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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第一章 出会いと優しさと
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其の七 俺、困る。

 奏ダディ、つまり兜さんが去っていくと、後に続くかと思われた執事兼運転手? の井川さんは、以外にも主人に付いて行く事はしなかった。

 執事? としての仕事はいいのだろうか?

 その点気になったので、聞いてみた。


「あの、井川さん? 付いて行かなくても良いんですか?」

「ご心配ありがとうございます、トロン様。しかしながら、必ずしも執事は主のそばに居なければいけないという決まりは、ございません」

「そうなんですか?」

「はい。むしろ、『主の居ない時にどれだけ主の期待に応えられるか』が、プロの執事としての腕の見せ所なのです」

「はー、そうなんですか。執事の世界にも色々とあるんですね」


 執事って大変そうですね。

 でも、綿貫家の事とか、この家の敷地、エトセトラ、について喋る時の井川さんはなぜだかとっても活き活きとしてるんだよな。

 執事の仕事も、案外悪くないのかも知れない。

 俺は、人の下に付くのは苦手なんだけど、井川さんや田光さんのように、『ザ、人の下に付く仕事』をしている人にしか分からない何かがあるんだろうなぁ。

 やりたい事、好きな事は人によって違うから、仕事に対する価値観、仕事の意欲も違うし、仕事の向き不向きだって、当然違う。

 その中から、自分のやりたい、好きな仕事を見つけるのが重要であり、それができなくても、今の仕事を好きになる、楽しむ努力が必要だ。

 と、親父が言っていたような、言っていなかったような。

 なんにせよ、その意見には同意なので、自分も自分の身の丈にあった仕事を見つけたいと思います。

 で、俺にあった仕事っていったい何なんだろうか。

 そこまで考えた時、井川さんが口を開いた。


「申し訳ありませんが、トロン様。私はこれで失礼します。どうか、ごゆっくり」

「あ、はい。おっけーです」


 井川さんは、俺に一礼した後、兜さんとは逆の方向、つまり屋敷の方向に歩いて行った。

 さっき言っていたように、主人の期待に応えるのだろうか。

 執事のお仕事、ご苦労様です。



 特に行く当てもなく、当初の予定通り、お屋敷見学に行くことにした。

 歩きながら、さっき考えてたことの続きを考える。

 ......自分にあった仕事を見つけるには、自分そのものを見つめなおす必要があるだろう。

 自分の事を見つめなおすには、客観的に見た自分を自分の中に取り入れるのが良いと思う。

 自分で自分を客観的に見ることは難しい。

 自分で見るのが難しいのならば、他人に見てもらえば良い。

 結局のところ、この世は一人では生きていけないのだろうか。

 人付き合いが苦手な俺に言わせれば、『ふっ、この世も生き辛くなったものだ』という感じか。

 ...冗談抜きで俺は辛い。

 って言うか、自分で考えた内容で、自分が悲しくなるって、俺、大丈夫か?

 自分で自分がちょっと悲しくなる。

 ちょっとな、ちょっと。



 屋敷の中は、見た目相応に広く、むしろ見た目よりも少しばかり広く感じる。

 俺が今いるこのリビング? 的な部屋には、やたら高そうな壺、置物、絵画、そしてじゅうたん。

 置いてあるすべての物が『お金持ちしか手が出せませんよオーラ』を出していて、俺みたいな一般家庭の長男には、遠巻きから眺めているのが精いっぱいだった。

 これまた高そうな椅子を引いてしゃがみ、この椅子の脚の曲がり具合を観察している俺の耳に、どこからかオカリナの音が入ってきた。


『どうせ誰かのリハーサルか何かだろう』


 この家のホールの存在を思い出し、こう推理した。

 推理と呼べるほど大げさな物ではないにせよ、あながちまちがってもいないだろう。

 というか、俺の所有物でもないこの家で、オカリナを吹いているのが、近所の専業主婦だろうが、いたずら好きの男子小学生だろうが、逆立ちをしたラクダだろうが、連続殺人犯だろうが誰だろうが俺には何の関係も無いのである。

 ......いや、無い事はないか。

 一晩泊めてもらった訳だし。

 その恩人がいる訳だし。

 もし仮に連続殺人犯がいたとしたら、そいつが奏やその他に襲い掛かったとしたら。

 またしても自分の考えた内容で不安感をあおられた俺は、念のためホールへと向かうのであった。




 音の方向に進むと、どうやら殺人犯はホールとは別の場所にいるらしい事が分かった。

 音は花の園の方向から聞こえてくる。

 咲き乱れる花の中、オカリナを左手で持って演奏し、血に濡れるナイフを右手に携えている殺人犯が、果たしてこの世に何人いるだろうか。

 そんな妄想をしながら音の方向へと急ぐと、程なく音源にたどり着いた。

 犯人がいたのは、東の花壇。

 うわさに聞く巨大花時計、その中心(つまり短針と長針が固定されている場所)で、オカリナを手に持って口に密着させ、美しいメロディを奏でるうら若き女性が一人。


 《オカリナって、最近あんま見ねぇな》


 とか思いつつ、長針の指す場所を目指して進む。

 女性は、けっこう集中しているらしく、いっこうに俺の存在に気が付かない。

 別に良いんだけどね? 俺の影が薄~い訳じゃないと信じてるから。

 今は大体10時ちょうど。

 花時計の入り口は、時計で言うと、6時の方角にある。

 位置的に、ちょうど正反対の場所にあるので、時計という物の性質上、右、つまり3時の場所を通りながら、移動する目的地を目指す。

 にしても、この花時計、でかすぎだろ。

 ハクタイジムのギミックかよ。



 程なくして......いや、程なくねぇ。

 けっこう程あったわ。

 俺が、3時の場所にやっとの思いでたどり着いたとき、ちょうど長針が15分の位置に来たんだけど。

 俺の脚が遅すぎるとか、体力が無さすぎるとか、そーいう事は無い。


 ......はずだ。


 きっと。


 たぶん。


 おそらくは...


 ...というか...そうだと願いたい......


 っていうか、俺、今日はなんかすっごいネガティブだな。

 我ながら、キャラが全然立ってなくて泣けてくる。

 ってところがダメなんだろうけどな。うん。

 分かっていつつも、俺ってこーいうマイナス思考だか、マイナスイオンだか何だか知らないけど、なんかそーいうのにハマると結構引きずるタイプなんだよなぁ。

 ま、前を、前を見て生きるしかないんじゃないかなぁ。


 と、そんなことを考えてるあいだに、俺が向かっていた花時計の中心、まるで玉座のようにたたずむ一つの西洋風の椅子。

 その上にひっそりと......いや、『ひっそりと』ではないか。

 音を鳴らしてる訳だし。

 かと言って、『騒々しい』かと言うと、そうではなく、『聞こえないほど音が小さい』こともない。

 適当に、『耳に心地よい』とでも表現しようか。(あ、あくまで、適切かつ妥当、の意味な? け、決して、別にどうでもいい、とか、そんな風に思った訳じゃないよ? ほ、ホントダヨ?)

 おっと、話が脱線したな。元に戻そう。

 で、そんな高級そうな椅子に座り、オカリナやハーモニカ、さらにはトランペットまで、まぁとにかく色んな楽器を『耳に心地よい』感じで吹き鳴らしている女性が一人。

 一歩、また一歩と長針を踏みしめて近寄ると、さすがにこっちに気付いたらしい。


 (......俺と相手の距離、残すところ0.5メートル、つまり50センチの位置まで近づいた時に気付かれたのはほっといてくれ)


 でもって、俺がさらに近寄ると、こっちを向いて一瞬止まる。

 .........え? え、何?

 全く心当たりのない俺は、どうしたものかと立ち尽くす。

 大丈夫かな?


「おーい、おーい、おーい」


 と言いながら、相手の目の前で手のひらを上下させる。

 ボーっとしている人に対しての一発目は、大抵こんなもんじゃないだろうか。

 しかしながら、全く反応がございません。

 これはいったいどういうことだろう。

 まあいい。次の手だ。


「おぉーい、おおぉぉーーいぃ!」


 先ほどの動きをリプレイする。

 ただし、少々早送りして、音量を上げたがな。

 これでもかというほど繰り返しても、全っ然動かない。


 《さて、どうしたもんかねぇ》


 めんどくさい事になる予感。

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