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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
番外章・二 戦う理由があるのなら
231/249

其の二

ちょっと設定語りするお話になっておりまする

いろいろ考えてみて頂ければ~

 雄国:タンディニウム総合病院


 ナサニエル・バトラー




 私と蘭の名前を聞いたバグルは、寝台の横に置いてあるパイプ椅子を手のひらで指した。

 座れということなのだろう、お言葉に甘えて蘭とそれぞれ椅子に座りながら、私は切り出す。


「本題に入らせてもらう──その前にあなたの名前を聞いてもよいだろうか?」

「もちろん。僕はバグル、<吸血鬼>だよ」

「ほう、吸血鬼! 日ノ本にはいない種の妖怪じゃな……っと、此方ではデビル(Devil)と呼ぶんじゃったかな」

「うん、よく知ってるね……そういう郭蘭(カグラ)は、たぶん学会所属の研究者かな。妖怪やデビル、キジムナーにカムイの分布について把握してるみたいだ」

「正解じゃ! お主こそ、よく知識を蓄えておるのぅ。伝承にあるように<吸血鬼>はやはり長命か?」


 自己紹介を機に話が脱線しかけたのを察して、私はひとつ咳ばらいをする。


「その話は、また後日してくれるか。一旦私たちの来訪目的について話させてくれ」

「おお、すまぬな」

「うん、そうしてくれるかな」

「では、簡単に。私達は『宝石団』から、バグルを守るために遣わされた。細かな事情について聞かされていない部分も多いが」


 私のごく簡潔な説明を聞いて、バグルは寝台の上で瞼を降ろし頷いた。


「うん、うん……なるほど、それならよろしくね。ちなみに遣わされた理由と背景事情について、僕から説明する必要があるかな?」

「いやにあっさり受け入れるんだな、こちらとしては話が早いが」


 異様な物分かりの良さに、私はやや面食らった。

 調査員として活動していたことから理解力があるのは確かだろうが、どこか意志薄弱というか、意思が希薄なようにも受け取れる。


「では、背景事情について聞いてもいいか?」

「うん、それでこそ看護師さんに退出してもらった意味がある。僕が何を調べていたのかは知っているね?」


 優しい口調で問うバグルに向かい、私は頷いた。


「【原始怪異】と聞いている」

「そのとおり。僕は【原始怪異】……それも自律的に動くものを追っていたんだ」

「というと、通常【原始怪異】は自分からは動かない、と?」

「うん。そのあたりは、学会員の郭蘭の方が詳しいんじゃないかな?」

「む?」


 なぜか静かにしていた郭蘭に、バグルが水を向けた。

 暗に説明を促された郭蘭が、どこから話したものか、と天を仰ぎながら腕を組む。


「まず【原始怪異】という存在について語るには、その成り立ちを語らねばならん。この世界には幾つか【原始怪異】が点在しておるが、その由来を知っておるか?」

「いや……寡聞にして」

「では言うが。ぶっちゃけた話、未だに分かっとらん」

「は?」


 答えになっていない答えが郭蘭の口から出てきて、私は疑問を形にした声を発した。

 病室だからか、よく響いた。


「当り前じゃろう、疑問点が多い存在故に学会が続いているんじゃぞ」

「それもそうだね。じゃあ、郭蘭はどう考えているのかな?」

「ん~……未だ推論の域を出んのじゃが。拙は神の産物じゃと考えておる」

「か、神?」


 突拍子もない単語が飛び出てきた。

 それなりに世界を回り様々な景色を見てきたつもりだが、私にとって神という言葉は余り馴染みがない。

 祈りという行為に長らく縁がなかったせいもあるだろう。


「うむ。エルも聞いたことはないか? ()()()という存在の数々を」

「ああ、それなら少しある。任務上戸籍を見る機会もあったが、実態とやや乖離することも多かった」

「任務、戸籍──ねえ郭蘭、転生者と神にどういう関係があるのかな?」

「転生者というのは、総じて異なる世界から姿を変えて此方の世界にやってきた、とされておる。これ自体に議論はあるが、気になるのは何故転生者たちは()()妖怪のような超存在として現れるのか、という点じゃ」


 言われてみれば、そこは盲点だった。

 自分がこれまで出会って来た転生者の内、純然たる人間と言えるものは存在しなかった。

 何なら、不思議な力を自身の外側ではなく内側に発生させる術使いも、いなかった。


「無論全ての転生者とコンタクトを取れたわけではないじゃろうが、それでも数百件のうちたった一つの例外もないのは、疑うべきじゃろう?」

「すごいね……それ、自分の脚で取ったデータだよね?」

「うむ。フィールドワークと参与観察が拙の基本スタイルじゃからな。何年もかかった……娘にも迷惑をかけた」


 褒められた郭蘭だが、どこか後悔が滲む苦々しい表情を浮かべた。

 娘──つまり綿貫奏のことで、何か思う所があるのだろう。

 その辺りの話まで突っ込んでいいものか分からず、私は郭蘭に何も言えずにいた。


「ま、ともかく。世界を移動する際に神秘的な力を宿すのは、転生者たちの様子を見ればわかる。ではその神秘的な力とやらは、()()から現れるのか?」

「どこ、か。それについては確かに考えたことはなかったなぁ」

「──」


 神秘的な力が何によって宿されるのか。

 その答えについて、一つの()()を知っている私は何も言えない。


「世界と世界を跨ぐときに神秘が宿るのなら、そこにいるのは神以外に考えられんじゃろう。即ち神秘の根源は神にあると見るべきじゃ」

「……それくらいなら、よくある話じゃないのか?」


 神秘の源は神という話は、世界中でそれなりに聞く話だ。

 宗教に関係なく、それくらいしか納得できる説明がない、という理由だが。


「まあ聞け、ここからが大切なんじゃ。神について、その存在を観測したことがあるか?」

「ないねぇ。経験の有無というよりも、それは次元の違いによって出来ないんじゃないかなぁ?」

「確かに。二次元世界の住人が我々(三次元存在)を理解できないのと同様か」

「理解が早いのぅ。そうじゃ、次元が異なる存在を観測、解析することはできない……実はの、同じことが【原始怪異】についても言えるのじゃ。妖怪はある程度分析が進んでいる一方、【原始怪異】はさっぱりでのぅ。妖怪と【原始怪異】は成り立ちからして違うんじゃないか、というのが定説じゃ」


 言いたいことは理解できる。

 漫画やアニメなどのキャラクターが此方を認識できず、此方が一方的に向こうを認識しているように。

 神にとっての人間もまた、同じなのではないか、という話なのだろう。


「つまり──次元的には、人間に対して神と【原始怪異】は同じ位置にある、と?」

「そういうことになる。【原始怪異】は外観は分かるものの、内部構造も素材も何もかも分からんのじゃ。人間や妖怪たちが用意できる機器では、そもそも測り知れん代物なんじゃろう」


 随分と、壮大な話だ。

 とはいえ実例を知る私は、それを荒唐無稽な作り話だと断じることはできない。

 自然に生れ落ちるのではなく、何者かの手によって神秘が生み出されることもあり得るのだ。


「つまり郭蘭、『現時点で成立している機器では観測不能』であり『確かに存在が信じられている』二点で神と【原始怪異】を同列に見ることができる、ということかな?」

「そうじゃ。しかし確たる証拠はない。故に推論の域を出んと言ったじゃろう」

「蘭、以前鵺を追う時に名前を出していた【原始怪異】──【界穴樹(かいけつじゅ)】だったか? あれの軌道は分かっていないのか?」


 プロイーゼでの任務中、蘭は私にとある【原始怪異】の移動経路が鵺の出現場所と被っていた、という話をした。

 もしも【界穴樹】の軌道が既に分かっているのだとしたら、今バグルが纏めた『観測不能』の点が怪しくなり、仮定が崩壊するのではないか。

 そう考えた私の指摘に、人差し指を立てた蘭は目を輝かせてずい、と顔を近付けてきた。


「そう! そこが正に肝要なのじゃ!」

「うおっ」

「エルの指摘じゃが、端的に言えばルートは分かっとらん。そもそも移動する【原始怪異】はこの一例しか確認されとらんのじゃ。発見された地点を記すところまでは行ったんじゃがなぁ、規則性がさっぱり分からんのでなぁ」

()()()が何処から来るのか、なぜ生まれるのか分かれば、【原始怪異】研究も数段先へ進むだろうね」

「その通り! 拙は先程の持論の通り、神に関係する伝承のある地点が怪しいと踏んでおるのじゃが、確証はまだ得られとらん」


 一気に興奮が強まった蘭の勢いに気圧されつつ、私は一応納得した。

 確かに、差異を比較してその理由や文脈を探ることは、極めて理性的な思考方法の一つだ。

 唯一の例外とされる【界穴樹】に焦点を当てるのは当然と言える。

 蘭がここまで力を入れて【原始怪異】について語る必要があったかについては、微妙な所だが。


「ん? それなら、バグルが知ったという【原始怪異】に纏わる情報とは、まさか」

「──うん。【界穴樹】の移動ルートについて、その知見を切り開く情報、と言えばいいのかな」

「──まことか!?」


 たっぷり十秒ほど呆けてから、蘭が寝台の上に手をついてバグルに迫った。

賢いキャラクターが集っていると、話の流れが円滑でいいですね……というか、随分大事な話をしているな……?


総合評価がいい感じの所まできてるので、よければ評価やブクマなどよろしくお願いします~~

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