其の一四 俺、講評を受ける。
三話同時更新です。
三分の一話目
戦闘が終了し、今は再び応接間の中。
ちなみにゲーム機はあのままだ。
片付け、いつやろうか......
と、そんなことを考えていると。
「.........指導、講評、する、よ」
師匠(全く疲弊していない)が、俺(かなりヘトヘトで肩で息をしている)に声を掛けた。
.........畜生、体力の化け物.........
「.........何か、言った?」
「なんでもないです。というか思想の自由を求めます」
ずごごご、と音がしそうなほどレンズ越しに俺を睨んだその姿は、正しく雪女。
そう、師匠の名前はトイ、妖怪<雪女>である。
俺の妖術や体力諸々を鍛えるためにお呼びした師匠である。
言ってしまえば、かなり強かった。
何とか不意をつけたものの、師弟でなく、ただの戦士として戦っていたら、間違いなく殺られていた。
さて、そんな師匠が指導講評をして下さるとのこと。
心して聞こう。
「.........合格か不合格かで、いえば、合格」
「よし」
どういう基準なのかは一切知らされていないが、何はともあれ俺は合格したようだ。
やったな。
「.........今回は、かなり、甘く、採点、した」
「まじですか」
合格したとはいえ、補習のあとのテストみたいに合格ラインが下がっていたのは、少しだけ複雑である。
具体的なアドバイスを求めますか。
「...何がダメだったんだ?」
「......最初、如意棒、みたいなやつ、を、食らった、時」
「......なるほど」
あの攻撃、名前無かったのか。
いや、でも、あれはかなりの初見殺しじゃないか?
一発目にあれを避けるとか、たぶん無理なんだが。
......今度からは絶対に喰らわないが。
「いやー、あれを二回目で避けたんでしょ~? 私は追っかけてないから見てなかったけど~、初期の私より凄いよ~、それ~」
「おウ、オレでもあれはちょっと無理そうダ」
いつから居ないと錯覚していた?
二人とも元気に見てましたよ。
そして時折野次を飛ばしてましたよ。
あのウザさ、俺は忘れない。
「.........でも、本当の戦い、なら、やられてた」
まぁ、確かに。
訓練だからと手心を加えていたのかは知らないが、普通なら、やられてた。
ただの円柱の氷でなく、薙刀や、日本刀、サーベルのような形なら、人は殺せる。
.........妖怪にとって致命傷かは分からないが。
「.........でも、それ以外は、よかった」
「あ~、確かに~。トイの氷使って防いだのはなかなか臨機応変だったよ~」
「おウ、オレもあれは良かったと思ウ。貪欲さはお前の取り柄だナ」
「......そりゃどうも」
そう言われても、あの時は焦りやら危機感やらでほとんど覚えていないな。
それが高評価なのは、俺が天才という証でないか?
「.........そこ、調子、乗らない」
「......なんで分かったんだ......?」
顔か、顔なのか?
いやでも、ビズにも「ポーカーフェイス」と言われる俺だぞ?
ふむ、わからん。
そんなことを考えていると、シンミがトイの肩に腕を回した。
「まーまー、結構厳しいこと行ってるけど~、なんだかんだで嬉しいんだよ~、こいつ~」
「え、そうなのか?」
「そーそー、なんてったって、自分の本気で打ち込めるところが増えたんだもんね~?」
「.........そう、だけど」
あれ?
もしかして、照れていらっしゃる?
トイは淡いベージュの帽子を深くして、赤くなった頬を隠しているようだった。
もしかしなくても、照れてますね、ええ。
普段は強気なのに、図星を突かれると弱いのは、少しだけでなく可愛いポイントです。
さて、可愛いトイを発見した所で、
「で、これから俺はどうすればいいんだ?」
「ほらほら~、聞かれてるよ~? かーわーいーいーしーしょーおー?」
「.........うるさい、黙って、て」
ひょいっと回されていた手を捻りあげ、そのまま床に押し付けた。
「ヴァー! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! ごめんってごめんってごめんってごめんってごめんってごめんってごめんってごめんなさい!」
「.........うる、さ、いっ!」
「あぎゃー! .........あ、あ、あ.........げふっ」
あ、死んだ?
「女って怖ぇなァ」
「全くだ」
師匠の言いつけは守るようにしよう。
さて、若干話が逸れてしまった感はあるが、話を元に戻そう。
「結局、これからどうするんだ?」
「......基本は、妖術と、妖力を伸ばす」
あ、妖術って言うのは、実際に使う技のことで、妖力は、エネルギー量のことな。
ちょっとややこしい。
「じゃあ、ビズとやってることとそう変わんないのか」
「せやナ」
「.........まずは、基礎固め」
なるほどな。
スポーツでも勉強でも、基礎が大事って訳だな。
「じゃあ、今日はありがとう。俺にできることがあったらまた言ってくれ」
「.........ん、じゃあ、今度、ウチに来て」
「ああ、分かった」
それくらいならお安い御用だ。
と思ったが、ビズが何やら複雑な顔で頭を抱えている。
「.........お前、後で気を付けろヨ、まじデ」
「? おう」
まあいい、覚えておこう。
「.........じゃあ、今日は、予定があるか、ら」
「ああ、本当、ありがとな」
そう言って、トイを送り出すと、次は大天狗様に向き直る。
.........まだ失神してるや。
「おーい、起きろ」
「ん、んぁ......」
身をよじっている巫女姿の少女は、なんだか苦しそうである。
そんなこと知るか。
「おいこら、起きろ」
「......はっ!」
「お、起きたか」
「私は今、何をしていたんだ~?」
「知らんわ」
「くっ......ただひたすらタンスの角に足の小指を交互にぶつけていた所までは覚えてるんだけどな~」
「地味に嫌だな。そしてありきたりだな」
「夢にまで文句は言われたくないよね~」
それもそうか。
流石に夢にまで干渉は出来ないからな。
「あ、そう! 次は私のターンだよ~!」
「どうした? 唐突に遊〇王に目覚めたか?」
「違うよ! 次は私が手合わせする番でしょ~!」
「?」
「あぁぁぁ~!」
なんか唸ってら。
まぁ、流石に俺も鬼じゃない。
覚えてるさ。
「分かった分かった。じゃあまた外に行こうか」
「分かればいいんだよ~、分かれば!」
露骨に機嫌を取り直したシンミと、少しだけゲンナリした顔のビズを連れ、俺は外へ出た。
[***]
その頃、とある家の中、少女はとある男の帰りを待っていた。
少女の名前は綿貫奏。
白九尾の居候先の女子高生である。
待ち人は、その妖怪であるのだが、彼はまだまだ帰らないであろう、というのは、神のみぞ知る事だ。
「......おそい」
彼女は、身長と椅子の高さの関係で床に届かない足を揺らしつつ、テレビを眺めていた。
新学期、新しいクラスが始動したこの時期。
一年生にとっては今後の三年間を左右する時期。
そんな時に彼女は、一人で家にいた。
実は、彼女のクラスメイト達も、親睦会と称して、今日の午前中からカラオケをしている。
もちろん、彼女にもお誘いはあったのだが、彼女はそれを断った。
次の学校の準備を済ませた。
高校の授業内容の予習を終わらせた。
そんな彼女には、家の中で現時点でやりたいことはなくなっていた。
それでも、彼女は家から出ない。
それはひとえに、とある男にお願いを聞いてもらうため。
.........なお、日時指定をしていなかった事に彼女は気づいていない。
「はやく来ないかな」
玄関のチャイムが鳴ったのは、そう思った矢先の出来事だった。
「はーい♪」
心なし鼻歌を歌い、椅子から飛び降りて、彼女は玄関に向かう。
そして、深く考えることなく、鍵を開けた。
その後だった。
開いた扉からのぞく姿は、待ち人とはかけ離れたシルエットだと。
そう、気づいたのは。
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