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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第三章 弱さと憧れと
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其の二 授けられる存在から授ける側へ

<>(^・.・^)<連続投稿三日目!

 空港を出て暫く歩いた俺たちは、これから数日間宿泊するホテルに荷物を運びこむ。

 柔らかい絨毯で一面覆われたエントランスで、蔓で編まれた椅子に腰かけながら、外で受けた厳しい日差しを冷房で癒している。

 受付をする担当のスタッフさんが今はお手洗いに行っているので、それが終わったら各自が部屋のキーを貰い、それから今日の所は自由時間になる。

 シンミとサミハはゲームセンターがあるのかどうかを確かめに行ってしまい、まだ〈妖技場〉歴が短い俺は手持無沙汰で窓の外を眺めるほかなかった。

 海沿いに建てられたホテルから望む景色の中で、海鳥の群れが空を飛び、ヤシ科の植物の葉が夏風に軽く揺れ、砂浜を寄せる波が優しく撫でている。


「……あ、あの!」


 ぼんやり眺めていただけの俺だが、横から声が掛かる。

 停止しかけていた脳を急いで叩き起こし、顔ごとそちらに向けた。

 見えるのは白装束に身を包んだ儚げな子供の姿。

 子供と言っても中学生くらいではあるだろうが、背筋が曲がっているところから自信なさげな様子である。

 長い髪は編み込まれており、猫背になったときに顔が隠れないようになっていた。


「はい?」

「い、いえその、トロンさん、ですよね?」

「はい」


 胸の前で掌をにぎにぎしながら話す姿を見ると何だかいたたまれなくなる。

 初対面相手に言いたいことを貫くのは難しかろうと思い、低めのガラステーブルを挟んで俺の座る椅子の向かいにある同じデザインの椅子を掌で示した。

 ぺこり、と一礼して座ってからその子が再び口を開いた。


「じ、自分ローラって言います、えっと、そのトルフェさんとのアレ、見てました」

「トルフェ、ってことはあのときか」


 ローラは恐らく、俺が最初にトルフェに難癖を付けられて一戦交えた時のことを言っているのだろう。

 以来トルフェは俺へ色々気を使ってくれるようになり、〈妖技場〉の細かいルールや暗黙の了解について聞かされたし、何回か模擬戦もしてくれた。

 また文化祭一日目で起きた騒動の一部始終とその時妖術が使えなかったであろうことを洗いざらい告白して謝罪したところ、気にするな、という返答が返ってきた。

 やはりトルフェの素はかなり他人思いの優しい奴で、サミハ絡みになると少々自分を見失ってしまうのだろう。

 そのトルフェ自身は今回の遠征メンバーには選ばれておらず、遠征期間中も地元での興行を続けるため居残っている。


「ありがとうローラ、まぁ正直あの時の決着は自分でも情けなかったと思うけど」

「い、いえ! トロンさんは全力で戦ってましたし、トルフェさんも頑張ってましたし!」

「はは……ん、いや待ってくれ、あの場にいたという事は俺よりも先にローラの方が〈妖技場〉に所属していたってことじゃないのか?」

「あっ、そうですね、一応数か月前からお世話になってます」

「先輩だったのか……」

「い、いえ! 自分なんているだけで、全然目立ってなくって……その、トロンさんに聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」


 さっきからローラ先輩は腿の上で指遊びをしているように見え、目線もそちらに落ちていて目が合わない。

 話し方も肩が竦んでるのも気が弱そうだな、と思っていたのだが、そんなローラ先輩が上げた目と俺の目が合う。

 瞬間、目の前の妖怪は瞬間湯沸かし器になり、トイに匹敵するかそれ以上に白かったはずの肌が真っ赤に染まる。

 合ったと思った目線だったが、ぶんぶんと振り回されるローラの掌で遮られてしまった。


「ひっ、みっ、見ないでぇ……っ」

「えっあっごめん!?」


 言われて俺も目線を逸らした。

 何と言うか随分と女々しい性格なのだろう。

 戻していいと言われなかったため俺の目線は明後日を向いたまま、少しするとローラが座っていた方角から声が聞こえた。


「じ、自分ほんとダメで、緊張しちゃって。人と目合わせるのとか、苦手なんです」

「うん」

「で、でもトロンさんは、あの時も公式戦で最初にデビューしたときも、あれだけいっぱいの人に注目されて、でも伸び伸びしてて」

「あぁ」

「じ、自分はそれ、なんでかなぁって、どうしてそんなに自信満々なんだろうなぁ、って」

「そう見えます?」


 思わず口を出してしまった。

 想定していなかった返答だったのか、ローラの言葉が止まる。


「え……?」

「実は俺も自分に自信はないんですよ」

「そう、なんですか? でも、だったらどうして?」

「う~ん」


 言われて、どうしてだったのだろうと考える。

 自分に自信はないし、トルフェと戦った時はともかくサミハとの公式デビュー戦は黒原の宣伝の効果も相まって凄まじい数の観客が居て、緊張もしていた。

 やり切れた、とは思わないし、今思えばあそこでああすれば、と反省点はいくらでも出てくるのだが、外から見ればやり切れたように見えるのは、何故だろう。

 明確な回答というわけではないにせよ、一つだけ思い当たることがある。


「……守りたいものがあったからですかね」

「ま、守りたい、もの」

「そうです。自分のやりたいことがそういうふうに明確に決まってて、その為にはもっと強くならなきゃいけなかった。だから成長できるチャンスがあれば掴んでいきたいし、そこで逃げて後悔するのは沢山の人に見られながら失敗するよりずっと嫌です」

「す、すごいです……じ、自分はその場が嫌で逃げ出しちゃって」

「それも正直分かります。ネガティブなのは自分もですから。だから、先輩もやりたいことを明確にすればきっと大丈夫です。理由もなく〈妖技場〉に登録する訳もないですから」


 自分なりに考えて発言したが、なんだか当たり障りのないことを言っているだけのような気がしてしまう。

 ……まぁこういうところがネガティブな性格にあたるわけだが。

 俺の言葉を受けたローラが考え込むのが横目に見える。


「じ、自分のやりたいこと……自分が〈妖技場〉に来たわけ……」

「そうです。これは受け売りですけど、交流会とはいえ遠征のメンバーに選ばれてるわけですから、少なくとも先輩を認めている人はいるはずです。あとローラ先輩は先輩なんだから敬語じゃなくて大丈夫ですよ」

「は、はい。ちょっと気持ちが楽になりました。自分が何をしたいのか、考えてみたいと思います。でも、言葉遣いは今の方が落ち着くので……」

「そうですか。先輩がその方がいいならそれで大丈夫ですけど」


 俺も一度敬語で話し始めた相手に敬語じゃなくていい、と言われると戸惑うし途端に喋りづらくなるから気持ちは分かる。

 ……よく考えてみれば俺って敬語で話してる相手、あんまりいない?

 とそこへ、ホテルの設備を見て回っていた二人が戻ってくる。


「お、少年何してんだ?」

「ローランと話してるの~?」

「サミハ、シンミ。ちょっとローラから話を聞いてたんだよ」

「は、はい。トロンさんに、どうしたら胸を張って生きていけるのか聞きたくって……」


 二人はそれぞれ首に花で編んだ輪っかをぶら下げており、琉球到着早々はっちゃけているのが見て取れる。

 サミハに至っては星形のサングラスを額に載せている。

 何度か琉球に来たことがある、と言っていたサミハだが、来る度に購入していたらとんでもない量が溜まっていくのではなかろうか。


「ローラン?」

「ローランはローランでしょ?」

「あ、はい、自分ローランって呼ばれることが多いんですけど、よかったらローラって呼んでほしいです……」

「あぁ……?」


 何やら事情があるのだろうか。


「──皆さん、チェックイン完了したのでキーを取りに来てくださ~い」

「お、んじゃ行くか!」

「行こ~」

「……なぁ、さっきの相談、サミハあたりに聞いた方が良かったんじゃないか?」

「いや、サ、サミハさん怖いじゃないですか……」

「まぁ、確かにな?」


 スタッフさんが受付から呼び掛けているのに応えて、サミハとシンミが駆け出す。

 それを見送りながら、傍らのローラにちょっとした疑問を聞いた。

 怖いとのことだったが、言わんとしていることは分かる。

 サミハは熱血というか体育会系というか、一挙手一投足が力に漲っているから、相対する側が委縮してしまうのは分からないでもない。

 ローラは性格的にその傾向がかなり強いのだろう。


「じゃあ俺達も行くか」

「は、はい」


 歩き出して気が付いた。

 ローラの足元が透けている。


「ローラ、その足」

「あ、あぁ、はい。じ、自分幽霊なんです」

「幽霊とか、そういうのもあるのか」

「は、はい。幽霊が妖怪って、なんか変ですよね」

「いや、そんなことないんじゃないか? どちらかというと人間のシルエットなのに狐の鼻と耳、あと尻尾が付いている方がおかしいだろ。それも九本も」

「……い、いえそんなことは! っへへ」


 笑うとそういう感じなのか。

 さっきからずっと委縮しっぱなしのローラが初めて笑顔を見せた。

 それは卑屈な雰囲気とは全く違う爽やかなもので、真夏の南の国に似つかわしいものだった。

 スタッフさんはこのことを知っているから今回の遠征に選んだのだろうかと、ふと感じた。

<>(^・.・^)<というわけで新キャラ登場です


<>(^・.・^)<あのトロン君が人に色々言える立場になって……私は感激

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