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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の二三 今はいない、アイツの御陰で

<>(^・.・^)<イメージとしては


<>(^・.・^)<アー◯ンパークのサ◯ジVSク◯オビですかね

(………このままだとまずい………ッ!)

「オウ、随分苦しそうじゃねェか? まだまだこんなもんじゃねェよなァ!」


 ギュン、と音がするかのように加速したトルフェが、一直線に俺に襲い掛かる。

 俺も対応すべく藻掻き、防御すべく氷を生み出した時点で気が付いた。

 この状況、下手に氷を出してしまうと俺まで氷漬けになってしまう。

 水中で氷結能力を使う想定などしていなかったから、当然トイとの訓練でもこのケースに対応できる方法を教わってはいない。

 辛うじて救いなことに、俺の氷能力がそこまで高くなく、一瞬で全身が氷漬けにされはしない。


(! 消え、ッ)

「遅ェ!」


 一瞬にして目の前から消えた彼女の声が背後から聞こえたと思った瞬間、背中に蹴りを喰らわされる。

 吹き飛ばされながらも明滅する視界を維持し、振り返ると肉薄したトルフェの姿。

 地上よりも素早く縦横無尽に動き回る彼女の立ち回りに対し、空中を飛び回るシンミとの対戦を思い出して、何とか受け流す。

 しかし、先程の水流の件もある、このまま立ち合いを続けたら俺の方が不利だ。

 その上、水中故に受け身の姿勢すらままならず、水を吸い込んで重くなった尻尾も白兵戦の邪魔をする。

 どこかで流れを断ち切らないと………!


(どうする、俺は今何が出来る?)


 次第になくなっていく口の中の空気からすると、もうあともって一、二分。

 試行できる択の数は限られている。

 ………俺が今出来ることは、妖術を使った攻撃に加えて肉弾戦。

 妖術は<高風・高炎・高氷>の三つで、それぞれ風を吹かす、物を熱して炎を灯す、物を冷やして凍らせる、くらいは可能だ。

 それに対して、ここは水中、風はなんとか殴り合いの補助に利用出来てはいるが、炎を灯すのは殆ど不可能、更に氷を無闇に使うと自分の身さえ危うい。

 では肉弾戦はどうか、と言うと河童の妖怪であるトルフェ相手に水中で勝ちをもぎ取れるかと言うと、それもまた怪しい。

 勿論水上に出ようとする俺へのケアも欠かさず、隙を見つけられない。

 あと、俺に出来ること、してきたことと言えば………


(あ)


 一つ、思い立ったことがある。

 手に持つ氷片を見やり、アイデアを形にする算段をつける。

 ………まずはバレない様に、別のアプローチで前提条件を確かめよう。

 一旦大きく距離を取り、片手をトルフェに向ける。

 彼女は少し戸惑った後に怪訝な顔をした後、此方へ再び詰めてきた。

 このまま居れば俺の方が不利なのは彼女も分かっている為、下手な動きをさせないために先程よりも激しい手数の攻撃を繰り出す。

 そうこうしているうちに、水中故に半ば不可視となった水流を避け切れなくなっており、服も皮膚も毛並みも徐々に削れていく。

 そうすると、先程打った手が効果を発揮し始めた。


「てめ………ッ!?」


 再びトルフェの鋭い目が真っ直ぐに俺の目を捉える。

 目論見通り、というか博打通り、やや勢いの落ちた彼女の拳は、再び氷に包まれていた。

 それだけ見れば、地上でのやり取りの時と同じである………しかし彼女が調子を乱している理由は別にあり、そちらの謎が解けない限り次の俺の一手は防げないだろう。

 焦りからか、丁寧さを失った代わりに速度を増した彼女の拳と蹴撃を受けたり受けきれずに削られたりしながら、機を待つ。

 俺の息と身体が保つ限界まで待ち………ついにその時が来た。


(来た! この大ぶりの右の後、脇腹に飛び込めば………!)

「おらァ!」


 彼女が大きく振った一撃を、風で作った流れで背中を押してダッキングで躱しつつ、懐に飛び込む。

 氷片を腹に隠し仕込んで突進してきた俺の姿を、すぐさまトルフェが睨み付ける。


「てめッ」


 だが、もう、三手遅い。

 一つは、俺の実験が成功したときにその真意をすぐさま計れなかったこと。

 一つは、時間切れで勝利を狙うことも可能だったのに焦って精度を落としたこと。

 そして最後の一つは。


(………俺の精神性(キャラクター)を見誤ったことだ)


「なッ、くそッ、放せ、ッ!」


 両手でしがみ付いた俺を激しくトルフェが攻撃するも、文字通り諸刃の剣である殺人水流を軽々には撃てない。

 単なる蹴りや殴りはなんとか耐えられるし、仮に耐えなくても問題はない。


「うあッ、てめェ正気か!?」


 彼女の顔が寒色に染まってゆくのを視界の端で捉え、思わず笑みが零れた。

 今になって気が付いたのだろう、俺が彼女諸共()()()()()()()としている事実に。

 ひっ、とかうぁ、とか漏らしても、それで俺の腹部から体を這い上がる氷の勢いが収まるわけでも、彼女を襲う氷結の奔流が手を緩めてくれるわけでもない。

 ここからは我慢比べ、でもない。

 今更そのステージには立たせない。


「く、そォ………ッ」

(………これ、で!)


 半透明な氷が体を覆いつくしていく不快感をぐっと飲みこんで、最早掴むまでもないほど強固に凍り付いたトルフェの身体を取り押さえる。

 彼女が俺に最後に向けた瞳の鋭利さは、今まで見た何よりも鋭かった。

 そして俺もまたその目線に貫かれながら、二体で一つの氷像の一部と化した。




「なぁ! アイツらどうなったんでよ!?」

「さっき水の中入っちゃいましたねぇ………この時期まだまだ寒いでしょうに。あ、でも夏までそこまで遠くはないですね」

「おねぇちゃん、多分重要なのはそこじゃないよ?」

「おいおイ、この状況、トルフェの奴が有利すぎねェカ?」

「ふむ………率直に言えば狐の少年の勝ち筋はかなり薄いが………」

「で、ですけど! 彼も鳴り物入りで来てるわけですよね!」

「とはいえお前なぁ、水ン中でトルフェに勝てる奴が今までどんだけ居たかって話でよ?」

「確かにナァ。[殺人魚雷(キリングマーメイド)]のリングネームは伊達じゃねェシ」

「………ん? おい! あそこ見ぃ! 誰か出てくるでよ!」

「ふむ、影は幾つだ?」


「───い、いっこ、です」




「………ッぐべぁあはぁ!」


 何とか水中から這い出し、気管支一杯に空気を取り込む。

 視界は端が黒くなりかけていたが、唐突に吹き込まれた生命の源に驚いているのか喜んでいるのか、光を受けて明滅する。

 暫くは声にならない息を漏らし、生命維持に没頭する。

 水面から舞台までそう高くはないのが救いで、上まで登った頃には体力を使い果たして俯せになった。

 まだ耳鳴りのする聴覚が、観客席の方からどよめきを拾う。

 あぁ、もう疲れた、尻尾や服も水を吸い込んで信じられないくらい重い上、息もまだ戻らない。

 少し休もう………───




 トロン少年が水から出てきたとき、観客席のギャラリーは口々に賞賛や驚き、ないしは疑いを含む言葉を交わし合う。

 黒原やビズが得意げに胸を張る中、誰かがもう一人の対戦者の不在に気が付いた。

 次第にその事実は伝播して認識され、防護用の柵を乗り越えて数人が救出に向かう。

 水に潜った彼らが目にしたのは、恐ろしい形相をし氷漬けになった[殺人魚雷]の姿であった。

<>(^・.・^)<初の水中戦でした〜

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