其の四九 【ベストパートナーコンテスト】
<>(^・.・^)<いよいよ始まります【ベストパートナーコンテスト】
『それではお集りの紳士淑女の皆さま、場内中心の高台にご注目! 今大会に協力してくださるバディーズの面々の登場だァ!』
「うおおおおぉ!」
「みんな頑張れー!」
「負けんじゃねぇぞぉ!」
口々に声援や野次を飛ばす観客の海の中に、電飾を纏い聳え立つ丘が一つ。
照明が落とされた会場内のスポットライトが解説・司会席から外れ丘の頂上へと滑ると同時に、頂上に穴が開き始める。
ゆっくりと、しかし着実に開くその穴は、大きな機械が互いを揺らしあう音を響かせ、やがて止まる。
『バディーズ、カモォン!』
司会の一言を合図に、床下から金具同士が噛み合う金属音が鳴る。
観客が床下へと意識を引っ張られるうちに、その金属音が次第に勢いを増して。
激しい衝突音と共に、俺達が丘の上の穴から飛び出した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおお!!!!」
会場の盛り上がりは文字通り最高潮。
観客の海が雪崩のように丘に押し寄せる錯覚がした。
以前の〈妖技場〉よりも観客との距離がかなり近い、緊張はしないが自分が注目されているのが否応なしに自覚させられた。
『さぁ今年のバディーズは以上の面々………だけじゃぁ終わらない!』
観客の声が一瞬静まったその瞬間に、司会の声が差し込まれる。
確かにそうだ、リハーサルの際にいたあの妖怪が存在しない。
俺達参加者側は分かってはいるが、一応周囲を探るような演出をしてほしい、と伝えられている。
俺を含めて丘の上に立つ四人がそうして探る内、会場内を独立して揺れ動いていたスポットライトが、解説・司会席のあるステージ側とは反対側の、出入り口のある方へと集まっていく。
俺達は話には聞いていたが、それでもやはり会場の雰囲気や熱量の御陰でどうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
スポットライトが後ろに集まると、今度は二階部分のトレーニング器具が置いてあるスペースに設置されたステージライトが、順に点いて行く。
破裂音にも似た点灯音に、人混みのせいでスポットライトの動向を追えていなかった観客が一人、また一人と後方へと目を向けていく。
そして場内の全員が目にしたのは、ステージライトにより下から照らされる、巨大な骸骨、いやがしゃどくろの姿。
「GALAAAAA!」
視線を一身に浴びた全身骨格が雄叫びを上げる。
体育館の壁と天井がびりびりと震えるような感覚を覚えさせ、スポットライトとステージライトがコンビネーションを組んで隅々までがしゃどくろを照らす。
すると、肋骨が観音開きになり中にいた人物が飛び出てきた。
片手にマイクを持ちながら、器用に空中で回転して、俺達バディーズのいる丘の頂上に並び立つ。
そうして参加するバディーズの五人が揃い、がしゃどくろから追従してきたスポットライト五つが各々を浮かび上がらせた。
跳躍してきたのは、大柄で特徴的な剃り込みを入れた、サングラスの男性。
血管が目に見えるくらいまで力が込められた両腕、服に拷問を施しているかのように膨れ上がった上半身、それに引けを取らぬほど万全に鍛えられた下半身。
それら全てが、彼が骸骨であるなどとは思わせない程、肉体美を迸らせていた。
「おぉしお前らぁ、盛り上がってるかぁ!?」
「うおぉぉぉぉぉおおお!」
「うぅし上出来だ! 司会の兄ちゃん今日はよろしく頼むぜぇ!」
『完璧なパス、そして極上の登場演出ありがとうございますチウメさん! ………ではでは、まずはバディーズの皆さまに一言ずつ意気込みをお願いしましょうか!』
チウメと呼ばれた剛漢は、手元のマイクのスイッチを入れて会場の盛り上がりを確認した後、そのまま軽く意気込みを語り始めた。
一人当たり凡そ一分か二分ほど、一言二言に留めるように、これまた事前に頼まれている。
オーディエンスの盛り上がりを維持し高めるため、人前でのパフォーマンスが苦ではないチウメさんが火付け役を買って出たのだ。
やがて俺以外の四人分、意気込みと拍手のルーチンが熟された。
そして、最後に一言喋る俺の為に、隣に立つルニードさんがマイクを手渡してくれた。
『ではでは、今回のバディーズの最終メンバー、トロンさんです!』
「えー、はい、トロンです」
マイクの電源が入っていること、そして司会に振られたことを踏まえた上で、喉の奥を開く。
特に意味があるわけではないが、周囲を見回した。
「───」
先程の登場シーンまで大いに熱狂していた観客たちが、一言も漏らさず俺の唇の動きに注目しているのがわかる。
もしかしたら先程のそそっかしい男の子やつるちゃんがいるかも、と思い立ち一人一人の顔を見ながら名前と軽い自己紹介をしていると、ふと明かりの点いていないステージに目が留まった。
気配を、感じる。
というよりも確信に似た何かが俺の目線を手放そうとしてくれなかった。
「───というわけで、俺は今日絶対に勝ちます。勝って、そうしてこれからずっと一緒にいます」
『………す、素晴らしい決意! 聞いてる此方が恥ずかしくなりそうだッ、皆さま盛大な拍手を!』
「っ、頑張れぇ!」
「かっこいー!」
「負けんなよ!」
拍手と共に様々な言葉が耳には届くが、その意味を解釈するための脳の余地は残されていなかった。
ただ、暗闇の先にいる筈の彼女の瞳の、その奥を覗き込むことだけに俺の骨の髄から毛の先までが使われていたのだ。
気が付けばマイクの電源はオフになり傍らのルニードさんが握っており、その時既に司会の人の総括は終わっていた。
『それでは今度はマスターズの登場! ステージ上へご注目ください!』
その言葉と同時に、スポットライトが俺たちのいる体育館中央の丘から前方のステージへと移り、今まで光だった場所が闇へ、闇だった場所が光へと変貌する。
「───」
「───」
その時、俺は視線をずらしたり焦点を合わせたりはせず。
ただそのまま、送るべき視線を送るべき場所に送り続けていた。
そして、それはどうやら彼女も同じようで。
向こうから見れば今此方は暗闇もいいところだ、急に光に照らされたこともあって夜目は普段よりも利きにくいはず。
それでも、彼女の相貌はしっかりと俺の瞳の奥底を捉えて離さなかった。
互いに互いを離そうとせず、そもそも視線を外すという発想すら浮かばない。
そうして数分が過ぎたころ、今度はマスターズ達の意気込みを語る番。
順番にバディーズと同様の様式美が為された後、彼女のターンがやってくる。
「───えっと。つまり今日はかちます。そして、言いたいことも、言います」
『はい、というわけで以上がマスターズの皆さまです、今一度盛大な拍手を!』
彼女の言葉に含められた意味は推し量るほかないが、恐らく俺に向けたメッセージ。
となれば、俺も彼女も今大会には勝ちたいと思っているわけで。
………面と向かって笑い合うまでには仲直りが済んでいないのが、残念だけれど。
つい二週間ほど前のような意思疎通が不可能だ、とするのならかなり不味いかもしれないけれど、きっと大丈夫だ。
瞳の奥に、そう書いてある気がした。
『さてさて、それではバディーズの皆様、マスターズの皆様の所までお越し下さい!』
司会の言葉を受け、俺達五人の妖怪は丘から降りて、人の海を割って歩く。
預言者になったかのような気分だ。
『今年のコンテストも大盛り上がり間違いなし、皆さま素晴らしい気合の入りようですな! 解説の玖波井さんは、前回大会優勝者としてどう思われますか?』
『そうだねぇ………やはりこの大会は互いへの理解と信頼が何より大切だ。ないとは思うけど、仮にこのタイミングで仲違いでもしていたとすれば、優勝はかなり厳しいかもね』
『なるほど………ではズバリ優勝予想をお聞きしても?』
『大本命は肉体言語で通じていそうなチウメペア、次にバディーズの察する能力が高そうなルニードペアかなぁ? トロンペアも先程のやり取りに意味深なものがあったし、ブラックホースになるかもねぇ?』
『なるほどなるほど、しかし大会の行方は最後まで分からぬのが世の常です、参加者の皆様は是非最後まで気を抜かずに』
『ま、去年のボクらのスコアには勝てないだろうけどねぇ! アッハハハ! ───ちょっと会場、此処は笑いどころじゃないぞ!』
移動中、解説・実況席での掛け合いが為され、観客を飽きさせない。
恐らく玖波井と呼ばれた男子生徒は会話の流れから察するに昨年度の【ベストパートナーコンテスト】の優勝者なのだろう、実績がある御陰か随分と自己肯定感が高いようだが。
本心から出たであろう言葉が却って会場を沸かせることになるとは、エンターテイナーとしての素質は十二分だろう。
戦闘のチウメさんがステージに登るために階段を上り始めたところで、再び司会が声を上げる。
同時に、ステージ奥にある巨大スクリーンに何やらスライドが表示された。
『それではここで、本日のコンテスト、そのルールを説明していきたいかと思います!』
『よろしく頼むよ』
『お任せください! ………この【ベストパートナーコンテスト】は、参加するペアの中で最も通じ合っているペアはどれか、を決める、文化祭一日目を締める超目玉大会となっております!』
『実に素晴らしい企画だね。で、一体どうやって決めるのかな?』
『ルールは簡単、全てのペアには三つのミッションをクリアしていただき、そのクリアタイムや順位を基にポイントを算出、最終的に最もポイントが多いペアを優勝とさせて頂きます! 僭越ながら優勝賞品の贈呈もありますので、是非頑張ってください!』
うおおお、とステージ上とギャラリーの海の両方から雄叫びが上がる。
バディーズ全員がステージに上がった今、当然俺もステージ上にいる。
そして彼女の後ろに立っているのだが、彼女は一向に俺に反応しようとする素振りを見せなかった。
他のペアたちは互いに応援し合っていたり背中を擦ったりしているし、先程までは視線が合っていたのだが。
未だにこの距離で何かを話すのは緊張する、という事だろうか。
いや、しかし彼女のことだ、ここまで来て単なる感情に任せてそっぽを向いている、とは考え辛い。
となれば、何か大切な事情を抱えており、人前で話すわけにもいかず、言葉を紡ぎ出そうにも何を言っていいやら分からない、といったところだろうか。
………それ、俺の置かれた状況と殆ど同じだな。
彼女の様子を伺っているうちに司会がルールの説明を終え、観客席とステージの両方に声を張り上げる。
『───それでは早速参りましょう、最初のミッションはこちら! 〈目指せ全問正解! マスターズクイズ〉ッ!』
俺と彼女のこれからの関係を守るための、その第一歩がここから始まる。
<>(^・.・^)<実は火曜日にも投稿してますのでまだの方はそちらからどうぞ〜!
<>(^・.・^)<第二章終幕までは火曜と木曜の週二回を画策しておりまする!




