其の一一 俺、探す()。
本編続きです!
診断を終えた俺とシンミは、ビズが待っているであろう応接室へと舞い戻った。
............神社でやること、終わったか?
「なあ、シンミ」
「何かな~?」
「神社ってのは、妖怪のステータス的なものを診断する場所なのか?」
「ステータスって言い方いいね~」
まず反応すんのそこかよ。
「ま~、その通りだよ。住職さんがいればもっと出来ることはあるけどね~」
そういうものなのか。
「でも、今はいないんだろ?」
「せやね~」
「エセ関西弁はなるべく控えた方がいいぞ」
本場の人はマジでうるさいからな。
そんなこんなで。
「オウ、遅かったなァ」
帰ってきました応接室。
「............なにしてんの」
例の刀を持って眺めているビズにそう言うと、彼は何事もなかったように刀をそっと棚に戻し、こちらを向いた。
「いヤ、なんでもねェヨ」
怪しっ。
めっちゃ怪しっ。
「デ、ドーだったんダ?」
話題変えたよ。
怪しっ。
だからと言って深追いはしないのが俺である。
「やっぱり<白九尾>だったよ。妖術は《高炎・高氷・高風》だと」
シンミによるとな。
「三つもあったのカ。しかも三つとも《高》って、結構良かったじゃねェカ」
「そーそ~、結構珍しいんだよ~?」
そうなのか。
全然知らないことばかりだ。
「デ、ドーすんダ、これかラ?」
どうって言われたってなぁ。
「別に今まで通りに生きていくつもりだが」
衣食住と平和さえあれば別にいい。
自分から面倒事に首を突っ込む気もしない。
「いヤ、今のは言い方が悪かったナァ」
「と、いいますと?」
「例の修行の事ダ」
「......あ~......」
それか。
「そっちも今まで通りに頼むつもりだけど」
「オレは構わネェんだがナ、これはお前の為の話だ」
俺の為の。
「つまりどういう事だよ」
「『その道のプロ』に修行の監督してもらうってのはドーダ?」
「それはやっぱり居た方がいいだろうね~」
「『その道のプロ』か......なるほど、言いたいことは解った」
ビズには本当に世話になっているが、俺の妖術とビズの妖術はお世辞にも似通っていない。
より実戦的な護衛術を学ぶにしろ、妖術の扱い方を学ぶにしろ、『その道のプロ』は必要だろう。
「俺は三つの妖術があったが、同じような感じの妖怪ってのはいるのか?」
「まずいない............とは言い切れないけど、それぞれの上位互換を探した方が無難だね~」
曰く、《炎・氷・風》それぞれはまれによくある妖術の系統で、三人に一人はこの三つの内のどれかなんだとか。
妖術三つってのは珍しいのに、中身は珍しくないこの感じが、いかにも俺らしいなぁと思う今日この頃だった。
「そんじゃあ、《炎・氷・風》それぞれを探すか」
「そうすッカ」
「そだね~」
じゃあまずは......
「あ、風といえば、アタシは《超風》だったな~」
唐突になんか言い出したぞ、この人。
「《超風》ってのは、《高風》の強化版だって聞いたことあるな~」
なぜかちらちらこっち見てるぞ、この人。
「ここ最近暇だな~。今はまだまだ弱っちい新人妖怪をびしばし鍛えたい気分だな~」
あまりの光景に、俺とビズは顔を見合わせた。
「............ナァ、あレ......」
「きっとそうだよなあ」
だからって声はかけないけど。
ちなみにもし『弱っちい新人妖怪』ってのが俺だとしたら、本人の目の前でいい度胸だなって思うし、軽く張り倒したいとも思う今日この頃。
「......そんなわけで、もしよかったら、アタシが手伝ってやっても..................いいよ?」
「日本語どうなってんだお前は」
なんか腹立つ。
「断る理由はないけど、なんか悪いから遠慮する」
「うぇっ!? いやいや、そ、そんなそんな」
「いやいや、やる気があってどうしてもって人じゃないとなぁー。やっぱ悪いよなー」
「やる気!? あるよあるよ、ありあまってるよ!」
余裕がなくなると語尾をのばさなくなるんだなって新しい発見。
......かかったな。
「そこまでいうならやる気を証明して欲しいなー」
「ど、どうすれば良いの?」
少し不安げな顔になるシンミ。
大丈夫。
そんなに大変な話じゃないから。
「後一人、コーチを連れてきたら、やる気を認めてやろう」
「えー!?」
シンミは驚いたのか、若干背をのけぞらせて声を上げた。
「かなりきっついよ、それー」
「これができないとな~」
「くっ........................」
すぐとなりでは、ビズがやれやれって感じで肩をすくめてる。
............いいだろ別に。
ちょっと利用させてもらうだけだ。
「いいだろう! やってやらぁ!」
男らしく声を上げるシンミ。
女の子に対しては口に出さないけど。
「超速で、マッハで、音速で、一瞬で、連れてきてやるっ!」
速いのは分かったから、言っている間に出発して欲しいものだ。
ついでに言えば、マッハと音速は意味ほぼ同じだから。
片方で充分だから。
「そーすればいいんでしょっ!」
「まあ、そういうことだな」
「待ってろよっ! あんたがどこにいても必ず舞い戻ってやるよーっ!」
なんか片方が海外に単身赴任することになった男女が空港で別れ際に交わす言葉みたいなのを残し、シンミは部屋の窓を開け、飛び去った。
妖怪って飛べるのか。
ちょっと興奮。
「.........ナァ、1個聞いていいカ?」
「......なんだ」
「お前、最初かラコーチ頼むつもりだったロ」
「その通りだとしたら?」
「アイツが探しに行った理由が無くなるヨナァ」
「.........バレたか」
ぶっちゃけその通り。
俺に損はないのに、あいつは見事に騙された。
こすいとか、ずるいとか言うな。
ちょっと利用させてもらっただけだ。
「......ぃ......」
......なんだ今の。
「今なんか聞こえたか?」
「いヤァ、わっかんねえナァ」
「まあそっか。気のせいだな」
聞こえたか聞こえてないかの答えにはなっていないが、気を取り直して目の前のTVへと意識を向ける。
......あっ、やべっ、抜かれた。
「くっそ」
「ハッハー」
必死にドリフトを決め、何度も虹色のブロックを取り、ようやく追いついた。
「......ーぃーまぁー......」
「やっと来たカ」
「おっせえんだよ」
「ファイナルラップだゼ? このままオレがゴールテープを切ってやラァ!」
「このゲームにゴールテープなんてないけどな!」
二人の口は怪しく輝く三日月のように釣り上がり、やがてスタートラインと二回目の邂逅を果たす!
「たっだいまぁ!」
......ことはなく、二人ともコントローラーを取り上げられた。
あぁ、俺のベビ〇マリオが溶岩に溶けてゆく......
「何すんダ! オレのノコ〇コがカ〇ンになっちまうじゃネーカッ!」
俺が軽く凹んでるあいだに、怒り心頭のビズは犯人に食って掛かる。
「人がお使いに行ってる間に勝手に取り出したハードとソフトで二人仲良くゲームしてるのはどー言うことなのかなー」
流石にビズも悪いと思ったようで、大人しく引き下がるようにしたようだ。
「はいはーい、それじゃぁ、この子の紹介するよー」
この子?......って、誰かいるわ。よく見たら。
帽子とワンピースを身につけ、何故か一部だけ白い青髪の少女。
薄いベージュにピンクのリボンがアクセントとなって、柔らかさの中に女の子らしさを感じさせる帽子である。
「......初めまして......トイ......で、す」
消え入りそうな声でそう言ったのは、俺の師匠となるクール系美人だった。
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