎を噴き上げながら飛翔し、五十メートルほどの高さにあるエントの後頭部を捉えた。

 成形炸薬が爆発し、弾頭が炸裂した。

 高速運動による物理エネルギーを保持したまま、弾体ごと衝突した。


 エントはゆっくりと倒れ、地面に四つん這いになった。

 凄まじい地響きがして、足元が揺れた。


 やったか!?

 と思ったがやってなかった。


「っておい! ちょっとしぶとすぎやしないかっ!?」


 頭の上半分が吹き飛んでいるのにも関わらず、なおもエントは起き上がろうとしている。

 四肢を震わせながらの緩慢な動きではあるけれど。


 その体を構成しているのは黄緑色のスライム状の何かだ。

 だからもしかしたら、重要器官という概念自体が存在しないのかもしれない。


 骨も筋肉も血液も無い。

 内臓も脳も眼球も無い。

 衝撃で倒れはしても、ダメージとしては残らない。

 頭部を半分欠損してもなお戦える。

 それってつまり、全体の質量を決定的に減少させる以外の打倒手段が無いということなのだが……。


「なかなかしぶとい……!」


 使用済みの発射筒を投げ捨てると、綾女は阿修羅6000からもう一器のセイバーをもぎ取った。


「おい、それで最後なんだからな!? 大事に撃てよ!?」


「……誰に言ってるおつもりで!?」


 吐き捨てるように言うと、綾女は肩に担いで狙い撃った。


 今度の狙いは足だ。

 腰と足の接続部を撃ち、片足をもぎ取った。


 もぎ取られた片足は地面に倒れると同時に急速に粘性を失い、ただの液体のように辺りに広がった。

 見れば先ほどの頭の上半分も、同じように辺りに水溜りを形成している。 

 

「本体から離れると結束力を失うってことか……!?」


 なら、四肢をすべて切断すれば無力化出来ることになる。

「全体の質量を減らす」よりはよっぽどマシな解決策だが、いずれにしても火力が足りない。

 セイバーは今ので撃ち切りだし、スーペル1000では指の一、二本を落とすのが関の山だろう。


 となればあとは、当初の予定通りに……。


「坊ちゃま! 赤外線探査を! 操り手を探してください!」


「わかった! 綾女はどうするんだ!?」  


「言ったでしょう!? 空を飛んでご覧に入れますと!」  


 言うなり、綾女はスーペル1000を手にとった。

 足の止まっていたひとりの男の胴を撃ち、その隣にいたひとりの喉を撃った。


「女を殺せ!」

「殺せ! 殺せ!」


 口々に叫びながら、男たちが襲い掛かって来た。

 といって、闇雲に正面から攻めて来るのではない。

 

「回れ回れ!」

「囲んで押し切れ!」


 側面あるいは背後から回り込むようにして来る。

 ひとりではなく、必ず二、三人のチームを組んでいる。


「弓!」

「ボーラだ! はなて!」


 クロスボウやボーラ(ロープの先端に鉄球のついた投擲武器)の風切り音が、ヒュンヒュンと辺りに響いた。 


「ふん……小賢こざかしい!」


 綾女は左にステップを踏んで、矢弾クォレルとボーラを躱した。

 飛び道具の使い手から先に潰そうという魂胆こんたんなのだろう、まっしぐらにそちらに向かって行く。


 もちろんそんなことは男たちの方でも想定済みだ。

 飛び道具の使い手たちは木や茂みなど周囲の地形を利用しながら後退を始めた。

 

「……逃がすものですか!」


 さらに後を追おうとする綾女の左右の茂みから、穂先の長い槍が二本突き出てきた。

 一方は太腿を、もう一方は脇腹を狙っている。


 不意打ちプラス、高さのギャップもついた巧妙な作戦だが……。


「……は?」

「消え……っ?」


 驚くふたりの目の前で、綾女は消えた──いや、跳んだ。

 全速力で走りながら、ステップを変えたようにすら見えなかったのに、2メートル近い高さを跳んだのだ。

 オリンピック選手ですらかくやと言うほどの、まさに超絶的な身体能力。

 

「空を飛ぶってそういうことかよ……っ?」


 遠く離れた場所にすとんと着地した綾女の背中を、呆れ半分で目で追った……いや違う、そうじゃない。

 ぼーっと観戦モードに入ってる場合じゃない。 


「おい、阿修羅6000」


 自分の役目を思い出すと、阿修羅6000のマスターシステムに呼びかけた。


 ──なんでしょう。マスター・ユーマ。


 するとすぐに、若い女性の音声が耳元で聞こえてきた。


 ──ちなみにわたしのことはそのようなカタい呼び名ではなく、アシュラちゃんとお呼びください。美少女万能(・ ・ ・ ・ ・)AIに呼びかけるように。


「おいやめろ。こんな状況でめんどくさい自己主張するな」


 ──美少女万能(・ ・ ・ ・ ・)AIに呼びかけるように。


「あ……アシュラちゃん?」


 ──なんでしょう。マスター・ユーマ。


「くっ……こいつ……。明らかに二十半ばぐらいの声してるくせに……ってそれどころじゃねえか。なあ、赤外線探査を使わせてくれ。この森のどこかに潜んでる敵を探すんだ」


 アシュラちゃんに指示を出すと、俺は後ろを振り返った。

 未だ起き上がらないエントの周辺。

 おそらくはそう遠くない位置に、精霊使い(そいつ)は潜んでいる──


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