其の三三 俺、走る。
<>(^・.・^)<はい、作戦開始!
<>(^・.・^)<………………なんとかGW中に間に合ったぁ
<>(^・.・^)<次の更新は少し遅れるかもしれません
白九尾:トロン
森の中を、なるべく物音を立てないようにして進む。
目的地までの最短距離を、リシャール君を通して一之助さんがナビゲートしてくれるので、迷う事はない。
順調に進んでいる。
偶に怪しい集団に出くわさないではないが、まあ問題はない。
一之助さんには、こうした遭遇を避ける為に、不審な動きをする集団の連絡も頼んではいるが、如何せんワンクッション置いている為にタイムラグがある。
なので、仕方無いとも言えるが、一々遭遇したら無力化するのは少しだけ面倒ではあった。
念の為になるべく妖力を使いたくないけれども、奏を発見した時に群がられても面倒だ。
だから結局は発見次第無力化して回っているのだが。
****:**•**
彼等は草むらの中を歩いていた。
自分達は本隊とは別の、言わば囮の隊であり、歩く事こそが仕事である。
彼等の連帯感、結束力はとても強く、仲間の為なら自分の身を差し出しても構わないとさえ考えている。
そんな彼等の意志は、組織としてはある意味で最適解なものの、個人で見た時には何処か危険を孕んでいる様に見える。
大佐、と呼ばれる者が危惧していたのもそれであり、命と言うモノの価値をどうにも下に見ている節がある。
それはどうにかしたいが、この地での任を終える為にはある程度の自己犠牲精神は必要で。
優しい大佐は堂々巡りに陥り、『帰った後でしっかりと教育する』と言う先送りにしているのだった。
彼等の仕事はひたすらに歩く事である。
予め設定された目的地に向かって、真っ直ぐに進む事である。
しかし、当然それだけでは無く、もう一つの任もある。
それは、『不審者及び敵対者には、遭遇次第応戦、本隊に連絡し、本隊に敵が辿り着く時間をなるべく遅らせる』と言うものだった。
受け取り手がどう受け取ったかは別として、命に危険がない範囲で応戦し、そして可能な限り時間を稼いでくれ、と言うのが発令者の思惑である。
しかし、それは実質、『遭遇しなければ歩くだけ』に他ならない。
であれば、会わなければ何も無い。
彼等の上司は何事も無ければいいと思っているのだが、必然、囮隊の気は緩む。
「済まない………………少し良いか?」
退屈に耐えかねた一人が口を開く。
よく統率された兵ならば、任務中に私語など論外であるが、此処に居るもの全てが訓練を受けている訳でもない。
最初に話し掛けた者がどちらかは、一目瞭然の事と思われるが、他の者はどうなのかと言うと。
「何か用か? 三番」
任務中に作戦に関係の無い会話かどうかを判断する為、一応応える者が一人。
勿論行軍の真似事は継続しており、全体の進行に影響を及ぼす事はない。
「何、別段何がある訳でもないが、少し話をしようかと思うのだ」
「そうか。現時点で特に差し迫った用がある訳でもない。聞こう」
別段差し迫った用でも無いのに、任務中に話を聞く事自体には特に触れずに、話の先を促した。
一方で、促された側はと言えば、特に何も話すネタを考えていなかった為、一瞬迷う。
さして時間が経つ前に、三番と呼ばれた者は言った。
「そうだな。十七番は、この任が終わった後どうするつもりだ?」
「どうする、と言うのはどういう意味だ」
「言葉通りの意味だ。因みに私は、大佐殿に何か労いが出来ればと思っている」
「そうか。奇遇だな。私もそう出来ればと思っていた」
長期任務中にはありがちな会話。
帰った後に何をするかの会話ではあったが、彼等は全員が大佐に何かしてやりたいと思っている。
そういった事を部下が考えるくらいには、大佐は部下からの信頼が厚く、良い上司であると言える。
もっとも、大佐自身は部下達にはゆっくりしてもらいたいのであって、本人が知ったら複雑な心境になるだろうが。
「ふむ。となると、十七番には何か考えがあるのか?」
「特に考えてはいなかったが、どうやら一般に、カイシャと言う物では、仕事が完了した際に皆で騒ぐというしきたりがあるようだ」
「騒ぐ、とはどういう事だ?」
「詳しくは分からん。ただ、街頭で情報収集の任に当たっていた際、ドンチャンサワギ、という単語が聞こえたので注意して聞いていただけだからな」
「成程………………」
社会の一般的常識に疎い彼等が、『打ち上げ』の概念を理解していないのは、仕方の無い話であった。
騒ぐのはあくまで親睦を深める、楽しむ為であって、騒ぐ為に騒ぐ訳では無いのだが。
中途半端な理解のせいで、目的と手段が入れ替わっていた。
「皆で騒ぐ事にどれだけの意味が有るのかは分からないが、広く一般的に行われているのだったら、それを試してみる価値はあるだろうな」
「そういう事だ」
話は纏まった。
これから二人で案を作成し、今回の任務に当たっていた者達に同意を得る。
それら全てを、大佐に悟られなければ完璧だ。
であれば、今からは誰もが納得する、『ドンチャンサワギ』の諸々を立案せねばなるまい。
そう考えて、三番と呼ばれる者が口を開こうとした、その時だった。
「………………っ」
ギシ、と動きが鈍ったので見れば、足元が動かないようになっている。
自分一人かそうなったのであれば、草木に絡まった可能性を考えて、そこまで大事にせずに目もくれずに振り払うが、今回はそうでは無かった。
歩みを共にする仲間の全ての足元に、薄く、それでいて頑丈な氷が張っている。
その事に気が付いた時、十七番と呼ばれる者は咄嗟にある一つの可能性に辿り着く。
「………………敵襲」
大佐から予め警告された妖怪の一人に、雪女なる者が居た筈である。
その時は、かなりの力を持つと言われていたが、それにしては氷に込められた妖力が薄い気がする。
勿論身動きを封じるのに十分であり、勿体無いからと言う理由で節約している可能性もあったが、話に聞く雪女の性格がそうであったとは思えない。
お世辞にも優秀とは言えない彼等囮隊の思考能力も、こと戦闘となれば話は別になる。
今彼等を襲っている者は警告されていた雪女では無い事は推測出来た。
しかし、ならば一体誰が………………?
彼等の、こと戦闘においては優秀な思考能力が動いたのは、その時までだった。
白九尾:トロン
「………………」
遠方に向けていた注意を、自分の身に引き戻す。
また一つ、部隊の無力化に成功した。
秘訣と言う程の事でも無いが、それは、『俺にしか出来ない事』の一つである。
まず俺の肉体的能力を振り返ってみると、俺の体は狐と人間の要素が入り混じっている事が分かる。
体の多くは人間、顔の造形も基本的には人間、髪の毛もあれば掌に肉球がある訳でもない。
肉球に関しては、無いのが少しだけ残念ではあるが、今はそこではない。
俺の体の狐的特徴………………それは、鼻と耳と尻尾である。
鼻は狐の、野生動物のそれになり、格段に嗅覚が向上している。
耳は飾りかと最初は思っていたが、先程の特訓で、妖力を流すと外部の妖力の波導を感じる事が出来る事が判明した。
要するに、今回の様に、索敵をしながら出来るだけ敵に遭遇しないようにするミッションは大得意だと言う事だ。
鼻は狐のそれと同じく、人間の千倍から一億倍、耳の妖力の波導の感知能力は、凡そ百メートルは軽々届く事は判明している。
届く距離の限界は定かでは無いが、それでも木々が密集した夜の森では、十分すぎるアドバンテージになっていた。
加えて、俺の妖術。
先日のトイとの訓練で使用した、擬似サーフィンの要領で、もっと他に出来る事が無いかと考えた。
要するに俺の強みは、バリエーション豊かな戦術を取れる事なのだ、と思ったからである。
思索の結果思い付いたのが、投擲ナイフであった。
氷で切れ味の良いナイフを用意し、風を使って加速、及びコントロール。
足元を氷で一瞬でも固定出来れば、風の力で狙い撃つ事が出来る。
妖力の流れや嗅覚を頼りに狙撃しても案外成功率は高く、現時点で、投擲した相手全てを無力化出来ている。
余りにも上手く行き過ぎている気がしないでもないが、この際運に頼ってでも救い出す事は決意済みで、問題は無い。
一之助さんの指示の下、指定されたポイントに全力で向かうだけ。
周囲に敵影が無い事を確認し、俺はまた一歩を踏み出し、風で加速する。
人間・****:****・アメジスト
手持ちのナイフで敵の意識を刈り取って行く。
予めエメラルドに渡されたこのナイフには、斬り裂いた相手の内部エネルギーの流れを暴走させる効果がある。
最速ペースを維持しながら、狐の少年が撃ち漏らした敵を、音を立てずに処理して行くにはうってつけと言って良かった。
「………………はぁ」
出発前に精神的な休憩を得たものの、それで身体的な疲れが抜ける訳では無い。
日頃の激務に耐えかねた体は、既に悲鳴を上げかけていた。
その結果、癒やした筈の心にもとばっちりが行き、どんどんと精神的な摩耗が増えている。
溜息を吐いてしまうのも仕方が無い、と自分に言い聞かせていた。
「………………」
しかし、考えてみれば、激務で疲れた体でもこなせる程度の仕事と言う事になる。
私自身、普段とはかなり違った仕事内容に戸惑いを隠せない部分もあるが、それでも何とか成立出来ている。
内容自体の難易度の問題もあるだろうが、何よりも狐の少年の実力による所が大きいでしょう。
聞くところによれば、彼はつい先日此方の世界に来たらしいが、それにしては妖術の扱いが上手い。
勿論『戦神両翼』や私達、探偵事務所の彼女等や『陰陽師』の連中と比べればたどたどしくはあるけれど。
まぁベテランの私達と比べるのは土台無茶な話、駆け出しにそれだけの期待を負わせるのも過酷な事。
もし、今彼がやっていることを私達の内の誰かが代行すれば、撃ち漏らしなどせずに完遂出来るでしょう。
あぁ、勿論エメラルドは論外ですが。
しかし結局は、後輩がやりたいことをさせてあげるのが先輩の務め。
その上で何かあればサポートに回るのが、出来る先輩というもの。
私はボスに指示された通りの仕事をこなすまでです。
「………………さて」
ボスに言われていた仕事の一つ、相手方の身元の特定。
先程からそれをしようとは思っているのですけれど………………相手のトップも中々に頭が切れるのか、今まで遭遇し処理した者は、その全てが組織のマーク等は身に着けていません。
全員が無機質な灰色で全身をコーディネートしており、私の記憶上にそうした制服を使用している怪団体は無かった筈。
しかし、二つ程挙げられる特徴がある。
「やはり此の者達も」
浅く生えた草の中に膝を下ろし、首筋に刻まれたソレを目にする。
私が既に首から先が無い者の首の筋を見れば、三番、と数字が刻まれている。
隣の者は十七と刻まれている。
明らかに尋常では無い。
確かに数字によって兵を統率するのはどのような軍隊でも行っている事であり、そこに然程不自然さは無い。
だけれど、全ての者の首筋に入れ墨をするなどと言った話は、聞いたことが無い。
それだけなら、まだ『そういう団体』として割り切ることが出来ないではないけれど、不審なことに、入れ墨を入れている者とそうでない者の二種類が居る。
特徴の一つはまさしく首筋の入れ墨についてだった。
「………………」
周りを見渡し、やはり不自然な点があるのに気が付く。
入れ墨を入れていない者達の顔は至って普通、格好の良い顔もあれば少しばかり不細工な者も居る。
そちらは何の不思議もないけれど、対して入れ墨を入れている者の顔は等しく同じ。
顔の作りから目や鼻の形、流れている妖力まで全く同じだった。
本来、妖力と言うものは個人個人によって微妙に特性が異なり、それによって同じ種族の妖怪でも扱える妖術に差が生まれる。
それが妖怪の常識であり、似た性質の妖力を持つ者達は居れど、全く同じソレを持つ者など存在しない筈であった。
妖怪にとっての遺伝情報とも言える妖力が、完全に一致すると、言うことは………………
「………………いや」
私は首を振り、余計な思考を振りほどく。
今私がするべきことは、狐の少年のサポートに徹することだ。
細かいことは、帰ってからボスなりエメラルドなりに相談すれば良い。
立ち上がって靴の爪先を数回地面に打ち付け、再び少年を追って私は走り出した。
天狗:シンミ
私は夜の空を駆ける。
いや、駆ける、よりも滑ると言った方が、伝わりやすいかもしれないねー。
実際に私は足を動かしてはいないので、駆けているというのは嘘になるかも、と言う懸念はあったけれど………………駆ける、ってなんかかっこいいじゃんー?
ああ、駆けるなら、天翔ける、とかって表現した方がより格好良かったかなー。
まあ今更自分の発言を撤回はしたくないので、もう一度言うことにする。
こほん………………私は夜の中、天翔ける。
………………うん、こっちのほうが格好いい。
まるでペガサスにでも乗ったかのような表現だけれど、実際に乗っているわけじゃないし、もっと言えば翼が生えているのは自分なんだよねー。
何を隠そう、この私は天狗であり、背中にはカラスのソレを思わせる立派な、格好いい翼が生えている。
服を着る際に面倒ではあるし、買ったものにわざわざ穴を開けなければならないのは少し心が痛むよねー。
なので私服はなるべく増やさないようにしているのだけど………………時折、トイちゃんから『お前はそれでいいのか』と言う視線を感じる。
五月蠅いやい、私はそれでいいんだから、問題ない。
そこ、女として終わってる、とか言わないように。
と言うか、こと服に関してはトイちゃんだって似たようなものなのになー。
………………眼下に眼をやれば、そこでは複数人、大体五人から十人で編成された部隊らしきものが幾つも目に入る。
私が居るのは山頂から見て南東、最も反応が強かった点から見ても南東の地点。
今私が居る箇所では、件の少女の姿は見えないけれども、それでも敵をわざわざ見逃してやるほど私は優しくないし、社長の命令に背くほどの胆力も持ち合わせていない。
では、彼らを片付けてあげるとしましょうか。
全身に力を込め、妖力を一つの場所に収束させる。
実践で扱うことはあまりないけど、それでも十分に扱いなれた技の一つ。
いやまあ、技名とかは特に考えてないんだけど。
だってさ、考えて見てよ、自分で自分の技に名前を付けることのイタさを。
もしそれが百歩譲って別に構わない人は、考えてもらいたい、もしそれが、例えば《超強力最強最高絶対破壊死亡風》とかの、一周回ってセンスがあるのかないのか分からなくなってるような奴だったら、ってさ。
え、かっこいいって?
じゃあ、もう何も言うことはありません、なんかすいませんでした。
さて、十分に練りこんだこの妖力をもって何をするかと言うと。
簡単な話。
ちょおっと彼らを持ち上げるだけ。
ぐあん、と、地面から掬い上げられたように持ち上げられる彼らの姿は、少し見て行て滑稽ではあった。
私と同じだけの高度、およそ地上三十メートル程に持ち上げると、彼らの顔が驚きに満ち溢れているのがよぉく分かった。
出来るだけ音をたてないように配慮した、それでいて確かな強さを持った風。
今度このやり方をトロ君に教えようか、と考えている辺り、私も面倒見がいい。
さて、持ち上げた彼らをどうするかと言うと。
「ちょおっと眠っててね?」
唸る風が私の指先一つで彼らを天高く持ち上げてゆく。
何と言うべきか、彼らが後生大事に抱える銃火器に月明かりが反射して、不思議と美しかった。
その輝く星空に、一瞬だけ目立ってしまったかと思ったが………………まあ元より明るかった星空が少しだけ明るくなったと言うだけの話。
そこまで問題ないとは思うけど………………もしも夜に親の言いつけを守らずに起きている子供とかいれば、ちょっと不味ったかなぁ。
まあ問題ないでしょう。
さて、只高く上げただけでは邪魔なだけだ。
一応私にも慈悲の心はあるので、運が良ければ死なない様にしてあげよう。
「てぃっ」
私は指先を天から南の方へと向ける。
そして強さを調整して、私が狙った位置まで飛ぶようにする。
自分一人も満足に飛ばせられないトロ君では絶対に出来ない真似であり、《超風》の妖術を持つ私でないと出来ないだろう。
いくら弟子とはいえ、自分の専売特許を簡単に譲ってやるつもりは全くない。
そこだけは絶対に負けてやるわけにはいかない。
まあ半分以上は意地であり、後輩が育っていくのはうれしい気持ちではあるけど、でもやっぱり根が負けず嫌いな為か、どうしても張り合ってしまう。
さぁ、南の方角には何があるかと言うと。
「うまく着水してねー?」
まあ簡単に言ってしまえば大海原が待っているのだが、まあ私の知ったことではない。
十キロ程遠くに飛ばしたけれど、そこで彼らが無事に生きていても死んでいても私には関係のない話だからねー。
別に生きてようが死んでようが今回のミッションでは関係ないし、言っちゃえば、今後の私の人生にも影響するとは思えないしー。
とまあ、私が配慮するのは身内だけ、バリバリの身内贔屓ですがなにか文句でもありますかー?
雪女:トイ
私は森の中を滑る。
これはこの間弟子君がやっていた氷サーフィンを真似したものだ。
シンミの方は彼の成長に触発されている様子だし、私は私で彼にいい影響を受けていることが実感できる。
日々の訓練は、双方にとってのメリットとなっていた。
初めて会った時に、考えをまとめるのに時間をかけなければ喋れない私を見て、そこに関して触れてこなかった彼に対して、私は好印象を持っている。
そのうえ、最初の問答での彼の答えは、最初から指導役を引き受けるつもりだった私の心にやる気を芽生えさせた。
いづれは私の教えた技術を彼が完璧に習得して、私以外の師匠からもいろいろなことを学んで、私と同格になるときが来るだろう。
幸い、妖怪と言うものは努力を重ねれば妖力量、つまり強さに直結する大事な点が増えていく。
そうなれば一日の訓練量が増え、そしてまた妖力量が増え………………あとはその繰り返しだ。
彼が私と肩を並べる日が楽しみだ。
さて、大きく問題が無いままミッションは進行している。
私自身も特に気にするほど妖力を使っていないし、ほかの地点で苦戦している、という話も聞かない。
まぁ、まだ敵と遭遇すらしていない状態で妖力を消耗していたら、二流どころか三流もいいところだ。
師匠として、弟子君にそんな姿は見せられない。
ならば何も問題ないし、私は私の任務をこなすだけだ。
私に任された地点はこの先の二つ。
まだ敵部隊の大きさは目にしていないけれど、社長から聞く限りでは大したものではないようだ。
なら、初手に私の妖術をぶっぱなして、動きを封じるのみ。
「………………! い、た!」
思わずつぶやいたけれど、声量を抑えるのは忘れない。
話に聞く通り、一つの部隊につき五人ずつで編成されているようだ。
私は、彼等を肉眼で捉え、先程の特訓で弟子君を凍らせたように力を動かす。
妖術と言うものが所謂銃火器よりも優れている点と言うのは幾つかあるけれど、今回でいえば、それは犯人の位置を隠蔽できる点だろう。
勿論ここからは私自身の妖術についてなので、いくらかの人は当てはまらないかもしれないけれど、まあそこまで気にしてはいられない。
ええと、例えば、普通の人間でも、火薬のにおいや銃声で、相手の位置に気が付く事が出来る。
でも、妖術と言うものは、種類によっては妖術を感知する者相手でも完全に位置がばれない程の超隠蔽特化のものもあるらしいし、そこまででなくとも、実際に音やにおいは立てないものがほとんどだ。
私だってさっきの特訓で弟子君を凍らせたときには、彼の動揺もあったろうけど、私の姿には気が付かれていない。
要するに、今回のように遮蔽物に囲まれた状態で、此方は性能の良い《気配感知》で相手の位置は筒抜け、此方の位置はばれていない、この状況は超イージーモードということ。
さて、木々の隙間から彼らの様子を確認する。
私の存在に気が付く気配もなく、のうのうと歩いている。
スムーズに仕事が進むのは非常に有難いし、範囲が広くないので一度に使う妖力の量が増えないのはいいことだけど………………
一瞬だけ、『その程度の相手なのか』と言う落胆が私の心を覆った。
本気で一刻も早くお嬢さんを救出したい弟子君には悪いとは思う、だけどそれでも、どこか期待していたところはある。
だって、相手はあの『綿貫グループ』の社長令嬢を誘拐するほどの手練れだという話だ。
期待するなと言うほうが無理な話だ、少なくとも私にとっては。
長々と考え事をするくらいの時間をもらったおかげで、完璧に近いほど練り上げられた妖術がここにある。
放出すればどれほどの威力を発揮するかは想像するに難くないから、発動後すぐに次に向かうことは出来るけど、せっかくならきちんと見届けよう。
さて、妖術に込める妖力の量は調整済み、あとはどの地点で効果を発揮するかを情報として、妖術の前身とも言えるものにインプットする。
妖術の前身………………それは効果を発揮する前、外界に影響を及ぼす前の妖力の塊。
この間の訓練で弟子君が目くらまし用に用意した燃える葉、あれも立派な妖術の前身の活用の仕方だ。
用意して出して、を一度に行うと、連射が厳しくなるし時間差を生かしてフェイントをかけることも出来ない。
だからあれを弟子君が使ったというのは大きな進歩だ。
私が以前やったことを真似して成長している証。
どこまで行くかな………………楽しみだ。
「………………じゃ、あ、ちょ、っと、此処、に、居て、ね?」
小声でつぶやき、手の中の妖術の前身を送り出す。
それは目的の場所まで真っすぐに飛んでいき、やがて自身に規定された役割を全うする。
刹那、妖術の発生地点から半径十メートル程が一面氷に覆われた。
………………一丁上がり。
私の仕事はこれで半分が終わったことになる。
超イージーもいいところだ。
そもそも私が全てを担当すれば一瞬で終わるのに、とも思ったけれど、弟子の成長を見守るのも師匠の仕事。
今回はもう決まったことに口出しはしないけど、次回はもう少しストレス発散の機会を作ってもらおうか。
事務所の訓練室も悪くはないけど、どこかあそこは息が詰まるし、何処かいいところはないかなぁ………………ああ、そうだ、〈妖技場〉に行けばいいか。
顔ばれが嫌で決闘に参加したことは無かったけど、そこは覆面なりなんなりすればいい。
あとで関係者に連絡しておこう。
<>(^・.・^)<いろいろと後で説明するところもあると思いますが
<>(^・.・^)<作者がガチで忘れるところもあると思います
<>(^・.・^)<「これそうじゃね?」ってのがあったら
<>(^・.・^)<お時間があればお教えください
<>(^・.・^)<あ、分かるかと思いますが、そろそろ大佐とトロン君が邂逅しますよ
<>(^・.・^)<ご感想その他お待ちしております!




