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「スナイピング」

 ~~~綾女あやめ~~~




 髪の毛は明るい茶色、陽だまりにたたずむ猫の毛のようにふわふわと柔らかい。

 瞳は琥珀色で、日の光を浴びるとわずかに緑がかる。

 普段はぱっちり二重だが、眠い時には三重になる。

 基本的には綺麗な顔立ちをしているのだが、口の悪さやだらしなさのせいで、女性ウケは非常に悪い。


 身長は155センチ、体重45キロ。

 スリーサイズは上から73、68、78。

 握力は右が27キロで左が23キロ。

 100メートル走は20秒。

 3000メートル走は2000メートルぐらいでいつもリタイアする。


 チビな上に運動神経も体力もない。

 万事につけ諦めが早いので、今まで何かを成し遂げたということがない。

 自分勝手でわがままで、人に対する気遣いなんて見せたことがない。





「……坊ちゃまのくせに、生意気なんですよ」


 先ほどの坊ちゃまの表情が脳裏に焼き付き、離れない。

 それがなんだかムカついて、私はボソリと毒づいた。


「心配? 気遣い? 似合いませんよ、そんなの」

 

 腹立ちのままに、ポップアップルーフとカーゴルームの間の扉を思い切り閉めた。


 床に座り込んで片膝を立てると、狙撃用ライフル(レミントン)の筒先を銃眼ガンポートに引っかけた。

 ガシャリと遊底を引き、7.62mm弾を薬室に装填した。


 暗視機能搭載の照準器スコープを覗くと、十字線レティクルの中で立ち話をしている男たちが見えた。

 黒塗りの皮鎧を着た男たちは、地面についたビッグタイヤの跡を指差して何事かを言い合っている。

 

 まさかこちらの世界に自動車はないだろう、だが馬車にしては大きすぎるのだ。

 馬のひづめの跡も見当たらないし、新種のモンスターか、あるいは『伝説の勇者』の乗り物だと考えるのではないだろうか。


 ならばどう考える?


 このまま逃げるというのは一番あり得ない。

 斥候せっこうを出し、実物を特定。

 仕留められるようなら仕留める。

 無理のようなら情報だけを持ち帰り、戦力を整えて出直すというのがセオリーだ。


「……まあ、そんなことはさせませんけどね」


 銃床ストックを肩に当てると、肺の中の空気を長く低く、捻り出すように吐き出した。

 空にすると、今度は倍の時間をかけて吸い込んだ。

 新鮮な空気を肺に、血液に、全身の末端まで満たすようなイメージで蓄える。


 最初の標的は、側面から回り込むように登って来る三人の男たちだ。

 長剣を持ったのがふたり、手斧を持ったのがひとり。

 手斧を持っている先頭の男に狙いを定め、トリガーを弾いた。


「一」

 

 パン。

 力いっぱい両手を叩いたような音が夜の森に響いたかと思うと、手斧の男がゆっくりと後ろに倒れた。 

 長剣を持ったふたりは慌てて辺りを見回したが、まだこちらの発見には至っていない。


 ガシャリと遊底を引き、空薬莢を排出すると同時に次弾を装填した。


「二」


 パン。

 やはり同じような音がして、ひとりの首に穴が開いた。


 残された最後のひとりがこちらを見た。

 正体まではわからないまでも、方向とおおよその位置は特定出来たのだろう。

 

 仕方がない。

 制音器サプレッサー亜音速弾サブソニックだんの組み合わせでも、発射音を完全に殺すことは出来ない。

 だが狙撃位置の特定を遅らせることは出来る。

 そうやって稼ぎ出した時間は、狙撃手にとって黄金とも呼べるほどに貴重な時間だ。


「三」


 ただちに逃亡を選んだその判断は賢明だったが、時すでに遅しだ。

 三発目の弾丸が風を切り、男の心臓を背中から撃ち抜いた。  


 ガシャリ。

 空薬莢を排出して次弾を装填した。

 次の標的は、逆側の斜面にいる三人。  


 射撃音には気づいているようだが、どういったものなのか判断しかねているようだ。

 その場に立ち止まり、話し合いをしている。


「……弾倉には残り七発。まずはこの三人を三発で仕留める。後続を断ち切ったら、あとは接近して一気に押し込む」


 残弾数をカウントしながら、私はトリガーに指を当てた。


「情報集めのために、ひとりだけは生かしてあげますよ。感謝しなさい」

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