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#1-8.月に代わってドレス・アップ

 ロイド眼鏡の貴族教授が、対戦相手に俺とオードリーのどちらを選ぶかなんて、考えるまでもない。

「嬉しいよ、タクヤ君。君の持論の通り、魔法弾が軟弱な風魔法なのかどうか、身をもって味わってほしい」

 風魔法が軟弱とか、言っちゃっていいのかな? サルモン先生はイケメンだけどさ。怒らせたら怖いぞ、きっと。

 俺はマントを脱いで、肩掛け鞄と共にオードリーに渡した。

「これ、持っててくれる?」

 ミリアムが選んでくれたマントだ。破けたりしたら困る。

「タクヤ……」

「大丈夫さ」

 俺はキウイに命じた。

『透明鎧を解除』

『マスター、近くに強力な魔力を感じます。解除は危険です』

 魔力感知に出るほど、ロイド眼鏡は張り切ってるのか。

『いいから、解除だ』

 常に待機状態の透明鎧が解除されたことを確認し、もう一つ命令を与えた。

 次に、アイテムボックスからこっそりと指輪を取り出した。迷宮で拾った、ごつくて派手なデザインの指輪だが、何の力もないことはマオに頼んで鑑定済み。

 その指輪を、わざと目立つように掲げて、右手にはめた。

 よし、準備完了だ。

 俺は闘技場の中央に進み、ロイド眼鏡に向き直った。

「ザンクトバル教授。いつでもどうぞ」

 教授はにこやかに笑った。

「殊勝な態度ですね。では行きますよ」

 彼は杖を掲げると詠唱を始めた。長い。呪文の中の一節を繰り返し唱えている。

 圧縮のフレーズだ。

 それに合わせて、俺は指輪をはめた右手の拳を突きだし、アイテムボックスのゲートを出現させる。五センチ四方ほどの小さなものだが、取り巻く魔法陣は結構目立つ。

「……魔法弾(マギキ スフェラ)!」

 教授の杖から、白い半透明の球体が発射された。もの凄い勢いで向かってくる。

 だが、それは俺の身体をかすめて、後方にあった標的の人型を吹き飛ばした。土台となってた重石ごと。

 そして、轟音。

 ……これで良い。髪や衣服が派手にはためかないと、雰囲気が台無しだからね。だから、透明鎧は解除した。

 学生たちは言葉も出ないようだ。担当教官ですら、唖然としている。明らかに、実技で使う範囲を越えた威力だ。保護結界がまるで役に立ってない。

「どうかね? これでもまだ魔法弾は風だと言い張りますか?」

 傲然と言い放つ教授だが、俺は落ち着いた声で答えた。

「教授、ダメですよ外しちゃ。きちんと、ここを狙ってください」

 指輪の前に出したゲートを指さす。

 ロイド眼鏡の奥の笑みが消えた。

「良いでしょう。消し飛ぶがよい」

 再度、詠唱が始まる。

「タクヤ!」

 闘技場の隅からオードリー。

「下がってて!」

 教授の杖がこちらを向いた。

 来る!

「……魔法弾(マギキ スフェラ)!!」

 さらに大きく硬く圧縮された魔法弾が、真正面から迫る。

 俺は命中の寸前、ゲートを開いた。

 一陣の風が巻き起こり、魔法弾ごとアイテムボックスに吸い込まれる。

 ……そして、静寂。

「バカな!」

 愕然とする教授。ロイド眼鏡がずり落ちた。

 種明かしすると、縦横五センチ、奥行きは限りなくゼロのアイテムボックスを新たに生成してから、その奥行きを百メートルまで広げておいた。これで中は真空となる。ゲートを開けば、もの凄い勢いであたりの物を吸い込むわけだ。

 そして俺は待ち構えていた。目立つ指輪の前に、そのアイテムボックスのゲートを出現させて。

「これは『空気の無い状態』を作り出す魔法具です」

 魔法具なのは、指輪じゃなくてキウイの方だけど。

 この真空アイテムボックスは十個作った。さっきのアイテムボックスは廃棄して、次の奴と切り替えた。だから、鏡のようなゲートはまだ指輪の先に浮かんでいる。臨戦態勢ってわけだ。

「どうします? まだいくらでも吸い込めますよ?」

 火でも水でも吸い込むけどね。

「認めん……認めんぞ!」

 ロイド眼鏡を押し上げ、なおも詠唱を開始するが……

「そこまでです、ザンクトバル教授」

 すぐ後ろから声が響いてびっくり。振り返ると、いつの間にか開いた転移ゲートから、険しい表情の学長が出てくるところだった。

「タクヤ君も、もういいですよ」

 俺の肩に手を置いて、学長は微笑んだ。

 言われた通り、真空ゲートを消して、右手を降ろす。

 学長は背後の有様を見て、俺と教授に目配せすると言った。

「二人とも、学長室まで同行を願おう」

 学長に続いて俺もゲートをくぐる。

「クレス・ザンクトバル子爵。こちらへ」

 立ち尽くしている教授に、学長は声をかけた。

 ……爵位付きのフルネームって、余程の時でないと呼ばないって聞いたけど。今がその時なんだろうな。

 ロイド眼鏡を直し、教授はこちらに歩いて来た。

 こんなに長時間ゲートを開いてると、対価がきついだろうに。学長も苦労が絶えないね。


********


「さてと。事の次第を、君たちの口から直接聞きたい」

 口髭を撫でながら、学長は言った。

 何と言おうか考え始めたら、教授に先を越された。

「私が実技で特別に実演をしようとしたところ、彼が私に挑戦してきたのです」

 なんか色々違ってるな。

 俺は訂正した。

「教授が一対一で模擬戦をやるとおっしゃったので、俺が立候補しました」

 手短に行きたいから、オードリーのことは触れないでおこう。

 学長は俺たちの顔を交互に見比べて、再び口髭を撫でながら言った。

「どちらであっても、教育の範疇ではある。問題は、背後にあった標的だ」

 土台の重石から砕けてたからなぁ。

「あれを生身で喰らったら、怪我では済まんぞ」

 それは困る。粉みじんになったらエリクサーも効かないし、古竜に食わせてやれないしな。

「実技での死亡事故は、珍しいことではありません」

 珍しくないのかよ。

 横目で見ると、すました顔でロイド眼鏡をハンカチで拭いていやがる。

 まぁ、魔法それ自体が危険なものではあるけどさ。だからこそ安全に配慮すべきだろうに。私怨で暴走して教え子を殺したら、いかに貴族でも問題だろ。

 ……問題だよな? まさか貴族って、魔族以上にやりたい放題?

 学長はこめかみに手を当てながら言った。

「ザンクトバル教授、下がりたまえ」

 ロイド眼鏡をかけ直し、教授は部屋から出て行った。

 学長は俺に向かって言った。

「タクヤ君。すまないが、この件はこれまでとしたい。ザンクトバル教授のことは、こちらで対処する」

「もしかして、クビですか?」

 俺の言葉に、学長は苦笑いした。

「できればそうしたいところだが……まぁ、色々とな」

 管理職の苦労は尽きないな。白髪にもなるわけだ。

 そして、真面目な顔に戻ると聞いてきた。

「タクヤ君。さっきの魔法だが」

「魔法具です」

 指輪をはめた右手を掲げる。魔法陣と共にゲートが現れた。

「……非常に興味があるのだが、その魔法具に」

 学長に調べられたら、ただの指輪だとばれてしまう。

「申し訳ありません。企業秘密なので」

「……企業?」

 まだこっちにない概念か。

「このような魔法具を作って売るのが、俺の目標なので。作り方を他人に知られたくないんです」

「なるほど。それでは仕方ないな」

 口髭に触れながら、学長は言った。

 学長も魔法学者だ。学問的興味は尽きないんだろうに、あのロイド野郎みたいなのが仕事を増やす。

 管理職の苦労は尽きないな。白髪にもなるわけだ。

 口髭の方は謎だが。

「あの……学長」

「なんだね?」

 俺は自分の鼻の下を撫でて言った。

「染めてるんですか?」

 一瞬の間のあと、彼は笑い出した。

「いや、こっちはなぜか白くならんのだよ」

 それから、いたずらっぽい笑い。

「ちなみにもっと下の方も、な」

 ……へぇ。そうなんだ。お元気で何より。

「それじゃ、失礼します」

 一礼して、俺も学長室を後にした。

「タクヤ!」

 一刻館を出ると、闘技場の方からオードリーが息せき切って駆けてきた。俺のマントとカバンを抱えて。

「ああ、荷物をありがとう」

 受け取って羽織る。季節は春だが、まだ屋外は肌寒い。

「どうなったの?」

 心配かけちゃったな。

「俺の方はおとがめなし。教授はまぁ……学長に任せた」

「そう……こっちも大変だったわ」

 闘技場の方は、破壊された標的と土台の方付けに、学生たちが駆り出されたのだそうだ。あれだけ破片が飛び散って、誰も怪我をしなかったのは運がいい。保護結界のおかげもあるんだろうけど。

 しかし。たかが議論の応酬をした程度で、こんな事しちゃうんだ。貴族のプライドって厄介だな。

 いい加減、この辺で平穏な学生生活に入りたいものなんだけどねぇ。


********


「ご主人様! うわ~ん!!」

 オードリーを連れて帰宅したら、出迎えたメイドたちの後ろから、トゥルトゥルが泣きながら飛びついて来た。

「どうしたんだ一体?」

 ここ何日か、ジンゴローの工房で遅くまで縫製をやっていた。以前、ドレスを納品した貴族の奥様からの追加注文だ。要するにリピーター。

「ボクの服を気にいってくれたんだから、大事にしないとね!」

 受注時にはそう言って張り切っていたんだが。

 激しく泣きじゃくるのを、何とかなだめて事情を聞いた。

「……キャンセルされたの」

 何でも、使いの者が来て、急に「ドレスはもう要らない」などと言われたという。明日、違約金を払うから取りに来いと。

「それ……ひょっとして」

 オードリーが険しい表情。

 そうだな、多分間違いない。

 貴族を敵に回すと実に厄介だ。魔族なら倒せばいいが、貴族はそうもいかない。下手をすると、どの国からもつまはじきとされかねないからだ。

 何しろ、ヒト族の国はどこも、貴族同士での交流が盛んだ。婚姻関係も多いから、ほとんどが親戚だとさえ言える。だから、一部の貴族から睨まれれば、思わぬところから無体なことをされたりする。さしずめ、「貴族ムラ」とでも言うべきか。

 旅の間に、マオが時々、そんなことをぼやいていた。

 俺自身に対する嫌がらせなら、仲間たちに迷惑を掛けないために不問にすることもできただろう。しかし、目の前で落ち込んでるトゥルトゥルを見ていると、とてもそんな気にはなれない。

 そっと抱き寄せて、頭を撫でてやった。

「……ご主人様?」

 いつもと扱いが違うからか、戸惑ってる。

「そのドレス、どうした?」

 悲しみの余りに切り刻んじゃったらもったいないからね。

「そのまんま、工房に置いて来た」

 それなら、活かしようがあるな。

「大丈夫。お前の作るドレスは最高なんだから、すぐに買い手がつくさ」

 こうなったら倍返しだ。買わずにいられないくらいにしてやろう。

 ……よし、まずは情報だな。

「オードリー、良かったら今夜も泊まって行くと良いよ。明日の朝、一緒に登校しよう。風呂も入りたいだろ?」

「え? あ、ありがとう……」

 戸惑う彼女。火魔法は受講しないつもりだけど、一人で大学に戻すのは気が引けるからね。図書館で昼寝でもしてよう。

 みんなといつも通りの夕食。そしてオードリーがお肌の潤いを補給している間に、遠話でマオを呼び出し、あれこれ聞きだした。

 さて、ちょっと暴れちゃおうかな?


********


 とある貴族の館の天井裏を、俺は匍匐前進していた。とはいっても、マトモにやったら埃まみれになるから、天井裏すれすれにゲートを出して、腹ばいになってゆっくり移動だ。おかげで、完璧に無音。シノビ・マスターと呼んでくれたまえ。

 やがて、目的の部屋の上に到着し、遠隔視で下を覗く。衣裳かけに掛かっているのは、ゴージャスというよりド派手なドレスだ。

 トゥルトゥルにドレスを注文して、完成直前にキャンセルした貴族が、かわりに購入したのがこれだ。

 あいつのドレスはシンプルで動きやすいかわりに、舞踏会でダンスすると裾が綺麗に広がる工夫がしてあって、大好評だった。

 マオの情報で、三日後に皇帝主催の舞踏会があることが分った。なら、かわりのドレスを買っているはず。ビンゴだったが、これは悪趣味すぎるな。余計な装飾が多すぎる。目立つだろうけど、ダンスを楽しむどころじゃないだろう。

 その舞踏会では、この家の末娘が社交界デビューするという。こんなドレスを着せられては、トラウマになりかねないよ。

 というわけで、作った人には悪いが、このドレスは駆逐させてもらう。まず、ドレスの真上に小さなゲートを開き、ギャリソン特製のスープを振りかける。無色透明だが様々な出汁が効いてて、もの凄く美味しい奴だ。

 そこへ、この家の地下に巣食っていたいたイエネズミの御一家を、アイテムボックス転送でご招待。早速、特製スープの香りに惹かれ、ドレスをかじり始めた。絹糸ってのはタンパク質だから、きっと体にも良いはずだ。

 満腹したネズミ御一家をもとの地下へ送り届けてから、俺は屋敷を抜け出した。


*******


「これって、もはや小さな城だな」

 月に照らされたロイド眼鏡……いや、ザンクトバル教授の邸宅を見上げながら、思わずつぶやいてしまった。重厚な石造りの建物で、やたらと彫像などで飾り立ててある。

 灯りが点ってるし、玄関に馬車がいるってことは、来客中ってことだな。

 マオから聞いた通り、あらゆる魔法に対する防御と警戒の結界が張り巡らされていた。塀の外から眺めているだけでも、キウイの魔法感知にもの凄い反応が出てる。

 これを全部自分でやったとは思えないが、魔術師を雇ってこれだけ毎日張り続けるのは、コストも相当なものになる。魔法具だって安くないし、毎日使えば魔核が消耗する。

 おそらく、魔力感知なども使われているはずだが、俺は魔力ゼロだから完全にステルス状態だ。

 試しに、遠話V2の受話パネルを出して、屋敷の中に忍び込ませてみた。思った通り、防御結界に反応はない。V2の方はマオも解析出来てないから、警戒してないのだろう。知らないものは警戒のしようもない。ついでに遠隔視V2も送り込む。

 おかげで面白い場面が見れた。折角なので、キウイに録画させておこう。

 やがて玄関に動きがあった。来客のお帰りだな。

 俺は館からはなれて遠話をかけた。

『マオ、起きてるか?』

『それが、まだ仕事なんですよ』

 こんな時間までご苦労様だな。残業代も出ないのに。

『もしかしてクロードも?』

『……今、皇帝陛下の御前なんですが』

 おっと、それは悪かったな。

 でも、それなら話が早い。

『ちょっと見せたいものがあるんだが、今からそっちへ行ってもいいか?』

 しばしの間。

『陛下もお会いしたいそうです』

 ならば、と瞬間転移。

「……早いですね」

 マオが呆れ顔。

「早速だけど、ちょっとこれ見て」

 遠隔視V2のパネルを開いて、そこにさっきキウイで録画した映像を移す。

 場面は贅を凝らした応接間。向かい合ったソファに座って、二人の男が語らっている。片方はロイド眼鏡の教授。もう片方は知らない顔だが、頭頂部が禿げてて、でっぷり太った中年男性。

 その中年が、絵に描いたような揉み手でおべっかを使う。

『……しかし、アルハイム士爵によくまぁ、あのドレスを諦めさせられましたな』

『ふん。小人族の作った物なぞ、皇帝陛下が開催なさる舞踏会にはふさわしくない。そう言ってやっただけだ』

 酷い言いようだ。トゥルトゥルのドレスは、皇后陛下の御用達なんだぞ。

『代わりに、士爵風情にはもったいないほどの品を紹介してやったのだからな。感謝されて当然よ』

 ここで一時停止。

「俺、貴族の階級ってよくわからんのだけど」

 マオが説明してくれた。

「士爵というのは、武勲を上げた騎士に与えられる爵位で、貴族の階級としては一番下です。つまり、ここで名前の出たアルハイム士爵は、成りたての貴族となります。おそらく、この前の魔王との戦争で、めざましい働きをしたのでしょう」

 なるほど。

「これに対して、子爵は上から五番目、士爵より三つも上です。中流というか、中堅の貴族となります」

 日本語だと子爵と士爵で似た名前だけど、大違いなんだな。

 で、教授はその子爵。どうせ、階級差を使ってねじ込んだんだろう。

 録画の再生ボタンを押す。

 パネルの中で映像が動きだした。

『おかげで、うちも良い商いができました』

 そう言うと、中年は懐から小袋を出した。口を開けると、光玉の明かりに照らされた金貨がぎっしり。

『どうぞ、これからもどうか御ひいきに』

 小袋を受け取ると、ロイド眼鏡がニヤリと笑った。

『ファルサス、お主も悪よのう』

『いえいえ、子爵様ほどでは』

 いかにもなやり取りに、思わず突っ込んでしまった。

「そこは越後屋に代官様だろう」

 マオが真顔で聞いてきた。

「エチゴヤ?」

「……前の世界で代表的な悪徳商人」

 越後屋じゃない悪徳商人が立ちあがったところで、俺は動画を一時停止にした。

「あの金貨、いくらなんでもドレス一着には見合わないですね」

 マオがつぶやくと、クロードが答えた。

「ふむ。余にはそうした相場はよくわからぬが、この二人の様子から見て、かなり長い付き合いのようだな」

 皇帝が世俗に疎いのは当然だが、人を見る目はあるようだ。

 俺はその辺ダメだな。このロイド眼鏡を教育熱心な人だと思い込んでたし。まさか、日常的にこんな悪だくみをしてるとは。

 クロードは画面の悪徳商人を指さした。

「オーギュスト、この男の背後を洗ってくれんか」

「仰せのままに」

 マオが動いてくれるのなら、これ以上の悪さは出来なくなるだろう。

 俺や仲間たちへの嫌がらせもね。

「じゃあ、マオに任せるよ。面倒をかけちまってごめんな」

「いえ、これも仕事ですから」

 殊勝なもんだ。

 さて、帰るか。皇帝陛下に一礼して、一気に帝都のはずれまで瞬間転移。そこから我が家まで歩く。てくてく歩く。運動不足は肥満の元だから、歩く。

 ……そのうち、東の空が明るくなってきた。

 春眠暁を覚えず、と言う。

 なら、寝てなかったら?

 春暁眠りを得ず。

 ベッドに倒れ込んだとたんにオードリーに叩き起こされた。

「一緒に登校する約束でしょ?」

 ああ……そうだ。確かに約束した。

「わかった。着替えるから、ちょっと待ってて」

 大急ぎで朝食を取って、また歩いて登校。ところがなんと、火魔法のマッチョ教授は休講だった。だが、実習と午後の実技は通常通りあるらしい。座学がないから、内容は先週と同じになるとあった。

「タクヤはどうする? あたしは出るつもりだけど」

 オードリーは真面目だな。継続は力、繰り返しは熟練への道。

「俺はパスするよ。夕べ、色々調べものしてて、寝不足なんだ」

 彼女にそう言って別れ、帰宅して寝ようとしたのだが。

 今度はトゥルトゥルが乱入。

「ご主人様♡あのね、昨日のお客さん、やっぱりドレスが欲しいって!」

 そうか、良かったね。だから寝かせて。お願い。

 ……そんなわけで、夕食までの間、ひたすら惰眠を貪った。ニュートが構ってほしいというので、キウイと一緒に出してやり、抱きかかえてさらに寝る。

 そして、吸血鬼よろしく日暮れ時に起きた時。

 キウイの報告に、ようやく救われた気がした。

「マスター、基本魔法の初級の深層学習が完了しました」

 やったねパパ、明日はホームランだ!

 早速、グインに遠話をかける。

『グイン。約束を果たすよ』

 即座に返事があった。

『御意』

 簡潔な一言。

 しばらく講義は休むと、オードリーに伝えないとな。


2018/02/24 誤字脱字を修正しました。

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