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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第一章 出会いと優しさと
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其の一七 俺、働いた。

<>(^・‐・^)<こんこん

 労働とは、案外楽しいものかも知れない。

 昼下がり、俺はそんな事を考えていた。

 自分の行動で他の人を支えている事が認識出来るし、何より居場所ができる。

 世の中、決して楽しく、嬉しい事ばかりでは無いのかも知れないが、手に職があれば、何とかなるだろう。


 ああ、労働は素晴らしい。

 働いて流す汗も素晴らしい。

 その後の冷たい飲み物は、さらに素晴らしい。

 世間で言う「ニート」と言う人々は、全くもって勿体ないことをしている。

 彼ら彼女らには、労働に意味を見いだせていない人が多いに違いない。

 騙されたと思って、一度汗を流すべきだ。

 さすれば、労働の楽しさ、喜び、社会貢献の何たるかが、きっと理解出来るはずだ。


 ああ、素晴らしい。

 ハローワークバンザイ!

 サービス残業バンザイ!

 時間外労働もバンザイ!

 スーパーフライデーはいらん!


 .........そんな風に、自分を鼓舞していた俺。


「トロン様、この机を運びたいので、そちらを持ってください」

「あ、はい、分かりました」

「『はい』の前に『あ』は要りません」

「.........はい」


「すみません、釘が切れたので、取ってきて頂けないでしょうか」

「釘、ですか?」

「そうです。四番倉庫にあるはずですので」

「え、この家、四つも倉庫があるんですか?」

「いえ、日曜大工関連の物が、四番にあるだけです」

「倉庫自体はもっとあるんですね.........」


 いやはや、心が折れたね。


 そもそも、執事の仕事がハード過ぎるのがいけないのだ。

 インドア中のインドアと名高き俺に、肉体労働は向いていない。

 なのに、半日でかなり厳しめの肉体労働をさせられた。

 .........ツラミがフカミ.........


 さて、精神的にも肉体的にも疲弊しきった俺は、使用人室で一息吐いていた。

 あの心優しそうな井川さんに、「いきなりのこれは少々きつかったですかね。もう良いですよ」と、戦力外通告を受けた。

 正直に言って、机の移動や、家具の固定、板の取り付けなどの大工仕事は、執事の仕事では無いと思う。


 さてさて、これからどうするかな。

 どの道ここに居ても、する事は無いのだから、と立ち上がり、ドアへと進む。

 ドアまで残り腕一つといった所で、勢いよくそれは開かれた。


 バァン!

 開かれた木製扉の、圧倒的な速度と質量によって、俺は為す術なく尻餅をつく。


「ぐはぁ」

「すまぬ! 我輩としたことが、花瓶を落とし、割ってしまった! 処理を頼む! .........む? 貴様は、少年ではないか」


 吹き飛ばされた俺は恨めしげに見上げる。

 そこにいるのは、ナイスミドルな渋いおじ様。

 つまり、入って来たのは、奏の父親の兜さんだ。

 結構な数の会社を経営し、日本でも、世界でも有数の財力を持つ、かなりのバケモノだ。

 娘のために、保育園を買うといった、かなりの親馬鹿とも言えるが。


「痛.........はい、トロンですよ」

「貴様は、何をしている? 奏に付いていなくて良いのか?」

「授業参観でもないのに、なんで学校まで付いて行くんですか? それ、多分ヤバいやつでしょう」


 と、反論すると、この人は親馬鹿の片鱗を見せてきた。


「む、そうなのか? 我輩は気にしたことは無いが?」

「それはあんたがおかしいと思う」

「そうなのか。.........分かった。今後は、奏が特別可愛い時以外は、自重することにしよう」

「.........それがいいと思います、はい」


 多少は改善された、のか?

 これ以上会話を続けても、もっとやばい何かが出てきそうなので、話題の転換を図る。


「それで、なんでしたっけ? 花瓶を落とし、割ってしまったんですか?」

「うむ。その通りだ。使用人に何とかしてもらおうと思って来たのだが、誰もいないらしいな」

「あのー、俺、今日は使用人ですよ?」


 午前中で終わったかも知れないが。


「ほう、そうなのか。では、我輩の失態の始末を頼む」

「失態だという自覚はあるんですね.........」


 言いながら、立ち上がる。

 そして、掃除用具の入ったロッカーを開け、事件が発生した場所へ向かった時、はたと気づいた。


 .........なんで俺、この人の言いなりになってんだ?


 自分は午前中で終わっているとでも言えば、逃れられたろうに。

 まあ、兜さんの堂々とした態度には、人を動かす力があると言うことにしておこう。


 無理矢理に自分を正当化して、ほうきとちりとりで破片を集めて捨て、『後は任せました』的な井川さん宛ての置き手紙を使用人室に残し、作業は終了した。

 主にどんな処罰を与えるかは、やはり本職が考えるべきだと思う。


「ほう、貴様、中々筋が良いではないか」

「え、自分では出来ないのに、そういうの、分かるんですか?」

「嫌何、貴様の意欲が向上するかと、出任せを言っただけだ」

「.........そうですか」


 意外とおちゃめな面があるのかもしれないと、そう、思った。


 問題は、その後だった。


「.........貴様、これからも奏と共に居る気か?」

「いや、親馬鹿な貴方と俺の間には、それに対する意識の差があると、俺はそう思うんですが.........」

「御託は良い。答えろ」


 いつになく、声が厳しい。

 顔も、なんだか本気の雰囲気だ。

 なら、こちらも。


「まあ.........そのつもりです、はい」


 向こうが許可してくれるかは分からないけど。

 正直な気持ちを口にしたつもりだ。

 兜さんは、張り詰めた顔を緩め、柔らかな微笑を漏らした。


「ふ.........ならば、良い」

「あ、終わりですかね? 帰ってもいいですか.........」

「貴様、今から我輩に付いてこい」

「え、ちょま」


 ガッ、と俺の手を掴み、兜さんは駆け出す。

 助けを求めようとして、そもそも今使用人がほとんど居ないから、俺が駆り出されたことを思い出して、諦める。


 今日の訓練は、午後の三時からと約束している。

 今はせいぜい正午辺りの時間帯。

 早めに出るとしても、近場なので、三十分もあれば、寄り道をしながらでも着くだろう。

 少なめに見積もっても、残り時間は、二時間半ほど。

 割と余裕は、ある。


 .........こういうの、本来は主人公がヒロインにやる事だと思うんだが。

 俺は兜さんの言葉の魔力に逆らえず、ついて行かざるを得なかった。

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