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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第四章 意思と望みと
202/248

其の二三 タッグマッチと重役出勤

 古都・大和ヶ原の境:小屋まわり




 構えを取るケーメリンとレットルに向かい、二人組の女がそれぞれ駆け出した。

 まず最初に接近したのは、腕と脚を獣の強靭なソレに変化させた、ホットパンツに革ジャンの女。

 腕を交差させながら、隠していた爪を立て、大きく振りかぶってケーメリンとレットルに肉薄する。


「おぉらァッ!」

「くッ」


 先読みに優れるケーメリンは先んじて後退しながら回避し、木簡盾の防御に秀でたレットルは受け流しながら後ずさる。

 相当に重い一撃、比較するならデンザイのパンチに匹敵するような衝撃が、レットルに圧し掛かる。


「大口叩くだけはあるみてえだな。おれのツメ喰らって折れねえその盾とウデも、な!」

「ふん、貴様に褒められたとて何とも──」

「うーん、褒められたら素直に喜ぶべきなのでーす」


 軽口に軽口で返そうとしたレットルの背後に、もう一人の女が立つ。

 黒と白を基調にしたゴシックロリータの服装に似合わぬ鎌を構え、月光に刃を煌めかせる。

 レットルが左腕の木簡盾を鎌に合わせようとするが、どう頑張っても間に合わない位置にある。

 しかし、この場にいるのは三人だけ、ではない。

 発砲音が響いたかと思うと、金属同士が強くぶつかり合う耳障りな衝撃音が轟いた。


「うッ!?」

「いきなり首取ろうってのか? そいつぁ、見逃せるワケねえよな?」

「──ふ、ふふ。あなたも中々いいウデ、してますね」

「お褒めに預かり、恐悦至極だぜ」


 得物を銃弾で弾かれ、衝撃で腕が痺れるゴスロリの女が、一本目の右腕に拳銃を携えたケーメリンに吐き捨てる。

 そして、身動きの取れないゴスロリの女の隙を、レットルが見逃すはずもない。

 レットルは右手の大麻(おおぬさ)に妖力を込め、布部分をベースに剣のように形どる。


「おおッ!」

「ははッ、させッかよ!」


 踏み込みながら横薙ぎに大麻剣(おおぬさのつるぎ)で切り払ったレットル。

 しかし獣のような低姿勢と瞬発力を発揮して、ホットパンツの女がゴスロリの女を担いでその場を一旦離脱した。

 相棒に助けられたゴスロリが、地面に降ろされながら礼を言う。


「ありがとなのです、ノーちゃん」

「ッたく、こーゆーときは素直なんだからよ……とにかく、コイツら、結構やるみてえだ。どうする?」

「んー……」


 レットルの防御力と、ケーメリンの正確な射撃、そして何より完全に信頼し合った二人のコンビネーションを、二人の女はよく感じ取った。

 爪の切り裂き攻撃を仕掛けた時に、ケーメリンは態々レットルに避けるよう伝えなかったし、鎌の攻撃を受けそうになった時に、レットルは避けようとすらしなかった。

 一方、相手の力量を把握したのは女二人組だけではない。


「……どう見る?」

「見かけ以上に強い。獣の膂力は勿論だが、貴様は白黒の方をいつ感知した?」

「恥ずかしながら、鎌を構えるまで全く気付かんかった。そういう性質の妖怪と見た方が良さそうだな」

「なるほど。では放っておくわけにはいかぬな」


 レットルが下した結論に、ケーメリンも無言で首肯する。

 単純にパワーが強い獣を放置していては各地の杭抜き部隊が無事では済まないし、異様な隠密性と奇襲性能の高いゴスロリも甚大な被害を出しかねない。

 小屋の中の会話を盗み聞きしていた二人は、敵の目的が『原始怪異』の奪取であると理解している。

 それが一体どういう意味を持つか、までは理解が及ばないが、至宝とされる『原始怪異』を奪われるのが大きな損害であることには間違いない。


「杭、『原始怪異』、そして此奴らと各地の襲撃者たち」

「加えて、もう一人本丸がいるっぽいぜ。マハーリーヤ、とかいうやつがな」

「そのようだ。しかしそれらが上手く繋がらん。結局杭は何のためだ? なぜ『原始怪異』を狙う? ……我々は後手に回りすぎている」

「さてな。とにかく分かることは二つあるぜ。とにかく杭を抜かなきゃ危ねえだろうことと、こいつらを止めなきゃいけねえ、ってことだ」

「それは、そうだな」


 構えを取り直し、眼前の女二人がどう動くか警戒するケーメリンとレットル。

 女二人もまた、似たような結論を下していた。


「まーでも、この二人を行かせないのは、それだけで価値があると思うのでーす」

「そーゆーと思ったぜェ。っつーワケで、テメエは行ってこい。少ない駒でなるべく沢山を抑えんのが、戦争の定石だろ」

「……無理は、しないよーに。忠告でーす」

「そっちこそな!」


 そう言って、ゴスロリは森へと駆け出し、獣はその場で爪を研ぎ始めた。


「んん? おいおい、二人組で戦うんじゃねえのかよ?」

「はッ、んな約束してねーだろォが。テメエら二人、おれ一人で充分だッつーの」

「へえ、舐めてくれんじゃん」


 互いに挑発を交わしながら、ケーメリンは念話でレットルに告げた。


(一周だけゴスロリを警戒、その後はゴスロリを仕留めろ)

(丁度そう言おうと思っていた。あの手の輩は、分断した方が我々の得手。都合よく動いてくれたもの)


 阿吽の呼吸でレットルもその場を離れ、森へと駆けこんでいく。

 意外な行動に驚いた獣の女が、ひゅう、と口笛を吹いた。


「ほォ? 随分殊勝な作戦じゃねェか。各個撃破するつもりか?」

「ま、それもある。どっちも放っては置けねえし、こうする他取れる手はねえ」

「はーん……そいつァまるで、おれたちを一人一人でどうにか出来るッつーよーに聞こえるが?」

「悪いのは耳か? 頭か? そう言ってんだよ、獣風情が」


 ケーメリンが口角を上げながら言い放つと、獣の女の瞳に殺意が混じる。


「もー限界だ、死んでも文句言うんじゃねェぞ──!」




<***>


 古都・大和ヶ原の境:森の中




 一周だけ小屋の周りを見て回ったレットルだが、白黒の女の姿は何処にも見つけられなかった。

 潜伏に全力を費やしている可能性も無くはないが、わざわざあんなゴテゴテした服を着ておきながら、森に伏せるという選択をする相手とは考えにくい。

 そう判断したレットルが、ゴスロリの女の捜索に方針を転換した。


「さて……」


 一つ深呼吸をして、周辺の状況を確認する。

 古都と大和ヶ原はレットルにとって庭も同然、地の利は揺るがない。

 そしてレットルは、普段は封印している脳の領域を覚醒させた。


「疲労が溜まる故、使いたくはないのだが……そうも言っていられぬか」


 右手の大麻に力を込め、左手に握った盾を浮遊させる。


「私の本領、お見せしよう──」




<***>


 古都北:御苑



 突如として現れた巨大な鬼に対応する、『化生會』の妖怪たち。

 しかし、炎を飛ばしても、鞭を伸ばしても、鬼の強靭な肉体は止まらない。


「クソッ、どうしたらいいんだ……!」

「あんたは今は考えろ! 唯一あいつと戦った経験のあるあんたが、この場と北の杭抜き部隊の命運を握っていると言っても過言じゃない!」

「そんなこと言われても!」


 昼間に巡回を担当していた<釣瓶落とし>の妖怪は、巨漢の鬼が暴れるさまを目の前にしながら作戦立案を任される。

 全身の筋肉を隆起させている鬼──ボスによれば、トウシという名の<茨木童子>──に、明確な弱点があるようには思えない。

 それは、一度拳を交えた<釣瓶落とし>が一番よくわかっていた。


「どうすれば、どうすれば……」

「危ない!」


 思考を巡らせて回避が疎かになっていた<釣瓶落とし>のところへ、割れた樹の枝が飛来する。

 傍に居た別の妖怪がその危機に気付き、間一髪飛び込んで枝を逸らすが、すぐに苦悶の声を漏らす。


「うッ」

「おい、おい大丈夫か! あぁ、俺のせいで、枝が刺さって……!」

「ッ、いいからあんたは頭を使うんだ! 今はおれの脚よりも、作戦建ての方がずっと大事──」

「──そうだな。でも、その脚のケガは見過ごせない。今は引いていてくれ。トウシさんの相手は俺がする」


 その時、一同の背後から涼やかな声が聞こえた。

 秋の夜を吹く旋毛風のような、山に流れる一条の河のような、涼やかでまっすぐで、凛々しい声。

 怪我を負った妖怪と<釣瓶落とし>が其方を振り向くと、半透明に輝く刀を携えた少年が、その場で鬼を見つめていた。


「あ、あんたは……」

「俺はトロン。『化生會』に訳あって助太刀する。確認はボスのデンザイあたりに取ってくれ」

「あ、ああ──あんたが敵か味方か分かんねえけど、とにかく頼む! おれはこいつを連れていったん下がる!」

「ああ、頼んだ」


 <釣瓶落とし>は鬼を見つめる少年と握手を交わし、脚に怪我を負った仲間を担いでその場を離脱した。

 天地がひっくり返ったとしても、作戦遂行よりも命を大切にすべきであり、<釣瓶落とし>の退却判断は全くもって責められるものではない。

 北の御苑の戦いは、白い九尾の狐に託される。




<***>


 白九尾:トロン




 さて、何とか間に合ったようだ。

 周囲の様子を見るが、そこまで大幅に損壊している様子はない。


「そう? 木は折れちゃってるし、ひとも少なくなってきたけど」

「そうだな──ぁ? え、奏!?」


 想像だにしていなかった声がすぐ後ろから聞こえてきて、思わず声が上ずる。

 そこには、片手を軽く挙げてほほ笑む俺の契約主の姿があった。


「や、トロ。来ちゃった」

「いや、来ちゃった、て。それはいいけど……」


 この時、俺の脳内に迷いが生じる。

 奏を控えさせるなり背負うなりして共に戦うか、それともいったん奏を退却させるか。

 俺が自分の本分を全うするのなら退却するほか選択肢はないが、奏の指摘通りトウシさんを止める相手は少なくなっており、その間多大な被害が発生しかねない──

 ああ、いや、違うな。


「わかった、絶対怪我しないようにな」

「ん、まかせて──じゃあ、頑張ってね」


 わざわざここに駆けつけてきてくれた、奏の想いを無碍にしたくない。

 俺の忠告を受けた奏は俺の背中を軽く叩き、トウシさんから反対側の木々の陰に隠れた。

 次の瞬間、その方角から耳馴染みのある旋律が聞こえてきて、俺の全身に活力と妖力が漲った。

 琉球王国での戦いを経て体得した、秘伝の旋律。


「相変わらず凄い効果だ……これなら、何も怖くない」

『化生會』の妖怪について


彼らは『化生會』という治安維持組織に加盟しているわけですが、実戦経験の有無は大きく異なります。

特に、旧王時代に所属していたメンバーと、それ以降の新規加入メンバーとでは大きく開きがあります。

さらに、古参であっても旧王引退以後長く続いた平和によってブランクを背負っている者が多く、〈妖技場〉の闘士たちと同レベルで戦える人材(妖材?)は、ごく限られています。

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