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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第四章 意思と望みと
200/249

其の二一 決起、そして開戦

実は今回で200部です!

文字数にして76万字……これからも頑張りますので、よければいいねとブクマ、評価などなど、宜しくお願いします!

 古都:『化生會』の妖怪たち




 日が沈み始め、茜色に空が染まり始める。

 古都全域から集められた妖怪たちが、東西南北にそれぞれ一か所ずつ、計四か所に等しい数だけ割り振られていた。


「くっ……あぁ」


 ここは西の集合地点、古都でも有数の河の傍。

 二十ほどの数の妖怪が『化生會』本部からの支持を待機しているが、その表情は様々であった。

 欠伸をしながら腕を伸ばすのは、その中の一人。

 首元を抑えて頭を左右に振ったり、所在なさげに足を動かしたりと、見るからにやる気に欠けていた。

 そんな彼女を見過ごせなかった別の妖怪が、彼女の下に詰め寄った。


「おい君。そんな態度はやめたまえ」

「は? アンタ誰?」

「誰、って……私は『化生會』の古参だ。今回の作戦で、西の現場指揮を任されている」

「ふーん」


 詰め寄った男は壮齢であり、『化生會』の結成当初から存在するメンバーである。

 旧王から新王への切り替わりで一度は袂を分かったものの、新王デンザイの呼びかけに応じて馳せ参じたのである。

 一方で、詰め寄られた女は詰まらなさそうに、髪をくるくると指で弄っていた。

 その様子に、古参の男が更なる苛立ちを募らせる。


「だから、その態度を慎めと言っている!」

「はあ? アンタが古参だからって、なんで言うこと聞かなきゃいけないワケ? ウチ、べつに来たくて来たわけじゃないんですケド」


 女の主張としては、周辺の妖怪たちが『化生會』なる集団の呼びかけに応える、というのでノリで付いてきた、というものだった。

 周辺の妖怪たちと異なる行動をとれば、自分自身だけでなく、自分が契約している女子高生までも白い目で見られるかもしれない。

 そうならないように、義理立ての為に参加したはいいものの、彼女自身に『化生會』への思い入れはこれっぽっちもないのだった。


「なん、だと……!」


 今にも女につかみかかろうとする男は、『化生會』の一人として奮闘してきた。

 世界大戦にもなりかけた大犯罪者の<百目鬼>を制圧する戦いにもその身を投じるなど、『化生會』初期の歴史は彼と共にあると言っても過言ではない。

 今の『化生會』に協力する決断をしたのも、デンザイに旧王が理想として掲げた王の姿を見出したからだ。


「貴様……ッ!」

「は? 何、なんか文句あるワケ?」


 一触即発の緊張感あふれる状況と化してしまった西の集合場所で、他の妖怪たちも止めるべきか判断に悩む。

 この場には、女の立場に近い者も、男の立場に近い者も、どちらも殆ど同数存在している。

 思い入れの強弱もグラデーションを描くように異なっており、一概にどっちが正しいとも言えない。

 そんな状況を切り裂くように、一人の少年が姿を現した。


「──うーん、いいな、オマエたち」


 その声は決して大きなものではなかったが、誰もが惹きつけられる不思議な声色であった。

 和装を纏った少年は大きな存在感を放っているが、それが羽織った大きなコートによるものではないことを、集合地点の誰しもが気付いていた。

 少年は下駄で草を踏みしめながら、集団の中央で対峙する女と男の下へ辿り着く。


「オマエはすっごく真面目なヤツだ。そういうヤツがいたからこそ、『會』はここまで存在出来てる……今回もよろしく頼むぜ」

「! ああ、任せろ、王!」


 新王ことデンザイは、下から男の肩を叩き、にかっと笑う。

 爽やかな笑みに居心地の悪さを感じて、再び指で髪を弄り始めた女。

 デンザイはそんな女へと視線を移し、彼女の背中を軽く叩く。


「オマエもすっごくいい!」

「……はぁ?」

「オマエはすっごく素直だ、思ってることを言ってくれるし、なによりおれたちじゃ気付けないことについて考えるコトができてる……そういうヤツがいなきゃ、『會』はこれから()()()()()()()()いかなくなっちまう」


 想定外の台詞をぶつけられて、思わず女は怯んで目を丸くする。

 しかしデンザイは至って平静な顔で、相変わらず颯爽とした笑顔を彼女に向けていた。

 デンザイはくるりと踵を返し、西の集合地点に集った妖怪たち一人一人に、順番に目線を向けた。


「うん、うん……頼もしいヤツらばっかりだ、本当におれは運がいい……だからこそ、気合も入る!」


 デンザイは、拳と拳を打ち付けあう。

 そのまま、彼は手持ちの通信機器に話しかけた。


「聞け! 『化生會』の下に集った妖怪達よ!」




<***>


 北の集合地点:御苑




 通信機器から立体映像が映し出され、凛々しい表情の少年が叫ぶ。


『おれこそが新たな王、新王デンザイである! 此度はおれの呼びかけに応えてくれてありがとう、感謝する!』




<***>


 東の集合地点:大舞台




 神妙な面持ちになって、少年が続ける。


『突然なんだ、と思うヤツもいるだろう。オマエに一体何ができる、と思うヤツもいるだろう……けど! 今日はどうか、協力してほしい!』




<***>


 南の集合地点:総合公園




 自分の映像越しに、一人一人に目線を合わせる心持ちで、デンザイが言葉を紡いでいく。


『おれたち『化生會』のために、なんて言うつもりはねえ。勿論おれのため、なんかでもねえ。この古都と、そこに生きる皆を大切にするために──』




<***>



 西の集合地点:河川敷




「どうかおれに……いや、おれたち『化生會』に、力を貸してくれ! 報酬は勿論出すからよ、皆で人知れず街を守る……そういうの最高にカッコいいだろ?」


 言い切って、デンザイは笑った。

 大丈夫だと、自分がいるから安心してくれと、かつて自分が夢見たヒーロー(ライダー)のように。

 今でも背中に手が届かない、旧王に恥じないように。


「──おぉ!」


 誰が応えたかは、デンザイには分からない。

 一人、また一人と、デンザイの言葉に共鳴した妖怪たちが、拳を突き上げたり掌で胸を叩いたり、決意を顕わにしていく。

 先程にらみ合っていた二人も、片や拳を握り締め、片や微笑みを漏らして肩をすくめていた。


「私は……私は、やるぞ王よ!」

「あーあ……子どもにそこまで言われたら、やんないワケにいかないよねぇ」


 すべての集合地点で、似たような湧き上がりが起こっていた。

 『化生會』のメンバーも、かつて脱退した者も、『化生會』とは毛ほどの関係もなかった妖怪も。

 やる気に満ちていた者も、流れに身を任せていただけの者も。

 今この瞬間、確かに目的と熱意を共にしていた。


「さて、細かな指示は現場にいる『會』の本部メンバーや監督役に聞いてくれ。安心しろ、もし敵が現れても、おれとそいつらで対応する。皆は杭抜きに専念してくれ!」


 作戦のトップとしての指示を早々に切り上げて、デンザイは通信機器を切った。

 うし、と小さく呟いて、彼は西の集合地点に集まった妖怪たちに指示を飛ばす。


「皆、大体は今おれが言った通りだ! ここで写しを配るから、これと同じ杭をどんどん引っこ抜いてくれ!」


 デンザイは、懐から紙束を取り出した。

 手のひら大の紙束には、昼間トウシと『化生會』の見張りとの戦闘が起きた場所にあった杭の写真が印刷されている。

 全体を半分に分けて適当に回してもらいながら、デンザイは周りを見回す。


「そうだな……オマエとオマエ、あとオマエとオマエは引っこ抜かれた杭を『化生會』本部まで運ぶ役割を頼む。杭自体に危険はねえけど、それを放置しとくのもマズイからな」


 頼まれた妖怪が頷いた。

 彼らはみな、足の速さと腕力の強さに自信を持つ妖怪か、若しくは物体を浮遊させる妖術を使う妖怪であった。

 この場に集った妖怪たちのことを、デンザイはきちんと知っているという、何よりの証明だった。


「そんで、残ったヤツらで、今おれが指名したヤツの右と左にいるヤツ。オマエらは運び手の護衛を頼む。もしものときのサポートもだ……いいな?」


 言われた妖怪たちが、心地の良い笑みを浮かべてゆっくりと頷いた。

 さて、と一言漏らし、デンザイが続きを言おうとした、その時。


「──GU、GUOGYUBOUBOO!」


 何やらじめっとした、粘り気のある咆哮が轟いた。

 やっぱり来やがったか、と背負った太刀に手を伸ばすデンザイ。

 しかし、集った妖怪たちの中には、明らかに危険な存在が出現したことにすっかり怖気づき、腰が引けてしまっている者もいた。

 その様子に気付いたデンザイが、一旦太刀から手を離し、自分の腰に手を当てて宣言した。


「アイツはおれが相手する、皆はその間に杭を! 大丈夫だ、さっきも言ったろ? おれは皆を大事にしたいんだ」


 へへ、と笑うデンザイの姿を見て、それでも尚動き出さない者はいなかった。

 集った妖怪たちは散開し、咆哮が聞こえた方角を避けて、各地へと散らばっていく。

 頼もしい皆の様子に胸を温かくしたデンザイだが、彼はすぐさま背中の太刀の柄に手を当てた。

 次の瞬間、河川敷傍の森から、何やら黒くて丸い泥のようなモノが飛び出してくる。


「BOUBOBOGOBOー!」

「おっ……らぁ!」


 鞘から引き抜いた太刀で、泥が突き出した鎌のように鋭い脚を受け止める。

 そのまま踏ん張りを利かせて、デンザイは泥を大きく後方へと弾き飛ばした。

 吹き飛んだ泥の塊のようなモノは、水飛沫を上げて河へと落下する。


「BO!?」

「やあっぱり来やがったな、こんにゃろ! 皆のトコにゃ行かせねえ、ここでおれと遊んでけ!」


 和装の裾を縛ったデンザイが河に入りながら、太刀の刃を月にきらめかせる。

 ここに、古都の街を混乱に陥れようとする悪しき敵方と、街を守る『化生會』の戦いの火蓋が、切って落とされた。

※妖怪の年齢や性別について


妖怪にも年齢の概念は存在しますが、人間のソレよりもずっとあやふやです。

何しろ外見で年齢がきっちり決まるわけではなく、妖怪の種類によって成長の速度も様々、何なら生まれ落ちた時から姿を変えない種類も存在します。

それゆえ年齢は当人の精神成熟度や社会常識を尺度として決定されるのですが、なんだかんだ外見が幼いと年齢も低く見積もられがち、だったり。

性別も同様で、その概念のない種類の妖怪については、当人のアイデンティティで分類されています。

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