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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第一章 出会いと優しさと
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其の三 俺、少女と出会う。

 夕暮れ、と言うよりもう夜の公園のブランコに一人座っている少女は、どこか悲しそうな表情をしていた。

 近所の高校の制服を身にまとって一番星が現れるのを見ていた少女と、星空に変わりつつある夕暮れ空。

 まるで絵画から切り取ったかのような情景は、美しさというか、どことない寂しさを感じさせる。

 もう夜になると言うのに、こんな人気の無い場所に一人で居ても大丈夫だろうか。

 普段の俺なら考えないような事を考えてしまうのは、この少女の雰囲気のせいか、たまたま機嫌が良かったからか。

 なんにせよ、放っておく事は出来なかった。


「こんばんは。一人で何してるのかな?」


 言った後で、ヤバい発言をした事に気がついたものの、後の祭。

 下手したら通報されかねないと焦っていると、少女は、さほど気にしていないようで、


「なにって............座ってるんだけど?」

「それは見たら分かるから」


 おおう、マジか。

 この子、結構言うねぇ。

 こっちを向いて来たので分かったのだが、この子は(少女)よりも、(美少女)の表現の方が合ってるな。

 かなり小さめな顔に付いているのは、少しつり気味の吸い込まれそうな目と、形の良い唇と鼻。

 全てのパーツが、この少女のクールなイメージと合っている。

 また、肩のあたりまで垂らした髪も相まって、とても愛らしい。

 ......そう、(愛らしい)のだ。

 彼女の評価を(美しい)ではなく(愛らしい)とさせる決定的な原因、それは、身長にある。

 俺がこの子を高校生だと思ったのは、制服を着ていたからだ。

 もし制服ではなく普通の服を着ていたとしたら、多分高くとも中学校一年生、低くて小学校五年生くらいでもありえると思う。


 ............しかしあれだな。

 ここまで成長が遅いとは、もはや病気なのではないかと疑いたくなる。

 それはさておき、まずはこの少女を送り届けないとな。


「あの...家はどこだ? こんな人気のない所に一人で居ちゃ危ないぞ?」

「しらない人の言うこと聞いちゃいけないって、お母さんが言ってた」


 ...こんのアマァ...人が善意で人助けをしてやろうと思っているというのに......

 しかし、すぐに落ち着く。

 だいたい、美少女に怒ったところでどうしようもないのだ。

 それならば、今ここで親しくなっておいた方が良い。


「俺はトロン。新人妖怪だ.........これでもう〈知らない人〉じゃないだろ?」


 少女はあごに手を当てて一つ頷くと、


「............いちりある」


 と呟いた。

 難しい言葉を知ってるんだなーと思ったが、高校生だったら知ってても当然か。(この子の見た目がアレすぎて、つい思ってしまった)

 でも、この子、結構騙されやすそうだな。

 そうだ。

 この子にも名前を聞いておこう。


「あの......君の名前は?」

「会ったばかりの人におしえるわけない」


 ............ですよねー。

 よくしつけられた子供だ。

 まあいい。

 これからじっくりと仲良くなれば良い。


「もう知らない人じゃないし、家の場所は?」

「こっち」


 少女は立ち上がり、俺はその後を追う。


 [***]


 大通りを歩きつつ、ふと疑問に思った事を聞いた。


「で? 何であんな所に一人で居たんだ?」

「お昼寝してたらいつのまにか暗くなってて、しかたがないから一人で座ってたの」

「............もしかして、暗いの怖いのk」

「そんなことない」


 食い気味に答えた。

 ......えー、じゃあ俺の右手を掴んで離さないこの手はなんなんでしょうか?

 と、そのとき、野良猫が目の前を走り去っていった。

 右手がさらに締め付けられる感覚を覚え、こういう所は見た目相応だなぁと考えて、


「............やっぱ暗いの怖いn」

「そんなことない」


 でも、さっき公園で会った時よりも、言葉遣いの角が取れたような、少し心を開いてくれたような気がして、ちょっと嬉しい。

 かく言う俺も、この子との会話は楽に出来る。

 前世で、女子に話し掛けられた時に『は、はいぃぃい!?』と言ってしまったあの事件以来、女子との会話はしない(と言うよりさせてもらえない)事にしていたが、この子は見た目がアレなので、あまり意識しないで会話出来るのが嬉しい。


「......おにーさんは?」

「へ? 何?」

「なんでおにーさんは一人だったの?」

「それはだねー............」


 前の世界で死んでからのことを掻い摘まんで説明した。



「............と、言う訳だ。分かったか?」

「うん」


 おおぅ、なかなか理解力あるな。


「いやはや、街に降りてきたのは良いものの、行く当ても無ければ、する仕事も無い。こっからどうすっかな~」


 投げやりになって呟くと、意外な一言、


「............うちくる?」

「行く行く! ......って、え? マジで! 良いの!?」


 聞くと、この子の家は保育園を経営しているらしく、『あなたみたいにもふもふだったら子供達にも大人気』とのこと。

 働く場所は探していたが、流石に保育園はちょっと............


「いや、やっぱいいや。親御さんに悪いしな」

「へーき。今家にお父さんとお母さんいないから」

 

 あー、なんだ。両親が居ないなら、何も問題はな......ちょっと待て。今何つった?


「今、〈両親が家に居ない〉って言ったか?」

「...? 言ったけど、なに?」


 何を言ってるんだ?

 真面目な顔して、トンデモ発言しただろ?

 この子。

 何故両親が居ないからOKになるのか。

 普通は逆だろうに。

 まあ、一晩泊めてもらうくらいなら、お願いしようかな。

 俺にはロリコンの属性は無いので、別に何かする気も無いし。


「いや、何でもない。じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔しようかな」

「.........うん」


 この子はそっぽを向いて顔を隠そうとしたっぽいが、耳まで赤く染まっているので、何を考えているのかはだいたい分かる。



 ......どうしよ。

 やっぱ迷惑だったかなぁ。

 でも、今さら『やっぱいいや』とは言えないしなぁ...後悔してるんだろうなぁ............

 と、歩きながらそんな事を考えていると、


「......ついた」

「は?」


 いや、待ってくれ。

 ちょっと待て。

 だって、ここって、あの超有名な、チョコレートをビスケット生地で包んだお菓子『狸のサンバ』を生み出したあのお菓子会社、『ロテツ』の社長宅だよ?

 つか、おかしくない?

 保育園経営してんじゃないの?


「あの、保育園を経営しているのでは?」

「うん。わたしがしょうらい、ほいくしになりたいってお父さんに言ったら、今のうちにいつでもけんがくできるように、買ってくれたの」


 マジか。

 社長令嬢はんぱねぇ。

 って言うか、お父さん娘を溺愛し過ぎだろ。

 いくらなんでも、『じゃあ経営する』という選択肢は出て来ないでしょ、普通。

 門のそばに警備員さんが十人くらい立ってるし、止めてあった車に乗っていたらしき運転手のような人が、運転席から降りて、ドアを開けて『遅かったですね。お嬢様』とか言うし。(俺も乗り込んだ)

 ま、いい。

 とにかく、ここで俺は一晩寝る事になるのか。



 にしても、本当にデカい家だなぁ......門から建物の入り口まで車で移動する家なんて、俺初めて見たぞ。

 しかもこの車、日本で買える値段なのか?

 なんかやたらと長くて、全長約十メートルくらいあるんだけど?

 ......まあいいか。

 どうせ一晩だけだし。

 そして、車から降りてちょっと歩くと、なんか普通の一軒家が見えた。

 へぇ、こういう家って、使用人たちの家も敷地内にあるんだなぁと思っていると、どうやらそこに向かっているらしい事が分かった。

 ああ、使用人の人達に紹介してくれるのか。と思い、そのままついていく。

 しばらくして、


「............ついた」

「おう、そうみたいだな」


 近くで見ると、結構でかい。

『普通の一軒家』という評価は訂正しよう。

 三階建ての家の庭は結構広くて(庭の中の家に庭があるのかという事は言ってはいけない)、イヌ小屋がある。

 花壇もあって、昼間はさぞ綺麗な事だろう。

 ......こんな家に住めるのなら、俺ここで働こうかな............

 と思っていると、少女が、


「じゃ、あけるよ」

「おう、いつでも来い」


 張り切っている俺に少女は怪訝な目を向けながら、ポケットから取り出した鍵で かちゃん と鍵を開けた。

 玄関から、


「あの、すみませーん、誰か居ませんかー?」


 と声を上げると、後ろから、


「? だれもいないけど、どうしたの?」


 え?

 誰も居ないの?

 けどまあ別にいいか。

 どうせ今晩だけだし。


「誰も居ないのか? じゃあ、一人暮らしなのか?」

「うん」

「そうか。じゃあ、お邪魔します」


 靴を履いていなかったので、どうしようかと思ったが、こういった妖怪の為の『足洗い機』みたいな物が一般的に普及しているみたいで、持って来てくれた。

 それを使って、足を綺麗にしてから玄関を上がると、一般的な家の内装がそこにあった。


「ちょっとまってて」


 と言って、少女はぱたぱたと足音を立てながら、奥へと消えた。



 リビングの椅子に座って待つこと約十分、再び少女が現れて、


「こっちきて」


 と言う。

 少女に促されるまま、二階へと登ると、なぜか二階なのに和室があり、布団が敷かれていた。


「この部屋、使って良いのか?」


 と聞くと、


「うん。どうぞ」


 と返答があった。

 じゃあ、遠慮なく。


「じゃあ、俺は今日疲れたからもう寝る、おやすみ」

「うん、おやすみなさい」


 少女が階段を下りる音を聞きつつ、俺は枕元の行灯をよけて、布団に潜り込む。

 目を閉じて、寝ようとした所で、思い出した。


 《イザナミさん、俺は何とか楽しく生きて行けそうです》

 《? そうですか。それはなによりです》


 戸惑いながらも返答してくれるイザナミさんって、凄い優しいよね。

 そして、俺は異世界での一日目を終了した。

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