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「夜の森へ」

 ~~~綾女あやめ~~~




「……ちっ。一匹逃がしましたか」


 舌打ちすると、私は狙撃用ライフル(レミントン)銃眼ガンポートから外した。

 

「走って、跳んで、地に伏して。一見非効率的に見えながら、実は不規則行動を交えての理にかなった逃走……敵ながらあっぱれです」


 どれほど修羅場をくぐったのだろう。

 生き残った兵士の行動には、一瞬の躊躇もなかった。

 

 倒れた仲間には目もくれず、下にいる仲間たちに合流して、一刻も早く情報を伝える。

 頭ではわかっていても、なかなか思い切れるものではない。


「……まあいいでしょう。いずれにしろこうなってしまうと、こちらがとれる手段はひとつだけですね」


 ポップアップルーフからカーゴルームへと通じるハシゴを駆け下りた。

 多くの武器を装備する暇は無いので、腹に弾帯を巻き、スーペル1000を一丁だけ手に取た。

 無線マイク付きのイヤーマフをメイドキャップの上からかぶった。


「坊ちゃまは決してここから動かぬように! 何かあったら無線にて! チャンネルはCH-1ですからね!」


 壁に掛かっている予備のイヤーマフを坊ちゃまに放り投げて早口で告げた。

 ごちゃごちゃ文句が聞こえてきたが、すべて無視して外へ出た。


 リトルノアを動かすのもひとつの手段ではあるのだが、らぬ情報を与えたくないと考えてやめた。


 代わりに自らの足で、異世界の夜の森を駆けた。

 予想される敵の反撃を返り討ちにするために、まっしぐらに。





「未知の武器を扱う敵。おおよその位置は特定出来たが、詳細はなお不明。さて……この状況、こちらの兵士というのはどう動くものなんですか?」


 敵本陣の位置まであと100メートルというところで、私は足を止めた。 

 手近な藪にしゃがみ込みようにして身を潜め、敵の動向を探った。 


 あれほどの優秀な兵士を配した集団の指揮官ならば、それ相応の手を打ってきそうなものだが……。


「……逃げずに向かって来る? ほほうやはり……」


 わずかの間に5人の仲間を失いながらも敵はひるむことなく、むしろ戦力を集中してひと塊になって斜面を登って来る。

 木々の陰から陰へ渡り歩くようにしているのは、射線が通らないようにという配慮からだろう。


「さすがですね。冷静かつ、肝が据わっている」


 あの兵士のもたらした情報から察したのだろう。

 狙撃間隔と方向から考えるなら、こちらの戦力はひとりだと。

 しかも連射の効かない遠距離攻撃武器を使っていると。

 ならばいたずらに恐れず、一気に詰め寄り、攻め殺してしまえと。


 その判断はおおむね正しい。

 実際、普通の相手ならそれで済むだろう。


「──ですが残念。それは何世紀も前のベストアンサーです」


 指揮官にとって誤算だったのは、こちらが連射の効く(・ ・ ・ ・ ・)遠距離( ・ ・ ・)攻撃武器も( ・ ・ ・ ・ ・)有していることだ。


「まあもっとも、せいぜいが中世ヨーロッパぐらいの文明レベルの人間に30発のマガジンを3秒足らずで撃ち切る銃器を想像しろというのはこくな話でしょうがね……」


 セレクターをセーフからセミオートに切り替えると、銃床ストックを肩に当てた。

 登って来る敵の塊に銃口を向け、トリガーに指を添えた。




 瞬間、地面が大きく揺れた。

 あまりの、そして予想もしていなかった衝撃に、私は膝を思わず着いた。


「……なんです? 地震?」


 顔を振って左右を確認すると、原因は即座に特定出来た。


 地震ではなかった。

 驚くべきことにそれは、巨大生物(・ ・ ・ ・)の起こした震動だったのだ。



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