其の二〇 控室(個室付き)
<>(^・.・^)<タイトル通りですかね
コンクリートで丁寧に整えられた道を、黒原を追いかけてドメと共に走る。
人工物のみならず植物が所々にあしらわれており、技術力だけではない街並みの魅力を感じる。
暫く走ると、唐突に黒原が速度を落としたため、俺もドメも小走りになった。
「………さ、着きましたよっ!」
「ここか」
「ここですね」
大げさに片手を掲げ、黒原が示す先には、成程〈妖技場〉と呼ぶのに相応しい建造物があった。
外観はギリシャのコロッセオをモチーフとしているのだと思われる、精緻に計算された柱と壁の様相が神聖とすら言える雰囲気を醸し出している。
その一方で、建物そのものや入り口に至る道、その周囲に整然と並ぶ小さな横断幕を掛けられているモニュメント群には、電気信号が走っているようだ。
色合いも白に黒、赤や青といった、一歩間違えれば小学生男子の持ち物になりそうなカラーリングを上手く活かし、寸分の違和感すら与えさせない。
全体的に見て過去と未来を繋ぐ方向性となっており、黒原との待ち合わせ前後から眺めてきたこの近辺の粋だと言って過言ではない。
綿貫邸は洋館といった出で立ちで趣があるものの、良くも悪くもテンプレートに従った賜物。
それに比して〈妖技場〉は意図的に化学反応を起こそうという心意気が感じ取られ、俺の語彙力では表しきれないほど、良い。
思わず感嘆が口から洩れる。
「………凄いな。ここまで練られた建物は見たことがない」
「そうですね、私もそう思います。良いでしょう? 実は私も少しだけデザインに口を出させていただいたんですよ!」
「おねぇちゃん、デザイナーさんに邪魔そうにされてたと思うよ………」
「いやいやァ、あれでインスピレーションが湧いた、ありがとうって後からお礼言われたんですから!?」
黒原が言う内容は正直信用ならないので、話半分に聞くとして。
「黒原が手伝った、ってことは、この建物割と新しいのか?」
「各地にある〈妖技場〉の中では新しい方ですけど、かれこれ数十年はありますよ? 私が大貢献したのは数年前にリニューアルしたときの話なんですよねぇ」
「僕がおねぇちゃんと契約してすぐくらいだったから、五年前くらいだったかなぁ?」
「成程な」
ということは、黒原はここに五年以上いることになる。
………今何歳なのか、という疑問はそっと仕舞っておこう。
まともに答えてもらえるとは思わないし、そうでなくても女性に年齢を聞くのはどうか、という自制心が働いたからでもある。
「じゃ、早速行きましょうか! どこ行きたいとかあります?」
「じゃあ、普段選手が通る動線に沿って案内してくれるか」
「りょうっかぁい~!」
さぁささぁさ、と言いながら黒原は率先して中へと入っていった。
入り口には特に立ち入り禁止の札などは立っていないようで、試合のないタイミングでも見学自体は可能らしい。
いや、入場時に来場目的と身分証の提示を求められるのは言うまでもないことだが。
そうしてスタッフ証らしきものを係員に見せた黒原にドメと二人でくっついて中へ入ると、内装も外観と同じ意匠が施されていた。
「ほほぉ」
「いいですよねーこれ。BWのソウリュウシティを合体させた感じしません?」
「いや、それはよくわからんが」
「ナ………何ですってぇ!? ジムリーダーだったアイリスが2でチャンピオンになってたの、思わず目頭が熱くなりましたよね!?」
「おねぇちゃん、僕もそれ分からないや………」
「ウソー--!?」
口をあんぐりと開けて立ち止まる黒原。
暫くそのままでいたが、やがて人間じゃない、人生の0.4%くらい損してる、などと文句を垂れながらも歩みを再開した。
言いたいことは分からんでもないが、それにしてもちょうどいい割合だ。
盛り過ぎないところに好感が持てた、今度プレイしてみようか。
「………じゃあま、気を取り直して。ここが控室ですね」
「なるほどなるほど」
「すっごく広いですよね!」
ドメが言う通り、確かに横にも縦にも広い。
試合前の選手の精神状態に配慮したのだろうか、色彩は暖色系が多くあり、無意識下のクールダウンを避ける効果があると思われる。
壁一面に閉じる扉のないロッカーのようなものが複数置いてあり、選手の着替えや何やらが行われるのだろう。
「確かに広いな。どうしてだ?」
「あぁ、これは〈妖技場〉の目玉の一つ、バトルロイヤルをするときの選手の控えにも使われるからですねぇ。大きさによっては入りきらないコもいますけど、今のとここの〈妖技場〉で一番大きいコは一応入れます」
「この高さで一応、って………」
「トロンおにいちゃん、あの人本当に大きいんですよ」
目算だが、俺の今の身長が大体一七〇センチくらいなのに対して、その三倍弱はある。
となると五メートルくらいか………それで一応ってことは、おおよそそのくらいの身長はあるわけで。
………その大きさはそれだけで脅威だな、もしかしてそいつが〈戦神両翼〉なのか?
そうして軽めの質疑応答を繰り返しながら、一つ疑問が浮かんだ。
「なぁ、選手ってここで着替えとかするんだろ?」
「ですねぇ、そこの荷物置きで」
「だよな。でもそれにしちゃかなり場所が小さくないか? 仕切りも浅ければカーテンがつけられるレールも見当たらない。これだとプライバシーの欠片もないんだが」
集団でここにいる場合もあるようだし、そうだとするならば着替えのスペースが開けっ広げ過ぎる。
妖怪共が押し込められるなら多様性に関しては開かれているのだろうが、にしても気にする気にしないは個人の主義による。
俺は何とも思わないが、見られるのや見るのが嫌な妖怪も居る。
その場合はどうするのだろう。
「あー、なるほどなるほど。言いたいことは分かりますよぉ。では説明いたしますとぉ、まず男女で別の控えに案内されます。こっちは男性用ですね」
「作りに違いはないみたいですね。前におねぇちゃんが言ってました」
「ドメちゃんよく覚えてるね! えらいえらい」
黒原は利発な自分の妖怪の頭を優しく撫で、髪を梳く。
その様子は、『おねぇちゃん』と呼ばれる由縁を感じさせた。
ドメの表情も、最初に俺と会った頃やその後俺と話しているときよりも数段和らいでいて、この二人の関係性に対する認識に変更を加えなければならないようだ、と思われた。
「なるほどな、取り敢えずその点に関しては納得した。だがそれだとあくまで最低限だろう」
「うんうんわかるわかる。てなわけで、まずは習うより慣れろ、そこの物置に顔突っ込んでみてください。あ、押すなよを三回、いいですね?」
「おねぇちゃん、そうやって怖がらせちゃ悪いよ………」
何か仕掛けがあるのだろうか。
舞台そのものや周辺の結界の作りこみ具合を聞いたから、ここにも何らかの仕組みが埋め込まれていても不思議じゃない。
等と思いつつ、黒原が指で指したロッカーに歩み寄る。
近くで観察してみても、特にこれと言って違和感は感じ取れなかった………ん?
「これ、何か分からないけど妖力が込められてないか?」
「流石にわかりますか、それでこそ期待の新人です!」
「すごいひとだって知って………あ、いや、おねぇちゃんに聞いてたけど、よく気付いたねおにいちゃん」
「いや、かなり近づかないと分からなかったし、どんな妖術か術が仕掛けられてるのか、皆目見当もつかない」
仕切りに手をかけてのぞき込み、奥の壁になにやら仕組みがあることは分かったが、そこまでだ。
乗り出していた身を起こし、背中を伸ばして黒原に問う。
「俺には全然分からないな………一体どんな仕掛けがあるんだ?」
「ん-、であれば。取り敢えず奥の壁を押しちゃってみてください! こう、グイっと!」
「おねぇちゃん、それじゃまるで呑み会だよ………トロンおにいちゃん、気を付けてね」
「応………?」
特に反発する理由もないので、正面にある壁に手をついた。
それだけだと何も感じない、ここから押し込んでみるとまた何か変わるのだろうか。
と思い、ぐっと押し込んでみると。
「うおぁっ!?」
俺の手は壁をすり抜け、その向こう側に達した。
突き刺さった腕の周りの木目には波紋が広がり、妖術が発動した気配も感じ取れた。
後ろに立つ黒原とドメを顧みると、二人して顔を両手で挟むジェスチャーを取っている。
恐らくは腕だけでなく顔も突っ込んでみろ、という意味だろう、そう解釈して恐る恐る向こうをのぞき込んでみる。
すると、其処には一つの部屋が繋がっていた。
「えいっ」
「おわ!」
俺が腰を突き出して壁の向こうをのぞき込んでいると、後ろから押し出され体全体が壁の向こうへと入り込んでしまった。
振り返ると、入ってきた箇所はそうとは分からないほど自然な壁そのもので、掌のマークが無ければどこが扉なのかも分からない。
出る前にもう一度不思議な部屋を見渡した。
先程の部屋に比べてそれほど大きくはなく、一般的な部屋の大きさと言って差し支えないだろう。
此方には扉が閉まるロッカーが設置されており、ほとんど何もなかった先程の大きな控室に比べ、ベンチにストレッチ用具、ウォーターサーバーや冷蔵庫まであった。
特にこれと言って妖術が張り巡らされている様子はない。
「じゃあ、戻るか」
俺は再び入ってきた壁の掌の印に自らの手を当て、ぐっと押し込んだ。
すると壁は再び波紋を広げ、俺は向こう側へと滑り込んだ。
………流石にこれで元の場所に戻れない、なんてことはないよな?
「………あぁ、よかった」
「トロンおにいちゃん、だいじょうぶだった!? おねぇちゃんが急ににやにやしたからどうしたのかなと思ったら、おにいちゃんのお尻を両手で押しちゃって」
「いやまぁ、そうしたほうが手っ取り早いかなぁ、というアレでして。決してお約束の『押すなよ』ではないですよぉ?」
「俺が一回でも『押すなよ』と言ったか!?」
特に怪我はなかったからいいものの。
今後コイツに背後を取らせないようにしなくては。
「ま、てなわけでして、其処から個人用ルームに入り込めるわけです。別の方が同じ部屋に別々のタイミングでは入れないので、基本的に安心と考えてもらえば大丈夫です。入り口が違っても自動で妖力が記憶されて同じ場所に行けますから、何処から入っても安心です!」
「なるほど、了解した。それなら過剰な心配もいらなさそうだな」
「ですです。じゃあ控室はこんなもんで大丈夫ですかね? でしたらいよいよ決闘舞台に行ってみましょうか!」
部屋に入ったときに通った通路とは反対側にある通路の壁に手をつき、黒原が言う。
俺は頷いて着いていき、周りをしきりに見回していたドメも急いで駆けていった。
<>(^・.・^)<施設解説回でした
<>(^・.・^)<次回は新キャラ登場です!




