「それってなんてエロゲ?」
~~~小鳥遊勇馬~~~
「勇者様。ボクに、ボクらに、力を貸して下さい──」
リリーことリリーバック・フェローは──フェロー王国の第三王女は──床に降りて正座した。
小さな体を丸めるように、頭を下げた。
「……っ」
その綺麗な、そして幼気な背中の曲線に、俺は思わず息を呑んだ。
リリーのここまでの苦労を思って、ズキリと胸を痛めた。
「ってダメだ、ダメダメっ。そんな簡単に信じるもんかっ」
いきなり流されそうになった俺は、ぶんぶんと首を横に振った。
相手は女の子だ。
若くて可愛いい自分の生かし方を知ってる。
俺みたいなチョロそうな男なんて、ちょいと殊勝にして見せれば一発だとでも思ったんだろ?
「証拠だ。おまえが王女だっていう証拠を見せろ」
「え? え? 証拠って……?」
リリーは顔を上げ、どうしていいかわからないって感じで顔に疑問符を浮かべた。
「ここが異世界だってことはわかった。モンスターの存在はもとより、植生だって俺のいたとことはかけ離れまくってる。そこはさすがの俺も認めざるを得ねえ。だが、それとおまえが王女だってのは別の話だ。ゴブリンの被害者だからって、イコールすべてが本当とは限らねえ。おまえが俺をなんらかの罠にかけようとしてる可能性はある。だから王女だって証を立てろ。高貴な人物だから大丈夫だって安心させろ」
「え、でも……どうやって……っ。荷物はその……ここに来るまでに全部無くなっちゃったし……」
混乱しているのだろう。
リリーは意味もなくわたわたと手を動かした。
「あ、でも、ひとつだけ……っ?」
何を思い出したのだろうか。
リリーはポンと手を打った。
そしてなぜだろう、急速に頬を赤らめた。
「あの……いいんだけどさ……? 勇者様になら……でも、その……」
もじもじ、もじもじ。
やたらと恥ずかしがっている。
「なんだよ。なにをもじもじやってんだ?」
もったいぶるような態度にイラついた俺は、つっけんどんな口調で言った。
「言っとくが、証明できないってんならそれまでだからな? 俺の中で、おまえはただの大ぼら吹きだから」
「わかったよ! わかったからっ!」
リリーは慌てたように叫んだ。
「でもその……これはけっこう大事なものなので……。出来れば勇者様だけに見せたいんだけど……」
もの言いたげに綾女のほうを見やるリリー。
その綾女はというと、ホットレモネードを口に運んでほうと息を吐いたりなんかしている(俺のために作ってたんじゃないのかよ)。
「なんだ、人払いをして欲しいって? 大げさだな……ま、いいけどよ」
「あとはその……部屋を暗くして欲しいというか……」
「は? なんでだよ? 暗いと見えないだろうが」
「ううん。逆に暗いとこだと見えやすいんだよ」
「はあ? なんだ? 暗いとこだと光る系の何かか?」
「うん。紋様なんだけど、ボクの体についてるんだよね」
「体に? 紋様が?」
「うん。それでその……こ、興奮すると……発光するんだよね」
それ以上はとても言えないとばかりに、リリーは顔を両手で覆った。
「……はあ。大事なものだから俺にしか見せられなくって、暗いとこだとよく見えて、それはおまえの体についてる紋様で、興奮すると発光すると……。なるほど、なるほど……あれ?」
腕組みして状況を整理して……俺ははてと首を傾げた。
「それってなんか、エロゲとかによくあるような……?」
ありえねえと思ったその想像は、なんとまさかの大当たり。
俺はこの後、めくるめく桃色体験をすることとなるのだった……。




