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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の二二 ようかい の ○○ が しょうぶをしかけてきた!

<>(^・.・^)<ゆけっ! トロン!

「お前、アタシと勝負しろ」

「───え?」


 金髪女性が声を掛けてきたかと思えば、唐突に果たし状を突き付けられた俺の気持ちを答えてくれ。

 周囲の妖怪の顔色を窺うが、顔のある妖怪たちは皆苦笑いやにやけ顔を浮かべている。

 ドメやビズでさえも例外でなく、ビズに至っては肩に手を置いてきた。


「いや、急にそんなこと言われても、俺は貴女と戦う理由なん」

「お前、〈妖技場〉(イチ)の炎使いを探してんだろ」

「あ、は」

「だったらまずはアタシと一戦戦え(やれ)


 うーん、これはきっと話が通じないタイプの人種、もとい妖怪。

 かなり食い気味に戦闘を強要してくる機械と化している。

 助けを求めようにも周囲は諦めつつあるようで、彼女からは逃げられそうにない。

 どうしたものかと考えていると、いつの間にかやや遠くで無線で連絡を取っていた黒原が戻ってきた。

 彼女は無線を続けつつ、俺と彼女の間に入ってくる。


「はい………はい………じゃあそういうことで。失礼しまーす」

「───黒原?」

「はい、じゃあ今闘技場舞台の貸し出し手続き済ませたんで、ガンガンやっちゃって大丈夫っすよ!」

「おし。行くぞ新入り。アタシが面倒見てやるよ」

「黒原ァ!?」

「あれ? 言いませんでしたっけ? 何もない日は手続き済ませれば一般に貸し出しできるんですよ?」


 全く悪びれる様子のない彼女に、思わず握った拳が震えてしまう。

 これは恐らく武者震い………では断じてない。

 ………もうこうなった以上はどう足掻いても無理か。

 先程見学した控室を早速利用させてもらうことになるとは、想像もしていなかった………


「───分かりました。じゃあ行きましょう」

「分かりゃいい。ルールはシンプルに、戦闘不能になった奴の負け、だ」

「じゃ、私らは観客席に行くんで!」

「オウ、面白そうだからオレも見るワ」

「僕も行きます!」

「おう新入りぃ!」

「かましたれッ!」

「あっ、はは………」


 もしかしなくてもこれ注目の的だな………




 さて、念の為持ってきた運動用の服に着替え、控室のその中にある小部屋を出る。

 軽くストレッチをしていると、部屋の角に取り付けられたスピーカーから、準備が整ったら来い、という旨のメッセージが届いた。

 大きく一呼吸し、見学の時に辿った入場ゲートに進む。

 見学時とは、一歩を進めるたびに感じる鼓動の大きさが違う。

 正直想定外の事態だが、言い方を変えれば戦闘経験を積む為の降って湧いた好機。

 折角だ、十二分に利用させてもらうつもりで行こう。


「………おぉ」

「来たか」


 ゲートを抜け陽の光に晒されると、舞台中央には同じ格好で仁王立ちする彼女の姿。

 それよりも目に鮮烈な印象を残したのは、観客席に並ぶタオルを装備したり団扇で扇いだりしている観客たち。

 その中には勿論黒原にビズ、ドメの姿もある。

 見るからに動物の要素がありそうな妖怪も、脚の色味が薄い妖怪も居れば、先程のトレーニングルームにはどうあがいても入っていなかっただろう、と思えるような巨体の骸骨(しゃれこうべ)もいる。

 それなりにプレッシャーを感じる、そういう意味でも金を払った観客のいる本試合の先に、こんな形でも練習試合を設けられたのは大きいだろう。

 ………? あそこにも誰かいるな………


「おし、準備は出来たみてぇだな」

「え、あぁ」


 周囲を見てると、指を鳴らす彼女が確認してきた。

 いきなり目と目が合ったら妖怪バトル、というタイプかと思えば、戦闘前に態々声を掛けてくれるなんて、きついのか優しいのか分からんな。、

 あと俺が今まで聞いてきたどの女性の声よりも、声が………


「じゃあ行くぞ、歯ァ食いしばれ………≪水流(ショット)≫」


 水の集う拳を引き抜いた姿勢から勢いよく正拳突きを繰り出した。

 間合いとしては一足一丈を越え、拳が当たるとは思えない………が、妖怪相手に普通は、なんていう概念を持ってくるのが間違いだろう。

 そう思って横にステップを取ると、彼女が拳を振りぬくに連れ、その拳に液体が集まる速度が増してゆく。

 何もないところから現れたところを察するに、恐らくあれが彼女の妖術。

 となると、水に関する妖怪のうち何かなんだろうが………と思考を巡らせた刹那。

 俺の頬を熱い感覚が走った。


「───マジかよ」

「へェ?」


 早すぎてよく見えなかったが、彼女の拳が示す先の壁を流し目で見ると、観客防衛用に張られた結界に水が滴っているのが見える。

 そして先程一瞬見えた、拳へと集う水。

 間違いない、彼女は水の流れをもってして、俺の頬を切ったのだ。

 俺も高風を妖術に持っており、この手の非固形物を操る妖術の難しさを理解しているからわかる。

 彼女の妖術はとてつもない出力に加え精密な狙い、そしてそのパワーを最高率で運用するコントロールの凄まじい緻密さ。

 戦慄しながら、そして練習試合の相手として見ていた過去への自戒を胸に刻み、臨戦態勢で彼女を見据える。

 観客が沸く中、彼女は首を回しながら構える。


「黒原が呼ぶだけはあんな………アタシはトルフェ。<河童>だ」

「俺はトロン。<白九尾>」


 既に手を出した後で遅い気もするが、彼女にとっては先程の水流は小手調べ。

 力を測った後は全力で叩き潰しに来るだろう。

 俺自身もどこまでやれるか分からないけれど、精一杯やってやろう。


「───フゥッ!」

「ぅぉらぁッ!」


 右の拳を飛ばせてきたトルフェに対し、俺は腕で向きを逸らす。

 次の瞬間、先程の殺人水流が拳から光線のように放出された。

 接近すればあの状況になって一方的に攻撃されることはないと踏んだのだが、これでは結局体術と読み合いの勝負になってしまう。

 所見では目が追い付かなかったのに今回は追い付いたため、アレと同じ威力ではないのだろうが、それでもまともに食らえばほぼ確実に場外だ。

 その負け筋は潰さなければならない。

 そのまま俺も拳と蹴撃で攻撃を繰り返し、トルフェをもとの位置まで押し戻した。


「≪水流≫ッ───!」


 唐突に後ろに跳び再び先程の構えを取ったトルフェの顔に、驚きが浮かぶ。

 どうやら見込みは成功したようで、今構えている拳には水が集う気配がない。

 それもそのはず、先程のインファイトの中で氷の妖術を発揮し、トルフェ自身の出した水で濡れた拳を氷で固めたのだ。

 妖術を放出する場合、そしてあそこまでのコントロールを要する場合、放出地点から極めて近い位置から妖力を妖術に変換しているのだろうと予想できた。

 そこで、俺の妖力で作られた氷で拳を固めれば、トルフェの妖力は外へと抜けられず、妖術を発揮することもできない。

 上手く嵌まったことに安堵していると、再び沸いた観客席を意に介さず、トルフェは前進の姿勢を取る。


「へェ………殴り合い中に余裕じゃねぇか」


 言い、反対の手で拳に纏わりついた氷を砕く。

 勿論彼女の手自体が氷になっているわけでも、凍り付いてから時間が経ったわけでもないし、俺の氷はトイのソレほど強力ではないので、直ぐに砕ける上にその後動きが阻害されることもない。


「はっ、あれくらい欠伸が出るよ」

「抜かせ」


 強がってはみたものの、正直これは悪手だったかもしれない。

 相手の妖術を利用する、という発想は悪くないと思ったのだが、これではあまり意味がない。

 その上、一旦俺の氷の力がバレてしまえば、トルフェは恐らく不用意に接近戦と妖術の打ち合いを組み合わせて来なくなるだろう。

 そうなると彼女は、先程の殺人水流を雨のように放つのも選択肢に入るだろうが、アレを避け続ける自信も、凍らせて利用する術も、炎や風を使って何とかする手も見当たらない。

 となれば、風を使った徒手空拳で挑むのがいいだろうが、師匠二人はあまり至近距離でのやり合いを好まない為、俺もその方面には強くない。

 一応シンミとは、風を使って動きを軽くしたり、相手の攻撃をいなしたり、体幹をわざと揺さぶったりする方法を研究はした。

 ………ついに実戦で使うときか。


「………≪水足(ジェット)≫」

「ッ!?」


 と覚悟を決める俺の目の前に、金色の稲光のようなモノが瞬いた。

 瞬間、腹部に猛烈な衝撃を感じ、次に稲光の正体は高速で突進するトルフェであったことに気が付いた。

 痛みに歪む目を必死に開けると、金色の弾丸と化したトルフェの両の足から先程手から出していたのと同じ水流が出ているのが見えた。

 噴射を利用して途方もない推進力を得ているのは分かったが、一体目的は何だ、と考えたところで、闘技場舞台の仕組みに気が付いた。


「………外は、水が………ッ!」

「そういう、こッたァッ!」


 円形舞台を取り囲むようにして、水が張られているのが、この舞台の特徴の一つだ、と黒原が言っていた。

 この試合の勝敗条件は、単純に戦闘不能になるか否かで、場外は関係がない。

 そしてトルフェは河童、水中戦はお手の物だろう。

 まずい………!


「くッ」


 風の力でも太刀打ちできず、俺を外壁に叩き付けるとトルフェは水中へと飛び込んだ。

 だが、この位の距離ならば、足に風を纏わせれば舞台に戻れないこともない。

 即座に判断して壁に向けて膝を曲げ、突風と共に蹴る。

 あと少し、あと少しと、手を伸ばす。


「───逃がさねェよ?」

「ぐッ!」


 目の前に跳び出したトルフェに背中を殴打され、無理矢理に水中へ導かれてしまった。

 痛む背中よりも、空気を外へ逃さないように意識する。

 水中では風の力は使えない、何とか水流の赤子のようなものを生み出せるかどうか、という程度。

 身を捩り、一刻も早く地上への復帰を目指す俺を、舌を出しながらトルフェが見下していた。

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