其の三四 俺、邂逅する。
<>(^・.・^)<間に合いまーしたー
<>(^・.・^)<今回、文字数の都合で
<>(^・.・^)<ちょっと微妙な所で終わってますが
<>(^・.・^)<続き早めに上げるので許してつかぁさい
***:*****
「………………」
また一人、部下が消えた。
一時間前に作戦を開始してから凡そ三十分、私の隊と他のいくつかの隊を除き、ほとんど全ての隊が停止していた。
本来なら三分置きに来る筈の連絡は入って来ず、私自身にも感じられる程に、今のこの森は荒れている。
加えて、以前から存在が確認されていた、一人の男。
その影が、至る所で見受けられる。
調査の上では、奴は炎や氷、風を使う。
その内二つが、有り得ない程の威力を発揮して、我々の命、動きを阻害してくる。
その可能性は低いながらも、前々から存在が分かっていた者が絡んでいるとなれば、無視するわけには行かない。
それにもしそうなら………………彼は、どうやって一月程でそこまで強くなったのだろうか。
或いは、彼自身が現在の状況を引き起こしている訳ではないとしても、何故この短期間でそれ程の強者とコネクションを得られたのか。
分からない事だらけである。
しかし、分からないのを分からないとしておける程、私の立場は頑丈ではない。
私の今の日々は、私の部下の者たちによって成り立っている。
なればこそ、私は彼等に顔向け出来るように努めなければならない。
しかし現時点で私の見聞は限られており、想像が付く範囲も広くは無いので………………どうしても後手に回る。
もし彼が私の下へ辿り着けたとしたら、私は彼を返り討つ。
それが………………我々の為に散った部下達への手向けとなる事を祈って。
白九尾:トロン
俺はまた一人を潰した。
その事に心が傷んでいる気もするが、今は気にしていられない。
荒くなった息と木々の擦れる音が、虚ろになり始めた耳に響き渡る。
情報が多すぎて処理が追い付かない。
その為、今まで俺は目的地に向かいながらも遭遇した隊を一つ一つ凍らせて意識を刈り取っていた。
その方が、一之助さんの助けにもなるし、他の目立ち過ぎる二人より俺がそうした方が良いと判断したからだ。
協力してくれたのは有り難いのだが、あれではどうしても人目を引く。
地上から溢れ出す流星群と、地獄の底を思わせる冷気。
もしここが街中なら、その二つが人を大いに引き付けること請け合いだ。
………………まぁ俺が戦うよりも十倍程速いペースで敵の数が減っているので、文句は言わない。
有難い、有難い、のだが………………流石に次回からは一応言ってみようか。
まぁ次回なんて無い方が良いに決まっているのだけれど。
あぁ、まだ俺は辿り着けない。
力の限り手を振り足を上げ、可能な限り音を潜めて気配を消す。
俺なり、では無い、俺に出来ないまでの全力を出して奏の影を追う。
それでも尚、リシャール君からの連絡が途絶える事はない。
《トロン様。一時方向、集団ありです》
《十時方向、敵影ありです》
《反応個体七、中規模の隊です。トロン様》
焦りを感じる。
或いは、焦りを覚えられる程、俺に出来る事は無いのかも知れない。
それでも、自分よりも遥かに力を持つ者にまで縋ってまで、手に入れたい物がある。
生半可な覚悟をかなぐり捨ててまで、取り返したい物がある。
だから俺は止まれない。
………………そしてそれは、彼も同じ様だった。
「我こそは少女誘拐の首魁、ナサニエルッ! 姿を見せぬ滅殺者よッ! 貴様の厚い面の革、引き摺り払ってくれるわアァッッ!」
リシャール君が言う前に、九時方向から声がする。
影が言うに曰く。
「貴様の目的は我の背に在りィッ! その心に一切の卑怯の影無しと言えるのならば、我との一騎打ちを受けて立てェッ!」
………………俺は脚を速めた。
***:ナサニエル
あれから私はどれだけ迷っただろうか。
思うように計画は進まず、焦りもあった。
いや、焦りを感じるほど私に出来ていることは大きくないような気もしてはいるが。
何はともあれ、たどり着いた結論は一つ。
『計画の達成、及び志半ばにして散った同志の敵討ち』
それを第一目標に据えることだ。
段々と減っていく部下達。
頼りなく燃えて輝く妖力の塊ではあるが、彼等にはハッキリとした自我がある。
それも刷り込まれたものかもしれないが、今はそんなことは関係ない。
理性が叫ぶ、「立ち向かうべきではない。計画の達成を最優先にし、組織の未来に貢献せよ」と。
本能が訴える、「此処に長く居るのは危険だ。自分の命が可愛いのなら、今すぐに離脱せよ」と。
それ以上に、私の中に芽生えた感情が血反吐を吐きながら言うのだ。
………………「建前だとか恐怖だとかはどうだって良い。お前は何がしたいのだ。大切な部下達を手の届かない処で殺されて嫌ではないのか。俺は嫌だ。嫌だ。いやだ、イヤだ!」
………………「子供だと思うかも知れない。それでもいい。俺が目指すのは、誰もが笑顔になれる世界だ。そのためには俺は何をしたっていい」
………………「少女はどうだ、ナサニエル。あの齢にして、お前の設計年齢よりも大分若いあの少女は、心の内にしっかりとした願いを込めているじゃないか」
………………「そしてその為に少年との未来を心から願っている。願っているからこそ快く我々に応じてくれたのだ」
………………「俺は、俺だって、夢を抱く権利はあるはずだ」
「それが、思考する生物に………………否、人間らしく生きることだ」
結局の所、この土壇場で私は自分の心根に敗北したのだ。
部隊の長としての任を半ば以上放棄している私を責められない者はいない。
だが、それでもいい。
ああ、そうか、そういうことか。
私は、いや、俺は、ずっと人間に憧れていたのだ。
「………………来たか」
目線の先、俺が捉えた、大きな木の枝に上った彼の姿は、異端なモノだった。
妖怪という、ある意味で『確定して不確定』な存在が跳梁跋扈するこの世界においても、異端。
全身に禍々しい妖力を充満させ、尚且つ大気中の妖力を異常なまでのスピードで吸い込んでいるのが確認できる。
人間の体とは不釣り合いなはずなのに違和感を感じさせない狐の耳と尻尾、鼻の先。
月夜に美しく光り輝くソレは、不思議な程に白く、まるでこの世の生き物のソレとは思えない程妖艶だった。
それらももちろん異質なものだ。
だが、私一番気になったのはそこではない。
何処かと言えば………………それは瞳。
私は、自身の妖術の副次的効果として、「目線を合わせた相手の心を推測」できる。
………………成程。
白九尾:トロン
俺は大きく息を吐いた。
長時間に及ぶ体の酷使によるものではない。
目の前にいる相手の圧倒的な存在感に気圧されたからでもない。
俺のいる木の下に居る、相手の背中にいて安らかに眠っている奏の姿を見て安心したから………………では、あったかも知れないが。
俺の中に凝り固まっていた何かが吐き出されたのは、分かってしまったからだ。
眼前の相手………………ナサニエルは、眼だけは俺の目を見つつも、足は明後日の方向を向きかけている。
手は所在無さげに握られたり解かれたり、背負った奏を心配するように後ろへ向いたりして、落ち着きがない。
決闘まで申し込んでおいてどういうつもりだと思ったが………………目の中には迷いのある、それでいて我武者羅に突き進む気概が、爛々と輝いていた。
それらとその他諸々を込みにして判断すると、必然的に答えは導き出される。
白九尾&***:トロン&ナサニエル
嗚呼。
彼は俺と同じ。
迷いを抱えながら大事な、譲れない者の為に闘う者だったのだ。
<>(^・.・^)
二人は全身の妖力を勢いよく循環させる。
身体の不調を走査する時の要領でソレを行う、今回は不調を確認する以外にも目的がある。
木の上のトロンは赤とも橙ともつかない色に、ナサニエルは紫とも青ともつかない曖昧な色で全身を覆っている。
そこを見るに………………二人とも同じ考えを持っている様だ。
と、思い付いたようにナサニエルが背中の少女を下ろし、近くの木々に柔らかく結び付けた。
纏っていた色を消したナサニエルに、怪訝な顔で、こちらも色を掻き消した狐が言う。
「………………良いのか? 俺は奏を助ける為に此処に来た。その為なら何も惜しまないし、名誉なんてこっちからかなぐり捨ててやる腹積もりだが」
もっともな意見。
一騎打ちを要求したものの、ソレに応じるとも言っておらず、その上その言質も真実とは限らない。
狡猾さを受け入れた狐に対し、あまりにも温く、厳しさのカケラも無い行い。
厳しい言葉の刃に背中を刺されつつ、細心の注意を払う為に視線は少女から移さないナサニエルが言う。
「俺は彼女を傷付けたく無い。理由はそれだけで十分ではないか?」
「いや、それでも………………」
「それに………………貴様がこの少女の前で姑息な手は使いたがらない事は分かっている。更に言えば、貴様はもう俺との一騎打ちを受ける心積もりだろう? 違うか?」
「………………」
狐は口を噤んだ。
如何に狡猾になる決意をした彼であろうと、一騎打ちを断って奏を掠め取って行く積もりは無かった。
「貴様も、俺が不意討ちをするとは思わなかったろう。つまりはそれと同じだ」
「………………」
結局、狐は全て見通されていた。
自分から持ち掛けた一騎打ち、それを始める前に不意を打って危険要素を排除しても、誰も文句は言わなかったろう。
組織の目的達成の為には、それが一番手っ取り早く、確実な方法であるのだから。
しかし、狐はそうは考えなかった。
それは、目の前の相手が自分と同じ境遇だと、分かってしまったから。
違いがあるとすれば、護るべきモノが、人か信念かの違い。
そして、覚悟を決めたタイミング位だ。
タイミングの話で言えば、狐の方が幾らか上等かも知れないが………………
「それに、俺には貴様を打倒する絶対的な自信が在る」
結び終えて立ち上がり、ナサニエルが言った。
覚悟のタイミングがどうであれ、そう易々と越えていかれる程に、彼の屍は軽く無い。
何よりも、健闘してくれた部下達への追悼の意を込めて、絶対に目の前の相手を倒す、という気概に満ちていた。
復讐の想い、と言うよりも殆ど殺意に近い衝動に身を駆られる彼の姿は、正しく悪鬼のソレであった。
しかし、それで気圧される様な男なら、この場には来ていない。
ぽつり、ぽつりと狐は言う。
「………………俺には、お前に勝てる自信は、無い。でも………………それでも、奏を連れて帰る未来だけは譲れない」
確固たる意志。
纏っている妖力、はたまた身体の奥底に眠る力。
持ち得る全てを、未来を描く事に向けた少年の言葉。
未だ社会の荒波に揉まれておらず、余りにも真っ直ぐなその強い視線………………それを向けられたナサニエルは顔を逸らした。
《余りにも未来を望み過ぎる。力が無ければ、それは………………苦しいだけだろうに》
寸前までの自分に、幼さと無謀さを足したかのような狐の言い分。
しかし。
それに畏怖、悲しみ………………或いは惜しむ様な感情は生まれるが、哀れみや見下しは湧いてこなかった。
何故ならば。
《………………俺も少年の言葉に当て嵌まる。今の俺を否定する事だけは、俺には出来そうも無い》
それは、今の彼を突き動かす衝動そのものを否定する事。
言い方を変えれば………………今の彼自身を否定する事とも取れるだろう。
それだけは、出来なかった。
そしてそれは、狐も同じ。
今の行動を省みて後悔することはあるかも知れない。
けれど、今の自分を成り立たせている衝動だけは、未来永劫消える事はないだろう。
「待たせた………………それでは、始めようか」
「ルールは決めないで良いのか?」
「必要とあらば。然し………………俺は、ただ果たし合うだけと踏んでいるが」
「なら問題無い。俺も似たようなモノだ」
そして二人は、どちらからともなく妖力を纏い始める。
刹那、赤橙色の突風が、木の上からナサニエルへと向かう。
一瞬だけ彼は後退り、体勢を整える。
そして、狐は脚を振った。
「………………シィッ!」
口から声が漏れる。
大きく振りかぶってから振り抜かれた脚は、寸分の狙い違わずナサニエルの首元へ襲い掛かった。
重力、そして妖力による全身の瞬発力、耐久力強化も加わり、人一人を殺すには十分な威力の蹴り。
妖怪の蔓延る世界でなければお目にかかれない程の、超人的な動き。
しかしそれを………………ナサニエルは、濃い青紫色の両腕で、完璧に止めていた。
「………………ッ!」
多少なりとも衝撃は伝わっているのだろうが、妖力による影響で痛みは伝わっていないだろう。
それはトロンも同じ事ではある。
しかし………………精神的なショックは同じでは無かった。
「オォ!」
ナサニエルが、両腕を勢い良く払い除け、トロンを引き剥がす。
吹き飛ばされた彼が木々に衝突する寸前で、体勢を立て直して何とか木の幹を踏み締める。
トロンが傷を負う事は無かったが………………瞬間、攻守が逆転する。
飛ばされたトロンのもとへ、まるで丸太の様に膨れ上がった両腕を振りかぶったナサニエルが迫ろうとしていた。
トロンは全身に妖力を巡らせたまま飛び退け、喰らえばひとたまりもないであろう攻撃を避けようとする。
彼が飛び退いた直後、ナサニエルは振りかぶっていた右腕を勢い良く振った。
腕が空気を切る音がする中、悪鬼の如きナサニエルから目を離すまいと、視線を彼に向けていたトロンの目が僅かに見開かれる。
「………………チィ」
ナサニエルの右手の進路には、何も無かった。
彼は、トロンが居た木の手前に向かって腕を振りかぶり、そこを目掛けて振り抜いた。
であるならば、腕の進行方向には木の幹があって然るべきである。
ならば、衝撃で一瞬でも隙が生まれ、体勢を崩す筈。
そう、トロンは踏んでいたし、そこを突こうとも考えていた。
然し………………現実はそうはならなかった。
既に伸ばされた右腕は、決して細くは無い………………半径一メートル程の木を貫いていた。
それも、真正面からの一撃、貫通したのはもっとも厚い直径の部分である。
しかも、その跡が余りにも美し過ぎる。
穴の形は綺麗な拳の形で、穴以外に余計な力を加えていない為、木が揺らぐこともない。
「随分と静かな一撃だな………………ッ」
「此方としても、外部の者の干渉は出来るだけ避けたいのだ。それに、貴様は必ずこの手で屠って見せる」
今でこそ彼は隊長と言う地位にいるが、本来の彼は、組織の中でも、真っ当な戦闘においては無類の強さを誇る。
トロンは知らない事だが、彼は戦術的な妖術を持たない代わりに、幾つかの単純な権能が与えられていた。
一つは、組織の長としての、部隊運用能力。
数名の瞬間移動、配下の強化・及び鼓舞、更には配下生成まで。
その身体に与えられた組織運用の権能の一端は、既に今宵の戦闘で御目見えさせていた。
外見が微妙に異なり、個体番号を持たない配下は、彼が創り出したもの。
そして、個体の妖力循環速度を元の二倍程にまで高める技法。
他にも、権能と呼ばれる程の物でもないが、目線を合わせた者の思考推定、部下の気配感知等がある。
それらを使い熟し、数々の戦場を制圧してきた彼は、上層部からも厚い信頼を置かれていた。
そして、個人戦闘用の、身体強化能力。
これは先述の部下を強化する能力の転用で、外界を介さない代わりに出力を上げたモノである。
効果は単純な身体強化。
効果範囲が両腕にしか無い代わりに、両腕の通過領域の物を問答無用で押し退ける力を持つ。
腕の速度を越えて高速で動く物体や、妖術等で硬化された物体以外を対象とする時では、今のように十分な威力を発揮する。
振りかぶってから振り抜くまでが発動のトリガーとなっている点はあれど、十分に個人戦闘では有用な能力だ。
自ら前線に立ち、部下を鼓舞し、尚且つ自身が圧倒的な戦果を挙げる。
そんな、理想の隊長として、半ば採算度外視で設計されたのが、《大鬼長》ナサニエル・バトラーだった。
「………………」
勿論、トロンがその事を知る由もない。
だが、知らなくても立ち向かう他無い。
ゆっくりと余裕を持って振り向いた悪鬼の姿に、まだ若き狐は少しの戦慄を覚えた。
然し、直ぐに頭を振って気の弱さを追い出す。
「フッ………………!」
一瞬の間に生成した、簡素な投擲用氷片を右手に持ち、そして投げる。
この時、動揺から狐は風で速度を上げる事を失念していた。
必然、非力な少年の腕の力だけでは、そこまで速度は上がらず。
大鬼の腕にソレは捉えられる。
「………………」
ブォン、と音を立てて振られた左腕が、矮小な氷片を撃ち抜く。
その特性上氷片は砕ける事はなく、異常に薄い氷の膜となって、鬼の左腕に張り付いた。
………………此処迄は、狐の少年の計算の内である。
木っ端微塵に砕かれることが無いのは、先程の尊い木の犠牲によって分かっていた。
あの時、木の粉が舞い散ったりは、しなかったのだから。
だからこそ、試して見る価値はあると思い、実行に移した。
そして、布石が効果を発揮する。
「ッ!」
氷片に仕込まれた、草の束。
それらが、一斉に発火した。
熱と光を持った、純然たる炎に焼かれ、鬼の腕も無事では無い。
彼の腕に着けられた力は、自分以外の妖力を込められたモノには通用しないのだから。
氷は、『それ自体が妖力』である為に、圧縮して押し退ける事が可能だが、それに隠された『妖力によって固定された』物体には彼の権能が及ばなかった。
しかし、普通なら、所見の相手がそこまでの想像を付けられる筈は無い。
筈が無い、のだが………………狐の少年は、彼の師匠の教えを思い出していた。
『良いー? 知らない相手と相対する時に気を付けることはー、冷静で居ることなんだよねー。そーゆー手合いってさー、大体自分のペースに持ち込むのが上手いんだよー』
『基本的に妖怪、若しくは術使いってのはー、初見殺しが命な所はあるんだよねー。だからこそー、皆が自分の力を秘匿したがるのさー』
『でもねー。そーゆー相手でもー、いざ戦闘が始まるとー、全ての力を出さずに対応するー、なんてのは無理なのさー』
『まず様子を見てー、一つ相手の力が判明したらー、ソレに効きそうな攻撃を仕掛けてみるー。これが鉄則ー』
『此方が相手の事を知らないのと同時にー、相手も完全には此方の事は掴めない筈だからねー。無理に攻撃は受けずにー、無難に躱すか、妖術か何かを使って対抗して来る筈だよー』
『そこで新しく相手の力が判明すれば良しー、判明しなくてもー、繰り返せばー、相手の戦闘スタイルの癖が分かってくる筈だからねー』
………………飄々とした風貌を装う、天狗の少女。
彼女は、その経験則から導き出した答を、既に弟子に伝授していた。
弟子はそれを実践しただけ。
この緊張感ある場面でも、狐がそれを出来たのは、探偵事務所での模擬戦のお陰であった。
アレのお陰で、死なない為の動き方を掴んだ少年が、今鬼の前に立っていた。
《………………長引けば、此方が不利、か》
狐の少年は手数を活かして様々な試しをしてくるが、此方に出来る事は大して多く無い。
様々な妖術を使い熟す為に、彼の身体には膨大な妖力生成器官が備えられているが、それをフルに活用しても個人戦闘では殆ど活かせるものが無いのだった。
身体に纏う妖力は衝撃減衰や身体強化の意味を持つが、一度に纏える妖力の量は然程多く無い。
腕に回す妖力が少なくても妖術は発動する仕組みなので、そちらには特に妖力を割く意味が無い。
更には、彼には任務遂行の為に時間的期限が設けられていた。
《だが、絶対に、ギリギリ迄は逃げないッ!》
だが、彼の覚悟は既に決まってしまっている。
それを覆す事は今の彼には出来ず、出来るだけ早く相手を屠るしか道はなかった。
数秒も無くして、ナサニエルは腕に着いた炎を消す。
見ればそこは立派に火傷になっており、十全に力を込めることは出来なくなっていた。
然し、未だ許容範囲。
利き手でない方の手を潰されたとて、そこまで彼にデメリットではない。
それに、今の一合をもう喰らわない事は断言できる。
さぁ、試合を続けよう。
そう意志を込めた瞳で狐の少年を睨もうとするが………………その姿は何処にもない。
………………不思議に思い、しばし油断をしたのが彼の落ち度であったろうか。
<>(^・.・^)<と言う訳で、ナサニエルさん覚醒です
<>(^・.・^)<詳しくは一章終了後予定のキャラ設定紹介にて
<>(^・.・^)<ご感想、その他お待ちしております!