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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の四七 憧れは理解から最も遠い云々

<>(^・.・^)<後数話で二章終わる予定〜

 騒がしさが普段よりも数倍になっている道を歩く。

 行きたくない、という気持ちはないが、一方で不安はやはりある。

 整理しよう、今から俺がすべきことを。

 まず、文化祭の【ベストパートナーコンテスト】で優勝し俺の誠意を示す。

 そして、その後奏のことを考えているし、知りたくなっている、と伝える。

 そうなれば、恐らくは。


「上手くいくといいんだがなぁ………」


 心の中の弱音が喉を通って外気に触れる。

 呼応して芯まで冷える心地がした。

 この感覚、所謂嫌な予感と呼ぶ類のモノだ。

 あぁ、もう気疲れが半端ではない、先日の頭痛からずっと、頭を悪い方向に使う出来事ばかりだった。

 それもまぁ、今日でケリが付く。


「そろそろか」


 次の角を曲がれば、そのうち奏の通う高校に到着する。

 何の変哲もないはずの風景が、昨日の出来事によって灰に彩られていく。

 抗うように、切り開くように一歩一歩に力を籠める。

 そうして曲がった角のその先、学校の門が見えてくる。


「おぉ………」


 文化祭特有の、煌びやか且つ派手に装飾されたモニュメントがくっついた校門が来場者たちを出迎えている。

 偶々俺の来るルートでは他の来場者には会わなかったが、見渡すと老若男女がそれなりの数いる。

 とはいえ密集しているというほどではないから、恐らく初日は在校生の親類及び卒業生のみの来校、という決まりでもあるのだろう。

 校門から靴箱辺りまでは食べ物の屋台が中心に展開されており、香ばしい香りや甘い匂いが鼻をつつく。

 人間だった頃よりも嗅覚がかなり発達していて、辺り一帯の香りはむせる程濃厚に感じられる。

 今日はこの後の予定まで時間が無いから寄り道は難しいが、文化祭は二日間開催されるらしいから、明日また来てみようか。

 グラウンドでは野外ステージが盛況しており、反対側では何らかのアートと思しきオブジェがかなりの数設置されている。


「ねー、次どこ行こっかー?」

「見て見て、あの屋台おいしそー!」

「私らのシフトいつからだっけ?」


 生徒たちの賑わいが狐耳を心地よく揺らす。

 ………そういえば、奏はクラスで何をやるのか聞いていなかった気がする。

 こんなことすら聞いていないなんて、怒られても仕方がないな、と我ながら情けなく思い苦笑が漏れた。


「………ん?」


 見渡していると、つるちゃんらしき人影が見えた気がしてそちらへ注意を向ける。

 クレープの屋台で、体育会系らしき男子生徒とともに並んでいるのが視界に入った。

 二人揃って腕章が付いているところから、両方とも文化祭実行委員なのだろう。

 ということは、以前つるちゃんと初めて会った際に言っていた何とかちゃん、なのだろうか。

 仲の良さそうな雰囲気が漂っているうえ、二人しかいないメンバーのうち片方は知り合いでも何でもないから、その場は温かい目を向けるだけで切り上げた。

 早速【ベストパートナーコンテスト】が行われる体育館へと向かった。


「盛り上がってるな」


 体育館からは歌と楽器の重奏が鳴り響く。

 入り口から遠巻きに眺めるだけでも、体育館内の熱気が伝播してくるようだ。

 中に備え付けられている時計は暗いのと人混みで碌に確認できなかったため辺りを見渡すと、体育館とプールの間に立つ時計が目に入った。

 事前に知らされていた時間よりもやや早めに着こうとして家を出たのだが、どうも早く着きすぎたようだ。

 今も別のイベントを体育館で行っているし、そもそも先程担当者のつるちゃんを外で見かけたから、その時点で気付いてもよかったか。

 しかし校内を見て回るには短く、立って待っているには長い。

 であれば、と先日リハーサルに来た際に見た休憩用のスペースを思い出した。

 今は文化祭中、来場者を絞っている様子だとは言えかなりの人数がいるかもしれないが………


「ライブにこれだけ来てれば、流石に空いてるよな………?」


 この後動き回る可能性まで考えると少しでもゆっくりしておくべきだと思うのだけど、果たしてどうなるか。

 そう心中でやや怯えながら向かった先、ベンチが並び自動販売機も壁に沿って設置されたスペースに辿り着く。

 風もいい感じに吹いているし日光の入りも悪くない、随分と気分のいい場所だ。


「あ、あわ」

「?」


 意外と空いていたことに安堵してベンチの一つに腰掛けると、付近の別のベンチから声が聞こえた。

 かなり前に聞いた覚えのあるような声は震えていて、声と言うよりも喉を通して音を発している、といった方が正しいかもしれない。


「あわわわわ、いた、いたよ………」


 声の出所はすぐ近く、恐らくは隣か後ろあたりのベンチだろう、と当たりを付けて探すと、案の定後ろのベンチに人がいた。

 頭だけ向けて不自然に思われない様に観察すると、気分でも悪かったのかタオルを傍らに横になっていたと見え、顔の横側にはベンチ特有の筋が跡になっていた。

 確かにさっきも思ったようにここは気持ちがいい、人混みに疲れた人が人心地吐くのには丁度いい。

 となれば、俺が此処に来た足音で起こしてしまったのだろうか、だとすれば申し訳ないことをした。


「あの、起こしてしまいましたか?」

「えっ、あっいや、そんなぁっ!」


 ベンチから立ち上がって声の主と相対し、きちんと顔を見る。

 声から察しは付いていたがやはり男子生徒、髪型や姿勢のせいか、やや気弱そうな雰囲気を醸し出していた。

 俺の顔を向きながら言葉を発しているようだが、目線は泳ぎ手は意味の分からないジェスチャーを繰り返している。

 余程疲れているのか。


「すみません、自分のことは気にせずお休みになってください」

「いっ、いえいえ滅相もないっ! これにて失礼しま」


 男子生徒は俺の言葉を聞いた後すぐに立ち上がり、この場を離れようとした。

 先にいたのは向こうだろうに、なんだか申し訳ないな………と思った時。

 寝惚けと慌ての二重苦が男子生徒に襲い掛かったのか、ベンチから床にまで到達していたタオルに足を取られて男子生徒が体制を崩した。


「わわっ!?」

「っ、危ない!」


 急いで手を伸ばし、間一髪で床に激突しそうになった男子生徒の身体を支えた。

 休憩を邪魔したうえに自分のせいで怪我を負った、となればいくらなんでも罪悪感が半端ではない、間に合ってよかった。

 ふう、と一息つくと、俺の腕の中で男子生徒は呆けていた。


「………」

「あの、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「あっ、大丈夫ですっ、ありがとうございます!」

「いや、落ち着いてください、それは自動販売機です」


 明後日の方向へお辞儀をし出した少年の背中に声を掛けた。

 うーん、大丈夫かこの子は。

 一旦座ってもらって、深呼吸の後に少年が自分で持っていた飲み物を口に含んでもらい、ゆっくりと喉を通してもらった。


「落ち着きました?」

「は、はい。ありがとうございます。ごめんなさい、普段はコンタクトレンズなんですけど」


 どうやら少年は相当に視力が悪いらしい。

 それでも九尾の狐と自動販売機を間違える程となると、限度があるだろうと思うけれど。

 というか、落ち着いて見ていなかったから今になって気付いたが、この少年にはどこかで会った覚えが………


「あ、あの、一つ聞いてもいいですか?」

「? 何でしょう」


 近くの時計を見るとそれなりに時間は進んでいたが、まだ集合場所に向かうまでに余剰はある。

 恐らく問題ないと判断して促した。


「貴方、えっと九尾様? それとも」

「あー、トロンで大丈夫です」

「トロン様、貴方は〈白九尾〉の妖怪ですか?」


 その名前を淀みなく言い切った少年に、やや驚きの眼差しを送った。

 探偵事務所で顧客に会う機会は何度かあったが、俺を〈九尾〉と呼ぶことはあれど、〈白九尾〉まで限定する人には出会った記憶がない。

 いや、一人だけ居たような気もするが、あれはどうも事情が特殊だったし、これが初と言って差し支えなかろう。


「そうだけど。どうしてそう思ったんだ?」

「何を言いますか、貴方の御姿は〈白九尾〉そのもの、見間違えようがありません」

「いや、それはそうだけど………?」


 この感覚、何処かで覚えがある。

 心当たりのない点に過剰に反応されるこの居心地の悪さは………。


「………もしかしてだけど。君何処かで会ったことないかな?」

「───!」


 心当たりが一つだけ浮かび上がったため、一つの質問を投げかけてみた。

 耳に俺の言葉が通ったらしい少年の顔は歓喜が色濃く踊り出し、瞳には涙すら浮かべているように見える。

 雰囲気からしてその可能性を考えていなかったわけではないが、唐突過ぎて対応に窮してしまう。


「あぁ、こんな不肖の私を覚えていてくださったとは………! その節は緊張のあまり碌な応対も出来ず、毎夜愚かな行いを恥じており───」


 今度は先程に打って変わって饒舌になった少年。

 この言葉から確信が持てた、この少年は俺が此方の世界にやってきてすぐに出会った、あの少年だ。

 順番としてはビズに会う前、自分の姿すら鏡で眺めていなかった、〈白九尾〉となったことすらわかっていなかったあの時だ。

 当時はイザナミさんに頼ることが出来ず自分で情報収集にあたるため、誰でもいいから会話をしたい、と思って話しかけたんだったか。

 ………今にして思えば随分無防備だったかもしれない、相手が自分とは異なる文化圏の住人の可能性、自分に危害を加える可能性、その他諸々を失念していた。


「あー、どうどう、落ち着いて」

「あ………これは失礼しました、つい昂ってしまい」

「うん、大丈夫だから」

「誠にすみません、急いで顔を洗いに───あ痛ぁ!?」


 一瞬落ち着いて肩を竦めたかと思えば、今度はいきなり立ち上がって蛇口へと向かおうとする。

 其処から先は先程と全く同じ流れが続く、床まで届いていたタオルを踏みつけて盛大に転んでしまった。

 今度は座っていたこともあり間に合わず、結果少年は顔面からコンクリートへとダイブしてしまった。

 急いで怪我の程度を確かめ、近くにあるらしい救護室へと運んでいった。

 その後時間を確認すると、もうすぐ集合予定時間。


「結局何が何だったんだ?」


 転生直後にこのやり取りしてたらメンタルの疲弊凄かっただろうし、下手な勘違いをしてそうだった。

 足は歩きながら思考が混濁してきた頭でも、それだけは断言できるのであった。

<>(^・.・^)<この子の再登場、予知してた人います? いたら教えて欲しいな

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