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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第一章 出会いと優しさと
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其の九 俺、礼を言う。

 どれくらいの時間が経っただろうか。


「………………カハッ!」


 俺は目を覚ました。

 気が付くと、そこは夕日が差し込むベッドの上。


「......夢? だった......のか?」


 夢が途中で覚めてしまった時のような、いかんとも形容しがたいあの感じがする。

 はっきり言って、あの光景は、俺からしたら不可解なものだった。

 俺は妹と、単身赴任中の父との暮らしをして、毎朝妹の手作り朝ご飯に舌鼓を打っていたはず。

 妹との仲も、別段悪くはなかったはず。


 つまり、あの光景は、今ここにいる『俺』とは全くの別人という事になる。


 ほんと、なんだったんだ?

 ......まあいい。これが何度も続くようなら、さすがに気にするべきかもしれんが、一回きりじゃな。

 他人に相談したところで、いいとこ「こいつ、何言ってんだ」と思われ、悪くて変質者と思われて、通報されるやもしれないしな。


 そう考え、無理やりにでも心を落ち着かせようとする俺は、「それはダメだ」という心の声を振り払った。



 さて。

 あれからずっと、俺は身動きが取れずにいる。

 なぜかって? フッ、そんな当たり前のことを聞くんじゃあない。


「ここ、どこなんでしょうか?」


 そう。現在地が分からないのである。

 今いる場所が分からなければ、どこに何があって、どっちへ行ったらいいのかもさっぱり分からない。

 こんな状況で、一体どうしろというのだろうか。

 おそらく、俺を運んでくれたのは、あの美女だろうが、そいつもどこにいるか分からない。

 なんなんだよ、あいつ...書置きぐらい残していってほしかったものだ。

 まあ、名前もわからない相手の事を探そうとするなんて、そんな非効率的なことはしたくないのが、俺のポリスィである。

 さしあたっては、ここがどこなのかを解明するとしようか。


「えぇーっと......」


 まず考えるべきなのは、ベッドは通常どこに置かれるものかという事だ。

 これは、寝室、または病室がおもな場所だと考えてもよいだろう。

 という事は、ここは寝室か病室という事になる。


「じゃあ...」


 そして次に、あの美女の姿を思い起こす。

 ......あの体では、俺を一人で運ぶのは大変だろう。それも意識を失っている状態の俺だ。難易度は膨れ上がる。

 そんな非効率的なことをするよりは、近くの人の助けを借りた方がはるかに簡単だ。

 さらに、あの場所で近くにいた人となると、十中八九綿貫家の人間だろう。

 という事は、ここはおそらくあのお屋敷の中と考えていいはずだ。


「つまり、ここはお屋敷の寝室か病室か......いや、こんな客人をいきなり他人の寝室に運ぶことはないはずだ」

「あたりまえじゃん、そんなの」

「その通りでございます、お嬢様」

「うおっ」


 今の『当たり前』が何を指すのかはいまいち分からなかったけど、それよりも急に現れた人影にびっくりした。

 結論を出した俺に声をかけたのは、この綿貫家の令嬢であり見た目は子供、頭脳は大人、だけど年齢は16歳、綿貫奏(わたぬき かなで)と、ジェントル執事の井川(いかわ)さんだ。

 二人とも、扉の向こうから顔をのぞかせている。


「そんじゃあ、ここはお屋敷の病室ってわけですか」

「そうだよ。ほんと、大変だったんだから」

「さようでございました。あそこでお嬢様が私を呼びつけなかったとしたなら、今頃トロン様はあの場所であのままになっておられるところだったでしょう」

「あ、ありがとうございました」


 その点に関しては、奏と井川さんのやさしさに感謝をしたい。

 病室には、やさしさが溢れていた。


「では、私にはまだ仕事が残っておりますので、これにて失礼をさせていただきます」

「あ、すいません。俺のために」

「いえ、気にしないでください。お客人の安全を守るのも、執事の務めですから」

「......はあ」


 それは違う気がするけども。

 それはさておき。


「では、失礼を」

「ありがとうございました。お仕事頑張ってください」

「うん。がんばって」


 井川さんは完璧すぎる角度で一礼をし、去っていった。

 とすると、後に残っているのは、俺と奏の二人になるわけで。


「え~っと......」

「となり」

「え?」

「となりにすわってもいい?」

「あ、ああ。いいけども」


 そう言って、奏は部屋の隅から丸椅子を持って来て、それに座った。


「あの......だいじょうぶなの?」

「? なにが?」


 あの時の事を思い出す。

 そうか。最初に駆けつけてくれたのは、奏だったのか。

 では、あの美女はどこに行ったのだろうか。今となっては分からない事だが。


「ありがとな。本当に」

「......どういたしまして」


 俺にそう返した彼女の頬は、夕焼け色に染まっていた。








「………………あ、他に行くところないんだったら何泊でもしていっていい、っておとうさんがいってたよ」

「………………本当にすみませんが御世話になります!」


 そのことを、考えようと思っていて、結局考えられないまま夕方になってしまった。

 あんまり何日もお邪魔するのも申し訳ないけど、もうしばらくはここに泊めてもらうことになりそうだ。

 全然自立する気ないな、俺………………。




 [***]




 ────同日・午前十時────


 トロンと別れ、のっぺら坊は一人、街の片隅へと足を向けていた。


 《あいつ、大丈夫かナァ》


 変な色合いの和服をまとい、語尾がカタカナになるこの男、実はとある組織のボスなのである。

 この事実を知るのは、組織のメンバーに加え、数人しかいない。

 そう、彼こそは、ファースト探偵事務所に、陰陽師ともつながりを持つ組織のリーダー。


 《あいつさえよければ、スカウトしたくなる目をしてたんだがナァ》


 彼の名はビズ。

 彼の前に立つ扉のプレートには、《宝石団(ジュエリ)》の文字が刻印されている。

 その扉のノブをひねる時、のっぺら坊は金髪の少女との邂逅を脳裏に浮かべていた。

 過去編、バンバン書いていきます!

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