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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第四章 意思と望みと
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其の三一 微かな手掛かりと引っかかり

遅れました!!!

来週は普段通りの時間に投稿いたします!!!

 古都の北:御苑




 木々によって囲まれた御苑の広場にて、一人の女子学生と一人の鬼が抱き合って泣く。

 女子学生は心配していた気持ちを全て吐き出すように嗚咽し、鬼はどうしていいやらわからないといったようにすすり泣く。


「うぅうう~~、あぁ~~~、よかったよぉ……」

「自分も、何が何だか……でも、また会えてよかった……」


 それを少し遠くから、俺と奏が見守る。

 俺は奏が誘拐されたときに助けに行ったことを思い出していたし、奏もきっと同じ事件を回想していただろう。

 何気なく奏の方へ目線を向けると、あの月の綺麗な夜に見せていたのとそっくりな笑顔を、奏が湛えていた。


「さて……いつまでもこうしてはいられないか」

「? どうするの?」

「トウシさんに、これまでどうしていたか聞く。相手方──<GNOME>がどう出て来るか、何を目的にしているのか分かればいいんだけどな」


 実のところ、GNOME──奏の誘拐を二度も企んだ傭兵派遣企業が、本当にこの件に関与しているのかは分からない。

 だが、最初の誘拐、即ち俺がナサニエル・バトラーと拳をぶつけ合ったあのときに、鋭い勘を発揮していたリシャール君が、今回の事件にもGNOMEの影を感じ取っている。

 実績のあるリシャール君の言葉を信じるのは当然のことだし、何より今は他に目立った証拠もない。

 今の二人のところに割って入るのは少し気が引けるが、古都全体のことを考えれば、今行かないわけにはいかなかった。


「あー、すみません、取り込み中かと思いますが、少しいいですか?」

「あなたは……?」

「このヒトは、私がトウシを探してほしいって頼んだ探偵事務所のヒトで──」


 それから、依頼主の女子学生はトウシさんに、俺の説明をし始めた。

 過不足ない情報が出たと判断したタイミングで、俺はトウシさんに再び向き直る。


「そんなわけで、トウシさんの捜索をして古都まで来て、ようやく発見したという訳です。身体が痛むかもしれませんが、それは俺の責任です。治療費は請求してください」

「いえ、そんな。痛みも殆どないですし、出血も……ないようです。お世話を掛けました」

「それならば大丈夫ですが、一度病院での検診をお勧めします……それと、これはトウシさんの捜索と直接は関係しないんですが」


 一つ前置きをして、俺は続けた。


「トウシさんはさきほど、自分でも何が何だか覚えていない、というようなことを仰っていましたが。最後の記憶はどんなものですか?」

「最後の記憶、ですか。そうですね……」


 俺の問いかけに対して、トウシさんが顎に手を当てて考え込む。

 身体的な疲労と契約主と再会できた喜びで、記憶を探るのに難儀しているのだろうが、こうして真摯に思い出そうとしてくれるのは有難い。

 本当に、ついさっきまで俺と殴り合いをしていた<茨木童子>と同じ妖怪だとは、とても思えない。

 しばらく考えていたトウシさんが、ゆっくりと口を開いた。


「自分はいつも通り、キャンプに出掛けました。妖怪なので自動車ではなく徒歩でキャンプ場まで向かったのですが、そこで不思議な()を聴きまして」

「声、ですか」

「はい。聞いたことのない、でも何だか惹きつけられるような声がして、そっちに向かっていったんです。何時の間にか森の奥深くに入ってしまって、それからは、もう。すみません、情報が乏しくて」

「なるほど……いえ、助かります。ありがとうございます」


 記憶の糸を辿ってなんとか証言してくれたトウシさんに、俺は頭を下げる。

 声が、何らかのキーワードになりそうな予感がする。

 人を惹きつけるような声……逸話ではセイレーンなんかが当てはまりそうなものだけど、声に特徴のある妖怪はあんまり詳しくないな……

 そう思っていた時、依頼主の女子学生がトウシさんに聞いた。


「ねえトウシ、さっき、なんか、私の方に声が聞こえてきたと思うんだけど」

「貴女の方に、ですか? 確かに、契約している人間と妖怪同士の間では、時々そういう意識の共有が起こるとは聞きますが」

「! すみません、そこで何と言っていたか、覚えていますか?」


 女子学生は、うーん、と少し唸ってから、ぽつりと言った。


「たしか……『これで番人が揃った』、とかなんとか」




<***>




 ひとまず俺は御苑の広場からトウシさんたちを避難させることにした。

 もしかすると暴走状態が解除されたトウシさんへ、GNOMEが襲いに来るとも限らない。

 だから後からやってきたリシャール君に任せ、『化生會』の本拠地へと向かって貰った。


「さて、情報を整理しよう」

「声と、ばんにん(番人)、だね」

「ああ。それと、揃った、って言い回しも微妙に気になる」


 俺と奏は、御苑の広場へと繋がる門の下でトウシさんたちを見送ったまま、顔を突き合わせて状況の整理をしていた。

 奏には俺が持ち得ている情報を粗方伝えてあるが、俺たちが気になった情報は既に口にした三つだった。

 声に関しては正直分からない、『化生會』のメンバーに聞けば心当たりがあるかもしれないが、今は皆取り込み中だろう。


「番人ってことは、何かを何かから遮るために配置してるってことになる。じゃあそりゃなんだ?」

「片方は、わかるよ。トロたちだよね」

「多分そうだろうな。本命は『化生會』だろうが、俺たち探偵事務所の面々も抑え込んでる」


 番人として配置されている妖怪たちを放っていくことは出来なくはないが、古都を守り切るのが最終目標の『化生會』が番人を放置できるわけもない。

 じゃあ、埋められた杭の数々はフェイクだったってことか?


「で、問題なのは抑え込んで何をしたいのか、って方だな」

「ん、なんだろ。『化生會』のみんなに来てほしくないってことは、なんか盗ったりするのかな」

「盗る、か。そうなると気になるのは……奏を誘拐したときのことだな」


 二回も狙ってきたのだ、奏をどうにか利用しようとしているのは間違いない。

 奏は親から受け継いだ術を使う<術使い>で、他者に妖術を付与することができる。

 その情報がどこから漏れたかは不明だが、恐らく<術使い>としての奏を狙ったのは間違いない。

 だから、今回もGNOMEはそれ相応の神秘を求めてきたはずで──


「もしかして」


 そこで、俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。




<***>


 御苑の西:大河


 大嶽丸:デンザイ




 着物の裾が含んでしまった水気をデンザイが絞っている時、彼の下に連絡が入る。

 念話での通信という極めて個人的な連絡故、相手は自ずと明らかだった。


(どうした、トロン)

(デンザイ、少し教えてほしいんだが)


 随分と慌てた様子で、トロンはデンザイに念話を飛ばす。

 何をそんなに焦ることがあるのかと問い詰めたくなるデンザイだったが、古都が危険に晒されているかもしれない今、あまり悠長にしている暇はない。


(なんだ?)

()()()()に、【原始怪異】はあるか?)


 【原始怪異】。

 旧王から聞いたことのある単語がトロンの口から出てきたことに少し驚きながら、デンザイはすぐに答えを返した。


(ああ、あるぜ。大和ヶ原の大仏寺に、【紅白虎(べにびゃっこ)】って短刀の形したヤツが)

(! じゃあ連中の狙いはそれかもしれない……悪いデンザイ、事情を全て説明してる余裕はないんだけど、今すぐそっちに向かってくれるか?

 俺も向かう)

(いや、それは……)


 トロンの言うことを信じられないわけではない。

 むしろ、自分をここまで立ち直らせるための一押しをくれた相手なのだから、何を置いても信頼すると決めている。

 だけど、すぐに古都を放って大和ヶ原へ向かえ、という助言には、すぐに頷けない。


(他の拠点が心配か?)

(……ああ)


 そうしたデンザイの葛藤も、トロンは見透かしていた。

 トロンは、自分が琉球王国でのテロの際に行った作戦行動を思い出しながら、デンザイに語り掛ける。


(大丈夫だ、とは言えないけど。シンミもトイも、頼れる仲間だ。それに、今このことに気付いてるのは俺たちしかいないし、他に杭を抜くメンバーを減らすわけにもいかないだろ?)

(それは、そう、だな)

(ああ。だから、俺たちは俺たちに出来ることをやろう。大丈夫、ケーメリンやレットルもいる、拠点に現れた妖怪たちは何とかしてくれる──気に掛けるだけが、トップじゃないだろ)


 トロンの頭の中では、若き琉球王国の国王となった、人一倍弱虫で優しい妖怪の姿が浮かんでいた。

 心優しい(セルゥ)は確かに周囲の心配をし続け、テロの首魁への対応として決定打を出したのも彼だった。

 だが彼は(いたずら)に右往左往していたのではなく、その時その時自分に出来ることを全うし、判断を遅らせることはなかった。


(! ……そう、だよな。迷ってばっかじゃ、かっこよくねぇよな!)

(いくら迷ってもいいけど、動けなきゃ、俺はかっこいいとは思えないな)

(まったくその通りだ! 行くぜトロン、大和ヶ原の大仏寺に!)

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