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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の祭典 二

<>(^・.・^)<文化祭編其の二!


<>(^・.・^)<世界観の掘り下げが主かな?

 それから俺は、メイド服姿の女子生徒たちが流麗且つ激しいヒップホップを踊るのを鑑賞した。

 鑑賞とは言ったものの甘めの服装と辛口の音楽と振付のギャップが凄く、脳死で拍手を送っていたと思う。

 終わってみればあっという間だったが、グラスの氷が溶けてしまっているのでそれなりの時間は経ったらしい。

 普段と違った服装で踊ったのか肩で息をするメイドの精鋭たちが手を振って帰っていったのを、奏と共に見送る。


「凄かったな」

「ん。このあとのステージにもでるよ」

「そうか」

「ね、観にいっていいよね? ね?」

「勿論」

「奏っち~、そろそろ上がっていいよ~、楽しんでおいで~」


 教室入り口から、つるちゃんの声が届く。

 返事をした奏がパーテーションの裏側へと移動する。

 そろそろ出るか、と俺も立ち上がり、伝票を持ってレジに立つ男子生徒の元へ向かった。


「会計お願いします。支払いはこのチケット、で……?」

「わ……わ……」

「あぁ、この前の」


 男子生徒は【ベストパートナーコンテスト】の直前に出会ったあの挙動不審な生徒。

 ずっとレジに立っていたのだろうが、レジは俺が入ってきた入り口とは違う、教室後方の入り口にあったため視界に入っていなかった。

 この生徒の様子を見るに、向こうもまた俺に気付いていなかったのだろう。


「あの、会計を」

「あっ、は、はい! えっと、アイスコーヒーが一杯ですね! チケット確認しました、またのご来店をお待ちしております!」

「うん、ありがとう」


 引き換えチケットを一枚渡すだけで支払いが済んでしまうのは何か気恥ずかしいというか、ちょっとワルイことをしているみたいでぞくぞくする。

 兜さんが昔使っていた財布のおさがりの中に入れた引換券を確認するが、まだまだかなりの量が残っている。

 この分なら奏と一緒にぶらぶらしても問題なかろう。


「う~ん、流石に人が多くなってきたな」

「……あの、トロン様! 昨日はお疲れさまでした!」

「うん? あぁ、ありがとう?」

「跳び回る賊相手に一歩も退かないその姿勢、動きを止めたかと思えば明鏡止水の如き精神力を発揮して、精緻な操作で水流を賊に直撃させるその技術の高さ! 自分、感服してしまいました!」

「ありがとう。随分細かく見てくれてたんだな」

「いえ、自分の契約相手がそういうの(戦闘)に詳しいだけで、自然と見るようになってしまったというか」

「そうなのか。じゃあいずれその妖怪の人とは手合わせお願いするかもな」


 そうした雑談をしていると、普通の制服に着替えた奏が姿を現す。


「よし、じゃあトロ、行こ」

「おう。君、じゃあまたな」

「あっ、はい! また!」


 彼に別れを告げ、俺と奏は取り敢えず人混みの中から出るべく歩き出した。

 横に並んで歩かれると、全体としての見た目は制服に代わっているものの、首や手首にはメイド服特有のフリルの付いたチョーカーやカフスが残っている。

 あと上はクラスTシャツになっていて、さっき男子生徒が着用していたものと同じ、一色を上手く使ってクラス番号をデザインしているものに変わっている。

 デザイナー志望の生徒でもいるのだろうか、アパレルショップに並んでいても一見違和感のない色使いと幾何学模様の扱い方をしている、いや言うまでもなく俺はデザインに詳しいわけではないんだが。


「奏、それ」

「ん、これ? かわいいからそのまんま」

「そっか、確かに可愛いもんな」

「へへぇ」


 ぎゅ、と手を取られる。

 念話でやり取りが可能とはいえ、確かに人混みではぐれてしまうのは面倒だ。

 俺もそう考えて、しっかりと握り返した。


「さて……じゃあ何処行こうか」

「んー、おなかすいたかな」

「じゃ露店とか見に行くか」


 其処から先は、無難に文化祭を楽しんだ。

 露店を巡って好きなものを買って食べたり、家の皆のお土産用にと学校の紋章が焼き印されたお菓子を見繕ったり、クラスごとの出し物を楽しんだり、各部活動の展示を眺めたり。

 奏自身も普段とは違う状況で高揚しているのか、口数は多く挙動も幾分子供らしい。

 裾を掴む、ぴょんぴょんと跳ねるのに始まり、手を繋いでいるのに走り出したりと、心から楽しんでる様子が伝わってくる。

 身長とか顔つきの子供っぽさに輪をかけて幼さが漂っていて、擦れ違う地域住民の方々に目線で追われることも少なくなかった。

 大概クラスTシャツを着ているから何事もなく視線を外すし、奏自身も気にしていないようだったが。

 そうそう、恐らく此方の世界特有の現象だと思われる出来事が一つあった。


「ね、次あそこいかない?」

「あそこって?」

「ほらここ!」


 そうして暫く遊んでいたところ、相も変わらず奏が指をさす。

 また繋いだ手を引っ張るように先を急ぐ奏に合わせて移動し、奏が言っていた教室の手前まで来た。

 校内全体が比較的淡い色のテープやリボンで装飾されているのに対して、この教室はダークな色合いとなっており異質さが際立っている。

 それもそのはず。


「お化け屋敷」

「そう、おばけやしき」

「いいけど……奏こういうの得意なのか?」

「とくいじゃなかったら、ひとりで夜おそくに外にいたりなんかしないでしょ?」

「それもそうか」


 言われてみれば当たり前か。

 《宝石団》の任務途中で奏に会ったのは夜遅くで、それに一人で歩いていた。

 だったら怖いはずないか、俺もそうそうびっくりすることはないだろう。

 そう考えて入ったはいいのだが。


「ありがとうございましたー」

「……何か、()()だったな」

「そう?」


 奏にとってはこれがお化け屋敷というもので、別段違和感を覚えることはないだろう。

 実際、中でもびっくりして悲鳴を上げこそしたものの、怖くて立ち止まってしまったり泣き出したりはしていない、至って健全なお化け屋敷の楽しみ方と言えよう。

 ただ、俺の方は何かこう、物足りない。

 学生の文化祭に高度な恐怖体験を求めるな、と言われればそうなのかもしれないが、妖怪が普通に街に繰り出しているこの世界では余りに現実離れし過ぎている。

 言ってはアレだがスーパーに行けば顔が若干崩れた女性の幽霊が普通に買い物に来ていたり、映画館に行けば前の列に頭に矢の刺さった鎧を着た男が座っていたりする、そういう世界なのだ、此処は。

 其処で白衣を着て血糊を付けた人間が飛び出てきたり、地を這う腐った風の人間が呻き声を上げても、正直びっくりはすれど恐怖はない。

 故に、ちょっと物足りなかった。


「わたしは楽しかったけど、トロはおもしろくなかった?」

「いや、そうじゃなくて。何というかこう、過剰に考えすぎてただけだ」

「ふぅん?」


 お化け屋敷という単語から過敏になりすぎていたのかもしれない。

 ハードルは高く設定すればするほど、下を潜り抜けた時の呆気なさは大きくなるものだ。

 しかしそれからは別段気になるようなこともなく、再び楽しい楽しい文化祭へと戻った。

 あぁ、そういえばもう一つ特筆すべき出来事があったっけ。


「……! かくれてっ!」

「何だ!?」


 引き換えた綿あめを美味しそうにほおばっていた奏だが、階段から廊下へ曲がったとき、突然何事かに気が付いて俺の袖を掴んで壁の裏に隠れさせる。

 何事か、と思い奏に問うが、彼女は立てた人差し指を口の前に運び、しー、と言ってもう一方の手で廊下の奥を指す。

 そろりと顔だけ出して様子を伺うと、廊下の奥は突き当りになっており、文化祭のアンケート用紙を回収するボックスが置かれていた。

 いや、重要なのはそこではなく、俺の見知った相手が一人と、もう一人男子生徒が立っていた。


「……つるちゃん?」

「ん。いまはふたりにさせてあげよ」


 小声でひそひそと話す俺と奏と裏腹に、二人は何やら口論をしているようで。

 相手の顔を見ようとしないつるちゃんに対して、比較的筋肉質で健康そうな男子生徒が必死に声を掛けているように見受けられる。

 暫くその様子を陰から見守っていると、不意に男子の方が後ろからつるちゃんに抱き着いた。

 肩の上から両腕を前に回して逃がさない、所謂あすなろ抱きと呼ぶものだ。

 ……二人とも顔が整っているし身長差も程よく、文化祭というシチュエーションも相まってまるで少女漫画のワンシーンのようだ。

 そこで、視線の行った腕に実行委員であることを示す腕章がピンで留められているのに気が付いた。


「なぁ、もしかして彼」

「くまちゃん。きのうのコンテストにもでてたよ」

「あ~、道理で見たことあるわけだ」


 昨日のコンテストの時も腕章を付けていたかどうかまでは覚えていないが、やたらと見覚えがあったのはそういう訳か。

 当時は自分のことで精いっぱいで他の参加者に気を遣う余裕はなかったが、それでも視界に入っていたのなら見覚えがあるのも納得だ。

 確かチウメの隣に立っていたような、そんな気がする。


「……そろそろ行くか」

「……そうだね」


 二人の様子を見るに、他の人が水を差すのは野望だろう。

 事の顛末は後々奏に聞いてもらうとして、俺達はそろそろ始まるという、文化祭二日目の目玉であるスペシャルライブステージへと向かった。

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