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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第四章 意思と望みと
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其の三 メリケンかぶれ

 ホテルのロビー、座り心地の良さそうな椅子に一人座っていた奏に声を掛ける。


「お待たせ、奏」

「ん。でもあんまりまってないよ」

「そこはまぁ、社交辞令って奴──って、俺より奏の方がよく知ってるだろ」


 少し軽口を叩きつつ、立ち上がった奏の隣に並ぶ。

 ロビーの端には先生が待機しており、俺が合図を送ると先生は一礼を返してエレベーターに乗り込んでいった。

 先生および学校には、夜間に外出する旨を伝えてある。


「さて、それじゃ行くか」

「行こ。場所おぼえてる?」

「完全には覚えてないが、近くまで行けば使いが居るって話だ、まぁ大丈夫だろ」


 楽観的な心持ちで、俺たちは自動ドアを抜けて道へ出る。

 宿泊しているホテルは街の外れにあるところで、ここからそう遠くない場所に『化生會』の本拠地が構えられている筈だ。

 平坦な道を歩き、川を何度か超える。


「おぉ……みて、トロ」

「これは、なるほど」


 月明かりに照らされた川は、水面のあちこちをきらきらと輝かせる。

 古都を挟む川の内、どちらかといえば穏やかであることが重要なのだろうか。

 木組みの橋、赤く塗られた橋の上で二人並んで眺めるこの景色、何とも綺麗なものだ。


「──また今度、きちんと見よう。今は行かないとな」

「ん。そうだね」


 名残惜しいが、楽しみはまた今度に取っておこう。

 そうして俺たちは再び歩き出し、『化生會』本部へと向かう。

 十分ほど進んだ頃、コンビニエンスストアの駐車場に立っている一人の男に気が付いた。


「ん? お? おー!」

「?」


 向こうも此方に気付いたようで、俺たちを見て手を振ってきた。

 シルエットからすると腕と脚が四本ずつあり、妖怪であることが一目瞭然だ。

 近くに寄ると、男の方から俺たちに近寄ってきて、俺の両手を包んで握手してきた。


「よーよー! おまえさんがトロンだろ? ってこたぁ、隣は綿貫の嬢ちゃんか? っかー! 大人になったなぁおい!」

「わたしこそ、久しぶり。三年ぶりくらい?」


 一方的に捲し立てる男のマシンガントークに俺が圧倒される一方、奏は普段通りのテンションで応対していた。

 男は夜だというのにサングラスをかけ、金色の髪を逆立たせており、全体的な風貌はカウボーイのようだ。

 困惑しっぱなしの俺にようやく気付いたのか、男が二本の腕で俺と握手しつつ、もう二本の腕を自身の胸に当てた。


「悪い悪い、自己紹介が遅れたな! 俺ぁケーメリン。おまえさん達お探しの『化生會』のモンだ」

「ケーメリン……初めまして、よろしく頼みます」

「トロ、このひとはだいじょうぶだよ」


 奏は顔見知りなようなので、ケーメリンが嘘を吐いているという心配は無いだろう。

 そうでなくとも、常に明るく陽気な空気を漂わせるケーメリンは、人を惹きつける魅力がある。

 仮に奏が見覚えを感じなくても、俺はこの男を無思慮に信頼してしまったかもしれない。


「おし。んじゃ大体時間通りだし行くか」

「行く、ってなると『化生會』ですか?」

「おうともよ。其処以外に何処があるってんだよ……あと敬語は要らねぇぜ」


 けらけら笑いつつ歩き出したケーメリンは、一対の腕をズボンのポケットに突っ込みつつ、一本の腕で自分の背中を指した。

 ついてこい、というメッセージと受け取って、俺たちは彼の後に続く。

 彼は市街地を離れ、山道へと進路を向けていた。

 そこでふと、奏が思い出したように口を開く。


「そうだ、トロ。ききたいことある、って言ってなかった?」

「あぁ、あるな」

「何、聞きたいこと? そいつぁ俺たちにか? それとも俺にか?」

「聞きたいこと、っていうか言伝と言うか」

「なるほど? とりあえずしばらくかかるからよ、軽くでも話してみてくれよ。俺が言えることは俺が答えるぜ」

「あー、それじゃ順を追って話すな。俺は地元に稽古を付けてくれる師匠がいるんだけど──」




<***>




 貸し切られた〈妖技場〉舞台の上。

 今日も今日とて、俺はサミハと戦闘訓練を重ねる。


「はぁっ!」


 徒手の殴り合いから距離を取ったサミハが右腕に炎を纏わせて、一気に俺に向けて放つ。

 この動きはすでに何度か喰らっている攻撃だが、シンプルかつ高威力故に対処は難しい。

 これまでの俺ならば俺の方も距離を取ったり、風の力で浮き上がったりと、小手先の技術で何とか対応していた。

 だが、地力を伸ばした今ならば、この動きが正解になるはず。


「凍れッ!」

「! 何を……!?」


 炎の妖術に一点特化した≪超炎≫を有するサミハの焔相手に、器用貧乏止まりの俺の氷が太刀打ちできるとは流石に思っていない。

 ただ、一瞬でも勢いが弱くなれば、俺の炎でサミハの出した炎を貫ける。

 炎を噴出させた【透鳳凰】で刺突を行い、炎の壁に穴を開ける。


「相変わらず、いい狙いしてんぜ!」

「ありがと、な!」


 握り込んだ左の拳を振り下ろし、俺はサミハに向かう。

 炎の壁を抜けると、サミハは此方ではなく反対方向を向いていた。

 俺がついさっき左手で投げた、妖力を込めた氷に向き合っていた。


「クッソ、そういうことかよ!」

「まだまだ、これじゃ引っかかってくれないよなぁ!」


 俺は右手に【透鳳凰】を握り込みつつ、左手を強く握りしめる。

 すると氷の中に籠められた風の妖術と炎の妖術が起動し、大きさ三十センチほどの氷塊は爆散する。

 サミハは動体視力に優れる、視界の隅で起きた爆発を放っておく判断を下すまでに、刹那の隙が生じる。


「はッ、ンなもんでオレが」

「気を引かれる、わけがないよな、!」


 一瞬でもいい、今の俺ならばその一瞬でサミハに肉薄できる。

 持ち得る妖力を推進力に動員し、俺は【透鳳凰】で峰打ちの姿勢を取る。

 ……が、爆散した氷を焼き払ったサミハがその勢いのまま空中で回転し、上下さかさまになった彼女と目が合った。


「おらァ!」

「ぐっ」


 踵から爆炎を滾らせたサミハの足が、【透鳳凰】を打ち据える。

 峰を向けていたのが仇になった、俺はぐるりと後ろ向きに回転させられ、その勢いのままサミハに組み伏せられる。


「ぐえっ」

「詰み、だな」


 地面に付くと同時に銃の形をした手を俺の喉元に押し当て、サミハが宣告した。

 確かに、こうなってしまえば最早俺に出来ることはなく、降参する他無い。


「ああ──っそ、まだ無理か」

「っはは、狙いは悪くねぇがな、攻める側に回っちまったのが悪かったな」


 俺がむくりと起き上がりつつ反省点を脳内で整理すると、俺の上から離れつつサミハが答えを言った。

 確かに、最後の一手は俺の方が詰将棋をしていたつもりが、サミハに迎え撃たれていた。

 炎の壁は戦況を変えるための、ある意味で()()()一手であり、サミハは最後まで余裕を持っていた。

 そこが恐らく、最大の違いなんだろう。


「ま、でも少しづつは良くなってるぜ。出力も上がって来てるしな」

「あぁ。シンミとトイとの訓練の御陰で、基礎的な妖術操作と筋力は付いて来てる」


 自己鍛錬を含め、俺は着実に強くなっている。

 炎の妖術の扱いも、サミハとの模擬戦を繰り返すうちに何となく掴めてきている。

 炎と言えば、思い出したことがある。


「そうだ、この前言ってたことなんだけど……っと」

「ん? 何だ?」


 端に置いておいた飲み物とタオルを投げて寄越したサミハ。

 その彼女だが、先日の琉球王国の事件の際、【原始怪異】を手にしたと言っていた。


「なんだっけ、【蒼朱雀】かなんかを使った、みたいな話だったよな」

「あー、あんときの話か?」


 サミハは琉球王国の〈妖技場〉前の森で、荒れ狂うリッパーダさんを前にして過去の自分を乗り越えたらしい。

 その直後、彼女の手元には青白く光り、両端に刃を持つ薙刀が現れたのだとか。

 その際、脳内に色々な情報が流れ込み、それが【原始怪異】であることを理解した、という。


「俺、今度『化生會』に行くんだけど」

「あー、あそこか」

「知ってるのか。それで、そこなら【原始怪異】について詳しい奴がいるかも、って思ってさ」

「アタシの話をしていいかって?」


 こくり、と俺は頷く。

 どうもプライベートでデリケートな部分に触れそうな気配があったから事前に確認を、と思ったのだが、サミハはあまり気にしていないようで。


「おーおー、してこいしてこい。少年は気になるんだろ? そういうの」

「ありがとう」


 本人が気にしていないのなら、俺の方が過剰になるのも違う、よな。

 そう解釈して、俺は感謝を言うだけに留めた。




<***>




「とまあ、そういう訳だ」

「おうおう、サミハの嬢ちゃんと知り合いか! そうかそうか」

「ケーメリンも知り合いなのか?」

「おうともよ。色々言いてぇことはあるが……そろそろ着くぜ」


 賑やかな身振り手振りで話を聞きながら歩いていたケーメリンが、石段に差し掛かったところで俺たちに言った。

 俺は念の為に奏の手を取り、彼に頷きを返す。

 一歩一歩着実に石の階段を上ると、鳥居に到着したところで不思議な感覚に襲われる。


「これは……?」

「さぁさお二人、心しな。これより参るは、魑魅魍魎横行跋扈の『化生會』!」

「──そういうの、いいから」

「えー? 相変わらず綿貫の嬢ちゃんは冷てぇなぁー」


 奏に一刀両断されたケーメリンが、不思議な膜のようなものが張られた鳥居をくぐる。

 俺と奏は一瞬顔を見合わせ、同時に膜をくぐっていった。

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