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うるさい程のセミの鳴き声が、街中に響いている。本当にうだる様な暑さの中、郊外の何処にでもある様な一軒家は嫌に静かだった。
「なんかさー、セミの鳴き声ってシネシネシネ〜って聞こえない?」
ぐったりとソファーに横たわったあんずが、だるそうに問いかける。
「まぁわかる。アイツら、俺たち人間に悪意あるよ、絶対。」
クーラーをガンガンにきかせた、さほど広くもないリビングで誠司もあんずも疲れ切っていた。
理由ははっきりしていた。
さっきまで、今年の最高気温をまた更新したに違いない蒸し上がった外で探し物をしていたからだ。
「あの女に殺されるトコだったわ〜」
「あんずはまだマシだろ?俺なんか、ドブさらいもさせられたんだぞ?この暑さで水も沸騰しかけてる中をだぜ」
あの百花との一件以来、たびたびこうしてアルバイトを引き受けさせられていた。それもかなり無理矢理に。
今日は今日とて、近くの小学生がなくしたというキーホルダーを探してくれと言う理解不能な依頼だった。
「なんで俺たちが探さないといけないんだよ!」
という誠司のもっともな抗議をさらっとかわし、百花は笑顔で言う。
「2人が人を助けるために奮闘してると知ったら、蓮さんはすごく喜ぶと思うの。」
しかし、言葉とは裏腹に右手であの時の百花を調べ上げた調査書をひらひらとふった。
「やっぱりとんでもない女狐よ…」
あんずがぽつりと呟いた。
そんなこんなでいつも無理矢理、引き受けさせられていた。
失くし物なんて、結局は人海戦術しかないのだ。
いかに大人数で根気よく探すか、それにかかっている。
そんなこんなで今日もたっぷりと5時間はかけて、女子小学生が通ったという道を捜索させられたのだ。
「本当にあのまま、この家に棲みつかれないで良かったわよ!もし居つかれたままだったら…」
ありえないっ!という風にあんずは頭を振る。
「本当にあのお手伝いさん様々だよ。照子さんだっけか?でも、あれは見物だったよなぁ」
2人揃ってニヤリと笑った。
ここに住む!と、頑として譲らない百花を口で言い負かしたあげく、引きずって帰る様子は本当に見物だった。もう2ヶ月前の事なのに、苦もなく思い出せる。
そして、あんずと誠司は、ふっとした瞬間にそれを思い出してはニヤリとほくそ笑んでいた。
「また引きずられて帰って欲しいわ!特に今日みたいな酷い目にあっ
「誰が引きずられて帰って欲しいの?」
「「!?」」
飛び上がる2人をよそに、百花はいつの間にかリビングの扉の前で品良く微笑んでいた。