「爺ちゃんは知っていた」
~~~小鳥遊勇馬~~~
「スペシャ……リスト……?」
綾女の口から出た言葉は、不思議な響きを持っていた。
どうしても呑み込めないトゲのようなものがついていた。
「それっていったいどういう……? いや、言葉の意味自体はわかるんだ。戦闘のプロってことだろ? おまえの動きがただ者じゃないのはわかるし、あの銃火器の存在も明らかにおかしいし、そうなんだと言われればそうなんだろうよ。ただその、どういう経緯でそうなったのかっていうのがさ……」
俺の踏み込んだ質問に、綾女は小さくため息をつきながら答えた。
「まず私は、純粋な日本人ではありません。東欧の、とある小国の兵士でございました。国滅びてよりは、武装ゲリラとして各地を転戦しておりました」
「東欧……兵士……武装ゲリラ……?」
俺はあんぐりと口を開けた。
純粋な日本人ではないってのは、まあわかる。
彫りの深い顔立ちや背の高さ、緑と茶色の中間くらいの瞳の色など、そうなんじゃないかなーと思える特徴は揃ってた。
元兵士だったり武装ゲリラだったりってのも、わからなくはない。
実際俺は初めて綾女を見た時、凄腕の暗殺者か歴戦の傭兵がセーラー服を着てるのかな? などと思ったりしたものだ。
でもまさか、それが全部当たってたなんて……。
「遊馬様と出会ったのは、そんなある日でございました。主たる目的を見失い死んだような目をしていた私に、遊馬様は生きる目的をくださいました」
「……それが俺の護衛だってのか?」
綾女はこくりとうなずいた。
「二十歳を迎えた後、坊ちゃまは異世界へとお渡りになる。それを遊馬様は知っておられました。予言や予知の類ではございません。知っておられました」
「なんでそんなことが……?」
「自分にも経験があるからと、自分たちはそういう血筋だからと。『詳しくは現地で調べな』と。そうおっしゃって、笑っておられました」
「……」
わかる。
爺ちゃんはそういう人だった。
いい歳こいていたずらっ子で、時々ひどい無茶ぶりをしてきた。
大事なことは人に教えてもらうのではなく、自分で考えるようにいつも言われてた。
口も態度も悪かったけど、物凄く優しい人だった。
家族も親族も嫌いな俺だけど、爺ちゃんだけは大好きだった。
「お亡くなりになる前の晩でした。私を枕元に呼び寄せると、遊馬様はおっしゃいました。『今から二年後だ。ちょうど勇馬の二十歳の誕生日に届くようにしたからな』と。私が何を届くようにしたのですかと訊ねると、『異世界を渡る船だ』と。そうおっしゃって、破顔しておられました」
「……リトルノアに阿修羅6000、大量の銃火器。それが全部、異世界転移を見越してのことだったって?」
「はい」
綾女はこくりとうなずいた。
再び最敬礼をして見せた。
「坊ちゃまをお守りし、地球に帰還することが私の役目でございます」




