「レティシア、命がけの秘術」
~~~レティシア~~~
深夜の森に次々と響く、銃声と悲鳴──
「なんですのなんですのなんですの!? なにがいったいどうなってるんですの!? 誰か……誰か説明しなさい……ってきゃああああっ!?」
レティシアの隣にいたジェイクの顔面にも、突如銃弾が炸裂した。
血や脳漿、骨片のようなものをまき散らしながら、ジェイクは力なく崩れ落ちた。
「──いやあああああああっ!?」
恐怖のあまり、レティシアはその場にうずくまった。
「ジェイクの兄貴……!? ──てめえ長耳! 兄貴に何しやがったあ!?」
ザックという狐目の男が、怒声を上げてレティシアの髪の毛を掴んだ。
右へ左へ振り回し、激しく責め立てた。
「……痛い! 痛い痛い! お願い、髪の毛を引っ張らないでくださいな! わたくしじゃない! わたくしは何もしてません!」
「うるせえ! てめえじゃなくていったい誰がこんなこと──」
しかしザックは、最後まで言葉を続けることが出来なかった。
凄まじい速さで飛来した鉄の塊でこめかみを射抜かれ、横倒しに倒れた。
「ひぃぃぃぃぃいっ!?」
晴れて自由の身になったレティシアだが、傭兵団から逃げるという発想はまったく浮かんでこなかった。
この場にとどまっていれば、いつまたあの鉄の塊が飛んでくるかわからない。
冷酷非情の射手が近づいて来て、その恐ろし気な姿を晒すかもしれない。
ただそれのみを恐れ、慌てて斜面を下った。
傭兵団のいる方へ、まっしぐらに。
といっても、後ろ手に縄で縛られているので上手くは走れない。
たびたび転び、傷だらけになりながら必死で駆け下った。
そして、とうとう──
「……着いた!? やったっ、やっと、やっと……皆様っ!」
「──おい」
「ってひいいいいっ!?」
下でレティシアを待ち構えていたのは傭兵団十五名と、団長であるボルグの冷たい視線だった。
「他の連中はどうした」
「ほ、他の方々は……その……っ。あの……て、鉄の塊に体を抉られて……っ」
そんな答えを返して怒られはしないだろうかと思ったが、黙っているとなおさら酷い目に遭わされそうなので素直に答えた。
「鉄の塊……。弓矢の類ではないのか?」
ボルグは片方の眉をぴくりと震わせ、驚きを表した。
「大きさは? なんらかの魔法によるものか? 他の奴らはともかく、ハイエルフの目になら見えただろう?」
ハイエルフは物質界と精神世界の合間を見る目を持っている。
どれだけ飛翔物の速度が速くても、その物の属性を特定することが出来るのだが……。
「その……大きさは石ころぐらいです。長細くて、先端が尖っていて、革の鎧を貫通することが出来ました。魔法かと思いましたが、魔力は一切感じませんでした。精霊の力も。感じたのはなんというか、ただただ爆発的な炎の力というか……」
今まで見たこともない現象だったので、レティシアには上手く説明出来なかった。
「魔力にも精霊力にもよらない炎の力……火薬で鉄の塊を撃ち出したということか? 新種の兵器だと?」
しどろもどろのレティシアの説明を、ボルグは見事に分析した。
まだ確信にまでは至っていないが、その推理はズバリ的中している。
「もうひとつわからんのは『目』だな……。あの暗がりで、どうやってこちらの居場所を探り当てた? 藪に身を隠しながら進んでいるのを一撃で射殺すなど、尋常の技じゃないぞ? ということは……なあ、レティシア?」
「……な、なんですの? なんでわたくしの顔をそんなにまじまじと……」
「まさかおまえが手引きしたんじゃないだろうな?」
「なっ……!?」
レティシアの全身を冷や汗が伝った。
「なななななななんでわたくしがそのようなことを……っ!?」
ボルグ始め、周りに控えている傭兵団全員から突き刺すような殺気を向けられ、レティシアは慌てて弁明した。
「だ、だいたいそんな暇、どこにもなかったじゃないですかっ。普段から縄で縛られて拘束されて見張られてっ。敵と話する余裕もっ、ましてや手引きするだなんて……っ?」
「向こうも精霊使いなら、話は変わる」
「……っ」
理屈の上ではたしかにその通りだ。
自らが窮地に追い込まれたことを悟り、レティシアは真っ青になった。
「知ってるぞ? おまえら、精霊に言葉を預けることが出来るんだろ? 拘束されて見張られて、大きな術を振るうことは出来ないかもしれないが、会話ぐらいは出来るんじゃないのか? 居場所を教えることぐらい容易いことなんじゃないのか?」
「そ、それは……っ。でも……っ」
「なあ、レティシア」
言葉に詰まったレティシアに、ボルグは急に優しい目を向けてきた。
今まで一度も見たことのない、気味の悪いほどに暖かな瞳だった。
「俺は何も、意味なくおまえを疑ってるわけじゃないんだ。あくまで仲間の安全を考えてのことなんだ。これ以上大切なものを失いたくないから、すべてに厳しく接してるんだ。なあ、わかるだろ?」
「え……ええ……わかりますわ……」
傭兵団の失った戦力は、ジェイクを始め五人。
ものの数分で、実に四分の一弱を失った計算になる。
結束当時からほとんど変わっていない構成員の、四分の一弱を。
「お辛いですよね……?」
「おお、わかってくれるか。そうだよな。なんだかんだで長いつき合いだからな、おまえならきっとと思っていた」
レティシアが頷いて同意を示すと、ボルグは相好を崩した。
大きな手で肩を抱くと、耳元で囁いてきた。
「悪いな。じゃあさっそく、使ってくれないか?」
「え……使うというのは……?」
すぐには思い当らずにレティシアが首を傾げていると、ボルグはぐにゃりと目元を歪めるようにして微笑んだ。
「なあ、これは儀式なんだ。おまえを正式に俺たちの仲間と認めるための儀式だ。約束しよう。これに成功したらおまえを自由にしてやると。肩を並べて戦う仲間として、入団を認めてやると。なあレティシア。俺は知ってるぞ? ハイエルフの伝説。上位精霊すら使役する、秘術の存在を──」
「………………!?」
それが命がけの秘術であることも知っているぞ。
ボルグの笑みには、そんな含みが窺えた。




