其の一六 学園モノといえば
<>(^・.・^)<遅くなり申し訳ないです~………
「………じゃ、おにーさん、そーゆーことなんで。あ、この話、奏っちにはオフレコで♪」
「………わかった」
秘密の会話を終えたつるちゃんが俺から離れ、律儀に少し離れて待っていた奏に駆け寄る。
「奏っちお待たせー!」
「ん。なにはなしてたの?」
「おにーさんのこと、色々と!」
「───ふーん」
つるちゃんが奏の腕を取る一方、奏は首をかしげて此方を見る。
契約相手の思考は相手が発信していない限り読めないので真偽は分からないが、奏はどこかにやりとした表情をしている気がした。
「まぁ、そんなところだ。普段何してるかとかな」
「へぇ………まぁいいけど」
『奏、実はつるちゃんって結構怖いのか?』
『つるちゃん………? あぁ、ほんにんは隠してるつもり、みたいだけどね』
秘密の会話を奏と交わし、奏もつるちゃんの本性には気が付いているようだ。
となると二人は相当な仲良しだということだろう、良き哉良き哉。
と、どこかから音がすると同時に、つるちゃんが羽織ったパーカーから奏の腕に回しているのと反対の手でスマホを取り出して、画面を見た。
活発な雰囲気がする彼女だが、何らかの連絡を見たのか口角が引き攣っている。
「………あ、二人ともごめんー、今日文化祭実行委員会あるのすっかり忘れてたぁ!」
「あー、確かに、きょうだったっけ」
「そうなのー! 熊ちゃん怒ってる~! 奏っちもおにーさんもまたね!」
そう言うが早いか、つるちゃんは奏の腕をぶんぶんと振り、腕ごと手を大きく振りながら、そそくさと昇降口まで走って行ってしまった。
俺も奏も呆然としつつ小さく掌を振るだけで、何かを口にする前につるちゃんの姿は見えなくなった。
忙しい人だったな、という印象が大きい。
「………つるちゃん、いつもすごく元気なの」
「そんな感じだな。あの子がいるだけでこっちまで元気になるみたいだ」
「そうなの」
隣の奏がフンス、と鼻を鳴らして胸を張っている。
友達が褒められるのが嬉しいのだろうが、その様子に俺はやや親のような感慨を抱いてしまう。
そんなに仲のいい友達ができたのね、というもの。
「そう言えば。つるちゃん『文化祭実行委員会』って言ってたか? 今度の土曜に文化祭の準備に行く、って奏言ってたよな」
「そう。大体いっかげつごにあるの。だから委員会の人たちが準備してるんだよ」
「なるほど文化祭………奏自身は何かやるのか?」
「クラスでやる出し物に出る、くらいかなぁ。まだぜんぶは決まってないんだけどね」
校門の外の方へ歩きながら奏に気になったことを聞いてみる。
「さっきつるちゃんが言ってた『熊ちゃん』も奏のクラスメイトなのか?」
「そうだよ。熊崎くん、つるちゃんといっしょにわたしのクラスの文化祭実行委員なの」
「なるほどな」
まだ見ぬ熊崎君に思いを馳せる。
くまちゃんというあだ名がつけられるくらいだから、ちょっとおっとりして可愛い感じの男の子なのだろうか。
勝手な想像をしていると、隣で歩いている奏がおずおずと口を開いた。
なにやら言いにくいことを言う様子だ。
「それでね、なんか、文化祭でね、おもしろい企画があって」
「ほう、どういう企画なんだ?」
「【ベストパートナーコンテスト】って言ってね、せいしきめいしょうは年によってちがうみたいなんだけど」
「コンテストか」
高校ともなると、文化祭でそういった形式のイベントもあるのか。
名前から察するに、恐らく恋人同士や親友の組が出場して何らかの優劣を競う、というところか。
自分のいた学校で行われた記憶はないが、それを常識だと思い込むのはいけないよな。
「ん。コンテストでね、二人のきずなとか、なかよし度みたいなもので順番がきまるんだけど」
「なるほど。ベストパートナーと言うくらいだしな」
「でね………トロ、わたしといっしょにでてほしいの」
「了解」
きっぱりと目を見て言うと、見上げる瞳はやや見開いていた。
「………いいの? ほんとに?」
「あぁ。だって奏が出たいんだろう?………あ、これは別にお願いに含めなくてもいいからな。奏と一緒なら俺も出てみたい」
「………へへ」
今度は瞳が薄められ、つられるように口角もやや上がる。
奏が嬉しそうでなによりだ。
その姿を見るのが、今の俺のかなりの楽しみになっている。
「よかった………実はクラスでひとり代表としてでなきゃいけなかったの」
「そうだったのか………ん? 一人? ベストパートナーなのにか?」
「え? うん、だって人間と、そのひとと契約してる妖怪とのコンテストだもん」
「あー………なるほど、そういう枠………」
友達とか恋人とかそういうアレかと思っていた。
まぁ俺と奏は恋人ではないから、偽装恋人として出てほしい、ということかと………
「トロ? どしたの?」
「あぁいや、なんでもない」
別段残念と言うわけではないのだけど、想像と違っていたために少々面食らった。
………うん、この話題を続けるとよくない予感がしたから話を変えよう。
ゆっくりと歩を進めつつ、奏に向かい言う。
「そうだ、奏。俺やっぱり〈妖技場〉に出ることにするよ」
「………ん。わたしもそれがいいと思う」
彼女はゆっくりと頷き、此方に微笑む。
自然と此方も顔が綻ぶのを感じる。
「それで、シンミやトイに色々聞いてみたんだけど」
そこから二人で歩きながら、俺は選手の情報が保護される仕組みになっていることや怪我をしてもある程度は大丈夫だろうこと、それに遠征なども視野に入ることなどを話した。
奏の方はふむふむ、ほうほう、と言った様子で俺の言葉を聞いていて、相槌を打ってくれる。
「………というわけだ」
「なるほど。じゃあトロがしんぱいしてたように、個人情報がとくていされる危険は少ないんだね?」
「そういう感じだな。でも念には念を入れて、覆面とかマスクみたいなものが欲しいし、コスチューム的なものも必要になるみたいだが」
腕を組み空を見上げ、考えなければいけない課題に頭を巡らせる。
人前に出て戦う以上は何かしら、それなりに外見に気を使わなければいけないのは明白。
強い選手にはスポンサー契約が付いてコスチュームも豪華になるようなので、如何に新参者とはいえドレスコードは守らないと失礼だ。
訓練の後に運動用の服から着替えて今着ている、奏に貰った服も気に入ってはいるが、流石に戦闘には向かないだろうし。
であるならばどうするか………と考えていた時、不意に奏が俺の袖をちょいちょいと
「………ん」
「奏?」
「任せて」
「え、あー」
なるほどそうか。
綿貫グループともなれば、一人の妖怪の〈妖技場〉スターターセットを揃えるのも朝飯前だということだろう。
流石にそこまでしてもらうのは………とも思ったが。
「………そうか。ありがとう。だったらお言葉に甘えて用意させてもらうよ」
「任せなさい」
ふんす、と胸を張る奏。
こういった様子で見た目以上に言動の部分で幼さを感じるのも、彼女の魅力の一つだと俺は思う。
「じゃあ、パパに相談しよ?」
「そう、だな。流石に兜さんに話を通さないとな」
いくら令嬢とはいえ無断では無理だよな………
娘大好きな兜さんなら快く受けてくれそうではあるが。
そもそもの目的が奏をもっと守れるように強くなることだから、恐らく心配はない………と思われるけれども。
俺の方からも頼み込む準備をしておかないとな。
それから俺の〈妖技場〉の話や奏の学校の話をしているうちに、綿貫邸の門の前まで着いた。
奏の学校での様子を聞いているうちに自分もやや学校が懐かしくなってきたが、とりあえずしばらくの間は鍛錬に集中しよう。
門の横にある守衛所から田光さんが顔を覗かせる。
「奏様、トロン様、お帰りなさいませ」
「うん、田光いつもありがとう」
「私はこれが業務ですので」
「あ、田光さん。自分、〈妖技場〉出ることに決めました」
「左様ですか………であれば少々失敗したかもしれませんね」
失敗、というワードが引っかかり彼女に聞いてみると、どうやら今日もまた黒原が押しかけてきたようだ。
本人不在の中尋ねられても困る上に昨日の今日なので、お引き取りを願ったらしい。
アイツの性格上大人しくお引き取りするとも思えないので、恐らくは田光さんの方から威圧感を発揮したのだろう。
「事情は分かりましたけど、俺も一度〈妖技場〉の現場に足を運んでみたいと思ったところですし」
「なるほど、寛大なお言葉ありがとうございます」
「いえ………」
「あぁ、それとトロン様。先程井川の方から手伝ってほしいことがあるとの申し出がございました。花園の方までお越しいただけると幸い、とのことです」
「そうなんですか。じゃあ奏、俺は一旦ここで」
「うん、後でね」
そうして俺は門を通り、駆け足で井川さんの方へ向かう。
少しでも綿貫家に貢献できればと思い雑事を手伝って、少しづつ掃除や食器洗いの練度は上がってきてはいるものの、まだまだ本職の井川さんには及ばない。
というかあの人がなんでも出来すぎるのだ。
掃除に洗濯、身の回りの世話に留まらず、普通なら庭師がやるであろう花壇の手入れ、屋根の手入れに買い出しまで、あらゆる業務を彼と数人でやり遂げてしまう。
………そんな方が態々俺を呼びつけるとは、どんな用事があるのだろうか。
仕事ぶりを怒られないとよいのだけど………
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