其の二八 立ち開かる壁
<>(^・.・^)<連続投稿二話目〜!
「よっ、はぁ、ほぉっ! ≪炎拳≫ゥッ!」
「うぐっ、くっ、≪高熱鎧≫!」
『さぁさぁ開幕からの[火炎神]の猛攻は止まらない! [M・F]、全身を這うように尻尾を纏って凌いでいるぞぉ!』
≪高熱鎧≫。
九本ある尻尾のうち、二つづつを両腕・両脚に纏わせ、残った一つで最低限の風での動作補助を行う。
修行中、尻尾の一本一本に一つずつ妖術を発揮させると制御しやすくなる、という発見を経て、本来はトイに凍らされない様にと生み出した、全身を熱で覆う技。
常識で考えたら、超絶火力を発揮する炎使いに対して全身を熱で覆うのは愚策だろう。
しかし、トイならいざ知らず、俺ではこの炎を相殺できるほどの冷気は出せない。
故に≪氷結鎧≫は使えず、同系統の妖術で通り道を作ってやるほかない。
だが………。
「おいおいおい、んなトロくせぇ動きじゃ早晩妖力が尽きてお終いだぞ!?」
「それもまた、修行ですので!」
「へぇ、根性あん、なッ!」
ガツン、という音が相応しい衝撃音が俺の腕と[火炎神]の拳との間に起こり、マイク越しのソレに観客が湧き上がる。
九本のうちの八本の妖術維持に意識と妖力を割いているせいで、残り一本の高風の制御と出力が追い付かない。
このままでは確かにコイツの言う通り、俺の妖力は尽きてしまう。
コイツの妖力量がどの程度で、今どれくらいのペースで消費しているか分からないが、戦神両翼の方翼に数えられるくらいだ、ペース管理はお手の物だろう。
問題は、それを覆せるほどの隙がコイツに見いだせるかどうかだが。
(くっ、コイツ、粗暴な割に冷静じゃないか………!?)
口の悪さ・拳の荒々しさと裏腹に狙いは正確、ガードの薄い箇所を的確に突いて来る。
ならば………!
「………お? ───≪炎蹴≫、っと」
「な、ぁ!?」
敢えて脇腹から腕を逸らして、燃える拳を撃ち込む暇を与える。
拳が到達する直前に体を覆う尻尾を数本回し、持てる氷の力を最大限使って熱を抑え、腕を取って組み伏せる、つもりだった。
ところがどうだ、コイツは一瞬でそれを見抜いて軌道を逸らし、拳を手前側に空振りさせつつフックの回転力を活かして回し蹴りで上段を狙ってきた。
すんでのところで元の作戦を放棄して側頭部及び首の防御に回したが、体ごと回転した勢いを乗せた蹴りの勢いは誤魔化し切れない。
尻尾に妖力を巡らせてもなお多少の減衰にとどまった蹴撃が、ちっぽけな狐を吹き飛ばす。
不思議な力で形成された山林地形の木々をなぎ倒して、それでも止まらない。
(………馬鹿、力かよっ)
『おぉっと! [M・F]、[火炎神]の回し蹴りをまともに食らったぁ! 山林地帯の障害物もお構いなしに吹き飛ばす、やはり[火炎神]の二つ名は伊達じゃないぞっ!』
更なる訓練を積んだ今ですら、体感はあの時のナサニエルの一撃よりも重い。
拳と蹴りの違いはあるとはいえ、いくら何でも化け物だ。
だが、俺もあの時とは違う。
「お? 立ち上がるか。やっぱやるねぇ、オレが見込んだとーりだな」
「こんくらいで仰向けになっていいほど、背負ったものが軽くなくてな」
「そーで、なくちゃな!」
『おぉ!? 立つ、立つぞ、[M・F]が立った! この出た杭を打つのは一苦労だぁ! お前たち、コイツぁまだまだ楽しめそうだぞぉ!』
俺たちの掛け合いに加えて、黒原の実況が観客の熱に油を注ぐ。
[火炎神]も楽し気に口角を吊り上げているのが、遠くからでもわかる。
さて、これからどう詰めていこうか。
「今度は、こっちから、行きます、よっ!」
「あぁ、来いっ!」
『[M・F]、今度は尻尾の配置を少し変えてきた! 動きはどう変化するのか!?』
両腕に回していた二本づつの尻尾のうち、一本だけ残して脚の補助に向かわせる。
先程が安定を重視した攻防一体の構えだとしたら、此方は安定よりも速度を重視した形態、≪憑時雨≫のうち風を重きに於いた≪突風装≫。
シンプルかつ無作為な出力で俺を上回る速度を悠々と出してくるシンミに対して、少しでも食い下がろうと開発した小手先の小技。
本来なら、先程までの≪高熱鎧≫と同様に四肢に二本ずつ設けて、脚力に限らず拳を振るった際の勢いを増加させる。
しかし、この相手に対してはそれでは悠長過ぎた。
故に、今まで鍛えてきた俺自身の妖力を用いたガードと、綿貫グループの技術が結集したバトルスーツを信じて、相殺用の熱を放出する尻尾を一本分残し、ここはバランス型から機動力重視にシフトチェンジだ。
「≪突風装≫………ふぅっ」
「ん~? ………おっ」
吹き飛ばした速度に負けず劣らずの速度で接近した俺の、先程よりもスピードアップした拳を受け止める[火炎神]の顔色がやや変わる。
その表情は驚きと言うよりも、探していた玩具が見つかったかのような高揚したモノだったけれど。
意趣返し、と言うほどでもないけれど、受け止めてきた腕に拳を滑らせ、そのまま回し蹴りを繰り出す。
風を切る音が響いて、初めてまともに食らわせられた。
背中に入った蹴撃に、[火炎神]は背中を丸めそのまま前転して勢いを殺す。
本当に一撃一撃に対しての処理が尋常じゃなく速く、そして精緻。
───学びどころしかないな。
『さっきよりも速度の増した[M・F]! あの[火炎神]を振り回しているぞぉ!?』
「なーるほどなるほど、オマエ、そーゆー緩急が得意なタイプね」
「分かった、ところで!」
一発当てて即離脱を繰り返し、徐々に体力を削っていく。
蹴りを入れては飛び去り、拳を叩きつけては跳びはねる。
林の中での戦いは既に何度も行ってきている、傾きの活かし方、乱立する木々を利用した立ち回り、相手からの視線の切り方などなど、戦場の熟知で言えば、〈妖技場〉のプロフェッショナルといえども引けを取らないはずだ。
コイツの言う通り、俺は多様な妖術とその組み合わせで緩急をつけながら戦っていくのが得意、だと分析している。
シンミにもトイにも、彼女らのもつ妖術では敵わないが、別の力を差していき冷静に観察することで勝機が生まれる。
[火炎神]に対してもその流れを持ち込むのは単純だと言われてもやむを得ないが、それでも他に出来ることもない。
対応されないように、少しづつ妖術の風を強め、意識して妖力を巡らせて脚力を増強する。
しかし、これもまた戦神両翼と呼ばれる由縁だろうか。
「ん~………ここ」
「く、つぁ」
『なな、何と[火炎神]、格段に速くなった[M・F]の一撃をしっかりと受け止めた! これは早く勝負を決めないと[M・F]はキツイ展開かぁ!?』
≪突風装≫に切り替えてから三分も経たないうちに、[火炎神]は俺の蹴りを見切って払ってきた。
最高速に達してからは一分経ったか経たないかすら分からない。
黒原の言う通り、試合が始まってから俺のペースに持ち込めていない。
終始自分の調子に取り込んでいく腕前こそが、戦神両翼の真髄なのだろうか。
一旦距離を取って、息を整えるのも含めて少し立ち止まった。
(………奏)
ちらりと目を向けたその先に見えた、胸の前で両手を合わせて立ち上がっている彼女の姿。
うん、そうだ。
約束だもんな、楽しむって。
「うーんうん、やっぱいい顔してんよオマエ。不退転、ってーの? オレまで楽しくなってくるぜ!」
「光栄だ。かの[火炎神]にそんな顔をさせられるとは」
『両者共に笑みを交わす! この勝負、〈妖技場〉きっての爽やかな試合になりそうだ! ………彼らの雄姿と高潔な魂に喝采を!』
黒原のオーバー気味な身振り手振りに誘われ、観客も立ち上がって拍手を響かせる。
雷鳴のような歓声と弾けるような掌の衝突音を背に、頬に滴る汗と血を拳で拭い、[火炎神]が肩を解して首を回す。
≪突風装≫を更にフォームチェンジ、尻尾を四本ずつ右と左の足に装着し、残った一本で全身に薄く熱を纏わせる。
狙いは一つ。
トルフェとの一戦で俺が食らったように、彼女を場外まで引きずり込む。
正直、この相手にそれが通用するかは怪しいが、しかしそこは一つ考えがないこともない。
[火炎神]の名の如く、現在までに判明している相手の妖術は圧倒的な炎の力。
それ以外の能力があるのかどうかは俺にはまだ分からないが………流石に持っていてもあともう一つか二つだろう。
となれば状況対応力は俺よりも低いか俺と同程度。
風の力をフルに使い、その上で相手の動きを隅々まで観察し、踏み出すべき一歩を過たず踏み込む。
俺に出来るのはその程度だ………それで通れば俺の勝ち、相手が上回れば[火炎神]の勝ち。
泣いても笑ってもそれで仕舞い、最高の舞台を整えてくれた観客たち、黒原、そして[火炎神]に感謝を。
「───ハハッ」
「おらぁ! ッ来いやァッ!」
『素晴らしい、素晴らしい気迫! ここで試合が決まるのかァ!?』
<>(^・.・^)<いよいよ次話、決着の時
<>(^・.・^)<決着は本日分最後となる17:00過ぎ頃!
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